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chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。
いつもそばにいる愛犬。人間とは全く姿形が違うのに、意志が通じ合うのは不思議なものですね。でも、犬の骨格って一体どうなっているのでしょう。今回は、獣医師の林美彩先生に教えていただいた、普段身近にいてもなかなか知らない犬の骨格の特徴や犬種別のトラブル、骨の不調が起きたときのサインなどについて解説していきます。
目次
- 犬の骨格や骨の成長スピードは?
- 犬と人間の骨格の主な違いは?
- 犬の骨格は種類によって違う?
- 犬の骨格や関節のトラブルでよく起きやすいものは?
- 犬の骨格を守るために飼い主が心がけることは?
- 犬の歩き方や座り方がおかしい? こんな時は病院へ
犬の骨格や骨の成長スピードは?
骨格と聞くと、学校の理科室にあった人体の骨格標本を思い浮かべる方もいるのでは? 骨格とは、骨と軟骨で作られた骨組みのことを指します。骨を使った立体パズルのようなものです。犬の骨格の特徴や骨の成長スピードを知ることで、愛犬により詳しくなれます。まずは、犬の骨の数から順に犬の骨格について解説していきます。
犬の骨の数
犬の骨の数は、犬種にもよりますが、320個前後あるといわれています。成人した人間の骨の数が約260個なので、およそ60個分も犬の骨の方が人間よりも数が多いことになります。
犬の骨格の特徴
犬の骨格の特徴として、まず鎖骨がないことが挙げられます。人間のように手を使って物を取ったり掴んだりする必要がなく、腕がただ体重を支えるためだけに付いている動物には鎖骨がありません。また、犬種によっても骨格は違いますが、頚椎(首)の骨の数だけは共通して7個です。
胸椎(背中)の骨の数は13個。この胸椎の背側に生えている棘突起(ちょくとっき)と呼ばれる部分の最も高い位置から地面までを測った長さが、犬の体高となります。犬の体高には、首の長さや頭のサイズは入らないのです。
ちなみに、ダックスフンドやバセット・ハウンドなどの短足系犬種、ブルドッグやパグといった短頭種は、骨の形成異常によるものが正当な犬種標準とされています。
犬の骨の成長スピード
犬のサイズによって成長スピードはさまざまで、体が大きい犬種のほうが遅いといわれています。
・生後1カ月まで…生後9~13日目で体重が出生時の2倍、生後25~30日目で出生時の4倍ほどまで成長し、乳歯が生えてきます。
・生後2カ月まで…体重が出生時の10~15倍ほどまで成長し、骨組織が発達します。
・生後2カ月以降…筋肉組織が発達し、体重も2カ月齢時までの2~5倍ほど増加します。
また、犬種によっても成長ステージが異なります。
・超小型犬~小型犬…おおむね生後8~10カ月ほどで成犬になり、体重は出生時の20倍ほどまで増えます。
・中型犬…生後10~12カ月で成犬の大きさとなり、体重は出生時の50倍ほどになります。
・大型犬…生後5カ月頃までに成犬の半分程度まで成長、その後緩やかに成長し、生後15~18カ月で成犬にまで成長します。体重は出生時の70倍ほどになります。
・超大型犬…最もゆっくり成長していく犬種で、成犬になるまで18~24カ月ほどといわれています。体重は出生時の100倍にまで増えます。
犬と人間の骨格の主な違いは?
犬と人間の骨格の主な違いは下記の通りです。
・鎖骨がない
・肩甲骨が筋肉で支えられていて縦にくっついている
・背骨の数の違い(胸椎が1個、腰椎が2個多い、尾椎がある)
など
面白い違いとして、骨格のせいで犬は常につま先立ちの状態になっていることが挙がります。一見すると、犬と人間の手の構造は似ています。犬の手は、手根骨・中手骨・指骨と分かれており、これは人間の手も一緒です。手首から掌の根元にかけてあるのが手根骨(しゅこんこつ)、そこから指の分かれ目まであるのが中手骨(ちゅうしゅこつ)、そして指の骨が指骨(しこつ)となります。しかし、同じ骨組みでありながら、それぞれの骨の使い方が違うのです。
ハイハイする人間の赤ちゃんは、手のひらをべったりと床につけて動きます。対して犬は、爪のある指骨の部分だけを地面につけて動くのです。骨格から見ると、中手骨が浮いている形になり、これが「犬はつま先立ちで歩いている」といわれる理由になります。
犬の骨格は種類によって違う?
犬の形は、犬種によりさまざまです。体格が大きい犬種や小さいもの、さらには足が短いなどの特徴がありますよね。犬の姿形が違えば、もちろん骨格も違います。犬の種類によって、骨格にどんな違いがあるのか、注意点と合わせて見てみましょう。
・コーギーなど胴長短足…骨の数は変わらず、四肢の骨の長さが短い状態です。椎間板の変性を起こしやすいという特徴があります。
・グレートデーンなど大型犬…成長期の栄養状態によって、骨の状態にも影響が生じます。
・チワワなどの小型犬…全体的に骨を支える筋肉量が少ないため、骨折しやすい傾向にあります。体と頭の大きさのバランスがとれていないことから首に負荷がかかりやすく、頚椎に異常が見られることがあります。
犬の骨格や関節のトラブルでよく起きやすいものは?
骨格や関節が原因となるトラブルもあります。ここでは、起きやすい症状と特に注意したほうがいい犬種をご紹介します。
股関節形成不全
生まれつきの股関節のゆるみが原因で、股関節の亜脱臼など様々な症状を示す疾患。特に、ゴールデン・レトリバー、ラブラドール・レトリバー、ジャーマン・シェパード・ドッグ、セント・バーナード、バーニーズ・マウンテン・ドッグなどの犬種は注意を。
膝蓋骨脱臼
膝のお皿の骨が大たい骨の溝から外れて脱臼する疾患。特に、小型犬は内方脱臼、大型犬は外方脱臼が多いので、それぞれ注意が必要です。
大腿骨頭壊死症
無菌的に大腿骨頭が壊死して股関節に疼痛が生じ、歩行異常が見られる疾患。ヨークシャー・テリアやトイ・プードルなどの犬種は注意を。
犬の骨格を守るために飼い主が心がけることは?
人間の子どもと同じで、犬が成長するときにも骨のトラブルはつきものです。飼い主ができる予防策をご紹介します。
子犬期から栄養状態を保ち、適切・適度な運動を心がける
犬の骨を作るのは栄養です。ドッグフードには、犬の骨格に成長に必要な栄養素が入っているので、月齢や犬種にあったフードを与えるようにしましょう。
また、適切・適度な運動をさせることも大切です。子犬のうちに「丈夫に育ってほしいから」と過度の負荷をかけては、かえって骨折などの原因になってしまいます。愛犬のステージにあわせた運動を心がけましょう。
ケガにつながる運動をしない
むやみやたらにジャンプさせたり、固い地面で激しい運動をさせたりすることも、骨格のトラブルやケガにつながります。骨折や爪の破損になりかねないので、気を付けましょう。段差の上り下りにも注意したほうがよさそうです。
ストレスをかけない
犬が心因的なストレスを抱えていると、フードを十分に与えていても思うような成長ができないことがあります。心が体に影響を及ぼすのは、人間も犬も同じです。体だけではなく、心も健やかでいられるような環境を整えてあげましょう。