転勤族の夫とともに、全国を転々としている。現在は東京の片隅で書店員として勤務。今年、『書店員は見た 本屋さんで起こる小さなドラマ』を上梓した。

大型犬が転勤族の家の前に捨てられていた……!
捨て犬を家族に迎え、少しずつ形を変えていく家族の日々。
森田めぐみさんと、愛犬・レイルくんとの10年を振り返っていきます。毎月第2・第4水曜日更新
目次
- 再び体調が悪化した、愛犬・レイル
- 調子良い日は、軽快にお散歩も
再び体調が悪化した、愛犬・レイル
5月に入ると、レイルの体調はガクンと悪くなった。
トイレに行くときも動きがゆっくりになり、立ち上がるのも億劫な様子で、名前を呼んでも顔を上げることなく、尻尾を小さくパタパタと振るだけ。意識はしっかりしているが、今まで以上に眠っている時間が長くなった。
とりわけ大変だったのが食事で、つい先週までガツガツ食べていたフードを残すようになり、ふやかしてみたり、カリカリとペーストを混ぜてみたりと、試行錯誤。
はじめの1週間は、ふやかしたものと缶詰を混ぜてどうにかなっていたものの、翌週はそれも食べなくなる。
私の手にごはんを載せると口をつけるので、時間をかけて手から食べさせる。
どうやら嚥下機能が大きく低下しているみたい。
大好きな鶏のササミも飲み込めなくなってしまったため、ブレンダーで攪拌(かくはん)してペーストにする。
困ったのは薬で、固形なのでどうしても飲み込めず、それではと砕いて混ぜると味が変わるので食べない。薬だけは絶対に欠かさず飲んで欲しいので、格闘しながら与えていた。
何とか食べ切ると、今度はお腹を壊す。
最後の1カ月は、下痢との戦いと言っても良かった。
レイルは素晴らしいことに、絶対に敷物の上には粗相をしないのだが、それでも床にしてしまうとショックなのか、しょぼくれた表情でこちらを見上げる。
「気にしなくていいんだよ!」頭を撫でて、ビニール手袋を着け、大量のトイレットペーパーや吸水シート、大きなビニール袋を手に始末する。
我が家のリビングには、いつもアルコール消毒液の匂いが漂っていた。
調子良い日は、軽快にお散歩も
5月も半ば、気候の良いある日。レイルはいつもより調子が良さそうに、いつもの野原までの短い道のりを軽快に歩いた。
こちらを見上げてニコニコ笑うレイルに嬉しくなり、私の足取りも軽くなる。
ご近所さんに頭を撫でてもらい、野原の中をぐるぐる周り、用を足したレイルに、私が「そろそろ帰ろう」と声をかけると、あれ、様子がおかしい。
レイルは、困った顔をして、私のことをじっと見ているのだ。
なぜか座ったまま、立つことが出来なくなってしまったようで、本人もそれに困惑し、「あれ? どうしたんだろう……」と首を傾げている。
慌てて、家にいる息子をスマホで呼び出し、ふたりで抱えて家に連れて帰ることに……。
家までの、ほんの数十メートルが、まぁ長いこと!!
レイル(力が抜けた42キロ)を抱えて歩くのは、力のある息子とふたりがかりとはいえ、めちゃくちゃ重い。
家に着き、肩で息をしながら「もう、大型犬と暮らすのはレイルで最後にするしかないな……」と思う。
年齢的にそろそろ厳しいかもしれないと思っていたことだけれど、こりゃもう無理だわと痛感した出来事だった。今日は息子がいたから何とかなったけれど、私ひとりでは絶対にどうすることも出来なかったもの。
その夜、レイルは何も口にしなかった。
フードも、ササミも、それどころか水にも口をつけない。
小さなスポイトで、レイルに水をあげながら、スポイトの水の10倍くらいの量の涙が、私の両目からボタボタと床に落ちる。
別れは、私が思うよりもすぐやって来るのかもしれなかった。



















