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札幌市、平岡動物病院の院長。主に呼吸器、整形、眼科、歯科の外科とエキゾチックアニマル診療を中心に力を入れている。趣味は娘と遊ぶこと。
ドーベルマンといえばツンとした短いしっぽと、ピンと立った凛々しい耳をイメージする方が多いでしょう。じつはドーベルマンは本来、しっぽが長く、耳も垂れている犬種です。このかわいいしっぽや耳が、生後すぐに行う「断尾」「断耳」と呼ばれる整形手術によって、私たちがよく知る凛々しい形に変えられています。
この記事では、ドーベルマンの断尾、断耳の方法や理由、本来の姿のドーベルマンを迎える方法について紹介します。
目次
- ドーベルマンは「断尾」でしっぽが短くなっている
- ドーベルマンは「断耳」で立ち耳になっている
- ドーベルマンの断尾、断耳が行われる理由
- 本来の姿のドーベルマンをお迎えすることはできる?
- ドーベルマンのしっぽと耳をそのままにしたらどうなる?
- お迎え後にドーベルマンの断尾、断耳を行う場合の注意点
- まとめ
ドーベルマンは「断尾」でしっぽが短くなっている
多くのドーベルマンのしっぽがツノのように短いのは、生後すぐにしっぽを切断する「断尾手術」が行われているからです。ここでは、本来のドーベルマンのしっぽと、断尾手術の方法について紹介します。
本来はしっぽが長い犬種
ドーベルマンはレトリーバー種やダックスフンドなどと同じように、長いしっぽを持つ犬種です。ドーベルマンのしっぽは本来、長細くて先端がくるんとカーブした形をしています。しっぽの被毛は胴まわりと同じように硬くて短いことから、まるでカワウソのような愛らしい見た目です。
断尾手術の方法
ドーベルマンが生まれてまもなく行う断尾手術は、動物病院で行う方法と、ブリーダーが自ら行う方法があります。
動物病院での断尾は、ドーベルマンが痛みを感じにくいと言われている生後1週間以内に無麻酔で行われるのが一般的です。ハサミやメスを使ってしっぽを切断し、止血後に傷口を縫合することで、短いしっぽが仕上がります。
手術後は基本的に入院なしで日帰りし、数日間はカラーで保護することで患部を舐めないよう防止可能です。こうした外科手術による断尾方法は、「切断法(せつだんほう)」と呼ばれています。
ブリーダーが行う場合は、しっぽの根元をきつく縛って血を止める方法が採用されています。血が通わなくなることでしっぽが壊死し、3日ほどで自然と落下する仕組みです。この方法は「結紮法(けっさつほう)」と呼ばれています。
ドーベルマンは「断耳」で立ち耳になっている
ドーベルマンの立ち上がった凛々しい耳は、断耳手術によって形作られています。ここでは、本来のドーベルマンの耳の形と、断耳手術の方法について紹介します。
本来は耳が垂れている犬種
ドーベルマンといえばピンと尖った耳が特徴ですが、本来は大きな垂れ耳を持つ犬種です。耳は顔の半分くらいを覆うくらいの長さがあり、被毛はしっぽと同じく硬くて短いことから、ラブラドール・レトリーバーや土佐犬とも似ています。
断耳手術の方法
断耳手術を行える技術力を持つのは、基本的に動物病院のみです。動物病院では、生後2〜3ヵ月ごろに全身麻酔をかけて外科手術を行います。断尾と同様にハサミやメスで耳の大部分を占める耳殻(じかく)を切り取るのですが、断耳では術後の工程が特に大切です。
外科手術から数カ月間は固定具をつけて、ピンと立った状態になるようにキープします。このことを「耳立て」と呼び、非常に高い技術が求められるため、思うように立たないケースもあります。
ドーベルマンの断尾、断耳が行われる理由
そもそも断尾と断耳が行われるようになった理由は、ドーベルマンが誕生した経緯から知ることができます。19世紀後半にドイツで作出されたドーベルマンは、パトロールの相棒を務める護衛犬や警備犬として活躍してきました。
パトロール中には野犬から襲われることもあり、ドーベルマンの長いしっぽや耳は噛まれたり踏まれたりすることがあったそうです。そうした怪我を防ぐために、しっぽと耳が切り取られるようになりました。
その後、時代が変わってドーベルマンは、警察犬や軍用犬などの役割も任されるようになりました。どちらも研ぎ澄まされた聴覚が求められるため、断尾、断耳が習慣として定着したようです。この習慣が現代でも引き続き行われていることが、断尾、断耳手術が行われる理由です。また、断尾、断耳手術は「ドッキング」とも呼ばれます。
ドーベルマン以外にも断尾、断耳が行われる犬種がいる
ドーベルマンのルーツであるジャーマン・ピンシャーやミニチュア・ピンシャーのほか、シュナウザー、ボクサーなども、ドーベルマンと同様の理由で断尾、断耳手術が行われています。
また、コーギーやトイ・プードル、ヨークシャー・テリア、ジャック・ラッセル・テリア、コッカー・スパニエル、エアデール・テリアなどは断尾手術のみ行われています。
こうした犬種の中には、ドーベルマンのように警備犬として活躍していた犬だけでなく、猟犬、牧羊犬として働いていて他の動物から踏まれやすい環境にいた犬も含まれているようです。
本来の姿のドーベルマンをお迎えすることはできる?
ドーベルマンの本来の姿の魅力を知って、「自然な姿をしたドーベルマンの子犬をお迎えしたい!」と思う方もいるでしょう。ブリーダーが子犬を引き渡せるのは生後56日以降と法律で定められていますので、基本的にドーベルマンは引き渡し日までに断尾、断耳(ドッキング)が行われます。
しかし、ドーベルマンの断尾、断耳は義務ではありません。断尾、断耳をするかどうかはブリーダーの判断に委ねられているため、断尾、断耳を行わない方針のドーベルマン専門ブリーダーを探してお迎えすることも可能です。
ブリーダー紹介サイトなどでしっぽや耳があるドーベルマンを探し出せない場合は、ブリーダーさんに直接連絡してみてください。生まれる前の子犬を予約できるブリーダーさんであれば、ドッキングをしていない子をお迎えできないかを相談すると対応してもらえるケースもあります。
ドーベルマンのしっぽと耳をそのままにしたらどうなる?
しっぽや耳が長いままのドーベルマンを迎えても、本来の姿のまま飼育して問題ありません。警備犬や軍用犬として活躍していた時代とは違って、現在ペットとして飼われるドーベルマンに実施される断尾、断耳手術は、見た目上の理由によるものです。
人間の整形手術と同じように美容目的ですし、断尾、断耳手術は痛みを伴うことから、動物愛護(アニマルウェルフェア)への関心が高いヨーロッパでは禁じられています。
アニマルウェルフェアの「5つの自由」と断尾、断耳
アニマルウェルフェアとは、ペットや家畜が心身ともに苦痛を感じずに過ごせる環境を整え、QOLを高めようという考え方です。アニマルウェルフェアの考えを簡潔に表した基準に「5つの自由」というものがあります。5つの自由は以下の5つの項目から構成されています。
1. 飢えと渇きからの自由
2. 不快からの自由
3. 痛み・傷害・病気からの自由
4. 恐怖や苦悩からの自由
5. 正常な行動を表出する自由
本来の姿から整形する断尾、断耳手術は、「痛み・傷害・病気からの自由」や「恐怖や苦悩からの自由」が守られているとは言えません。こうした考えに基づいて、WSABA(世界小動物獣医師協会)では2001年に治療目的以外の犬の断尾手術が違法だと決議されました。また、ヨーロッパや北米などでは法律で禁じられている国がほとんどで、断尾、断耳の習慣が消えつつあります。
垂れ耳のドーベルマンは外耳炎に注意
手術をしない場合、一点注意してほしいのは耳のケアです。垂れ耳の犬は耳アカが多く、外耳炎をはじめとする耳の病気にかかりやすいと言われています。外耳炎は細菌やアレルギーなどが原因となって引き起こされます。とくに免疫機能が下がるシニア期は耳の病気になりやすいため、日頃から耳のチェックやケアをしっかりおこなってあげるよう心がけてください。
お迎え後にドーベルマンの断尾、断耳を行う場合の注意点
生後数週間経ってからの断尾、断耳手術では麻酔を使用しますが、術後は痛みを伴います。どちらの手術も医療行為のため、飼い主自身が断尾、断耳を行うのは絶対にやめてください。「ブリーダーさんができるなら」と結紮法で断尾してしまうと、犬の健康に影響を与える可能性もあります。
また、手術後に長期間固定する必要がある断耳は、失敗するリスクが十分にあります。できるだけドーベルマンが苦痛を感じることのないように、本当に断尾、断耳を行うのか十分検討することが大切です。
まとめ
ドーベルマンの断尾や断耳は、護衛犬や警察犬として活躍してきた時代の名残として現代でも行われています。断尾、断耳手術は生後まもない時期に行われるため、ペットショップやブリーダーからお迎えする時点ではしっぽや耳が短くなっているケースがほとんどです。
しかし動物愛護の観点から、ヨーロッパを中心に断尾、断耳を行わない動きもあります。断尾、断耳を行うかどうかはブリーダーの判断に委ねられているため、ドーベルマン本来のかわいいしっぽや耳を持った子をお迎えしたい場合は、ブリーダーに相談すると良いでしょう。耳が長いままのドーベルマンは外耳炎になりやすくなるため、耳のケアを入念に行うようにしてください。