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こころ鳳ペットクリニック、大阪どうぶつ夜間急病センター所属。小動物臨床に従事。犬猫をはじめ、鳥類、爬虫類、両生類、霊長類など様々な小動物の診療・手術執刀を行う
「断耳は愛犬のために必要なこと?」「そもそも断耳ってなに?」このように、愛犬の断耳について悩む人は少なくありません。
断耳とは、犬の耳を立たせるために行われる外科手術のことです。犬種によっては、断耳が習慣になっていることもあります。健康と外見を向上させるためといわれていますが、獣医師の中には根拠が不足しているという意見も少なくありません。
この記事では、断耳をする理由や方法、費用、注意点について詳しく説明します。
目次
- 犬の断耳をする理由
- 断耳を行う犬種
- 犬の断耳を行う時期
- 犬の断耳の方法
- 犬の断耳を行う場合の注意点
- 断耳にかかる費用の相場は?
- 断耳の必要性
- まとめ
犬の断耳をする理由
断耳とは、垂れ耳の一部を切断して小さく立った耳にすることです。犬の断耳をする主な理由は、以下の4つです。
1. 怪我を防止するため
2. 美容目的のため
3. 習慣になっているため
4. 耳のトラブルの防止のため
その理由を1つずつ詳しく説明します。
怪我を防止するため
一部の犬種では、怪我を防ぐために断耳手術が行われていました。これは、過去に犬が闘っていた経緯があるためです。これらの犬は外部からの攻撃を受けやすく、その対象になりやすい場所が耳でした。
耳が大きく垂れていると相手に噛まれたり、引っ張られたりして怪我をしやすいため、戦いの前に耳を断つことで弱点を減らしていたといわれています。実際、断耳をする犬種は、闘いを強いられていた犬が多く見られます。ほかにも、狩猟犬や牧羊犬などもその傾向にあります。
美容目的のため
外見上の理由や美容目的で断耳をされる犬種もあります。飼い主が断耳の手術を希望したわけではなく、ペットショップで並ぶ前に外見を整えるため、断耳される犬もいます。しかし、断耳をすれば、必ずしもきれいに耳が立つわけではありません。
手術するだけで耳が立たない場合、器具で固定する期間が必要です。その程度や期間には個体差があります。手術だけで耳が立つ犬もいれば、固定に数カ月かかる犬もいる、結局立たない犬もいるということを知っておきましょう。
「簡単な手術をすれば、退院直後からきれいな見た目になる」というわけではありません。
習慣になっているため
断耳の理由の1つとして、犬種標準だからといって断耳が習慣になっているケースもあります。
たとえば、ドーベルマンを図鑑で調べると、耳はぴんと立っていて、尻尾は短い写真が掲載されています。これは自然な姿ではなく、断耳したあとの姿です。「この犬種は耳が短いもの」とか「耳はぴんと立っているもの」というイメージに合わせるために断耳をする場合があります。
耳のトラブルの防止のため
一部の犬種は、耳のトラブルを防止するため断耳をするというケースがあります。
耳のトラブルの防止を理由として、耳の中が蒸れないように犬の耳を切ってぴんと立てておくそうです。これは、特に垂れ耳の犬種に関して、耳の内部の通気性不足が耳のトラブル(耳ダニ感染、外耳炎など)のリスクを軽減させることが目的だと考えられています。
しかし「耳のトラブルの予防に関して断耳が有効だという科学的な根拠はない」という獣医師は多いようです。
耳のトラブルは個体差が大きく、個別の状況によって異なります。そのため外科手術で断耳をするよりも、定期的な耳のケアのほうが安全かつ安心でしょう。
トラブルを予防するためにも獣医師のアドバイスを受け、正しい耳のケアを予防のために行うことが、犬の耳の健康をサポートする最適の方法です。
もし耳のトラブルのために断耳を検討しているのであれば、手術のリスクや犬の気持ちを考慮し、獣医師と相談の上、慎重に判断を行うことが大切です。
断耳を行う犬種
耳の手術は、特定の犬種に対して行われることが多いです。一般的に、断耳が行われる犬種を紹介します。
1. ドーベルマン
2. シュナウザー
3. ミニチュア・シュナウザー
4. ボクサー
5. ミニチュア・ピンシャー
6. グレート・デン
7. ボストン・テリア
8. ピットブル
一例を紹介した犬種には、護衛犬や闘犬、牧羊犬などが多いです。またこれらの犬種でも近頃は、断耳をせず自然な姿のままペットとして飼われている犬も多く見られるようになりました。
犬の断耳を行う時期
断耳の手術は、犬の成長段階によって多少の違いがあるものの、一般的には生後3ヶ月前後に行われることが多いです。
生後3ヶ月ごろは耳の軟骨が柔らかい時期のため、耳を立たせる手術に適した時期とされていれています。生後早い時期に断耳を行うことで、傷の治りも比較的早く、耳がきれいな形で整います。
しかし、あくまでも目安の時期であり、犬種や体の成長スピードにより個体差が出るため、手術の時期はかかりつけの獣医師と相談することをおすすめします。
犬の断耳の方法
断耳の手術方法は、獣医師によって行われます。そのため、断耳の経験が豊富な獣医師にお願いすると安心です。手術では、全身麻酔したあとに耳を切り取り、縫合します。
詳しいステップは以下の通りです。
1. 断耳をしてくれる病院を探す
2. 獣医師による診察と術前の健康チェックをする
3. 手術当日、全身麻酔で耳の一部を切除する
4. 入院して術後の経過観察をする
5. 包帯や固定具で固定する
6. 退院後も傷口の消毒や経過観察で通院を続ける
手術は麻酔で犬が意識を失っている状態で行われるため、暴れることなく痛みやストレスを最小限に抑えることができます。
ただし、手術後の出血や痛みのコントロールなど適切なアフターケアのためには入院が必要です。手術部位の傷口のケアや処方された薬の使い方など、必要に応じて獣医師の指示に従って経過観察をしましょう。
犬の断耳を行う場合の注意点
犬の断耳を行う際の注意点を紹介します。
・感染や健康のリスク
・断耳後の痛みとストレス
・犬の行動制限
犬は手術後も自分で不調を訴えることができません。話してコミュニケーションが取れないからこそ、術後犬に不調が出ていないかは注意しておきたいポイントです。1つずつ詳しく説明します。
感染や健康のリスク
断耳手術は外科的な切除を伴うため、傷口からの感染や合併症など健康へのリスクがあります。
また、手術後の傷口のアフターケアが不適切な場合、感染を起こすので手術をお願いするクリニックは慎重に選んでください。口コミをチェックしたり、一度相談に行ってみたりするといいでしょう。
さらに、断耳により耳の一部が失われることで、聴力が低下する可能性もあります。個体差により耳の形成がうまくいかないこともあるので、注意しましょう。
断耳後の痛みとストレス
断耳手術は外科手術で、人間と同様に愛犬にとっても痛みやストレスが伴うものです。
手術後すぐはもちろん、回復期間にも痛みを感じている可能性は十分にあります。普段のような生活が送れないうえ、固定具の調整によっては痛みを伴うのでストレスを感じやすくなるでしょう。
ストレスが原因で、下記のような症状が出ることがあります。
1. 食欲不振
2. 嘔吐や下痢
3. いつも以上に吠える
4. 尻尾や耳が下がっている
5. 呼吸が荒い
6. 抜け毛などの皮膚炎
術後の愛犬にこのような不調がないか、しっかりと観察してあげてください。手術によるストレスが見られたら、スキンシップや適度なおやつなどでいたわってあげるようにしましょう。
犬の行動制限
断耳手術後には、傷口を舐めないことや激しい運動の禁止などいろいろな行動制限があります。
たとえば犬は傷口を舐めたり、かゆがったりします。傷口感染を防ぐために、通常は傷口を掻いたりしないための頸輪(エリザベスカラー)が装着されます。傷口周りの清潔を保つため、定期的なケアも必要です。
ほかにも、断耳手術後、獣医師からは散歩や激しい運動を制限するよう指示されることがあります。その場合、ハーネスを付けて運動量をコントロールしてあげましょう。
成犬への断耳の場合、犬が新しい耳の形状に適応するのには時間がかかります。術後回復期間中も痛みが伴うこと、普段と同じような行動が制限されることを理解し、愛犬に無理をさせないことが大切です。飼い主のサポートとコミュニケーションが、犬の術後のサポートには欠かせません。
ほかにも、手術後のケアや行動制限の指示がある場合があります。獣医師のアドバイスをしっかりと聞いておきましょう。
断耳にかかる費用の相場は?
断耳にかかる費用は地域や獣医院によって異なりますが、約5〜10万円が相場です。愛犬の大きさや手術の難易度、手術に用いる麻酔の種類などによって変動します。
さらに、かかる費用は当日の手術代だけではありません。術前検査や経過観察などにもお金がかかります。術後は、経過観察として感染症や化膿を防ぐために頻繁に病院へ通う必要があり、その回数や金額もバラバラです。
不安に感じる場合は、病院に問い合わせるとだいたいの目安を教えてもらえます。
また、倫理的な理由から断耳の手術をしない病院も増えています。手術の相談に行っても、健康に関する手術ではないので断られる可能性があることも覚えておきましょう。
犬の断耳に関心がある場合は、かかりつけの獣医院に相談し、適切な情報を得ることが大切です。
断耳の必要性
犬の断耳は、健康的には必要性はありません。ペットとして飼育するなら、断耳の理由として説明した闘争などによる怪我の予防についても不要です。
動物愛護の観点からすると、断耳は不要だという考えが近年増えています。実際ヨーロッパ諸国をはじめ多くの国や地域では、断耳を禁止する傾向にあります。
断耳の手術は外科的な切除を伴うため、犬にとって痛みやストレスを伴い、健康リスクをはらんでいることは知っておきましょう。
動物の福祉を重視し、愛犬の自然な姿を受け入れることも考えてみましょう。
まとめ
大切な愛犬が術前や術後、怖がっていたり痛がっていたりする姿は飼い主にとって耐えがたいものです。断耳には長い歴史がありますが、今は動物愛護の観点からあまりおすすめはできません。
断耳を希望される場合は、断耳の手術の経験が豊富で信用できる動物病院にお願いしましょう。術後に傷口が化膿したりすることがあるため、普段と様子が違うと感じたらできるだけ早く病院に連れていけるといいですね。
断耳については、飼い主がよく理解し、犬の幸せを第一に考えることが重要です。飼い主としての責任を持ち、いま一度本当に断耳が必要かどうか考えてみましょう。