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北海道大学獣医学部共同獣医学課程修了。一次診療施設にて勤務。現在は米国Purdue大学にて客員研究員として勤務。日本獣医画像診断学会所属
犬が胃腸炎にかかると嘔吐や下痢になり、症状がひどい場合は脱水症状を起こして命が危険にさらされます。犬の胃腸炎は、ストレス、おもちゃや植物の誤飲、ウイルス感染など、様々な原因で起こるとされています。どうすれば予防できるのか、胃腸炎になった際はどんな治療が行われるのかなどを解説します。
目次
- 犬の胃腸炎とは
- 犬の胃腸炎の症状
- 犬が胃腸炎になる原因と予防方法
- 犬の胃腸炎の診断方法や治療方法
- まとめ
犬の胃腸炎とは
胃腸炎は、胃から腸にかけての粘膜が炎症を起こす病気です。症状としては、人間と同じように下痢や嘔吐を起こします。1日に複数回の嘔吐や下痢が見られたら、胃腸炎を疑ったほうが良さそうです。
胃腸炎は季節を問わず一年中起こる可能性があります。胃腸炎は犬にとってよくある病気であり、一般的な治療で回復可能です。軽度の下痢などであれば、無治療でも自然に回復することもあります。
ただし、原因や症状の程度によっては、長引いたり、治療が難しかったりする場合もあります。胃腸炎の症状は2種類にわけられ、短期間で治まる「急性胃腸炎」と、三週間以上続く「慢性胃腸炎」があります。それぞれの特徴について紹介します。
急性胃腸炎
急性胃腸炎は、突然、激しい下痢・嘔吐・食欲低下を起す一過性の胃腸炎です。無治療で1~3日で自然に治まるか、皮下点滴などの一般的な治療によって回復することがほとんどです。胃のみに炎症が起きているときは嘔吐が、腸のみに炎症が起きているときは下痢が主で、ときに嘔吐の症状がみられます。
ただし、嘔吐がひどく水も受け付けないような場合は脱水症状を起こす危険性があります。このような重度な急性胃腸炎は命の危険がありますので、早急に動物病院に連れていってください。また体力のない子犬では特に重篤化しやすいため注意が必要です。
慢性胃腸炎
慢性胃腸炎は、慢性的に胃腸が炎症を起こしていますので、急性胃腸炎のように自然に治ることはありません。一般的には、下痢や嘔吐が三週間以上続くことで慢性胃腸炎と診断されます。
急性胃腸炎の一般的な治療をしてもなかなか治らないことが多いとされています。治ったと思ってもすぐに再発して、嘔吐・下痢・食欲不振の症状を繰り返し、数か月~数年という長期的な経過をたどります。炎症を起こしている腸はうまく栄養を吸収できないため、次第に痩せていく場合があります。
犬の胃腸炎の症状
代表的な症状は、嘔吐と下痢です。症状の程度はさまざまですが、ちょっとした下痢のみの場合もあれば激しい吐き気を伴い食欲がまったくなくなってしまうものもあります。症状がひどい場合は、胃内に吐くものがなくても、胃液や粘液を吐き出そうとするほどの激しい吐き気を伴います。また脱水症状も起こしやすくなります。
下痢は軟便程度の場合もあれば、血便が出たり水のような便を噴射する場合もあります。また何度も排便をする姿勢をしたり、トイレ以外の場所で排便をしたりする場合もあります。
この他、明らかに食欲や元気がなくなったり、お腹の痛みを感じていそうにしたりなども胃腸炎の症状です。腹痛があればお腹に触ると嫌がるでしょう。また、吐き気でよだれがたくさん出るといった症状もみられます。症状が激しい場合や徐々に悪化してくるような場合は早めに動物病院を受診することをおすすめします。
犬が胃腸炎になる原因と予防方法
胃腸炎の原因
異物の誤食や感染性胃腸炎など原因が特定できる場合もありますが、多くの場合は原因を正確に特定することは難しいとされています。もしも原因に心当たりがある場合は動物病院を受診した際に獣医さんに伝えておくと診断の助けになります。
考えられる様々な原因
- 食べ物
普段口にしないようなものを食べたときにお腹に合わなくて胃腸の調子を崩すことがあります。このような場合は通常数日以内に症状はおさまるので問題ありません。お腹を壊したきっかけとなった食べ物は、今後は与えないようにするか、与えるとしても少量ずつ与えて徐々に慣らしていくとよいでしょう。またいつも食べているペットフードでも、食べすぎてしまえば胃腸炎を起こすので注意が必要です。
人間にとっては問題がない食べ物でも、愛犬にとっては毒になる食べ物もあります。たとえば、たまねぎ・にんにく・ブドウ・チョコレートなどは、犬にとって毒となる食べ物です。たとえば、飼い主が食べているハンバーグをおねだりするしぐさを見てしまったら、ついついあげたくなると思いますが、たまねぎやにんにくが入っている可能性があります。人間の食べ物を愛犬が口にしないように管理することが大切です。
- ストレス
人間と同じように、犬もストレスによって自律神経が乱れて胃腸を傷めることがあります。ストレスにはさまざまな原因がありますが、急なフードの変更やペットホテル、気温の変化などが代表的な原因です。特に季節の変わり目は気温の変化に体が対応し切れず、体調を崩してしまうことも珍しくありません。
- 誤飲誤食
おもちゃ、中毒を引き起こす植物、化学薬品の誤飲誤食も、胃腸炎の原因となりますので取り扱いに注意しなければなりません。誤飲誤食によって、胃の出口をふさいだり、腸閉塞を起こしたりすると、激しい嘔吐を起こすことがあります。胃や腸が遺物で閉塞した場合は内視鏡や外科手術で閉塞物を取り出す処置が必要です。
部屋に飾ってある観葉植物も要注意です。よく市販されている人気の植物が犬にとって毒性があることがあります。好奇心から葉っぱにかみつくことがあるので、犬が過ごすスペースには観葉植物を置かないようにしましょう。
このように、通常犬が食べないようなものを口にしてしまった場合は早めに動物病院へ相談しましょう。食べたものの内容や量によっては緊急的な処置が必要となる場合があります。
- ウイルス感染
ウイルスなどの感染症にかかって胃腸炎を引き起こす場合があります。ウイルス感染症が原因で下痢をする場合は、子犬や免疫応答の低い成犬が対象となります。ワクチン接種などの予防がされていれば、下痢の原因がウイルス感染症である可能性は低いようです。
- 細菌感染
細菌による下痢の原因は、カンピロバクター、クロストリジウム、サルモネラの増殖が代表的です。ただしカンピロバクターやクロストリジウムは、健康な犬の便からも検出されるため、原因となる細菌が特定できない場合も多々あります。
- 寄生虫感染
消化管寄生虫とは、いわゆるおなかの虫です。回虫、コクシジウム、ジアルジア、トリコモナスなどが代表的です。多くの成犬は無症状ですが、抵抗力の弱い子犬の場合下痢や嘔吐を起こし、衰弱してしまうこともあります。感染した寄生虫が便の中でうごめいているのが見える場合もありますが、目に見えないほど小さな寄生虫も珍しくありません。下痢が続く場合は一度動物病院で便検査をしておくと安心です。
予防方法
考えられる原因を踏まえて、以下のことを心掛けると、胃腸炎になるリスクを減らすことができます。
- 消化に良い食事やおやつを与える
- 食事やおやつを変更する際は、少しずつ変更して、犬の様子に異常がないかを観察する
- 家庭内の食べ残しや生ごみをあさることができないように処理する
- 食べ物以外の異物を誤食しないよう対策を取る
- できるだけ犬の心身にストレスがかからない環境を用意する
犬の胃腸炎の診断方法や治療方法
診断方法
症状の程度や期間に応じてさまざまな検査が行われます。ストレスからくる一過性の胃腸炎の場合などは原因がよくわからないうちに自然と治る場合もあれば、慢性的な症状であれば様々な検査をしないとわからない場合もあります。
主な治療
犬の胃腸炎の原因を正確に特定することは困難ですが、治らないということではありません。多くの場合は獣医師による治療によって根治が見込めます。
嘔吐や下痢の症状に対する主な治療は、吐き気止めや整腸剤などでの処置です。寄生虫が原因の場合は寄生虫の駆除薬を投与し、誤食誤飲が原因の場合は異物を取り除く処置をします。
また、嘔吐が激しく口から薬を飲めない場合は、注射により投薬します。嘔吐がおさまって口から薬が飲めるようになったら、内服薬が処方されて自宅で投薬する場合が多いです。嘔吐や下痢で激しい脱水症状が見られる場合は、輸液で水分を補給します。
症状が重度の場合は連日の通院や入院が必要です。また胃腸以外の器官が原因で胃腸炎と似た症状を起こすこともあるので、なかなか改善が見られない場合はさらなる検査が必要となります。
- 輸液療法(主に皮下点滴)
- 制酸剤(胃液の分泌を抑制)
- 消化管運動促進剤
- 消化管運動抑制剤
- 抗生剤
- 制吐剤
- 下痢止め剤
- 消化管保護剤
- プロバイオティクス(乳酸菌など)
まとめ
胃腸炎は、犬種や年齢にかかわらず、比較的かかりやすい病気です。嘔吐や下痢をしたら、早めに動物病院に連れていきましょう。特に異物や中毒物質を食べた疑いがある場合は様子を見ずに動物病院を受診することをおすすめします。犬も人間と同じように体質の違いがありますので、普段から愛犬がどういう食べ物を食べたときに嘔吐や下痢をしてしまうのかを観察しておけば、異変にいち早く気づいて適切な対処ができるでしょう。