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生活に疲れ過ぎて植物にとりつかれた話

クリエイター

芦野公平

芦野公平

1978年生まれ。イラストレーター、TIS会員。書籍、雑誌、広告等の分野で活動中。イラストを提供した仕事に、Honda N-ONEカタログ、坂角総本舗130周年カタログ、新国立劇場「シリーズ 声」ビジュアル、田島木綿子『海獣学者、クジラを解剖する。』(山と溪谷社)、瀬尾まいこ『傑作はまだ』(文藝春秋)など。

園芸を語りだしたら止まらない」は、緑を愛する人々がその情熱を爆発させる企画です。観葉植物、お花の飾り方、ハーブ栽培からガチ家庭菜園まで、バラエティ豊かな園芸話に耳を傾けてみませんか。

園芸を語り始めたら止まらないロゴ

観葉植物との出会い

「フィロデンドロンセローム、フィロデンドロンセローム、フィロデンドロン…」

口の中で復唱しながらスマホのメモアプリを開き、急いでフリック入力する。

その日は妻と二人の息子たちの家族4人で、2階建ての広々した空間におしゃれな生活用品が並ぶ雑貨店にふらりと立ち寄り、目当てのものがあるでもなくブラブラと店内を流していた。

そこでふと目に留まったのが、背の低いテラコッタからヌルッと数本の太く長い茎を伸ばした植物だった。30cm以上ある茎の先には、まるで動物の肋骨のような深い切り込みをも持つ大きな葉。なんとも言えない迫力と存在感を放っていた。生活雑貨に何の関心もない息子たちは、いつも通り直ぐに飽きてしまいグズり出している。こうなると直ぐに退店しなければならないのだが、「ここで連絡先を聞いておかないと二度と会えなくなる!」と思った僕は、直ぐにプライスタグを探し、そこに書かれた見慣れないカタカナに目をやった。そこには「フィロデンドロンセローム」と書かれていた。人生で初めて目にする文字列。

帰宅すると直ぐにメモアプリを開き、googleに例の文字列をコピペする。楽天をはじめ、あちこちのECサイトで取り扱っているのがわかり、モニター越しにではあるが、意外にもあっさりと再会を果たせた。適当な店から値段も大きさも手頃なものを選んで注文してみる。通販で植物を買うのは初めての経験。

数日後、宅配で大きな段ボール箱を受け取る。開梱すると、ビニールが被せてあり、グラつかないように固定されたセロームがお行儀良く収まっている。セロームを取り出すと直ぐに、環境整備したばかりの小ざっぱりした仕事机の上に置いてみた。植物が一鉢あるだけで、カッサカサだった部屋に潤いが生まれ、一瞬にしてQOLが爆上がりした感じ。

普段、私用での外出が年に1回できるかどうかというほど(だから植物までも通販に頼ってしまうのだが)イラスト仕事や家事育児に追われる日々にコロナ禍も重なり、ストレスは頂点に達していた。そんなタイミングで偶然に、突然に、植物を育てる暮らしが始まった。厳密に言えば、フィカス・アルテシマやウンベラータといった幾つかの植物は既に家にあった。ただ、それらは昔妻が昔買って育てているもので、自分が購入したものではなかったし大して関心がなかった。気が向けば水遣りもしたが、愛着を持っているとは言えなかった。観葉植物を自分で選んで育てるという経験がほぼ初めてだった。

それまで、ストレスで胸の辺りに重い何かが詰まっていて、深い呼吸ができないような感覚がずっと続いていた。机に置かれたセロームをただボンヤリ眺めていると、そんな重い塊の脇に隙間を作って、新鮮な空気を体に送り込んでくれる感じがした。部屋に植物を置いたからって、ストレスフルな日々自体は変わらないのだけど、何というか、パンパンに詰まったストレスを逃してくれる植物という外付けハードディスクによって余裕が生まれた感じ。

余裕があるから植物を育てられるのではなく、植物を育てるから余裕が生まれるのだと思った。こういうことって先入観とあべこべなことが多い。

外付けハードディスクのフィロデンドロンセローム

外付けハードディスクのフィロデンドロンセローム

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