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ふくふく動物病院院長。得意分野は皮膚病。飼い主とペットの笑顔につながる診療がモットー。キャバリアと5匹の保護ねこ、わんぱくなロップイヤーと一緒に暮らしている。
犬のチャームポイントとして、かわいい耳を挙げる人も多いのではないでしょうか。犬の耳の形は3種類に分けられ、耳の動きを注意深く観察すると気持ちを読み取ることも可能です。ただし、犬は耳にトラブルを抱えやすく、犬がかかりやすい病気として外耳炎がトップクラスに入ります。病気予防のためにも、犬は定期的な耳掃除が必要です。
今回は、犬の耳について解説します。耳の形の種類や、耳の動きから気持ちを読み取る方法、耳の病気や予防方法などについて紹介していますので、ぜひ参考にしてください。
目次
- 犬の耳掃除の注意点は?
- 犬の耳は3種類
- 耳の動きからわかる犬の気持ち
- 犬の耳に関する病気
- 犬の耳掃除はなぜ必要?
- 犬の耳掃除を怠るとどうなるの?
- 犬の耳掃除の頻度やタイミングは?
- 犬の耳掃除に必要な道具は?
- 自宅で犬の耳掃除をする手順は?
- 犬の耳掃除をする時、耳毛は抜くべき?
- 病院で犬の耳掃除はできる?
- まとめ
犬の耳掃除の注意点は?
最後に、犬の耳掃除について、注意したいポイントをおさらいしてみましょう。
犬の耳掃除はやり過ぎない
耳掃除をやり過ぎると炎症を起こすので、頻度は週に1回から月に1回程度に留めておきましょう。すでに耳に炎症がある場合は犬が痛がるので、無理に続けないようにします。
犬の耳掃除で綿棒は慎重に使う
犬の耳の構造は人間とは違い、外耳道がL字型をしています。綿棒を使う場合は、汚れを奥に押し込まないように気を付けましょう。
犬の耳の汚れ具合は季節や体調によっても変わる
耳の汚れ具合は季節や体調によっても変わります。特に肌が荒れやすい時期は耳が汚れやすくなるので、耳の様子を普段よりも気にしてあげたいもの。逆に、普段は耳が汚れない犬にとっては、耳が汚れていることが肌荒れのサインになります。
犬の耳の変化は急に起こる
外耳炎になりやすい犬は、耳の中の変化が急に起こります。朝に耳の中をチェックして「大丈夫!」と思っていても、夜に見ると真っ赤になっているというケースはよくあること。犬の体質によっては、頻繁に耳の中をチェックしてあげるとよいでしょう。
犬の耳は3種類
犬の耳は、「立ち耳」「半立ち耳」「垂れ耳」の3種類に分けられます。
立ち耳
耳の先端が真上に向いている形のことです。立ち耳は、柴犬、ポメラニアン、フレンチ・ブルドッグ、パピヨン、コーギー、ミニチュア・ピンシャーなどに見られます。
半立ち耳
耳の先端が逆三角形にパタンと折れている耳です。たとえばボーダー・コリー、ジャック・ラッセル・テリア、パグなどが半立ち耳に分類されます。
垂れ耳
耳の付け根から地面に向けて垂れ下がった耳のことです。垂れ耳の代表的な犬種は、ビーグル、ゴールデン・レトリーバー、ミニチュア・ダックスフンド、キャバリエなどがあります。
耳の動きからわかる犬の気持ち
耳の動きや表情の変化を観察すると、犬の気持ちを理解できるかもしれません。ここでは、特徴的な耳の動きと、その仕草が表す気持ちを紹介します。
耳がピンと立っている時は「集中」や「恐怖」
耳が立っている時は、犬が周辺へ注意を研ぎ澄ませているサインです。犬が楽しげな表情をしていれば、好奇心が惹かれて何かを観察している可能性が高いでしょう。一方で、他の犬と喧嘩している最中に耳がピンと立っている場合は、攻撃的な気持ちと自信の表れです。反対に不安そうな顔をしていた場合、恐怖を感じて緊張しているかもしれません。その場合は、抱き上げて緊張を感じている対象を視界から遮ったり、おやつで気を逸らしたりして、緊張を和らげましょう。
耳を後ろに倒している時は「リラックス」や「甘え」
犬が耳を後ろに倒す仕草は「ヒコーキ耳」と呼ばれています。ヒコーキ耳は、緊張がほどけてリラックスしている時や、飼い主に甘えたい時、嬉しい気持ちなどプラスな感情を表すことが多い仕草です。
ただし、ヒコーキ耳は威嚇する時や、大きい音に恐怖を感じた時にすることもあります。犬の表情から緊張を読み取れた場合は、リラックスできるように対処してあげましょう。たとえば雷に緊張している場合は、犬が落ち着く場所に移動させたり、音が気にならないようテレビやラジオをつけて気を逸らしたりする方法が効果的です。
耳を前方に倒している時は「威嚇」
耳を前に倒している時は、犬が威嚇状態にあると考えられます。耳の倒れ方が怒りの強さを表していて、耳が倒れているほど戦闘状態に入っているサインです。威嚇している場合は歯をむき出しにしたり、唸り声や低い鳴き声を上げたりといった様子も見られます。威嚇状態にある場合は、人や他の犬に怪我をさせてしまうかもしれません。散歩中の場合は、静かにその場を立ち去るようにしましょう。
耳を横に倒している時は「不満」
耳を横に倒している時は、飼い主とのスキンシップ不足や運動不足によりストレスが溜まっている状態です。また、他の犬に近づく際に耳を横に倒して尻尾を立てていると、喧嘩になる可能性が高いでしょう。喧嘩を避けるためにも、毅然とした態度ですみやかにその場から立ち去るようにしてください。また、ストレスを適度に発散できるよう、日頃から遊びや散歩、スキンシップをしっかり行うようにすることも大切です。
耳をピクピク動かしている時は「緊張」
周囲をキョロキョロ見回しながら耳をピクピク動かしている時は、不安や恐怖を感じて緊張している可能性が高いでしょう。犬の気持ちを落ち着けるには、犬を撫でたり抱き上げたりして、スキンシップを取ると効果的です。また、犬が夢を見ている時もまぶたや足、尻尾などとともに耳がピクピクと痙攣するように動くと言われています。
犬の耳に関する病気
可愛らしい犬の耳ですが、病気のリスクも抱えています。とくに垂れ耳や半立ち耳の犬種は耳に湿気がこもりやすいため、外耳炎や中耳炎になりやすい傾向があり、注意が必要です。
外耳炎
外耳炎は、犬の病気の中でもトップクラスにかかりやすい病気で、垂れ耳の犬はとくに注意が必要です。外耳とは耳介から鼓膜までの部分のことで、外耳に起こる炎症の総称が外耳炎と呼ばれています。代表的な原因は3つあり、細菌性外耳炎、マラセチア性外耳炎、アレルギー性外耳炎などと呼び分けられています。外耳炎になると、腫れやかゆみ、悪臭などの症状が出るため、見た目や臭いの変化で気づけるでしょう。
中耳炎・内耳炎
中耳は鼓膜のあたりを言い、この部分で炎症が起こる場合を中耳炎と言います。また、その奥のはバランスをとるために重要な働きをする部位があり、この部分で炎症が起こる場合を内耳炎と言います。どちらも、外耳炎が進行することで起こるケースが多いものの、異物が耳に入ることで起きるケースもあります。中耳炎や内耳炎になると、痛みにくわえて、頭を傾けたり、ぐるぐると回ったり(旋回運動)といった神経症状が表れることもあります。
アレルギー性皮膚炎
なんらかのアレルギー反応によって、皮膚に赤みや脱毛、発疹などのかゆみ症状が出るのがアレルギー性皮膚炎です。症状が出やすい部位は、耳以外にも脇や股、足先、口、目の周りなどが挙げられます。かゆさがつらい犬が患部を舐めることで、細菌が感染してさらに悪化する恐れもあるため、早めに対処してあげましょう。アレルギー性皮膚炎の原因は食事、ノミ、ハウスダスト、花粉、カビなどさまざまです。くわえて、じゅうたんや食器などがアレルゲンとなる犬もいます。
耳血腫
耳の皮膚(=耳介)の血管が破れて、皮膚と軟骨の間に血液が溜まってしまった状態が耳血腫です。耳血腫になると、耳に膨らみができます。耳血腫の主な原因は、外耳炎の痒みが悪化し、犬が耳を引っ掻いたり頭を振ったりしたことで耳介を傷つけてしまったことによるものです。耳血腫を予防するためにも、外耳炎に気づいたら早めに治療しておきましょう。
前庭疾患
前庭疾患は、内耳にある前庭や三半規管といった平衡感覚に関わる器官に障害が起こる病気です。前庭疾患になると、嘔吐や眼振、斜頸といった神経症状が見られます。原因不明の場合もありますが、中耳炎や異物、腫瘤などが原因で発症することもあるため、外耳炎の予防により前庭疾患のリスクが軽減する可能性があります。
聴覚障害
外耳炎や内耳炎の悪化により、耳が聞こえなくなる可能性もあります。聴覚の優れている犬にとって、音が聞こえなくなると強い不安を覚えます。リスクを抑えられるように、日頃からしっかり耳のケアを行っておくことが大切です。
犬の耳掃除はなぜ必要?
人間の場合は「耳掃除は過度にしなくてもよい」とか、むしろ「耳掃除はやらないほうがよい」と言われることがあります。でも、犬の場合も同様で、耳掃除をしなくても自浄効果でキレイな状態を保っている犬はたくさんいます。ただし、犬は外耳炎になりやすいため、ケアは大切です。
なぜなら、犬は耳の構造が蒸れやすくなっているからです。掃除をしないまま耳を放っておくと、外耳炎などの耳のトラブルを起こしがちです。特に垂れ耳の犬は耳のケアを怠ると、蒸れてしまって悪臭を放つことも。
そのため、飼い主が定期的に犬の耳の汚れ具合をチェックし、耳掃除をしてあげることが大切です。ただし、掃除の頻度や仕方については知っておきたいポイントがいくつかあります。順番にポイントを見ていきましょう。
耳トラブルが起きやすい犬種
- ミニチュア・ダックスフンド
- アメリカン・コッカー・スパニエル
- キャバリア
- ビーグル
- レトリバー種
- トイ・プードル
- マルチーズ
- シー・ズー
- 柴犬
一般的に通気性が悪いと言われているたれ耳、耳毛が多い犬種は耳のトラブルが起きやすいです。たれ耳ではないですが、アトピー性皮膚炎を持つ子が多い柴犬も耳のトラブルは多いので注意してください。
犬の耳掃除を怠るとどうなるの?
基本的には、犬の耳には自浄効果があるので掃除をしなくてもよい状態を保つことができますが、外耳炎になりやすいため耳掃除は大事です。
また、犬種や体質によっては、病気予防のために定期的な耳掃除は欠かせません。そうした犬種や体質の犬では、耳の汚れがひどくなると、過度に耳垢が溜まったり、腫れたりかゆみが出たりするトラブルの原因になってしまうのです。犬自身も耳が気になって、頭を傾けたり頻繁に振ったりするなどの様子が見られることもあります。
外耳炎や腫瘍の発見が遅れてしまう
耳の状態がひどくなると、外耳炎などの病気が発症する場合があります。耳から内耳までの通り道である「耳道」内に腫瘍ができてしまうことも。病気の発見を早めるためにも、耳掃除で予防と定期チェックをすることは大事です。
犬の耳掃除の頻度やタイミングは?
犬の耳掃除をする頻度は、犬が健康であれば月1〜2回程度で十分です。日々のボディチェックをするときに、耳の状態も見てあげるとよいでしょう。
シャンプーのときに、耳掃除をするのもおすすめです。耳垢はベタベタしていることが多く、掃除で耳の周りが汚れてしまうことも。犬の顔を洗うのと一緒に耳掃除も行うと、汚れを簡単に洗い流すことができます。
耳の中で炎症が起きていると痛みが生じることがあります。犬が痛がるときは無理に耳掃除をせず、病院でチェックしてもらってくださいね。
犬の耳掃除に必要な道具は?
犬の耳掃除をするのに必要な道具をチェックしてみましょう。掃除の仕方によりますが、次のようなものがあればスムーズに行えます。
ガーゼやコットン
イヤークリーナーを浸して、耳の内側を拭くのに使います。
イヤークリーナー
耳掃除をするための専用液体。ガーゼやコットンを湿らせたり、直接耳の穴に入れたりして使います。固まった耳垢をふやかしたいときにも便利。ぬるま湯や水で代用できなくもないのですが、イヤークリーナーは成分によっては、抗菌作用があったり、外耳炎予防になったりするなどのメリットが。動物病院や通信販売などで入手できます。
綿棒
耳の内壁の細かい凹凸の拭き掃除に使うことがあります。慣れないときは耳垢を耳の奥に押し込んだり、耳の奥を傷ついたりすることがあるので注意しましょう。
鉗子(かんし)
耳毛を抜くときに使います。ただし、必要かどうかは動物病院などで一度相談するとよいでしょう。
自宅で犬の耳掃除をする手順は?
ご家庭で犬の耳掃除をする方法はいくつかあります。耳の汚れ方は犬の体質によって大きく変わるので、どんな方法が愛犬に一番合っているか、定期的に動物病院やトリミングサロンでアドバイスを受けるのがおすすめです。
基本的な耳掃除の手順をご紹介しますので、参考にしてみてください。
ステップ1:耳の汚れ具合やその他状況を確認
目に見える汚れがあるか、ないかを確認。赤み、腫れ、その他異常がないかどうかも確認します。(汚れが多い場合はステップ2へ。汚れが少ない場合はステップ3へ進みます)
ステップ2:奥の汚れを出す(汚れが少ない場合は不要)
イヤークリーナーを犬の耳の中へ垂らし入れ、耳の根元を20秒間ほどやさしくマッサージします。その後、犬から手を離して自由にさせると、犬はプルプルッと頭を振るため、耳の奥の汚れなどが耳の穴の入り口付近まで出てきます。
なお、重度の外耳炎などにより鼓膜が破れていることがあります。心配な場合は動物病院を事前に受診してから行うようにしましょう。
ステップ3:汚れを拭き取る
イヤークリーナーで湿らしたガーゼやコットンで耳を拭きます。穴の中は指の届く範囲まで。綿棒が使えそうであれば、イヤークリーナーで綿棒を湿らせ、ゆっくりと耳の穴の内壁を沿って拭いていきます。耳の穴は思っているよりも深いので、奥に汚れを押し込まないように注意。
擦り過ぎると炎症を起こすので、1回で汚れが取り切れない場合は、翌日にまた行うようにします。数日続けても綿棒に汚れの付着が続くようであれば、動物病院で一度診てもらうとよいでしょう。
犬の耳掃除をする時、耳毛は抜くべき?
トイ・プードルやシー・ズーなどの長毛種は、耳の穴の中まで毛が生えていますよね。この耳毛を放っておくと、耳の中の通気が悪くなったり、毛に汚れが絡んだり毛がもつれたりすることも。そのため、以前は耳掃除の一環で耳毛を抜くのが一般的でした。
しかし、最近では獣医師やトリマーの間でも「耳毛を抜くことは百害あって一利なし!」という意見も出てきています。耳毛を抜かずに耳から出ている部分だけを切るという方法を選ぶケースがあるようです。
私個人の意見としては、耳毛についても個体差が大きく、状況に合わせて判断したほうがいいと思います。耳の中の環境によっては、耳毛を抜いてあげたほうがよいケースが時々、見受けられるためです。
このように耳毛を抜くかどうかは難しい問題なので、迷った時は動物病院で相談してみてくださいね。
病院で犬の耳掃除はできる?
「自宅で犬の耳掃除をするのは不安」というときは、動物病院で犬の耳掃除をお願いしましょう。動物病院では、耳鏡を使って犬の耳の奥や鼓膜付近までを観察し、汚れや炎症の度合いを確認。それに合わせて掃除を行ってくれます。
基本的な耳掃除の方法は、自宅での耳掃除の手順と同じですが、個々の犬の状態に合わせて獣医師が適切な耳掃除をしてくれるでしょう。汚れがひどい場合は、細いチューブを耳の中に入れ、大量の洗浄液を使って洗い流すこともあります。
まとめ
犬の耳は立ち耳、半立ち耳、垂れ耳の3種類あり、耳の動きによって感情表現をします。一方で、犬は外耳炎をはじめとする耳の病気にかかりやすいため、予防のためのケアが重要になってきます。とくに垂れ耳の犬はリスクが高いため要注意です。かわいい犬の耳を守るためにも、こまめなケアを心がけましょう。
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