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日・米・英にて行動診療やパピークラスを実施する動物行動コンサルティングはっぴぃているず代表。日本でまだ数十名しかいない獣医行動診療科認定医として幅広く活躍。
犬が怒るのには必ず理由があります。わからないからといって放置すると、家庭内だけでなく外出先でのトラブルにも繋がり、犬と快適に暮らしていくことが難しくなってしまいます。そんな事態を防ぐためにも犬がどんな理由で怒るのか理解しておく必要があります。今回の記事では、犬が怒る理由や正しい対処法などについて動物行動コンサルティングはっぴぃているずの獣医師、フリッツ吉川綾先生に解説していただきます
目次
- 犬が怒る理由と対処法は?
- 犬が怒っている時に見せる行動は?
- 犬が怒っている時、飼い主がしてはいけないNG行動は?
- 犬が怒るのをやめない場合はひとりで悩まず専門家に相談を!
- 怒らない犬にするにはどうすれば?
犬が怒る理由と対処法は?
人間と同じで犬が怒っている場合は必ず理由があります。どういった時に犬は怒り、その際にはどんな対応をすればいいのかを知っておきましょう。
恐怖や危険を感じた時に防御するため
犬は自身を危険から身を守るために怒ることがあります。例えば、見知らぬ人への恐怖を感じたり、突然触られて驚いたりした時に怒って攻撃します。なので、まずは犬が怖がるような出来事や動作はできるだけ無くすように心がけましょう。また、攻撃する犬の中には、怖がりな性格である、安定した環境が与えられていないなどの潜在的な問題を抱えている犬も多いものです。愛犬が安心で快適に生活できるように環境や関わり方を見直すことが必要です。
誰かにされたことが嫌、受け入れ難い
身体を触られる、ブラッシングされる、ゆっくり寝ているところを邪魔される、など、その犬にとって嫌なことをされた場合も怒ることがあります。
この時も犬が嫌がるような出来事、動作を避けるようにすると良いでしょう。例えば、「ぐっすりと寝ている犬をベタベタ触って起こしてしまう」など、自分がされたら嫌だと思うことはやめておくべきです。
もし、犬が通路や人通りの多いところで寝ていてどうしても触らなければいけない環境であれば、人の邪魔にならない、犬にとって安心できる場所を作り、そこで寝るように誘導するなどの工夫が必要です。
ブラッシング、リードをつけるなど、犬にとって日々の生活のために必要なケアが愛犬に受け入れてもらえない場合は、専門家に助けを求めましょう。それらが嫌ではないことを教えたり、犬が嫌がらない方法に変更したりするなどの対策をします。飼い主との信頼関係を深めることで、だんだんと犬が受け入れてくれることが増えていくはずです。
大事にしている物を守りたい
自分の食べ物を横取りされそうになったり、おもちゃを取られそうになったり、自分の大切な物を守るための行動として怒ることがあります。
対策としては、まず犬に取られたら困るものを、犬の届かないところに移動してください。犬が守ってしまうようなおもちゃやおやつも与えないようにします。長時間噛むガムなども取り上げると怒ることが多いので、初めから与えない、または犬が安心してゆっくり食べられる場所であげるようにしてください。ご飯は食べきれる量を、ゆっくり食べられる場所であげましょう。
犬にものを取られてしまった時に、追いかけて取り上げたり、怒ったりした経験がある方もいるでしょう。犬は、「取られたくない」「守りたい」と思う機会が多ければ多いほど、物を守りやすく、攻撃的になります。ものを取られてしまった場合には、すぐに追いかけずに、一度落ち着きましょう。取り上げる必要のあるものの場合は、他に犬が好きなもので気を逸らして、別の場所へ誘導し、犬の目の前で取り上げないようにするなどの方法があります。
また、あらかじめ口にくわえたものを離す練習をしておくことが、このような怒りの予防にもなります。
自分の縄張りをおかされた
自分のテリトリーを守りたい時に怒って攻撃する犬もいるでしょう。自分の家の敷地に誰かが近づいたり、入ってきたりするのが見えたりすると、場所を守ろうとする意識が強くなります。特に縄張り意識が強い犬によく見られるかもしれません。
「縄張りを守りたい」という意識を薄めるために、犬を玄関や窓などに近づかせないようにしましょう。また、配達に来た方や来客にケガをさせてしまわないように、犬を訪問者と会わせないようにするか、穏やかに座って挨拶できるようにしつけをしておく必要があります。
痛いところをかばっている
痛いことをされたり、痛いところを触られたりした場合にも、怒りを示すことがあります。普段から定期的に健康診断を受け、犬の体調、痛みについて把握しておくようにしておきたいです。特にシニア犬になると、体調の変化が著しくなります。突然怒りっぽくなる、以前より痛みに過敏になった、緊張して過ごすことが増えた、などの変化が見られたらまずは動物病院に相談してください。
子犬を守りたい
飼い主が子犬を抱っこしようとすると、母犬が怒って攻撃してくる場合があります。また、妊娠していなくてもホルモンのバランスから妊娠しているのと勘違いをしてしまう「偽妊娠」という状態になってしまう場合もあります。避妊をしていないメス犬がぬいぐるみなどを守って攻撃的になる場合、偽妊娠が疑われます。偽妊娠が疑われる場合には、獣医師に相談し、不妊手術を受けることを検討しましょう。
犬が怒っている時に見せる行動は?
犬が怒っている時には特定の行動を取ります。飼い主としてどういった行動が怒っているというサインなのかしっかり把握しておきましょう。
鼻にシワを寄せる
鼻の黒い部分の後ろ、目との間、口の上の部分が左右から真ん中に寄るようにシワを作ります。口元はもちろん、顔全体、体の筋肉が緊張し、動きもゆっくりになることが多いでしょう。
歯を剥き出す
鼻にシワを作るだけではなく、歯が見えるように上に唇が引っ張られたり、後方に引っ張られたりする状態です。同じように顔全体、体の筋肉が緊張し、動きもゆっくりになります。
唸る
低く、長い音を発声します。前述した行動と合わせてみられることが多いでしょう。また、「咬みつく」前や、それと同時に見られることがあります。
噛みつく
多くの場合、犬はいきなり噛むことはありません。事前に何らかの形で「怒っていますよ」というサインを出します。それでも相手が引かない場合の最終手段として噛みつきます。
噛みつき方は、歯を当てるだけ、一度だけ咬む、ガブガブと何度も咬む、咬みついたまま放さない、などさまざまです。また、噛む力を加減し、皮膚が破れて出血することがない場合もあれば、骨折したり、深い傷を残したり、皮膚などの一部が欠損してしまうようなケガを負わせる場合もあります。攻撃が頻繁だったり、回数は少なくても大きな怪我を負ったりしてしまうような場合は、深刻な問題となります。
吠える
吠えるという行動が必ずしも怒りとは限りませんが、他の怒り行動と同時に示される場合には攻撃的な吠え方だと言えます。
飛びつく
飛びつく行動も、嬉しい時、要求など、さまざまな理由で示されますが、他の怒りの行動と同時に示される場合には攻撃的な場合もあります。
犬が怒っている時、飼い主がしてはいけないNG行動は?
次に犬が怒っている時に飼い主として、してはいけない行動をご紹介します。
厳しく叱る
「怒る」「攻撃する」という行動は、人との生活にそぐわない行動です。ですから、愛犬が攻撃的な行動を示したら残念に感じたり、怒りを感じたりするかもしれません。
しかし、犬には怒る理由があり、怖がっているのにさらに怖がらせたり、嫌がっているのにさらに嫌なことをしたりすれば、犬の怒りたい気持ち自体をおさめるどころか、むしろ逆効果になってしまいます。大きな声で叱責することで、攻撃がさらに悪化してしまうことも多くありますので、やめましょう。
叩いてしつける
犬に罰を与えることは、犬の怒りたい気持ちを強め、家族である飼い主との信頼関係を壊し、事態が深刻なものになってしまうことが多いのでやめましょう。
叩く、叱責などの罰は、はじめは効果があっても、だんだんと罰を重くしていかないと効果がなくなってきます。動物福祉(アニマルウェルフェア)の視点からも推奨される行動ではありません。
犬の要求に応える
怒ると噛む犬と生活していると、犬が唸ったり、鼻にシワを寄せたりするなどのサインが見られたら、すぐに犬の要求に応えるようになってしまいがちです。しかし、このような関わり方をしていると、ちょっとした嫌なことでもすぐに怒る犬にしてしまいます。犬が怒るようなことは、はじめからしないようにしつつも、要求に応えるタイミングはしっかりと見極めるようにしましょう。
おやつをあげるなどしてなだめる
嫌な気持ちになっている犬の気分を変えようと、犬におやつをあげたり、優しく声をかけたり、撫でたりしてなだめることは、犬にとってのご褒美になることがあります。その時は攻撃が止んだとしても、怒ったら良いことがある!と覚えていくので、ますます怒りっぽくなるかもしれません。
また、非常に興奮している場合、なだめる行動がかえって犬の嫌悪感を増すことになり、事態を悪化させてしまうこともあります。
犬が怒るのをやめない場合はひとりで悩まず専門家に相談を!
犬の怒っている理由がよく分からない場合や、いつまでも怒るのをやめない場合は、まずはかかりつけの獣医師に相談し、健康上の問題がないかを確かめてもらってください。また、必要に応じて、行動診療科獣医師、しつけトレーナーやドッグトレーナーなどの専門家を紹介してもらうと良いでしょう。
動物病院の行動診療科に所属する獣医師に相談すると、犬の怒りの深刻さ、攻撃の頻度やパターンなどについて詳しくヒアリングが行われます。また、犬の体の健康状態、行動パターンや性格、飼い主との関わりを診察や写真・動画で判断。その後、怒る理由、それに関連する体の問題(病気や痛みなど)や過去の経験、環境などを見極め、それぞれの犬に合わせた怒りの改善方法や治療プランを立てていくことになります。
怒らない犬にするにはどうすれば?
怒らない犬に育てるためにはいくつかの気をつけるべきポイントがあります。それぞれ見ていきましょう。
まずは自分の生活パターンに合った犬を家族に迎えよう
ストレスなく、充実した犬との生活を送る準備は、犬と出会う前から始まっています。例えば、穏やかな家庭に、落ち着きのない犬を迎えた場合、家の状況と犬の性格のズレにストレスを感じるかもしれません。一方で、犬は運動不足や社会的な刺激の不足で、だんだんとイライラを溜めていくようになるでしょう。生活の中で感じるイライラが多いことで、犬の怒りは増していくものです。
なので、これから犬を迎えようと考えていらっしゃる方は、ぜひ自分の理想とする犬との生活を考えて、犬を迎えてほしいです。迷いや困ったことがある場合には、獣医師や専門家に飼育前から相談するのもおすすめです。
既に、犬に対してストレスを感じている方は一度、犬の視点に立って飼い主に求めることを考えてみてください。それに合わせて対策を取ることで、飼い主と犬の双方のイライラを減らせるかもしれません。以下の項目も参考にしてより良い関係を構築していきましょう。
社会性を身に付けさせる
子犬のうちにさまざまな人や動物との交流の機会を持ち、好意的に関われるようにすることや、色々な物や音に慣れておくことが大切です。これによって、嫌だと感じることや恐怖を感じることが少なくなります。
苦手なこと、嫌なことを強要しない
犬が苦手なことや、初めて経験することをいきなりたくさんやろうとするのはよくありません。できる限り、犬が「嫌だな、怖いな」と思わないような方法を取りましょう。飼い主と一緒にいる時に嫌なことが多くあれば、犬との信頼関係は崩れてしまいます。
家族でしつけのルールを決める
家庭内のルールが曖昧で、家族のメンバーによって叱られる場面が違うと、犬からすると正しいことといけないことがわからなくなってしまいます。また、叱られる場面が増えれば、犬と飼い主との関係も悪化するものです。家族全員でルールを確認し、犬にも理解しやすいように声かけや態度を統一しましょう。一貫したルールでしつけを行い、正しい行動を教えていくと、絆も生まれます。
飼い主との信頼関係を作る
信頼関係をつくるためには「座れ」「伏せ」「待て」「来い」などの基本的なコマンドの練習を日々継続的に行いましょう。良い行動や正しい行動ができたら褒め、ご褒美をあげます。犬にとって「飼い主と一緒に練習をして楽しい」と感じることが重要なので、しつけインストラクターなどの専門家と一緒に練習することが望ましいです。
犬の生活を充実させ、ストレスをなくす
体調不良や不快なことが多く起こったなどストレスを多く受けた場合には、ちょっとした事でも怒ることが増えます。また、退屈でエネルギーを発散できない、運動不足である場合にも、イライラが増えるものです。
犬に安心で安全な環境を与え、散歩や運動をさせる、たくさん頭を使う機会を設けてあげましょう。また犬の生活が満たされて、適切なケアを受けられるよう、国際的に定められた「5つの自由」という動物福祉の指標があります。愛犬を精神的にも肉体的にも満たしてあげるためにも参考にすると良いでしょう。
故意に怒らせない
犬がちょっとイライラしたり、怒ったりするのを「可愛い」と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これは犬にとっては飼い主が思う以上のストレスになっているかもしれませんし、怒ることがいけないことだと学ぶことができません。わざと怒らせることは将来的に激しい攻撃に繋がったり、いろんな場面で怒ったりするようになる可能性があるのでやめましょう。