上京どうぶつ病院院長。北里大学出身。日本獣医生命科学大学付属動物病院にて研修後現職。

コーギーのまるまるとしたお尻は、“コギケツ”と呼ばれて人気を集めています。しかし、「なぜコーギーは尻尾を切られるのだろう」とふと素朴な疑問を感じた方もいるかもしれません。実は歴史的な背景や理由を含めて、多くの人にはあまり知られていないエピソードがあるのです。
そこで今回は、コーギーの尻尾を切る理由や問題点、犬種による違い、各国の断尾に対する考え方の違いなどについてわかりやすく解説します。
目次
- 尻尾を切るコーギーと、切らないコーギーがいる?
- コーギーの尻尾を切るのはなぜ?歴史的な理由を解説
- コーギーの尻尾を切る問題点・デメリットはある?
- コーギーの断尾は、禁止されている国もある
- まとめ
尻尾を切るコーギーと、切らないコーギーがいる?

実はすべてのコーギーが、尻尾を切られてしまうわけではありません。ここでは、尻尾を切るコーギーと切らないコーギーの違いについて解説します。
実はコーギーには“2種類”いる
コーギーと呼ばれる犬種には、2種類いるのをご存じでしょうか。「ウェルシュ・コーギー・カーディガン」と「ウェルシュ・コーギー・ペンブローク」です。
コーギーの原産国であるイギリスでは、前者のカーディアン種が主流となっています。カーディアン種は機敏で活動的な性格を持ち、約4000年の歴史があるともいわれる犬種です。一方、日本で飼育されているコーギーの大半は、後者のペンブローク種です。ペンブローク種もカーディガン種と同様、機敏で活動的な特徴を持ちます。
同じコーギーでも、尻尾を切られるのはペンブローク種のみです。カーディガン種は、尻尾がそのまま残されます。そのため、ペンブローク種が主流の日本では、「コーギー=尻尾がない」という認識が広まっているのです。
ウェルシュ・コーギー・ペンブロークってどんな犬種?
ウェルシュ・コーギー・ペンブローク(以下コーギー)は、牧羊犬として親しまれてきた犬種です。牧羊犬とは、牧場でオオカミや侵入者が来ないように家畜を見張ったり、羊の群れを誘導したりする犬のことをいいます。牧羊犬は牛や羊のかかとにかみつくことで、自分より体の大きな相手を決まった方向へ追い込めるのが特徴です。また、原産国のイギリスでは、エリザベス女王がペットとして可愛がっていたというエピソードでも知られています。
コーギーは賢く観察好きな性格のため、しつけやトレーニングもスムーズに習得してくれるのが特徴です。そのため、今では日本をはじめとするさまざまな地域で、広く家庭犬として人気を集めています。
コーギーの尻尾はいつ切るの?
コーギーの尻尾は、一般的に生後5日以内に獣医師によって切られます。生後間もない時期に行われることが多いとされていますが、痛みの感じ方についてはさまざまな見解があります。断尾の方法としては、ハサミで外科的に切断する「切断法」があり、基本的に麻酔は使われません。
このようにコーギーは生後間もなく断尾されるため、ペットショップに連れてこられる頃には、基本的にもう尻尾がない状態になっています。そのため、尻尾付きのコーギーを見たことがないという人も少なくありません。
コーギーの尻尾を切るのはなぜ?歴史的な理由を解説

なぜわざわざ、生まれてすぐにコーギーの尻尾を切ってしまうのでしょうか。ここでは、コーギーの断尾が行われてきた歴史的な理由について紹介します。
牧羊犬として働きやすくするため
コーギーは、もともと牧羊犬として飼われてきた歴史があります。牧羊犬は牧場にいるとき、牛や羊に尻尾を踏まれてしまったり、尻尾が木の枝にひっかかってケガをしてしまったりするケースも珍しくありません。そのため、できるだけ牧羊犬として働きやすくなるよう、生後間もなく尻尾を切断する習慣ができたといわれています。
節税対策につながるため
あくまで諸説あるうちの一つですが、節税対策のためにコーギーの断尾が広まったという歴史もあります。
昔からヨーロッパでは愛玩犬に対して、「犬税」と呼ばれる税金が課されていました。一方、牧羊犬のように仕事のために飼われる犬に対しては、犬税が課されなかったようです。そのため、あえて飼い主が愛玩犬の象徴である尻尾を切り、「仕事上の犬だ」と主張して税金を免れたというエピソードもあります。
病気の予防になると考えられていたため
昔は、犬の尻尾が病気の発生源になると考えられていた時期もありました。
例えば、尻尾の生えた犬が茂みの中に入ると、枝やトゲでケガをしやすくなり、そこから感染症にかかってしまうという考え方です。また、犬は尻尾にうんちがつくと不衛生になり、皮膚病の原因になってしまうとも考えられていました。加えて、狂犬病が流行している時期に、「尻尾を切れば狂犬病を予防できる」という俗説も広まったようです。このようにあくまで犬の予防医療のために、尻尾が切られてきたという背景もあります。
今でもコーギーの尻尾を切る理由は?
なぜコーギーは、牧羊犬としての役割や税金対策などの理由がなくなった今でも、尻尾を切られてしまうのでしょうか。ここでは、現在でもコーギーの断尾が続けられている主な理由について解説します。
「尻尾がない=スタンダード」という解釈や慣習が残っているため
今でもコーギーが断尾されている背景には、犬種標準に合わせるためや、歴史的な解釈や慣習が影響しているから、と考えられています。
犬種標準とは、犬種ごとに定められた、理想的な体高や体重、被毛の長さ、色などの基準のことです。アメリカのケネルクラブ(AKC)の標準では、ペンブロークの尻尾は2インチ(約5センチ)以下と定められています。一方、日本のジャパンケネルクラブ(JKC)が準拠する国際畜犬連盟(FCI)の基準では、現在は『断尾しない(ナチュラル・テイル)』ことも正式に認められており、尻尾があるからといって純血種として否定されることはありません。かつての『コーギーは短い尻尾』というイメージは、歴史的な慣習の名残と言えます。
以前はドッグショーなどの審査基準(犬種標準)において断尾が一般的とされていましたが、現在は世界的に動物愛護の観点から断尾を控える動きが加速しています。イギリスなどの原産国では既に法律で禁止されており、日本でもJKCの規定が改定され、『尻尾のある姿』が標準(スタンダード)の一つとして許容されるようになっています。そのため、家庭犬として迎える場合には、断尾を行わない選択をするブリーダーや飼い主も増えています。
なお、血統証明書(血統書)は、その犬の両親や祖先が純血種であることを証明する『戸籍』のようなものです。尻尾の有無や外見の良し悪しで発行が制限されることはありません。尻尾が長くても、あるいは体の大きさが標準外であっても、登録された両親から生まれた子犬であれば血統書は発行されます。血統書はあくまで血統を証明するもので、ドッグショーの審査基準である『犬種標準(スタンダード)』に合致しているかを保証するものではない点に注意が必要です。
コーギー以外にも尻尾を切られる犬種はある
実はコーギー以外にも、犬種標準に合わせて尻尾を切られる犬種があります。例えば、トイ・プードルやヨークシャー・テリア、ミニチュア・シュナウザー、ドーベルマンなどが代表的です。こうした犬種は、日本では尻尾のない姿のほうが馴染み深くなっているため、今でも断尾の文化が根強く残っています。
コーギーの尻尾を切る問題点・デメリットはある?

ここまで説明してきたように、現在のコーギーにとって断尾には特にメリットがありません。逆にデメリットはいくつか存在します。ここでは、コーギーの尻尾を切ることの問題点・デメリットについて見てみましょう。
感情表現しにくくなる
コーギーをはじめ、犬は尻尾を使って感情表現する動物です。尻尾がないと、人間に対しても喜怒哀楽の感情をうまく伝えられなくなってしまいます。また、犬同士は尻尾を振ったり、立てたりすることでコミュニケーションを取るのが特徴です。尻尾がないと、犬同士の意思疎通が不自由になってしまう可能性もあるでしょう。
感染症のリスクがある
コーギーの断尾は、医学的な問題も指摘されています。例えば、尻尾を切ったあとの傷口が化膿したり、傷口から感染症にかかったり、痛覚過敏になったりとさまざまなリスクがあるのです。特に子犬は成犬と比較すると免疫力が低いため、感染リスクも大きくなります。
手術時に痛みを感じる可能性もある
コーギーの断尾手術は、基本的に麻酔なしで実施されることが一般的です。子犬の痛覚には諸説あり、研究報告によっては痛みを感じる可能性も否定できないといわれています。後遺症として痛みが残ってしまう可能性も指摘されており、断尾はコーギーの健やかな成長の妨げになるかもしれません。
コーギーの断尾は、禁止されている国もある

コーギーにとって断尾はさまざまな問題点があるため、尻尾を切ること自体が法律で禁止されている国も増えてきました。ここでは、コーギーの断尾が禁止されている国や日本の現状について解説します。
禁止されているのはどんな国?
国によっては、動物愛護の観点から、コーギーだけでなくペット犬全般の尻尾を切ることが禁止されています。例えば、イギリスやオーストリア、ベルギー、ブルガリア、フィンランド、ギリシャ、イタリアなど、ヨーロッパの国が代表的です。特にイギリスは動物福祉に関する法律を制定して、断尾を固く禁止しています。そのため、イギリスではペンブローク種のコーギーは繁殖自体が減少し、犬種の存続が懸念されたこともありました。
日本ではまだ禁止されていない
室内犬としてのコーギーにとって、断尾は医学的、機能的な利点はほとんどないとされています。そのため、最近では動物愛護の観点から、ヨーロッパを中心に断尾の禁止が世界的なスタンダードになりつつある状況です。アメリカやカナダでは、州によっては犬の尻尾を切る行為が禁止になっているケースもあります。
しかし、アジアの国々では、犬の断尾が一律で禁止されている国はまだ多くないのが実情です。日本でも、コーギーの断尾は今のところ禁止されていません。今後はヨーロッパにおける動物愛護の考え方が、日本でも広まってくる可能性もあります。断尾の規制については、今後の動向を見守る形になるでしょう。
まとめ
コーギーの尻尾が切られる背景には、「牧羊犬としての役割を果たすため」「病気を防ぐため」など、いくつかの歴史的な理由がありました。現在では、犬種標準が改定され、断尾しない姿も標準の一つとして許容されるようになってきています。一方で、国や団体ごとの基準の違いや、過去の基準・長年の慣習の影響から、断尾が行われているケースも一部に見られます。コーギー以外にも断尾されている犬種もいます。
一方でコーギーの尻尾を切ることによって、感染症になりやすくなったり、痛みが後遺症として残ったりする問題点も指摘されています。
しっぽが短いワンちゃんや長いワンちゃんがいる理由には、犬種ごとの歴史的な背景や、時代とともに変化してきた考え方があります。そうした事情を知っていると、犬たちの姿をより自然に受け止められるかもしれません。
【更新情報:2026年1月20日】 本記事内の記述について、読者の方からのご指摘に基づき、内容の精査および修正を行いました。正確な情報をお届けできるよう、今後も内容の確認を徹底してまいります。ご指摘をいただいた読者様に深く感謝申し上げます。













