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コロナ禍でおうち時間が増えている昨今、犬の飼い主に挑戦してもらいたいのが、愛犬のツボ押しマッサージ。スキンシップによって愛犬との信頼関係が深まるだけでなく、愛犬は心身をリラックスすることもできるのです。そんな犬のツボ押しマッサージについて、「家族の東洋医学」を目指して診療活動を行う「chicoどうぶつ診療所」所長で獣医師の林美沙先生に解説していただきます。
目次
- 犬のツボ押しマッサージとは?
- 犬のツボ押しマッサージの基本準備や手順
- 犬のツボはどこにある?
- 犬のツボの正しい押し方は?
- 犬の顔・頭・耳のツボ押しマッサージ
- 犬の首・肩のツボ押しマッサージ
- 犬の足・肉球のツボ押しマッサージ
- 犬の胸・お腹のツボ押しマッサージ
- 犬の背中・お尻のツボ押しマッサージ
- 犬のツボ押しマッサージの注意点は?
犬のツボ押しマッサージとは?
通常のリンパマッサージはリンパ液の流れを良くすることで、老廃物を排出する働きを促進します。一方、ツボ押しマッサージは、自律神経に作用することで、体の各器官の働きかけを調整し、体の不調を和らげ健全な状態へと導く効果があります。
犬のツボ押しマッサージの基本準備や手順
犬のツボ押しマッサージは施術者によって流れや手順、効果なども変わってきますが、一般的な流れを簡単に説明します。
1.頭から腰をなでる
まず、頭から腰をなでてマッサージを始めるという合図を犬に送ります。この部分をなでるだけでも、全身の「陽気」(体を温める力)が集まる「督脈(とくみゃく)」と、五臓六腑のツボが全てあるため万病を癒すといわれる「気血」(生命活動のエネルギー源)の通り道の「膀胱経(ぼうこうけい)」に働きかけることができるのです。その後は首から前足まで、腰から後ろ足の足先まで、顔周りの順番にマッサージします。
2.背中の腎兪を刺激する
次に、東洋医学において体のエネルギーを貯めているといわれる「腎(じん)」(西洋医学でいう腎臓だけでなく膀胱やホルモン系、生殖器系なども司ります)に働きかける「腎兪(じんゆ)」というツボを刺激します。腎兪は背中にあります。
3.肉球の湧泉と背中の督脈を刺激する
その次に、後ろ足の肉球部位にある元気の源となるツボ「湧泉(ゆうせん)」を刺激し、最後に背中の皮膚を引っ張り上げたりねじったりして、「督脈(とくみゃく)」を押してあげて終了です。
犬のツボはどこにある?
犬のツボは人間と同じように頭や足、お腹など、さまざまな部位に存在します。部位によって体のさまざまな部分に効果があるため、犬の体調や特徴に合わせてツボ押しのマッサージをしましょう。
犬のツボの正しい押し方は?
風船を押したときに少しへこむくらいの力加減が理想とされています。ツボを押す基本の圧は500g以下と言われており、スケールなどを使って力加減を調べてみると良いでしょう。実際に試すときは、犬の様子を見ながら少しずつマッサージをしていきます。
犬の顔・頭・耳のツボ押しマッサージ
顔周りには咀嚼筋があり、口を動かすことで発達するので、顎周りが凝りやすいと考えられます。また、頭には疲れを緩和させるツボが多いです。
おすすめのツボ
- 百会(ひゃくえ):頭の上部のツボで、ストレスに緩和や老化防止におすすめです。
- 四神聡(ししんそう):百会の前後左右4つのツボでなる部位です。精神状態を落ち着かせ、頭をすっきりさせる効果があります。
- 風池(ふうち):血行促進、眼精疲労、肩コリ、背中の痛み、自律神経のバランス調整などに効きます。
- 印堂(いんどう):ストレス改善、脳機能のケアにも。
- 攅竹(さんちく):視力回復、緊張をほぐす効果があります。
- 上関(じょうかん)・下関(げかん):顔面麻痺、痙攣に効果的です。
犬の首・肩のツボ押しマッサージ
犬は前足に重心がかかりやすい体のつくりをしています。さらに、飼い主を見るときは首を上げたり、食事の際は下げたりと上下に運動するため、首や肩周りが凝りやすい傾向にあります。
おすすめのツボ
- 天柱(てんちゅう):首周りにあるツボで、脳機能障害に効果的です。
- 風府(ふうふ):頚部椎間板ヘルニアや前庭疾患に効く首のツボです。
- 大椎(だいつい):発熱、咳、背中の痛みに効果あり。
- 肩井(けんせい):首肩周りの凝りにおすすめ。
犬の足・肉球のツボ押しマッサージ
四本足で歩いているため、上腕三頭筋が疲れがちです。また、後ろ足は人間でいうと常につま先で歩いているのと同じ状態のため、疲労が溜まりやすくなっています。
おすすめのツボ
- 湧泉(ゆうせん):後ろ足の肉球下にあるツボで、免疫安定やむくみに効果があります。
- 失眠(しつみん):後ろ足のかかとにある神経を落ち着かせるツボです。
- 神門(しんもん):小指の肉球下にある神門は乗り物酔いにも効きます。不安感や緊張感を和らげたり精神を安定させたりします。
犬の胸・お腹のツボ押しマッサージ
体を支えている前足に負荷がかかりやすいことから、胸の周辺の筋肉には疲労が蓄積しやすくなっています。
おすすめのツボ
- 中脘(ちゅうかん):胸骨の近くにあるツボで、胃腸障害に効果的です。
- 丹田(たんでん):おへその下にあり、ストレス解消や加齢による諸症状にも効くツボ。
- 神闕(しんけつ)・天枢(てんすう)・関元(かんげん):胃腸障害に効果があります。
犬の背中・お尻のツボ押しマッサージ
どの犬種も共通して、前足の付け根から背中にかけては広背筋に凝りが見られやすいです。また、体のバランサーとして働くしっぽの周りにも疲れが溜まりやすいでしょう。特に胴長短足の犬種は腰回りに負荷が強くかかるため、筋肉が凝りやすい傾向があります。
おすすめのツボ
- 中枢(ちゅうすう)・脊柱(せきちゅう)・懸枢(けんすう):椎間板ヘルニアに効果的な背中のツボです。
- 夾脊(きょうせき):背中のツボで、内臓に異常があったときのケアに良いです。
- 腎兪(じんゆ):腰や下肢のだるさ、冷えに有効です。
- 命門(めいもん):生命の門を意味するツボで、エネルギーが集まる重要な場所。冷えや生殖器のトラブルに有効。
- 腰百会(こしひゃくえ):体のバランスを整える作用があり、体を温めたり、神経を落ち着かせる効果も。
犬のツボ押しマッサージの注意点は?
犬がツボ押しマッサージを嫌がった場合、無理にしようとせずにやめてあげましょう。もしも、触られること自体を嫌がった場合は、怪我などをしている可能性もあります。
炎症を起こしている、骨折している、腫れがある、腫瘍があるといった部分についても、触って刺激しないようにしてください。
また、ツボを押す際に、500g以上の圧をかけないでください。妊娠中の犬や著しい衰弱が見られる犬の場合には、刺激を控えたほうが良いツボもありますので注意しましょう。
第2稿:2021年4月23日更新
初稿:2020年7月24日公開