食べられる家具をショコラティエが本気で作ろうとした
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「草が生える」というネットスラングがある。すでに広く知れ渡っている通り、それは「笑える」とか「面白い」という意味を持つ。
そう、草が生えるということは、とても愉快なことなのだ。
私は数年前から、自宅のベランダに草を生やすことを嗜みはじめ、とてもハッピーな気分を味わっている。言い換えれば、それは「園芸を趣味としている」ということである。
ささやかながらも自分の「畑」を持つという行為は、生活に豊かさや潤いを与えてくれる。手塩にかけたプランターの中の作物たちがぐいぐいと成長していく様子を見守っている時、そしてそれを収穫して食卓へと運ぶ時、他には代えがたい確かな喜びが走る。
「この愉快なエモーショナルを、他人にも押しつけたい……!」
勝手ながらそんな衝動に駆られ、『推し野菜プレゼン大会』なる集いをオンラインで開催することにした。
それはつまり、まだ園芸を知らぬ人を呼んで、園芸経験者たちが「この野菜は育てやすいよ~」「あの野菜は本当に可愛いよ~」とベジタブルスプレイニングを行う会である。
情熱的な野菜トークの圧によって意識が朦朧となった園芸未経験者に「……私も園芸に手を染めてみようと思います!」と宣言してもらうことを目的とする会である。
簡単な言葉でいうと「集団勧誘」だ。
といっても、金銭の利益を目的とするものではなく、土の民を増やすことを目的とした、あくまで健康的な集会である。ということだけは強調しておきたい。
宮崎大輔
農業コンサル企業「イチゴテック」経営者。著書に『おうち野菜づくり』がある。「趣味の園芸」から「ガチ農業」までを扱うYouTubeチャンネルも運営している。農家の次男、農学部卒業。
ルキノ&クマガエ
数年前都心から千葉へと移住し、夫婦で農業を営む。ルキノは元アイドル。クマガエは漫画原作者としての顔を持ち、「半農半漫画原作者」として田舎暮らしの体験を発信している。
ワクサカソウヘイ
文筆業。練馬の農家の長男。幼少期から青年期にかけて、実家の畑に囲まれて育った過去を持つ。数年前よりベランダ園芸を趣味としている。この記事の執筆者。
森真梨乃
ベンチャーキャピタル「ANOBAKA」広報。都心にある、日光量の少ないマンションに住んでいる。園芸をやったことはないが、興味はあり、今春なんらかの野菜を育ててみたいとは思っている。
こうしてしめやかに、『推し野菜プレゼン大会』が始まった。宮崎さん、ルキノさん・クマガエさん夫婦、ワクサカという園芸経験者4名は、園芸未経験者である森さんに早く野菜の魅力を伝えたい、あわよくばベジタブルの沼へ落としてやりたいと舌なめずりをしている。
まずは自己紹介である。
森
なんだか思っていたよりも不穏な会ですね……。
ワクサカ
それでは最初はプレゼンター側の園芸経験値を紹介していこうと思います。まずは私から。実は自分、練馬区の農家の長男でして、実家が畑の真ん中にあったんです。
森
練馬区って、大根が有名ですもんね。東京の中でも農地が多いイメージだな。
ワクサカ
家の農作業の手伝いもよくしていて。子どもの頃から、キャベツの収穫をしたりしていました。でも思春期辺りから、家業のことが好きになれなくなってきて。一回、ムシャクシャとして畑のキャベツをゴルフクラブで「ワ-ッ!」って叩き割ってまわったことがあります。当然、親からはすっごく怒られました。
森
尾崎豊の農業バージョン……。
「キャベツを叩き割っていた……」と告白する者
ワクサカ
野菜づくりの愛しさに目覚めたのはつい最近で。パンデミックがはじまってやることなくなってしまった時に、ベランダで園芸を試してみたんです。私、アウトドアが好きなので、ベランダを緑にいっぱいにして、「自宅ジャングル」を作ったんですね。外に行けないストレスを、そのジャングルで発散していました。そうやって園芸や野菜づくりの楽しさに目覚め、ようやくキャベツを叩き割っていた頃の自分と和解を果たしました。
森
行動のふり幅がすごい。
ワクサカ
ええ、よく言われます。
そう、緑が傍らにある生活というのは、とてもよい。森さんは「自宅にジャングル……。アリだな……」と呟いている。これはかなり芽がありそうだ。
ルキノ
私たちは主に田んぼでお米を育てています。お米を育て始めて6年目です。今は自分たちの食べるお米は買ってない状態です!
森
どのくらいの規模でされているんですか?
クマガエ
「一反一畝」とかってわかりますか? 1100平方メートルですね。これを4家族合同でやっているので、4家族分を賄えるだけのお米が収穫できるんです。
森
そうなんだ、すごい!
クマガエさんが原作を担当した『漫画編集者が会社を辞めて田舎暮らしをしたら異世界だった件』も話題に
ワクサカ
おふたりは農業以外のお仕事もなさっているとか?
クマガエ
僕は今漫画の原作者をしていて、シナリオを書いています。
ルキノ
私は元アイドルです。2016年まで渋谷のど真ん中に住んでいたんですが、いろいろあって千葉県の成田に移住してお米を作っています。山手線の外に出るなんて、と当時は思っていたんですけど、今は山手線どころか、東京も離れちゃいました。
ワクサカ
いろいろ……というのは伺っても?
クマガエ
移住する数年前くらいから、会社を辞めたいなと思っていて、どうしようかと悩んでいた時に「地方移住して食料を自分で作って生活コストを下げ、のんびり暮らそう」という考えに出会って。
ルキノ
お家賃も下がりますし、米を1年間分作れば少なくとも餓死はしないだろうと。
森
なるほどー。お米以外にも作っているんですか?
ルキノ
野菜のほうは全自給こそできてはいないですが、でも趣味の範囲で栽培しています。
ワクサカ
あ、そういえば、今日お召しになっているのは、普段農作業している時にも着ている「縄文人の服」なんだそうで。
ルキノ
そうなんです、田んぼに出る時はこの服を着て、縄文人の気分になって作業するのが楽しみです。
ルキノ
コスプレイヤーでもあるので、衣装にこだわりを持っていまして。農作業ってだいたい、自分の持っている服の中でも、汚れてもいいどうでもいい服を着がちなイメージがあるじゃないですか。でも、そこであえて自分のテンションの上がる服を着るんです。それがすごく楽しい。
森
形から入るのもアリ、というわけですね。
園芸というのは、そこまでハードルの高い趣味ではない。今すぐ園芸ショップに行って、気になる植物を買い求めれば、今日からでも始められる。参考書などを紐解かなくても、とりあえず形からスタートしてよい。それが園芸なのだ。
「森さんも縄文コスプレがきっとお似合いかと思いますよ……」とおべっかを吹きながら、外堀を徐々に埋めていく。
宮崎
私は長野県出身で、農家の次男です。大学と大学院の農学部で園芸学を勉強して、そこから青年海外協力隊の野菜栽培を教える仕事で中央アメリカに2年間行きまして、帰ってきてから「イチゴテック」という法人で農業コンサル業を営んでいます。その他にYouTubeで家庭菜園情報をお伝えする活動もやっていて、現在チャンネル登録者数が15万人を超えました。『おうち野菜づくり』っていう書籍も出しています。
森
ガチの中のガチですね……。
ワクサカ
背景もバーチャル背景じゃなくて、ガチ背景なんですよね。
背景に並ぶのは、実際に宮崎さんが栽培しているものばかり。
たくさんの緑に交じって、さりげなく『おうち野菜づくり』も……
宮崎
はい、室内でもLEDなどを使って野菜づくりをしています。
森
染める気満々の布陣だ。
森さんが若干、ひるむ。森さんはほぼ完全に園芸未経験者で、普段の生活の中でも、こんなに野菜への情熱を持ったメンツに取り囲まれたことはないのである。
圧倒的シティガール森さん。どんな野菜との出会いがあるのだろうか……
森
自分はベンチャーキャピタルで仕事をしています。「ベンチャーキャピタル」、まさに「園芸」の反語かもしれません。でも、前から園芸には興味があります。今日は少しビクビクしつつも、できるだけ前のめりで皆さんのお話を拝聴したい所存です!
ワクサカ
今日は園芸について知識や技術を持つ4名が、森さんに野菜の魅力を強引に教える『推し野菜プレゼン大会』をさせていただきます。