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札幌市、平岡動物病院の院長。主に呼吸器、整形、眼科、歯科の外科とエキゾチックアニマル診療を中心に力を入れている。趣味は娘と遊ぶこと。
犬が下痢や嘔吐などの症状を起こした場合、大腸炎の可能性があります。愛犬の排便の様子がいつもと違って、苦しそうな表情を見せていると、一刻も早く治してあげたいと思うものでしょう。急性大腸炎の場合は時間の経過とともに治ることも多いですが、慢性大腸炎の場合は原因に合わせた適切な治療が欠かせません。この記事では、犬が大腸炎を起こした際の症状と原因を解説したうえで、治療方法や自宅でできる対処方法、再発を予防する方法などを紹介します。
目次
- 犬の大腸炎の症状
- 犬の大腸炎の原因
- 犬の大腸炎の治療方法
- 犬の大腸炎の予防方法
- まとめ
犬の大腸炎の症状
大腸炎とは、何らかの原因で大腸の内膜に炎症が起こっている状態です。犬も人間と同じように大腸炎になることがあり、以下のような症状が見られます。
下痢
大腸炎でもっとも多い症状です。犬が下痢になると、お粥状の柔らかい便や、水分を多く含んだ水状の便が出ます。下痢便と一緒に大腸の粘液や血液が排出される可能性もあるので、犬が下痢をした時は便をよく観察してください。ゼリー状のものや、普段とは違う色が混ざっていたら、かかりつけ医に必ず伝えましょう。
血便
血便とは、真っ黒な色をしたタール便が出たり、血が付着した便が出たりする症状です。大腸の炎症部分から出た血液が、便に混ざることで起きています。大腸炎では下痢の症状が起こっていることが多いので、血液が便に混ざった赤黒いタール便ではなく、赤くて柔らかい便や便の表面に赤い血液が付着して排出される傾向にあります。
腹痛
犬は大腸炎になると粘膜が過敏になり、腹痛を感じることもあります。腹痛のサインの1つは、便は出ないのに頻繁に排便姿勢をとることです。また、背中を丸めてお腹を触られるのを嫌がる様子を見せた場合は、下痢による腹痛を感じている可能性があります。
嘔吐
大腸炎が悪化すると嘔吐する場合もあり、食欲がなくなって体重が減るなどの変化も見られます。大腸炎だけの時には嘔吐物に血が混じることはありません。嘔吐物がピンクや赤色をしているときは、大腸炎だけではなく胃や小腸へも病状が進行したと考えます。
犬の大腸炎の原因
犬に大腸炎の症状があってかかりつけ医に早く相談したくても、夜間や休診日などで受診が難しい場合は「重い病気なのでは……」と心配になることもあるでしょう。犬が大腸炎になる原因は主に5つあり、食べ物やストレスによるものから、別の病気によって引き起こされたものまでさまざまです。ここでは、大腸炎の原因について解説します。
食事の量、誤食
「普段よりたくさんの量の食事を食べた」「食べ慣れないものを摂取した」「ゴミ箱を漁って生ごみを食べてしまった」といったことが原因で、腸内環境の変化により大腸の内膜が炎症を起こします。普段と違った量やものを食べることで、腸の動きが活発になって、便が肛門に運ばれるスピードが早まるためです。水分が十分に吸収されないまま便として排出されるため、下痢に繋がります。
ウイルス、細菌、寄生虫の感染
ウイルスや細菌、寄生虫などの病原体が原因となり、大腸炎を発症することがあります。病原体が体内に入って増殖すると、増殖を抑えるために大腸の粘膜を保護する働きが起こります。また、病原体を体外に出そうとして大腸の動きが活発になるなど、大腸の免疫機能によって下痢が起こる仕組みです。
食物アレルギー
食べ物や食品添加物に体が過敏に反応する病気です。食物アレルギーの主な症状は皮膚の痒みですが、大腸を含む消化器の粘膜が過敏になる場合もあります。アレルギー反応を起こす原因(アレルゲン)は体質によって異なりますが、タンパク質を含む肉、卵、乳製品、穀類などが代表的です。
ストレス
犬がストレスや不安を感じることで自律神経が乱れると、さまざまな症状を起こします。自律神経は大腸のぜんどう運動を司る役割も担っているため、大腸の働きに異常が生じて大腸炎が起きる仕組みです。トリミングサロンやペットホテルなどを利用した後や、来客や新しいペットをお迎えした後など、環境が大きく変わった時に強いストレスを感じる傾向にあります。
腫瘍
大腸に腫瘍ができることが原因で粘膜や筋層が肥厚、炎症を起こすことにより大腸炎になります。腫瘍の種類は、腺癌、リンパ腫、平滑筋肉腫、平滑筋腫などさまざまです。腫瘍が起こる原因は解明されていませんが、高齢の犬に起こりやすいと言われています。また、ミニチュア・ダックスフンドは大腸の炎症性ポリープになりやすい犬種として有名です。
犬の大腸炎の治療方法
犬が大腸炎を発症したら、まずはかかりつけ医へ相談することが大切です。また、自宅で過ごす間も症状を少しでも和らげるためにできる工夫もあります。ここでは、大腸炎の治療方法を急性と慢性に分けて紹介し、発症後に自宅で過ごす際のポイントについても解説します。
大腸炎は治療が必要?
大腸炎は、原因によって急性と慢性に分けられます。食事の量やウイルス、ストレスなどが原因の場合は急性大腸炎です。時間の経過とともに治る場合が多く、かかりつけ医の指導のもとで安静に過ごしているうちに症状が改善する傾向にあります。
食物アレルギーや腫瘍の場合は、慢性大腸炎です。原因となっている病気を治療することで、症状を和らげることができます。慢性大腸炎の可能性が高い時はもちろん、急性かもしれない場合でも、自分で判断せずにかかりつけ医に相談しましょう。
急性大腸炎の治療方法
急性の場合は、大腸炎の原因が体外に排出されると自然に治るケースがほとんどです。そのため、内服薬を投与して下痢や腹痛などの症状を和らげるための治療を行います。ただし、嘔吐するほど症状が重い時は、薬を飲むのも難しいでしょう。その際は点滴や注射で投薬を行って、嘔吐が治まった後は内服薬に切り替えます。
慢性大腸炎の治療方法
慢性大腸炎は、原因に合わせて適切な治療を行います。食物アレルギーが原因の場合は、アレルゲンを含まないドッグフードに切り替えましょう。アレルゲンを断つことで、大腸炎だけでなく他のアレルギー症状が起きるのも防ぐことが可能です。腫瘍が原因の場合は、腫瘍の摘出手術や抗生剤の投与、放射線療法など、腫瘍の大きさに合わせた治療が行われます。
自宅でできる対処法のOK例
かかりつけ医の休診日や夜間に大腸炎の症状が見られた場合は、すぐに治療を行うことは難しいです。犬が苦しそうにしている姿を見ると、「なんとかしてあげたい!」と思う飼い主も多いでしょう。そんな時に、症状を和らげるために自宅でできる対処法があります。
• 水分補給する
下痢が起こると水分が十分に吸収されないため、脱水症状を起こす場合があります。脱水が起きると食欲が落ちたり息苦しくなったりと、さらに症状が悪化するため、水分補給をしっかり行うことが大切です。ボウルの水は定期的に入れ替えて、新鮮なものを飲める状態にしておきましょう。
• お腹を温める
お腹を温めることで、大腸の働きを改善する効果があります。犬がフローリングや冷感マットの上にいる場合は、カーペットや犬用ベッドなど温かいものの上に移動させましょう。
自宅でできる対処法のNG例
大腸炎の症状を悪化させる可能性がある対処法もあります。「身体が楽になってほしい」という愛犬を想う気持ちからの行動であっても、犬のためになるとは限りませんので、慎重に対処してください。
• 人間用の整腸剤を投与する
犬の下痢や腹痛を和らげるために、自己判断で人間用の整腸剤をあげることは避けてください。大腸炎は原因によって適切な治療方法が異なるので、獣医師の指導のもとで投薬することが大切です。整腸剤の中でも正露丸にはとくに注意してください。木クレオソートという犬に有害な成分が含まれていて、中毒を起こす可能性があります。
犬の大腸炎の予防方法
犬が大腸炎で苦しんでいる姿を見ると、治療後に「もう二度とあんな想いをさせたくない」と再発防止に取り組む飼い主も多いでしょう。ここでは、大腸炎を予防するために日々の生活でできることを紹介します。
犬にあった食事
大腸炎は食事が原因で発症することが多いため、日頃から愛犬の体質に合ったフードを選ぶことが大切です。愛犬が腸の弱い体質の場合は、消化しやすいフードを数種類探しておくと、1種類が欠品や生産終了になっても別の種類で補うことができます。新しいフードを試すとき、まずは今までのフードに少しだけ混ぜて与えてください。少しずつ割合を増やしていくことで、胃腸への負担を軽減する効果があります。
ストレス軽減
ストレスは大腸炎だけでなく、他の病気の原因にもなります。犬が不安や恐怖を感じて緊張している場合は、その原因を取り除いて居心地の良い環境にすることが大切です。また、体を動かすことでストレス軽減にも繋がります。毎日の散歩を欠かさず行ったり、おもちゃを使った遊びをたっぷり行ったりすることで、ストレスを溜めない生活習慣を築くことができるでしょう。
感染対策
動物病院による混合ワクチン接種や免疫力を高めることで、ウイルスや細菌に感染しにくい身体になります。腸内の免疫を高めるには、食物繊維を多く含むフードが効果的です。また、水はこまめに入れ替えて、ゴミ箱は犬の届かない場所に置いておくようにすることで、食中毒によって大腸炎を起こす可能性も回避できます。※混合ワクチンは下痢になりうるウイルス疾患の予防もできます。
まとめ
下痢や血便、嘔吐などの症状を起こす大腸炎は、急性と慢性があります。急性の場合は原因が排出されると治るケースも多いですが、慢性の場合は獣医師による適切な治療が必要です。症状が見られたら、原因を問わず早めにかかりつけ医に相談しましょう。また、下痢が起きると水分が体内に上手く吸収されないため、脱水症状につながる可能性もあります。自宅では水をしっかりと飲ませて、体が冷えないよう気遣いましょう。