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ライターのネルソン水嶋です。「沖縄県立埋蔵文化財センター」の前にいます。
やってきた理由はひとつ!「発掘道具はDIYの宝庫」と耳にしたから。
発掘現場の様子(沖縄県立埋蔵文化財センター提供)
博物館などで目にする化石とか、土器とか、貝塚とか、ありますよね。それら考古遺物(埋蔵文化財)を見たことがあるけれど、実際に掘り起こされる発掘現場に行ったことがなければ、どんなもので掘っているのかも知らない、という人が大半なのではないでしょうか?
これがビックリ、「どこの家庭にもよくあるもの」で掘っているんです。
なんなら、「人によっては毎日手にしている」かもしれません。
写真でヒント! どどーん!
詳しくお話しいただける方はこちら、沖縄県立埋蔵文化財センター主任の亀島さんです。ふだんは県内各地の発掘調査をされており、掘り出された埋蔵文化財を評価するのがお仕事。発掘スタッフへの指示などはもちろん、自身でも発掘作業を行われています。
これまでに発掘した印象深いものを尋ねると、「喜界町崩リ遺跡の竪穴建物跡」と「中城御殿跡の琉球王国の王子が暮らした屋敷跡」とのこと。後者は現在、首里高校敷地内にあり、当時の石積みや井戸の丁寧なつくりに感動したそうです。
両手に抱えるものが亀島さんの発掘道具。七つ道具という言葉じゃ済まないボリューム。
実際に発掘作業で必要な道具を買うために、「ホームセンターはよく行く」と話される亀島さん。そのあたり、発掘よろしく根掘り葉掘り聞かせていただこうじゃないですか!
亀島さん
そうですね、じゃあまずは並べてみましょうか。
わーっ、めちゃくちゃ出てきた…!
亀島さん
発掘調査は共通して工程は同じで、土の高さを下げていったあと、土の表面を薄皮をはぐように掃除すると、柱の穴や住居跡といった昔の人が残した痕跡が見つかります。これらを写真や図面で記録したあと、慎重に掘り進めていきます。そこで狭い場所や深い場所にアプローチできる道具を使うことになりますが、既製品だと使いにくいことも多く、自分たちでカスタムする必要があるんです。
現場の写真を見せてもらった。こんな感じか~
亀島さん
たとえばこんな感じでカスタムしています。
んんーーー!?
ネルソン
ちょっとちょっと、このシャベル盛大にひしゃげてますよ!?
亀島さん
はい。これは持ち方によっては親指を角のところに当てて力を入れるので、痛くならないようにわざと曲げてあるんです。発掘道具の中ではよくあるカスタマイズですね。
ネルソン
よくあるのか…でも、かなり複雑な曲げ方ですが、みんな同じ型なんですか?
亀島さん
いや、これは僕だけの曲げ方です。他の人には使いづらいと思います。
一見すると、使い物にならないシャベル。これを狙ってやったと聞いたら「前衛アートかな?」と思ってしまいそうだが、むしろバリバリ合理的に、使い物にしたシャベルだった。
左がひしゃげシャベル、右がひしゃげないシャベル。ひしゃげっぷりは一目瞭然
しかし、これだけではなかった発掘道具のDIY!
さっきから手に持ってる「封印されし槍」みたいなの、何?
ネルソン
それも発掘道具ですか? 呪物感ありますけど。
亀島さん
これはパイプの先に小さなシャベルを取り付けたものですね。
けっこう本当に槍だった。昔の建物の柱を建てるための穴(柱穴)の土など、深いところにアプローチできるらしい。
ネルソン
形が似たやつがたくさんありますね、これは?
亀島さん
これはそれこそホームセンターにも売ってる両刃鎌というやつで、本来は草刈りや土を平らに整えたりする道具だと思うんですけど、沖縄での発掘作業には欠かせません。
ネルソン
沖縄で欠かせない? なぜです??
亀島さん
沖縄は全体的に本州に比べて土が固いんです。なのでこれを使って、薄皮一枚ずつ剥いでいくような使い方をします。
ネルソン
へー、大根の桂剥き的な。
亀島さん
そんな感じですね。
ネルソン
適当こいたら合ってた。
今年使いはじめた鎌(下)と10年選手の鎌(上)、遠近法ではなく見たままのサイズ比
発掘作業は、目的である埋蔵文化財を傷つけないことが大原則。慎重にミリ単位で剥いでいくしかないが、もともと両刃鎌は土を剥ぐために作られたものではないので消耗も激しい。言ってみれば鎌を土という細かい砂利で研いでるようなものだからすり減っていくという。
ただ、小さくなったら小さくなったで、狭い穴で使うときに都合がよいなど、そのサイズに合った使い方ができる。なんかその感覚知ってるわー何だっけと思ったら消しゴムだった。
発掘現場の様子(沖縄県立埋蔵文化財センター提供)
なお、発掘のスケジュールや一日の作業内容は、遺跡の内容や実施機関(研究機関か行政かなど)によってケースバイケースで、一概にこれとは言えないらしい。行政が行う記録保存調査ひとつを見ても、樹木伐採、沖縄県特有の磁気探査、重機による表土掘削、人力による包括層掘削、遺構掘削など、それぞれ一ヶ月以上かかる作業を同時並行で実施するそうだ。
これは鉄パイプの先を開いたもので、掘ってそのまま穴を通して土を排出できるのが特徴
カスタムするにしろ、しないにしろ、発掘道具はある意味では「土をいじる」という点で共通するため、園芸用品が代用できる。しかし、ここでかなり意外なものが飛び出してきた。
亀島さん
ほかにはこんな道具も使っていますね。
ネルソン
これは…えーっ!?
おたま…だったもの!?
ネルソン
調理器具じゃないですか。
亀島さん
そう、おたまの先だけ切り離して持ってきたものです。そこで、縁を鋭利に研いで土を剥ぎやすくして、さらにクッと曲げて掘った土がこぼれないようにしています。どんな場面でも使えますが、よく使うのは柱穴などのスペースがあまりない遺構の掘削ですね。
ネルソン
土を剥げるし、そのまますくって捨てられるということですか。さっきのシャベルと同じで、タイヤに踏まれてひしゃげてしまったただのおたまにしか見えない(笑)
亀島さん
「おたまはよく曲がって加工しやすいんですよ。発掘道具用に開発してくれないかなと思っているんですけど(笑)
ネルソン
マニアックすぎる(笑)!
調理器具から発掘道具というセカンドキャリアを歩むモノたち
もはや今更感はあるが、完全に職人の世界だ。いや、自身が使い手になるという点では、アスリートの世界のようでもある。発掘道具の世界がこれほどまでにおもしろかったとは…。
ただ、今だったら3Dスキャンしたデータをもとに金属加工とかできそうなもんだけど…。それで使えるのは結局亀島さん一人なので、じゃあ手作業で加工した方が早いって話か。
カメラケースもお手製。仕事道具に限らず、ふだんからDIY精神が身につきそうだな
発掘作業者の数だけいろんな道具がある、と亀島さん。
亀島さん
道具をおしゃれにしたりする人もいますよ。
ネルソン
合理性の塊みたいな話から、ここに来ておしゃれ!?
亀島さん
女性の作業員さんでたまに見ますが、道具の柄の部分にマスキングテープを巻いてかわいくする人もいます。あとは機能性も兼ねて、テニスとのラケットのグリップのような厚手のテープを巻いて掴みやすくする人もいますね。
ネルソン
校則ギリギリを攻めるおしゃれみたい。いやー、発掘作業員って本当にホームセンター常連客なんですね……。
亀島さん
本当に。よくお世話になってます。
ほかにも、食事用のナイフや、BBQで使うような金串や竹串も発掘作業に使える。とくに竹串は「もろい土器を地面から切り離すときに使える」らしいが、そんなマニアックすぎる使い方、竹串メーカーの人は誰一人として把握していないだろう。
もはや、道具そのものより、発掘調査関係者が見ている世界の方が気になってきた。おおよそ道具と呼べるものを見たときにはまず、「土を掘れるか掘れないか」「埋蔵文化財を傷つけるか傷つけないか」というチェック機能が標準で備わっているのかもしれない。
そして、ここに来て今日イチ、マニアックな道具の使い方の話が飛び出した。
亀島さん
もろい土器や動物の骨なんかは、壊れないように金属ではなくプラスチック製の道具がよいんですよ。
ネルソン
なるほど、確かに。
亀島さん
そんなときにちょうどいいのが油粘土の付属品のヘラなんです。でも最近、お気に入りのやつが折れちゃって、同じ商品を探してもヘラの型が変わってしまい残念です……。
ネルソン
メーカーもまさか、企業努力がこんな形で裏目に出てると思わんだろうな。
今更だが、亀島さんが特別ということはなく、発掘作業に関わる人なら程度の差こそあれ、基本は道具のカスタムをしているとのこと。そこで他県の発掘作業の応援に行くとお互いの道具が気になって、情報共有の場や、お互いの道具のプチ品評会になることもあるそうだ。
亀島さん
熊本城が地震で崩れたときに、復興のため調査研究の応援に行って、現地の方の道具を褒めていたら、沖縄に帰るときに「これ使ってよ」ともらったり。ほかにも喜界島の発掘をしたときに餞別的にもらったものがあったり、こうして道具が増えていくんですよ
友情を深め、別れ際に愛機を譲る。なんだその少年漫画。発掘調査、なんてアツい世界だ。
道具ばかりでなく、発掘する埋蔵文化財にもいろいろと太古の人間のDIY精神を感じるそうだ。土器なんかはとくに、指の腹や爪で模様を付けたり当時の人間の創意工夫が伝わる。
薄かった土器が、ある時代から再び厚くなったりして、技術力としては昔の方が高いこともあるらしい。でもそれは、技術が衰えたという訳ではなく、定住したから軽さよりも頑丈さを優先した結果かもしれない。そんな、埋蔵文化財を通して当時なにが起こったのか考えることも考古学の醍醐味だとのこと。まるで時空を越えた推理って感じで、とっても素敵だ。
なぜかある時期の沖縄本島では底がとんがっている土器が発掘される
亀島さんは最後に、発掘調査のおもしろさや誇りについて教えてくれた。
亀島さん
僕らの仕事って、すぐに生活の質が向上することではないですが、ご先祖さまから受け継いできた文化を正しく理解し、シッカリと未来に託すことだと思っています。埋蔵文化財センターは、そういうことを仕事にしている人がいる施設ですよと言いたいですね。
過去と未来をつなぐ、めちゃくちゃ立派な仕事を支えているのが、おたまや竹串、油粘土に付いてるヘラだったりする。このギャップが最高すぎると思うのは私だけじゃないはずだ。
ネルソン
そもそも発掘作業って、どんな道具を使うんですか? さっぱり想像つかない!