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chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。
パルボウイルス感染症という病気についてご存じでしょうか。感染力が強く、重症化すると愛犬の命にかかわる危険な病気です。ここでは、パルボウイルス感染症の症状や原因や治療法などについて、chicoどうぶつ診療所の所長である林美彩先生に解説していただきます。
目次
- 犬のパルボウイルス感染症とは?
- 犬のパルボウイルス感染症の原因とは?
- パルボウイルス感染症にかかりやすい犬種やライフステージはある?
- 犬のパルボウイルスの感染症の症状とは?
- 犬のパルボウイルス感染症の予防方法とは?
- 犬がパルボウイルス感染症にかかった場合の対処法は?
- 犬のパルボウイルス感染症の治療法とは?
犬のパルボウイルス感染症とは?
パルボウイルス感染症は、嘔吐や下痢、白血球の減少を引き起こす病気です。ヒト、ネコ、イヌなどのパルボウイルス感染症がありますが、犬のパルボウイルスは同一の病原体から異なる脊椎動物がかかる共通感染症ではないので、人間には感染することはありません。
犬のパルボウイルスとはどんなウイルス?
犬パルボウイルスは、1978年に発見された比較的新しいウイルスです。既知のウイルスであった猫汎白血球減少症(ねこはんはっけっきゅうげんしょうしょう)ウイルスとミンク腸炎ウイルスなどのウイルスが野生動物の体内で突然変異を起こして発生したと考えられています。
犬のパルボウイルス感染症の原因とは?
パルボウイルス感染症は口からウイルスが入り込んで感染する、経口感染が主な原因とされています。犬の場合、毎日の散歩時に感染している他の犬の糞などを舐めたり、感染した犬に直接触れたりしてしまうと、そこからウイルスが侵入して感染します。
パルボウイルス感染症にかかりやすい犬種やライフステージはある?
まだ免疫が充分に働いていない、生後1~6か月くらいの子犬でよく感染がみられます。成犬になると免疫力が高まり、ワクチン接種も進むため、万が一感染しても軽症で落ち着くことがほとんどです。また、どの犬種でもかかる可能性はあります。なかでもワクチン接種が終わっていない子犬はかかりやすいと言えるでしょう。
犬のパルボウイルスの感染症の症状とは?
パルボウイルスの潜伏期間は4日から長くても2週間と言われています。発症すると消化器系に症状が現れますが、早い場合だと数時間~2日程度で死亡してしまうこともあるとても怖い病気です。主な症状としては以下のようなものが挙げられます。
嘔吐
ウイルスが腸粘膜で増殖することで、嘔吐症状も見られます。
下痢、血便
腸粘膜でのウイルス増殖により下痢を引き起こしますが、さらに悪化することにより、血便が見られることもあります。
元気の消失
嘔吐や下痢によって体力が奪われてしまい、元気が消失します。
発熱
ウイルス感染による発熱が見られます。
食欲不振
パルボウイルスは主に腸粘膜で増殖しますので、消化器に負担を及ぼして食欲がなくなります。
脱水
腸粘膜でのウイルスが増殖する影響で、大腸での水分再吸収が行われにくくなり脱水症状を起こします。
体重の減少
消化器の負担により、取り入れたご飯の消化吸収能力が落ちます。また、食欲不振から食べる量も減ることから、体重が減少します。
白血球の減少
パルボウイルスは骨髄にも感染を起こすため、症状の悪化に伴って骨髄の細胞が破壊されます。骨髄が機能しなくなると白血球生成が行われなくなります。
重症の場合の症状
重症化すると白血球減少に伴って二次的に細菌感染を起こします。それが原因となって心筋炎や敗血症を引き起こし死亡することも。また、度重なる下痢・嘔吐から脱水や低血糖を招いてしまい、昏睡状態になる可能性もあります。
犬のパルボウイルス感染症の予防方法とは?
原因が目に見えないウイルスですので、気づかないうちに感染してしまっていることがほとんどです。それを防ぐには、日ごろからきちんとした予防や消毒を心がけることが大切です。基本的にはワクチンで防げる病気でもありますので、必ずワクチン接種を受けてください。日頃から気を付ける予防のポイントとしては以下を覚えておきましょう。
ワクチン接種をする
まずは、ワクチン接種をすることがパルボウイルス感染症の予防に繋がります。パルボウイルス感染症は愛犬の命にかかわる病気であるため、そのワクチンはすべての犬猫に接種すべき「コアワクチン」に分類されているほどです。
家にあるものを消毒する
パルボウイルスの消毒には次亜塩素酸ナトリウム(塩素)を用います。パルボウイルスは、便などに付着して排出された後も約3か月~1年近く生存できると言われています。愛犬の口に入る可能性があるものはしっかりと消毒することをおすすめします。
パルボウイルスを消毒するには?
消毒に有効な次亜塩素酸ナトリウムは、家庭にある塩素系漂白剤に含まれていることが多いため、薄めたものに漬け置きしたり、スプレーしたりするなどして消毒します。パルボウイルスは消毒にも強いので、念入りに行うといいでしょう。
免疫力をつける
充分な免疫つけることはウイルスと戦って排除することにつながります。愛犬の免疫がしっかり働けるように腸内環境を整えたり、ストレスを与えたりしないなどの対策を行うと良いでしょう。
犬がパルボウイルス感染症にかかった場合の対処法は?
経験者でない限り、愛犬がパルボウイルスに感染したと判断することは難しいです。愛犬の様子がいつもと違う、嘔吐や下痢などの消化器症状が出ている、ぐったりしているなどの症状が見られた場合には、速やかに動物病院を受診することを強くおすすめします。
動物病院へ連れていくタイミング
愛犬の様子を観察して、嘔吐や下痢など前述したパルボウイルスの症状がひとつでも出ていたら、手遅れになる前にすぐに病院を受診しましょう。
動物病院での検査とは?
血液検査、抗原検査キットや糞便のPCR検査を行います。ただし、初期段階の場合には十分なウイルス量がないため陰性になることがあるので注意が必要です。
他の犬への二次感染にも気を付ける
もし、愛犬がパルボウイルスにかかっていることがわかったら、公共の場所では排泄させないようにしましょう。排泄は基本的にペットシーツの上などでさせて、そのまま袋に包んで処理をすると良いでしょう。その際には使い捨てのゴム手袋などをして、使ったものは都度捨てるということを意識してください。
犬のパルボウイルス感染症の治療法とは?
現在、パルボウイルスに直接働きかける治療薬はなく、主に対症療法を行います。治療費は症状の重さによって変わるので、あくまでも参考程度にとどめてください。
抗生剤の投与
抗生剤を注射、もしくは内服させます。どのくらいの期間投与するか、投与する犬のサイズでも変わりますが、完治するまでおよそ1~1.5万円程度は費用がかかることが多いようです。
制吐剤
治療の一環として、嘔吐を抑える制吐剤を注射で投与することがありますが、1回あたり概ね1,500~2,000円程度の費用がかかります。
輸血療法
輸血による治療を行うこともあります。平成26年度のデータだと輸血料金の中央値は10,542円だそうです。ただこちらに採血や留置処置の費用、入院費、ドナー犬の準備費用、血液型判定やクロスマッチ試験等を行わなくてはいけないので、結果的に費用は3~4万程度すると考えられます。
その他の治療
点滴治療を行うこともありますが、こちらも点滴の日数や感染犬のサイズによりけりです。費用は1.5~2万円程度です