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約30年病院や保健センターのリハビリテーション科で勤務したのち、目の病気が進行したため事務職に異動。定年退職後は、日本サービスドッグ協会の活動に専念している。
引退後の補助犬たちに幸せな余生の支援をする『日本サービスドッグ協会』の活動とは?
目次
- 人間の生活をサポートしてくれた「補助犬」の引退後
- 盲導犬・サファイアと出会い、人生が好転した谷口二朗さん
- 盲導犬である前に家族。だから最期まで一緒に暮らしたい
- 引退した補助犬の幸せな余生を支援する『日本サービスドッグ協会』
人間の生活をサポートしてくれた「補助犬」の引退後
「補助犬」という言葉を聞いたことがありますか?
補助犬とは盲導犬や聴導犬、介助犬など、身体が不自由な方の生活をサポートする犬たちのこと。日本では2023年5月現在、全国で949頭の補助犬が活躍しています。そのうち、目の不自由な人をサポートする盲導犬が836頭、耳の不自由な人をサポートする聴導犬が57頭、手足が不自由な人をサポートする介助犬が56頭です。(厚生労働省 令和5年度4月「身体障害者補助犬実働頭数」)。
一般的に補助犬たちは生後1歳くらいまでのパピー期を「パピーウォーカー」と呼ばれるボランティアの方の家庭で愛情をもって育てられます。その後、適性があると認められた犬だけが訓練所で補助犬としてのトレーニングを受け、必要とする方(パートナー)との訓練を経て共同生活をスタートさせます。
原則として同じパートナーの生活を支え続け、10歳を過ぎたころに引退することになります。
犬の10歳は、人間でいうと70歳前くらいに該当し、すでに高齢といえる年齢です。一生のほとんどをパートナーのサポート役として過ごしてきた補助犬たちは、引退後、いったいどのような余生を送っているのでしょうか?
自身も盲導犬のパートナーとして暮らしつつ、引退後の補助犬たちの支援活動に取り組んでいる方がいます。NPO法人日本サービスドッグ協会理事長の谷口二朗さんです。
谷口さんに、引退後の補助犬たちの生活について、そして引退後の補助犬たちへの支援活動についてお話を伺いました。
盲導犬・サファイアと出会い、人生が好転した谷口二朗さん
谷口さんが理事長を務めるNPO法人日本サービスドッグ協会(奈良県葛城市)は、今から約20年前に盲導犬ユーザーの有志が集まり、「人間のために働いてくれた補助犬たちの老後が、少しでも安らかで穏やかなものであるように」との願いから立ち上げた非営利団体です。
難病のため40代後半で視力を失った谷口さん自身も、日本サービスドッグ協会の初代理事長の講演を聞いたのがきっかけで、盲導犬ユーザーとなったのだそうです。
谷口さんが講演を聞いた当時は視力の低下が進んで、一人で外出するのも難しくなっていたころ。大好きな旅行や外出ができない不自由な生活が不安で、絶望的な気持ちで過ごしていたといいます。
「盲導犬と一緒に生き生きと活動している初代理事長の話を聞いて、パッと目の前が明るくなった気がしました。もともと犬が大好きだったこともあり、私も盲導犬の力を借りて前向きに生きようと決意。講演後、すぐに理事長に声をかけて盲導犬ユーザーになる方法を教えてもらいました」
盲導犬ユーザーになるためには、原則として次のような手順を踏む必要があります。
- 盲導犬を育成している団体や居住している自治体の福祉窓口に相談する
- 団体から説明を受けた上で、申し込み資格を満たしている場合は、団体に貸与の申し込みをする
- 書類審査や面接を受ける(居住環境やライフスタイル、家族の同意の有無によっては審査に落ちることもある)
- パートナー候補の犬とともに4週間の共同訓練を受ける
- 盲導犬貸与(自宅での盲導犬との生活をスタート)
盲導犬の数には限りがあるため、申し込んですぐに貸与が受けられるわけではありません。谷口さんが最初の盲導犬サファイアくんの紹介を受けることができたのは、申し込みから約2年後のことでした。
「最初に訓練所でサファイアに会った日の感動と喜びは、今も鮮明に覚えています。食堂の椅子に座って待っていた私に近寄ってくると膝の上にポスっと顔を置いて『ぼくサファイアだよ~よろしくね』と私の方を見あげてくれたんですよ。今もあのときのサファイアの可愛い顔が、脳裏に焼き付いています」
こうして最初から相性が抜群だった谷口さんとサファイアくんは4週間の共同訓練を終え、谷口さんの自宅での生活をスタートさせました。
実は当時、自宅で犬を飼っていた谷口さん。先住犬との相性が少々不安だったそうですが、陽気で社交的なサファイアくんはすぐに先住犬とも打ち解け、新しい暮らしに慣れていきました。
「サファイアは職場にも一緒に出勤し、業務が終わるまでずっとおとなしく待ってくれるんですよ。職員や患者さんたちにも可愛がってもらって、サファイアの周りはいつも笑顔が溢れていました。本当に嬉しかったなあ」と懐かしむ谷口さん。
それまでの谷口さんは、どこか行きたい場所があっても家族に頼む必要があり、家族の都合が良いときにしか外出ができませんでした。そして次第に引きこもりがちになっていったといいます。
しかしサファイアくんと出会い、谷口さんの生活も気持ちも大きく変わりました。サファイアくんのおかげで好きなときに好きな場所に出かけられるようになったからです。行動範囲が広がったことで、アクティブな性格も戻り、前向きで充実した毎日が再開しました。
「一緒にあちこち旅行したのも良い思い出です。大好きだったハワイも視力が落ちたせいで行く意欲も起きなくなってしまっていました。でもサファイアのおかげで、また楽しく行くことができました」
「パピー時代を海の近くで過ごしたサファイアは海が大好き。ハワイ島のビーチでは海に飛び込んで大喜びしていましたね。サファイアと一緒に風を切って歩いて、外に出かける楽しさが蘇ってきたんです」
アメリカは日本よりも補助犬への理解が深く、どこに行ってもサファイアくんとの入店を歓迎してもらえたそう。
「レストランなどで『盲導犬を同伴しても良いですか』と尋ねると、『当たり前だ。なんでそんなことをわざわざ聞くんだ?』と不思議がられたこともあります」