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chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。
犬と暮らすオーナーさんなら、愛犬にはいつまでも元気でいてほしいと願うもの。長生きしてもらうためには愛犬の健康管理が欠かせません。今回は、chicoどうぶつ診療所所長の林美彩先生に教えていただいた、蚊の発生する時期に予防が必要な犬にとって怖い病気のひとつ「フィラリア症」について解説していきます。
目次
- フィラリア症はかつて犬の死亡原因ワースト3に入っていた恐ろしい病気
- 蚊が発生する時期には必ずフィラリア予防を!
- 予防をしていないと、フィラリアには高確率で感染してしまう!?
- フィラリア予防の前には必ずフィラリア検査を
フィラリア症はかつて犬の死亡原因ワースト3に入っていた恐ろしい病気
フィラリア症は、フィラリア(犬糸状虫)という寄生虫が、犬の肺動脈や心臓にすみついてしまうという病気です。すみついたフィラリアは、心機能の低下だけでなく、全身の血液循環の低下からくるさまざまな障害を起こします。過去には犬の死亡原因ワースト3に入っていたこともある恐ろしい病気でした。現在では薬で治療ができますが、呼吸器系・循環器系は命に直結しているので必ず予防をしてください。
感染初期の段階では元気・食欲がなくなる、苦しそうに呼吸する、咳が出るといった、フィラリア症以外でも見られる症状が出ます。そののち、腹部膨満や血尿などの症状が現れ、最悪の場合は死に至ります。
フィラリア症の怖いところは、すぐには症状が出ないケースもあることです。体内にフィラリアの幼虫を持つ蚊に吸血され、成虫になったフィラリアが心臓に寄生して症状が出るまでに、1~2年かかる場合があります。時には10年経ってからということも。症状が出る期間は、蚊に刺される頻度やフィラリアの寄生数、感染部位によって変わります。日頃から愛犬の様子をしっかりと見てあげるようにしましょう。
蚊が発生する時期には必ずフィラリア予防を!
フィラリアは蚊を媒介して広まります。フィラリアに感染した動物の血液を蚊が吸うと、蚊の体内にミクロフィラリア(フィラリアの赤ちゃん)が入りこみ、蚊の体内でフィラリア幼虫に成長します。その蚊に犬が刺されると、フィラリア幼虫が犬の体内に入りこみ、フィラリアに感染するのです。日本でフィラリアを媒介する蚊はおよそ16種類とされており、アカイエカ、コガタアカイエカ、チカイエカ、カラツイエカなどが一例として挙げられます。
フィラリア予防は、月に1回、フィラリア予防薬を投与することで行います。予防薬には錠剤タイプやチュアブルタイプの内服薬や、皮膚に塗布するスポット剤の外用薬などがあり、ミクロフィラリアやフィラリア幼虫を駆除します。犬の月齢2カ月から予防可能です。
予防期間には地域差がありますが、関東の場合は4~12月ごろが目安です。蚊は、気温が15度を超えると吸血を始めるので、気温が高まる時期には注意が必要でしょう。時には季節外れの蚊が現れるケースもあるので、感染を100%防ぎたいオーナーには通年の予防をおすすめしてはいます。しかし、予防薬も薬の一種なので、犬の体にまったく負担がかからないわけではありません。
フィラリアの予防薬は、投薬してから30~40日くらいで効果がなくなります。そのため、気温が連続して15度を下回り、蚊が活動しなくなってから1カ月後から薬をお休みすることができます。そういったことも踏まえた上で、少なくとも地域ごとに推奨されている期間はしっかりと予防薬を投薬してあげてください。
予防をしていないと、フィラリアには高確率で感染してしまう!?
フィラリアの予防方法が確立した現在でも、残念ながらフィラリア症にかかってしまう犬がいます。予防薬が承認されているとはいえ、全ての犬が服用しているわけではないからです。フィラリア予防をせずに夏を過ごした場合の感染率は1年目で約38%、2年目で約89%、3年目には約92%にものぼります。
また、投薬を忘れていたことによっても感染してしまうケースがあります。薬の効果は30~40日ほどですので、50日間ほど間があいてしまったときには、フィラリアの幼虫が成長してしまっている可能性があります。フィラリア成虫に予防薬は効きません。予防をしていても、たった1回薬を飲み忘れただけで感染してしまった犬もいるので、飲み忘れがあった場合にはかかりつけの病院で相談してください。
フィラリア予防の前には必ずフィラリア検査を
フィラリア症から愛犬を守るためには、予防をしておけば心配ないと思われてしまいそうですが、予防の際にも注意点があります。万が一、犬がフィラリアに感染していた場合、体内にはフィラリア成虫が産んだミクロフィラリアが多数存在している状態になります。それに気づかないままフィラリア予防薬を投与すると、ミクロフィラリアが一度に大量に駆除されることにより、犬がショック症状に陥る可能性があるのです。蚊を見かけなくなっても、それ以前に吸血されている場合には、体内にフィラリアの幼虫が残っていることもあります。ですので、毎年のフィラリア予防の前には、必ずフィラリア検査が必要です。
フィラリアの検査方法はいくつか種類があります。直接血液塗抹法やヘマトクリット法はミクロフィラリアの有無を見る検査です。ですが、フィラリア成虫が寄生していても何らかの理由でミクロフィラリアが現れない状態(オカルト感染)があるため、現在はフィラリア抗原検査のキットを用いてフィラリア成虫の有無を確認する方法が主流になっています。気になる方はかかりつけの病院で相談してみてください。
また、フィラリアは犬だけでなく猫にも感染するので、猫に予防をするのも大切です。犬と猫が同居している場合には、特に気をつけてください。
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