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chicoどうぶつ診療所所長。体に優しい治療法や家庭でできるケアを広めるため、往診・カウンセリング専門の動物病院を開設。
家族同然に暮らしてきた愛犬にもいつか最期の時がきます。悲しいことですが、飼い主としては責任をもって、悔いの残らないように看取ってあげたいものです。今回は、chicoどうぶつ診療所の所長である林美彩先生に、老犬の最期の前兆となる老衰の症状から、最期の理想的な見送り方までを解説していただきました。
目次
- 犬の平均寿命は何歳くらい?
- 犬の老衰の症状とは?
- 犬の老衰の前兆とは?
- 愛犬に老衰の症状が見られた場合の対処法は?
- 愛犬の最期を看取る準備と、飼い主として意識しておきたいことは?
- 愛犬の最期が近づいてきた時にやってあげたい行動とは?
- 愛犬が亡くなった時に用意すべきこと
- 愛犬が亡くなった時に行うべきこと
- 愛犬の安楽死という選択
- 愛犬の死後、飼い主がペットロスにならないようにするには?
犬の平均寿命は何歳くらい?
一般社団法人ペットフード協会によると、2014~2017年の5年間、犬全体の平均寿命は14.29歳でした。もちろん、長生きで元気な犬もいますが、愛犬の年齢が寿命に近づいてきたら老衰の症状がいつ現れてもおかしくありません。
犬の老衰の症状とは?
人間同様に、犬も加齢によって身体機能が衰弱してきます。老衰の症状としては、積極的に遊ばない・散歩に行きたがらない・歩くペースが遅くなる・睡眠時間が長くなる・食事量が減ってくるなどが挙げられます。
犬の老衰の前兆とは?
犬の老衰は徐々に進行していきます。愛犬の年齢と照らし合わせて、前まで見せなかったような行動を取り始めたりしたら、老衰を疑ってみても良いかもしれません。老衰の前兆としては、以下のような状態が現れます。
けいれんや粗相をするようになる
膀胱にためられる尿の量が減ったり、けいれんによる歩行困難でトイレまで間に合わなかったりして、トイレの失敗が増えます。腎臓に問題があって尿の量が増える犬もいます。また、筋肉が緩みやすくなっているので便が漏れ出てしまうことがあります。そういった際には感情的に叱ったりせず、冷静に対処してください。
食欲が減る、太りやすくなる
食事することが難しくなり、食べる量が減ったり、食事自体を受け付けなくなったりします。また、運動量が低下しますので、今までと同じカロリーを摂取していると、太りやすくなることもあります。
体温が低くなる
代謝が低下することにより体に熱が生み出しにくくなり、体温が低くなります。
反応が鈍くなる
視覚、聴覚、嗅覚が衰えることによって反応が鈍くなります。中には意識レベルが下がることにより、以前よりぼーっとしているように見える場合もあります。
睡眠時間が長くなる、動きがゆっくりになる
活動量が減り、寝ている時間が長くなります。時には昼夜逆転してしまうこともあり、なかなか起きなかったり、身体の反応が鈍くなります。
動きがゆっくりになる
散歩に行きたがらなくなり、歩き方がゆっくりになります。あわせて、少しの段差につまずいたりと、運動機能が低下し始めます。
耳が遠くなる
愛犬の名前を呼んでも、振り返らないこともあります。周囲への関心が低くなって反応しない可能性もありますが、呼びかけた際に犬の耳が動かなければ、聴覚の衰えが原因かもしれません。
口臭がきつくなる
唾液には口内を殺菌する役目があるのですが、唾液の分泌が減ることで歯石がつきやすくなり、口臭がきつくなります。
呼吸が浅くなる、荒々しくなる
酸素の取り込みがうまくできず、浅い呼吸になったりと、今までの呼吸状態から変化が見られます。
愛犬に老衰の症状が見られた場合の対処法は?
高齢になった犬は心も体も弱っているもの。老化のスピードは想像よりもはるかに早い場合もあります。老衰の症状が見られたら、できるだけ生活環境を変えないように努めましょう。また、体調の変化があれば早めに動物病院を受診するようにしましょう。以下のような行動を意識してみてください。
体のケアをする
寝たきりになってしまうようであれば、床ずれを防止するためのクッションを買ったり、体位変換を行ったりすると良いでしょう。マッサージなどで体に刺激を与えるのも効果的です。体の汚れから皮膚病を起こしてしまうので、タオルで拭くなどして清潔に保つなどのケアも必要です。
スキンシップを取る時間を増やす
体調が悪く、元気がないときに心細いのは、犬も人間も同じです。愛犬がいちばん頼りにしているのは、飼い主です。時間があるときにはそばに寄り添って不安を和らげてあげるようにしましょう。
病院に連れていくかを決める
最期の時を自宅で迎えるか、病院に任せるかを、決めておくといいでしょう。まだ早いと思われるかもしれませんが、この時期に、落ち着いて悔いの残らない決断をしておくことをオススメします。仮に入院させると適切な治療を受けやすい反面、最期の時を一緒に過ごせなくなる可能性もあります。愛犬の状態を把握している獣医師に相談に乗ってもらうこともできます。
気持ちに整理をつける
飼い主にとって、最も難しいことかもしれませんが、愛犬の死が近づいていることを受け入れなくてはなりません。犬は飼い主の落ち込んだ気持ちを察知してしまいます。悲しい思いをさせないためにも、気持ちの整理をして、愛犬と暮らした楽しかった日々を思いながら前向きに乗り越えましょう。残り少ない日々を悔いのないように過ごすことが大切です。
愛犬の最期を看取る準備と、飼い主として意識しておきたいことは?
愛犬の最期を看取る際、焦ってしまうと万全の態勢で送ることができず、後悔が残ってしまいます。事前準備をしっかりと行って、しっかりと送れるようにしましょう。
延命治療の有無を決めておく
病院で処置を続けるのか、自宅で一緒に過ごすのかを決めておくことが最期を迎える上での重要な準備にもなります。病院で延命治療を行う選択もできますが、強制給餌やチューブを介した栄養補給など、愛犬の身体に負荷のかかる措置がとられるので、十分に検討をしてから決定するようにしましょう。
埋葬の手段と場所を考えておく
信頼できる霊園や葬儀場を決めておきましょう。供養の仕方は各家庭で異なりますので、家族で話し合いをすることが重要になります。動物病院で提携している場所がある場合もあるので、判断に迷った場合、病院にも相談してみたりするとよいかもしれません。
最後まで悔いの残らない介護をする
繰り返しになりますが、命あるものにはいつか必ず最期が訪れます。どんな最期でも後悔はつきものだと思いますが、それがほんの少しでもなくなるように、できる介護を手抜きをせずに精一杯に取り組むことが大事です。
悲しくても明るい気持ちで接する
犬は人間の気持ちを汲み取るのが上手です。飼い主が悲しんでいることによって、生命力が落ちてしまうようなこともあります。近くにいるよ、という安心感を与えてあげることが大事です。
愛犬の最期が近づいてきた時にやってあげたい行動とは?
お別れの時が近いとき、飼い主として最大限に愛犬の不安をなくしてあげることが重要になってきます。以下の対応を心がけて、安心して送ってあげるようにしましょう。
優しい言葉、感謝の言葉をかける
たくさんの愛情を注いであげることが、犬の安心感につながります。今まで一緒に過ごしてきてくれたことへの感謝を忘れずに伝えてあげましょう。
笑顔で接する
最期の時に笑顔で接するのは、愛犬のためにも飼い主自身のためにも、とても大切なことです。飼い主は少しでも前向きな気持ちになれますし、愛犬に安心感を与えることにつながります。
抱っこしてあげる、身体を優しく撫でてあげる
飼い主の匂いや温もりを犬はずっと覚えているものです。少しでも愛犬の不安を取り除いてあげられるように抱いてあげたり、撫でてあげるのは非常に良いでしょう。
愛犬が亡くなった時に用意すべきこと
愛犬が亡くなった時、用意すべき物品がいくつかあります。スムーズに送り出せるように以下のものを用意しておくようにしましょう。
綺麗なタオル、愛犬入るサイズの棺・箱
ご遺体をタオルで包んだ後に、ご遺体を入れるための棺や箱が必要になります。病院でも棺を用意してくれる場合がありますので、事前に確認しておくとよいでしょう。
保冷剤またはドライアイス
ご遺体が傷まないよう、早い段階できれいにして冷やす必要があります。霊園や葬儀場に運ぶときに保冷剤やドライアイスを入れますので、ふやけにくいようなものを使用すると良いでしょう。
お花
必須ではありませんが、愛犬に居心地の良い場所を作ってあげるという意味で、用意しておくといいでしょう。
おやつや大好きなおもちゃなど(燃えるもの)
旅立ちの際に愛犬がさみしくないよう、また向こうにたどり着いたときに退屈したり、おなかを空かせたりしないように、生前に好んでいたものを入れてあげましょう。
愛犬が亡くなった時に行うべきこと
愛犬が亡くなった際は、関係各所と協力をして送り出してあげる必要があります。それぞれ必要な事項を事前にインプットして心を落ち着かせて対応しましょう。
葬儀会社に連絡する
信頼できる霊園や葬儀場を決めておきましょう。葬儀に関するプランは色々あるので、事前にどのような形で供養したいのか、予算なども含めて、考えておくといいかもしれません。
身体をキレイに拭いてブラッシングをする
亡くなった後は全身の筋肉が弛緩しますので、口や鼻、お尻から体内に残っているものが出てきてしまうことがあります。お体をきれいにしてあげてから、口、鼻、お尻に詰め物をしてあげてください。ご自宅で難しい場合には病院で行ってもらってください。
タオルにくるみ、棺代わりの箱に入れる
ご遺体はタオルに包み、用意した箱や棺にいれるようにしましょう。前述しましたが、病院や葬儀場などで準備してくれることもあります。
愛犬の安楽死という選択
飼い主の中にはこれ以上愛犬に苦しい状態が続かぬよう、苦しさから解放させてあげる一つの治療法として安楽死を選択する方もいらっしゃいます。尊い命に関わることなので、「こうすることが正解だ」という考えはなかなか出せないものです。延命治療をするかどうかも含め、ご家族と話し合っておくといいでしょう。
愛犬の死後、飼い主がペットロスにならないようにするには?
大切な愛犬を亡くしてしまったら、寂しさや悲しさを感じるのは当たり前の事です。ただし、そうした気持ちを長期間引きずって、いつまでも前向きになれないのは、飼い主さんにとっても、亡くなられた愛犬にとっても辛いことです。そうならないためには、少しでも後悔しないように今できる介護をしっかりとやり遂げること、愛犬にたくさんのありがとうと伝えるのを忘れないようにすることが重要になります。愛犬との思い出の場所を巡るのもよいかもしれません。
また、亡くなった後、無理やり明るく過ごそうとするとペットロスは強く出やすくなります。自然と心が穏やかになるのを待ちつつ、グリーフケアなどを受けてみるのもよいかもしれません。
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