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上京どうぶつ病院院長。北里大学出身。日本獣医生命科学大学付属動物病院にて研修後現職。
イギリスは愛犬家の国として知られていて、多くの犬種の原産国でもあります。
動物福祉の考え方も広まっていて、犬にフィットした社会づくりがされていることから、各国の愛犬家からも注目を集めているようです。
そこでこの記事では、イギリスでの犬文化や、イギリス原産の犬種一覧と人気犬種を紹介します。
目次
- イギリスには犬好きが多いって本当?
- イギリス原産の犬種一覧
- イギリスで人気の犬種は?
- まとめ
イギリスには犬好きが多いって本当?
イギリスは、愛犬家が多い国として知られています。グローバルのペット飼育率調査によると、犬を飼っている家庭は全体のうち約27パーセントとなっており、日本の約2倍です。
そしてイギリスには「犬と人間が一緒に暮らしやすい」という大きな特徴も見られます。たとえば日本で電車やバスに犬を載せるなら、盲導犬や聴導犬などを除き、ゲージに入れなくてはなりません。
しかしイギリスでは、ほとんどの交通機関が犬連れでそのまま利用できます。犬をゲージに入れる必要はなく、人間分以外は料金もかかりません。
ただし公共交通機関では、犬は周囲の迷惑にならないよう、静かにしている必要があります。
さらに日本と大きく違うのが、大抵のカフェやパブに犬を連れて入れるという所です。イギリスでは、飼い主がお酒や食事を楽しんでいる間、のんびり待っている犬の姿が多く見られます。飼い主と離れずに済むため、犬にとっては理想的な環境です。
参考:Growth from Knowledge(GfK)「グローバルのペット飼育率調査」
エリザベス女王はコーギーの愛好家
「イギリスは愛犬家が多い」と言われる理由のひとつともなっているのが、エリザベス女王の存在です。2022年9月に崩御したエリザベス女王は、コーギーの愛好家として知られていました。
コーギーを飼育するきっかけとなったのが、エリザベス女王が1944年に父から贈られた犬です。それ以降、エリザベス女王のコーギー飼育歴は60年以上にも及びます。
王室での繁殖は、エリザベス女王が崩御する数年前まで続きました。エリザベス女王は、生涯のうちで30頭以上ものコーギーやドーギーを飼育されていたと言われています。
>コーギーの性格や特徴とは?飼い方の注意点やしつけのコツ、かかりやすい病気について解説【獣医師監修】
イングランド地方では子犬や子猫は販売禁止の方針
イギリスは、日本と比較すると、動物福祉の概念が進んでいる国としても知られています。そのひとつの例として挙げられるのが、2018年に報じられたイングランド地方での子犬、子猫の販売禁止の方針です。
販売禁止の方針が発表されるきっかけとなったのが、2013年に起きたパピーミル事件でした。パピーミルとは、英語で「子犬工場」を意味します。営利を目的として、不潔で劣悪な環境で犬の繁殖を行うのがパピーミルです。
2013年、ウェールズ州のパピーミルで、Lucyという名のキャバリア・キング・チャールズ・スパニエルが救助されました。Lucyは狭い檻の中に閉じ込められ、何頭もの子犬を生まされていたのです。
その事件を機に、パピーミルに対する市民からの反対運動が起き、約15万人分もの署名が集まったと言われています。
イギリス全体で子犬や子猫の生体販売が禁止されているわけではありません。地域によっては現在でも生体販売が行われていますが、日本よりも厳しい販売ルールが設けられています。
認可された施設以外での生体販売や、8週齢以下の子犬の販売などは禁止です。また、交配させる年齢や回数などにも規制があります。
イギリス原産の犬種一覧
愛犬家の多いイギリスは、さまざまな犬種の原産国です。その中には、日本で愛されている犬種も少なくありません。しかし愛犬の原産国がイギリスだと知らずに飼っている人も多いのではないでしょうか。
そこでジャパンケネルクラブでの分類をもとに、イギリス原産の代表的な犬を紹介します。どのような犬がイギリス原産なのか、チェックしてみましょう。
牧羊犬
イギリスでは、古くからさまざまな種類の牧羊犬が活躍していました。しかしその数は減り、現在では6~7種類が残るのみです。牧羊犬には、コリー、コーギー、シープドッグなどが分類されます。
イギリス原産のコリーは次のような種類です。
1. ビアデッド・コリー
2. スムース・コリー
3. ラフ・コリー
4. ボーダー・コリー
日本では比較的珍しく、見かける機会も少ないのが、長い毛を持つビアデッド・コリーです。ボーダー・コリーは、日本では家庭犬としても人気があります。
ウェルシュ・コーギー・カーディガンや、ウェルシュ・コーギー・ペンブロークもイギリス原産です。またシープドッグのうち、オールド・イングリッシュ・シープドッグ、シェットランド・シープドッグもイギリス原産の犬種となっています。
使役犬
家庭犬としてだけでなく、番犬や警護犬などとしても活躍しているのが使役犬です。イギリス原産の使役犬には、次のような犬種が挙げられます。
もっとも古い犬種のひとつであるとされているのがブルドッグです。外見は怖い印象があるものの、家族に対しては愛情深い犬種として知られています。
軍用犬としても活躍していたマスティフも、古くから存在している犬種のひとつです。ブルマスティフは、夜間の番犬として、ブルドッグとマスティフから作出されました。
テリア
日本では家庭犬として愛されているテリアは、もともとはきつねのような小型獣用の猟犬です。テリアには、イギリス原産の犬種が多く存在します。代表的なイギリス原産のテリアは次のような犬種です。
1. ブル・テリア
2. ヨークシャー・テリア
3. スコティッシュ・テリア
4. ジャック・ラッセル・テリア
5. ウェルシュ・テリア
同じテリアでも、犬種によって体格、毛質、毛量、性格などには大きな違いがあります。ブル・テリアは、もともとは闘犬としてブルドッグとテリアから作出された犬種です。その特徴のあるユニークな表情が、ブル・テリアの持つ大きな魅力だと言えます。
ヨークシャー・テリアは、可愛らしい見た目でありながら、用心深く勇敢な性格をしています。
嗅覚ハウンド
大きな声と優れた嗅覚を使って活躍する獣猟犬が、嗅覚ハウンドです。イギリス原産の代表的な嗅覚ハウンドには、次のような種類があります。
日本でも愛されているビーグルは、もともとは野ウサギ狩りに使われていた猟犬です。ビーグルはスタミナがあり、用心深いながらも性格が穏やかで、声が良く通るという大きな特徴があります。
そのビーグルと同じように、ハウンドカラーの被毛を持っているのがハリアです。ハリアはビーグルより大きく足が長めですが、外見はとても良く似ています。17世紀ごろにイギリスで作られたとされている犬種がハリアです。
ビーグルやハリアに見られるハウンドカラーとは、3つの毛色から構成されている「トライカラー」の一種となります。ハウンドカラーは、黒地に茶色のまだらで、胸や尻尾の先が白いカラーリングとなっているのが特徴です。
同じハウンドカラーと大きな耳、たるみのある皮膚を持つバセット・ハウンドも、イギリス原産の犬となります。
鳥猟犬
鳥猟犬の仲間にも、イギリス原産である犬種が数多く存在します。イギリスが原産となる代表的な鳥猟犬の種類は、以下のとおりです。
1. イングリッシュ・セター
2. イングリッシュ・ポインター
3. ラブラドール・レトリーバー
4. ゴールデン・レトリーバー
5. イングリッシュ・コッカー・スパニエル
6. サセックス・スパニエル
猟犬として広く知られているのが、イングリッシュ・セターやイングリッシュ・ポインターです。しかし家庭犬として人気のラブラドール・レトリーバーやゴールデン・レトリーバーが、本来は猟犬であったと知らない人も多いでしょう。
ハンターが撃ち落とした獲物を持ち帰る(retrieve)役割があったことから、名前に「レトリーバー」と入っています。
愛玩犬
ジャパンケネルクラブでは愛玩犬として分類されている次の2犬種も、原産国がイギリスです。
1. キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル
2. キング・チャールズ・スパニエル
17世紀にイギリスのチャールズ1世に愛されたとされている犬が、キング・チャールズ・スパニエルです。キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルは、キング・チャールズ・スパニエルの変種となります。
どちらも明るく友好的な性格をしていて、愛情深い犬が多い傾向です。
イギリスで人気の犬種は?
愛犬家の多いイギリスでは、どのような犬種が人気なのでしょうか。2022年の、イギリス国内での人気犬種は以下のとおりです。
1. ラブラドール・レトリーバー
2. フレンチ・ブルドッグ
3. コッカー・スパニエル
4. ミニチュア・スムース・ヘアード・ダックスフンド
5. ブルドッグ
6. ゴールデン・レトリーバー
7. イングリッシュ・スプリンガー・スパニエル
8. ジャーマン・シェパード・ドッグ
9. スタッフォードシャー・ブル・テリア
10. ミニチュア・シュナウザー
ランキングには、日本では見かける機会が少ない犬も多く含まれています。
イギリスでの人気犬種ランキングに入っているのは、イギリス、フランス、ドイツの犬です。その中でも特に多くランクインしているのが、自国であるイギリス原産の犬となっています。
単に犬好きな人が多いだけでなく、自国が原産となる犬を大切にしているのも、イギリスに見られる大きな特徴だと言えるでしょう。小型犬もランキングには入っているものの、それほど多くはありません。
全体的に見ると、中型~大型の犬が多めです。ランキングの内容から、日本とは違って大型犬でも暮らしやすい環境であることがわかります。
まとめ
イギリスでは、公共交通機関やカフェなども犬と一緒に利用できるのが大きな特徴です。ランキングでは、自国であるイギリスが原産の犬種に人気が集まっています。コーギー、コリーなどを始め、イギリス原産で日本でも人気のある犬は少なくありません。
犬と暮らすなら、どのような国で生まれたのかを知るのも大切です。一緒に暮らしている愛犬がイギリス原産か、ぜひチェックしてみましょう。