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知られざる細菌の能力~食中毒を回避するおすすめの殺菌習慣とは

ユーザー

横山佳子

横山佳子

京都女子大学家政学部食物栄養学科教授。名古屋大学大学院医学研究科博士課程修了。博士(医学)、管理栄養士。国立感染症研究所細菌第二部流動研究員を経て、2003年4月より京都女子大に勤務。著書に『知る! わかる! 身につく!! 公衆栄養学』『Visual 栄養学テキスト 食べ物と健康Ⅲ 食品衛生学 食品の安全と衛生管理』など。

こんにちは、カメライターのコウカです。

うちの母は冷蔵庫がなかった時代の習慣が抜けないのか、作り置きの料理を常温で放置するクセがあります。おかげで傷んだものを散々食わされてきた私は、すぐに食べない分は急速冷却→冷蔵庫へGOという基本コンボを習得しました。ところが、どういうわけか姉は母の悪習を伝承しており、義兄(夫)から「マジで聞くけどなんで冷蔵庫に入れないの?」と怒られたことがあるそうです。

我が家のように不用意ではないにしろ、知らず知らずのうちに食中毒菌にパーティー会場を提供しているご家庭は少なくないのではないでしょうか。そこで今回は、食環境に分布する細菌がご専門の横山佳子教授にお時間を頂き、食中毒菌の特徴や効果的な殺菌対策を伺ってきました。

横山佳子さんアイコン

横山佳子

京都女子大学家政学部食物栄養学科教授。名古屋大学大学院医学研究科博士課程修了。博士(医学)、管理栄養士。国立感染症研究所細菌第二部流動研究員を経て、2003年4月より京都女子大に勤務。著書に『知る! わかる! 身につく!! 公衆栄養学』『Visual 栄養学テキスト 食べ物と健康Ⅲ 食品衛生学 食品の安全と衛生管理』など。

細菌は目が離せないほどかわいい生き物

細菌の人形

学生さんたちがクレーンゲームで取ってきてくれたという細菌を模した人形たち

コウカ

本日はよろしくお願いします。食中毒をもたらす身近な菌の特徴や主な感染経路、効果的な殺菌の仕方などを学びたいと思っています。

横山先生

こちらこそ、よろしくお願いします。

コウカ

本題に入る前に恐縮ですが、先生は生活習慣病にご興味があって京都女子大学に進学されたと伺っております。研究テーマを細菌に鞍替えされたのはどうしてでしょうか?

横山先生

きっかけは本学で受けた「微生物学」の授業です。小さく単細胞しか持たない細菌ですが、自身を維持するために栄養を取り込み、代謝を繰り返している生命活動は私たち人間と変わりません。「ああ、目に見えないけど一生懸命生きているんだな……」と心を動かされました。

横山先生

卒業後は水産微生物の研究をしたり、諸々の事情で別分野の研究室で助手をしたりしていたのですが、やっぱり細菌のことが忘れられなくて名古屋大学大学院の医学研究科に進学しました。本格的に病原菌の研究を始めたのはそこからですね。

コウカ

細菌だって人間と同じ生命活動をしているのはわかるのですが、そこまで先生を突き動かした特定の細菌があるのでしょうか?

横山先生

特定の細菌といわれると難しいですね。ただ、基本的には人間よりも細菌のほうが好きです(笑)。

コウカ

なるほど。人間よりも細菌が好き。え?

横山先生

細菌は、最初こそ確認が困難なほど微小ですが、培養して数を増やしていくと明らかにわかるようになるんです。ちゃんと生きているし、頑張って増えようとしている。そんな姿がとてもかわいいな〜と! 私の気持ちだって通じますし。

コウカ

ど、どういうことですか?

横山先生

O157(腸管出血性大腸菌O157)を研究していたのですが、「おはよう」とか「今日も元気だね」とか声をかけてあげると、明らかに育ちが良いんですよ。逆に、雑に扱っていると影が薄くなっていきます。

コウカ

それは声かけと関係なく、雑に扱ったからでは……。

横山先生

そうでしょうね(笑)。もちろん、エビデンスのある話じゃありません。ですが、育てる側からすると違いを感じるという研究者は一定数いると思います。

細菌を培養する学生

細菌を培養する横山研究室の学生さん。先生の教えを守っている?

コウカ

細菌にも声や音を感知する能力があるとすれば、声の一つもかけたくなりますね。

横山先生

あ、でも細菌同士がある種の化学物質(昆虫でいうフェロモン)を用いて会話していることは判明しているんですよ。細菌の多くは乳白色なのですが、会話を通してある程度仲間が増えると赤や黄に変色する種類もいます。

コウカ

仲間が増えることである種の刺激を受けているのでしょうか。各個体の力は弱くても、徒党を組めば生成する毒素の強さも違うでしょうし、そう考えると群衆化した人間のように思えなくもない……。

横山先生

はい。目と目が合って通じ合うわけではありませんが、目は離せない存在。それが細菌のかわいいところです。

O157の毒素はフグの30〜50倍、青酸カリの1,000倍以上

O157の毒素はフグの30〜50倍、青酸カリの1,000倍以上

O157のイメージ

コウカ

腸管出血性大腸菌O157といえば、1996(平成8)年に岡山県や大阪府で発生した集団食中毒が記憶に残っています。厚生労働省『腸管出血性大腸菌Q&A』によれば、ここ数年は年間事件数10〜30件、患者数30〜500人程度と、あのときほどの大惨事はもう起こっていないようですが。

横山先生

そうですね。ただ、食中毒の感染者数は正確に把握するのが難しいため、実際にはもう少し多い可能性はあります。

横山先生

ちなみに、どうして「157」と呼ぶかご存知ですか? うちの学生でも知らない子が結構いるのですが。

コウカ

そういえば……なぜでしょう?

横山先生

大腸菌は約170種類ありまして、菌の外側の構造によって細かく分類されているんです。O157は、「O抗原」と呼ばれる分類のうち、157番目に発見されたことから付けられました。

横山研究室にある研究備品

コウカ

なるほど! 明日からまるで以前から獲得していた知識かのように話すことにします。というより、170種類も悪さをしでかす大腸菌がいるんですね。無害な奴、というイメージだったのですが。

横山先生

その認識は間違っていませんよ。多くが無害です。大腸菌そのものは牛や豚の腸管にいて、病原性はありません。有害になるのは、バクテリオファージ(菌に寄生するウイルス)という運び屋がいるためです。バクテリオファージは、もともと赤痢菌が作っているベロ毒素(志賀毒素)の設計図を大腸菌に運んでくるんです。

コウカ

バクテリオファージとの接触で異質な力を獲得するんですね。余計なことを……。O157では亡くなる方もいますが、ベロ毒素という毒は相当強いのでしょうか?

横山先生

指標としては、フグやヒョウモンダコが持つテトロドトキシンの30〜50倍、青酸カリの1,000倍以上といわれています。また、一般的な食中毒菌よりも少量の個数で発症します。症状は軽症であれば下痢や嘔吐、発熱などで済みますが、場合によっては溶血性尿毒症症候群(HUS)を起こす恐れがありますね。

■O157を避けるには

コウカ

O157を持つ牛や豚を解体する際に出る糞尿が肉に付着したらマズいと思うのですが、それを防ぐのってたぶん難しいですよね……。消費者としてはどうすればいいでしょうか?

横山先生

そんなにご心配なく。O157は熱に弱く、普通に加熱すれば死滅します。生焼け状態のお肉を食べなければ大丈夫でしょう。ただ、ちょっと注意したいのはサラダです。お肉を触った手や調理した包丁、まな板を経由して感染するケースがあります。

コウカ

それは気を抜くとやってしまいそう……。

横山先生

お肉用とお野菜用の調理器具を用意できればベストですが、さすがに手間だと思うので、サラダ系は先に作るなど調理順を変更するのがおすすめです。よりリスクを避けるなら、調理器具は必ず熱湯で消毒することですね。もちろん洗剤でもいいですが、まな板の表面の細かな傷に菌が付着している恐れがあるので念入りに洗ってください。

コウカ

電気ケトルなどで常にお湯を沸かしておくのがよさそうですね。しかし、もし野菜そのものに菌が付着していた場合はどうすれば……。特にサラダですと加熱調理なんてしないですし。

横山先生

食べる前によく洗うのはマストとして、食品添加物用の次亜塩素酸ナトリウムで消毒後、よく水洗いするなどが考えられますね。

〈O157対策の簡単3ポイント〉

  • O157は熱に弱く、消毒でも失活する
  • 食肉は中心部まで十分加熱してから食べること
  • 生野菜はよく洗い、肉を調理した手や器具で扱わない

カンピロバクターは「食中毒予防三原則」が通用しない相手?

カンピロバクターは「食中毒予防三原則」が通用しない相手?

カンピロバクターのイメージ

コウカ

カンピロバクターによる食中毒は頻繁に起こっているイメージがあります。先日も、鶏肉を低温調理したラーメン店で集団食中毒が発生しました。

横山先生

鳥だけでなく牛や豚なども保菌しているのですが、鶏肉を原因とする食中毒が多いですね。これは個人的な感想ですが、牛や豚と違い、薄くスライスして調理することが少ないからのような気がします。

横山先生

この菌は微好気性といって、酸素が少しだけある環境を好みます。皮膚などの表面ではなく、奥のほう(消化器官内)に多くいるのは酸素濃度が関係しているのかもしれません。

コウカ

家畜や家禽は高確率で保菌しているそうですが、それらにとっては有害な細菌ではないため検査等で除外するのは難しいんですよね? 感染源もはっきりしていないでしょうし。

横山先生

そうですね。たとえばカンピロバクターの仲間にヘリコバクター・ピロリ(いわゆるピロリ菌)がいるのですが、自然界のどこにいるのかよくわかっていないんですよ。細菌の中にはそのような種類もいます。

細菌の資料を開く手

資料を開き、文系のライターにもわかりやすく解説してくださる横山先生

コウカ

鶏肉の多くにカンピロバクターが付着しているとすると、唐揚げを食べるのも怖くなってきたのですが。

横山先生

カンピロバクターは高熱に弱いため、唐揚げのように高温を使う調理では基本的に死滅します。ただ、カンピロバクターもO157と同じく、ごく少量の菌でも感染するため要注意です。

横山先生

たとえば、お婆ちゃんが作った唐揚げを食べても問題なかったお孫さんが、お爺ちゃんが入れたオレンジジュース飲んだら感染してしまった例があります。

コウカ

はい?

横山先生

お爺ちゃんはコップにオレンジジュースを注ぐ前にスポンジで水洗いしたのですが、そのスポンジはお婆ちゃんが唐揚げ作りに使用した包丁やまな板を洗ったものだったのです。包丁やまな板に残っていたカンピロバクターが、微量ながらスポンジに付着したのでしょう。

コウカ

それはお気の毒……。しかし、教訓になる一例ですね。

横山先生

食中毒予防の三原則は「つけない、増やさない、やっつける」ですが、カンピロバクターは増殖しなくても当たってしまうため特殊な相手ともいます。

■カンピロバクターを避けるには

横山先生

カンピロバクターが体内に入り、増殖すると激しい発熱や腹痛を引き起こします。自然に治ることも多いのですが、怖いのはギラン・バレー症候群でしょう。重症化した場合、手足の筋力が低下して身動きが取れなくなったり、呼吸困難になったりする恐れがあります。

コウカ

単なる食中毒だと侮れませんね。感染を避けるには加熱の一択でしょうか。

横山先生

加熱は基本中の基本ですし、鶏肉に触れた調理器具でほかの食材を触らないことも重要ですね。スポンジの例もそうですが、バーベキューではお肉用と野菜用でトングは分けるとか、取皿を2種類用意するなども効果的です。

コウカ

バーベキューだとお酒が入ることも多いのでどうでもよくなっちゃいそうですが、あとで痛い目に遭いたくなかったら厳守するべきですね。

〈カンピロバクター対策の簡単3ポイント〉

  • たとえ鮮度が良くても食肉を生で食べない。特に鶏肉は十分に加熱する
  • 生肉の調理に使用した器具はよく洗い、熱湯で消毒する
  • 食肉を扱う箸と食べる用の箸を使い分ける(トング・お皿も同様)

黄色ブドウ球菌:100℃で30分加熱しても無酸素状態でも元気ハツラツ

黄色ブドウ球菌

学生さんの手に付着していた黄色ブドウ球菌(※)

横山先生

黄色ブドウ球菌も身近な細菌ですね。人や動物の化膿した傷口をはじめ、手、指、鼻、喉などに幅広く生息しています。特に怪我などをしていない人の手にいることも珍しくありません。

横山先生

潜伏時間は大体3時間で、吐き気や嘔吐、下痢を伴う腹痛が生じることが多いようです。

コウカ

とにかく握り飯から感染するイメージが強いのですが、黄色ブドウ球菌を保菌している人が握ったおにぎりを食べると100%感染しますか?

横山先生

いいえ、まったく問題ないケースもあるでしょう。黄色ブドウ球菌も、バクテリオファージとの接触でエンテロトキシンという毒素を産生するようになるだけで、約4割は食中毒を起こすほどの力はありません。

横山先生

たとえエンテロトキシンが発生した食品を食べても、毒素の量が少なければ食中毒となって表れることはありません。ですので、素手で握ったおにぎりを出されたらすぐに食べることをおすすめします(笑)。

コウカ

焼きおにぎりにしたらすべて解決!……にはならないですかやっぱり?

横山先生

焼きおにぎりって表面を焦がすだけじゃないですか(笑)。まあ、確かに黄色ブドウ球菌自体は熱に弱いですが、産生済みの毒素は100℃で30分加熱しても失活しないんですよ。また、たとえ無酸素でも増殖できるタフさを持っています。

コウカ

強い……。おにぎりを作る際に塩を多めに付けるなどで増殖リスクを下げられないでしょうか?

横山先生

黄色ブドウ球菌は塩分に強くて、7%程度ならまったく平気です。海水ですら3%ですから現実的ではないですね。ただ、塩には防腐効果があるため、その意味では役立つと思います。

■黄色ブドウ球菌を避けるには

コウカ

私は全然知らない人が握ったおにぎりでも気にせず食べられるほうですが、今後はマシンが作ったものしか手を付けなさそうです……。

横山先生

ですから、そんなに警戒されなくても大丈夫ですよ! 当然のことを守れば黄色ブドウ球菌は防げます。

横山先生

大前提として、手指などに傷がある人は食材に直接触れないことですね。また、おにぎりを握る際は、ラップやアルミ箔を使用することをおすすめします。

横山先生

調理後はできるだけすぐに食べ、常温で放置しないことも大切です。室内であっても、環境が整えば30分に1回は分裂します。

〈黄色ブドウ球菌対策の簡単3ポイント〉

  • 手指に傷や化膿がある人は食品・食材に触らない
  • 入念に洗浄・消毒する
  • 余った食べものは早めに冷蔵庫に入れる

セレウス菌:炭水化物×脂質の「うまいもの」に潜む悪魔

セレウス菌:炭水化物×脂質の「うまいもの」に潜む悪魔

セレウス菌のイメージ

コウカ

セレウス菌という名称は、一般的には馴染みが薄い気がします。

横山先生

日本での事故件数は少ないですが、感染すると亡くなる人もいる油断大敵な細菌の一つです。自然界では土壌や大気などに幅広く分布していて、農畜水産物の食料や飼料などに付着しています。

コウカ

どのような症状が出るのですか?

横山先生

小腸に入って毒素を作る「下痢型」と、食品内で毒を作る「嘔吐型」の2パターンがあるのですが、日本でよく見られるのは嘔吐型です。これは、下痢型が加熱に弱いせいためだと考えられます。日本って、なんとなくですが「加熱すれば大丈夫」という考え方が根付いていますから。

コウカ

亡くなる方もいるとおっしゃいましたが、嘔吐毒素にやられると吐き気や嘔吐では済まないということでしょうか。

横山先生

いえ、基本的には軽症で済むでしょうが、肝臓に急激なダメージを与える急性肝不全を引き起こす恐れもあります。嘔吐毒素であるセレウリドをマウスに注入した実験では、ほかの臓器は無傷なのに、肝臓だけが障害を受けていたことがわかりました。

研究中の横山ゼミの学生さん

取材中、別室では学生さんが残って研究を続けていた

コウカ

気をつけたほうがいい食材や料理はありますか?

横山先生

嘔吐型の原因食品は圧倒的にパスタ・スパゲッティです。それは日本でも同じで、ほかには焼きそば、うどん、そうめんなどですね。

コウカ

セレウス菌は麺類が大好き……?

横山先生

というより、炭水化物全般ですね。加えて、嘔吐毒素は油に溶けやすいため、チャーハンやピラフといった料理も要注意です。

コウカ

男性が好きなもの全般にイエローシグナルが。

横山先生

そうそう、こんな研究結果もあります。カルボナーラ、トマトソース、ペペロンチーノのうち、セレウス菌の毒素が増えにくいソースは何だと思いますか?

コウカ

う〜ん……。一番油が少なそうという意味で、トマトソースでしょうか?

横山先生

正解です! 理由はいくつかありますが、食酢やケチャップなどに含まれる酸性成分がセレリウドの産生抑制に役立っているようです。

コウカ

今後パスタを食べるならトマトソースを第一候補にするようにします(笑)。

■セレウス菌を避けるには

コウカ

セレウス菌って自然界に広く分布しているんですよね。収穫した米にも付いているとなると、もはや避ける術がないのでは……?

横山先生

作ってすぐ食べるのであれば心配いりませんよ! 食中毒事故の多くは、作り置きしたうえ、常温で保管していたための大量増殖ですから。

コウカ

食品内で毒素を作るタイプなら加熱にも強いでしょうか?

横山先生

はい。セレウス菌は生育が不利な環境で芽胞という耐久細胞を作ります。加熱をすると逆に熱刺激で発芽をし、セレウス菌が増殖することになります。こうなるとかなり手強いです。ですので、増殖する前に食べてください。食べない分は早めに冷蔵庫に入れて低温保存すれば大丈夫です!

〈セレウス菌対策の簡単3ポイント〉

  • 炭水化物と油を使う料理は作り置きしない
  • 一度に大量を作ることも避ける
  • 作りすぎた分は小分けにして速やかに低温保存する

サルモネラ菌:2,500種以上もいる大腸菌や赤痢菌の仲間

サルモネラ菌:2,500種以上もいる大腸菌や赤痢菌の仲間

サルモネラ菌のイメージ

コウカ

サルモネラ菌は鶏の産みたての卵の殻に付着しているイメージが強いのですが、スーパーなどで販売されている商品にも付いているものですか?

横山先生

基本的には洗浄してあるため、過敏になる必要はないでしょう。もちろん、絶対に安心とはいえません。見た目がきれいだとか、ひび割れしていないだとか、できるだけ状態の良いものを選ぶことをおすすめします。

横山先生

ごくまれに卵の中にいることもありますが、割ってすぐに食べるなら生の状態でも大丈夫です。

コウカ

たまにやるのですが、不注意などで割ってしまった卵を、今は食べないからとラップをかけて冷蔵庫に保管しておくことがあります。これって危険な行為でしょうか?

横山先生

う〜ん、冷蔵庫での保管ならサルモネラ菌の増殖は抑えられますが、だから心配ない、とはいえませんね。

横山先生

これは実際に身の回りで起こったある施設での事例ですが、前日の夜に割りおきした卵でスクランブルエッグを作ったら、見事に食中毒が発生したケースがあります。

コウカ

今後はやめときます……。サルモネラ菌の症状ですが、一般的には腹痛や下痢、嘔吐、発熱などで、比較的軽症で済むことが多いと聞きます。

横山先生

そうですね。しかし、最近は少量でも発症することがわかってきましたし、サルモネラ菌は2,500種以上の血清型に細分されているんです。なかには腸出血や腸穿孔を起こすタイプのサルモネラ菌にかかることもあります。抵抗力の弱い幼児やお年寄りは侮らないほうがよいでしょう。

■サルモネラ菌を避けるには

横山先生

非常にシンプルな方法で防止できます。まず、卵を割った後は必ず手を洗うこと! 私なんかは下手でよく失敗するのですが(笑)、手にサルモネラ菌を付けた状態では、どこにばらまくかわかりません。

横山先生

もちろん、食肉を取り扱った後も同様です。二次汚染防止のため、洗浄・消毒は必須です。

コウカ

作り置きしないこと、十分に加熱して調理することも重要ですよね。

横山先生

はい。1999年4月に「イカ菓子」という乾製品による食中毒事件が起こり、1,000人規模の患者が出ました。原因の特定はされていませんが、製造工程で十分な加熱がなかったためではないか、という研究報告もあります。

横山先生

先ほど例に挙げたスクランブルエッグでの食中毒も、保管状態が悪かったせいもあるでしょうが、十分に火が通っていなかった可能性があると思っています。

横山先生

また、盲点はペットからの感染です。特にカメやトカゲなどの多くはサルモネラ菌を保菌しているため、触った後は必ず洗浄・消毒してください。

〈サルモネラ菌対策の簡単3ポイント〉

  • 卵は新鮮なものを選び、購入後は冷蔵庫で保管する
  • 割りおきはせず、すぐに食べること。加熱するほうが望ましい
  • ペットを触ったら必ず手を洗い、消毒すること

ウェルシュ菌:大鍋の奥底で生き残る「給食病」の正体

ウェルシュ菌:大鍋の奥底で生き残る「給食病」の正体

ウェルシュ菌のイメージ

横山先生

ウェルシュ菌も、普通の方は名前を聞いてぱっと思い浮かぶ食中毒菌ではない気がします。

コウカ

はい。これはどこに分布しているのでしょうか?

横山先生

人や動物の腸管のほか、便から検出されることも多いです。また、土壌や大気、水中など広く分布していますよ。牛肉、豚肉、鶏肉といった食肉から見つかることもよくあります。

横山先生

症状は主に腹痛や下痢ですね。比較的軽いことが多いのが不幸中の幸いです。

コウカ

特にどういうシーンで気をつければいいでしょうか?

横山先生

ウェルシュ菌は、飲食店はもちろんですが、学校給食や仕出し屋さん、旅館などで発症する事例が多いんですよ。原因となる主な料理は、カレー、シチュー、スープなどです。どういうことか、おわかりになりますか?

コウカ

一度に大量を作る料理に起こりがち……?

横山先生

正解です。業務上、必要になる量が多いため、前日から大鍋で大量の具材を調理するのですが、ウェルシュ菌は加熱されることで耐熱性の芽胞を作ります。カレーなどを煮込む程度の温度では死滅せず、たとえほかの細菌が全滅しても芽胞は残るんです。

横山先生

しかも、カレーやシチューって粘り気を出すためにとろとろと煮込むじゃないですか。すると鍋底の酸素濃度が低くなるのですが、これもウェルシュ菌にとっては快適な環境なのです。ウェルシュ菌は偏性嫌気性菌といって、酸素がありすぎると生きられない性質を持っています。

コウカ

こいつも無酸素どんと来いな奴でしたか。

横山先生

作り終えた後、そのまま室温で緩やかに冷却されていく過程で芽胞が発芽し、ウェルシュ菌が目を覚まします。そうして大増殖した食品を体内に入れると、腸管内でさらに増殖し、エンテロトキシンが産生されるという仕組みです。

コウカ

大人数の人向けに作った料理だけに、1件あたりの感染者数が莫大な数になりますね。

横山先生

そのため、ウェルシュ菌による食中毒は「給食病」という異名を取ります。もちろん、多くの人に提供する料理という意味で、学校給食に限ったわけではありませんが。

コウカ

加熱で死ぬ細菌もいれば、加熱によって活性化する細菌もいる……。改めて細菌の多様性がすごいです。

ウェルシュ菌を避けるには

横山先生

カレーやシチューなど多めに作りがちな料理は、食べない分は急速冷却してください。冷えたら冷蔵庫へ直行! これでほとんど解決します。

横山先生

やむを得ず大量に作る場合は、小分けにしてから急速冷却し、やはり冷蔵庫で保管が正解です。

コウカ

常温で置いておくのが一番危険というわけですね。またはすぐに食べてしまうか。

横山先生

はい。業務に携わる方は事情があるでしょうが、前日調理は避けたほうが無難です。

コウカ

「一晩寝かせたカレーはおいしい」といいますが、寝かせている間に芽胞が発芽してウェルシュ菌天国になる可能性があるんですね。

〈ウェルシュ菌対策の簡単3ポイント〉

  • 前日調理・大量調理は避ける
  • 食べない分は急速冷却する
  • 常温で保管せず冷蔵庫に入れる

ボツリヌス菌:1gで100万人以上を殺せる世界最強の毒素

ボツリヌス菌:1gで100万人以上を殺せる世界最強の毒素

ボツリヌス菌のイメージ

コウカ

ボツリヌス菌は、破傷風菌よりも毒性が強い自然界最強の神経毒だと聞いたことがあります。

横山先生

1μg(マイクログラム=100万分の1グラム)で人1人の致死量に達するとか、1gで100万人以上を殺せるとか、単純計算による指標ではいろいろな表現がありますね。事件件数はごくわずかですが、恐ろしい力を持っているのは確かです。

横山先生

ボツリヌスによる症状は、ボツリヌス毒素が作られた食品を食べて発生するボツリヌス食中毒と、乳児に見られる乳児ボツリヌス症で区別しなければなりません。

コウカ

乳児ボツリヌス症は、ハチミツを含む食品が元で起こる症状ですよね。

横山先生

ええ。ハチミツって体に良いイメージがあるから、離乳食で与えてしまう例があるんですよね。大人と違って未熟な乳児の腸内環境では、ボツリヌス菌が繁殖して毒素を出してしまいます。重篤な場合は呼吸が止まり、取り返しがつかなくなることも。

コウカ

ほかの細菌と同じく自然界のあちこちにいると思うのですが、どのような経路で人体に入ることが多いのでしょうか?

横山先生

ボツリヌス菌も、ウェルシュ菌と同じ偏性嫌気性菌です。偏性嫌気性菌にとって酸素は毒なので、低酸素であるビン詰や缶詰、容器包装詰め食品など、一見安全そうな食品に潜んでいることが多いです。国内で有名な食中毒事例は、北国の特産である魚の発酵食品「いずし」が有名ですね。

コウカ

ボツリヌス菌の毒素を無害化する方法はないのでしょうか?

横山先生

ボツリヌス菌が作る毒素自体は熱に弱く、70〜80℃程度で30分ほど加熱すれば毒素の活性を抑えられます。でも、缶詰とかってわざわざ加熱しないですよね。

コウカ

そのまま食べちゃいます。

横山先生

ボツリヌス菌で注意を呼びかけたいのはそこですね。安全そうに見えて、そうでない可能性があるので。そして、芽胞を形成すると耐熱性が極めて高いです。

横山ゼミの学生さん2人

ゼミ生の方々が研究中の細菌も気になるところ

■ボツリヌス菌を避けるには

横山先生

まず、缶詰の多くやレトルトパウチ食品は、気密性容器に密封し、加圧加熱殺菌が施してあるのが通常です。パッケージのどこかに必ずそうした旨が表示してあるはずです。

コウカ

恥ずかしながら、ちゃんと読んだことがありません。ということは、そうした表記がない真空パック商品などには注意したほうがよいと。

横山先生

ええ。120℃4分以上などの加熱処理が行われていない食品は、「要冷蔵」などと表示してあると思います。それらは常温での長期保存は不可能ですので、必ず冷蔵保存をして、期限内に食べてください。

横山先生

商品にもよりますが、水洗いできそうなものはよく洗ったほうがいいですね。もし中から異臭がしたり、容器が変形したりしている場合は、食べずに廃棄することを強くおすすめします!

コウカ

缶詰や瓶詰めでも油断ならないこと、最強の毒素とはいえ高温で長く加熱すれば倒せることがわかって良かったです。

〈ボツリヌス菌対策の簡単3ポイント〉

  • レトルトパウチ食品かどうか、パッケージをよく読む
  • 異臭がしたり、容器が変形していたりと異変を感じたら廃棄する
  • ハチミツを含む成分は乳児には絶対与えない

食中毒菌予防の基本を習慣化すれば恐るるに足らず

火炎滅菌

コウカ

細菌の種類によって気をつけるポイントは異なりますが、共通している対策のほうが多いため、基本的な食中毒対策を行っていればそこまで恐れることはなさそうですね。

横山先生

その通りです! 食中毒予防の三原則「つけない、増やさない、やっつける」を意識し、「手洗いをする」「食材を洗浄する」「加熱する」「調理器具を洗浄・消毒する」「食べない分は冷蔵庫で保管する」といった基本対策を習慣化してください。

横山先生

「鮮度の怪しい食品は買わない」「生の食肉料理は頼まない」など、買い物時や外食時にも注意するとなお良いと思いますよ。商品として売られているものでも安全とは限らないので。

コウカ

はい! 本日はありがとうございました。大変勉強になりました!

食べない分は冷却し、冷蔵庫に入れる習慣があるのは冒頭で述べた通りですが、調理器具などの熱湯消毒は面倒くさくてやっていませんでした。バーベキューやキャンプだとやるのに自宅ではやらないのは、「家のキッチンはきれいにしているから」と思い込んでいるせいかもしれません。

取材現場から帰宅する途中のバスで厚生労働省の『食中毒統計資料(令和3年)』を眺めていると、食中毒の原因施設別事件数は1位が飲食店で39.5%、2位は不明で28.0%、3位は家庭で14.5%でした。家庭での食中毒が意外に少ない印象を受けましたが、家族で同じものを食べても全員が発症するとは限らないため、食中毒だと認識していないケースも多そうです。

とはいえ、自己診断で市販の薬を服用するのは止めたほうがよいでしょう。食中毒かなと思ったら、早急に医師の診断を受けることをおすすめします。

文・撮影:コウカ
※印の写真は横山先生ご提供

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