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バーニー動物病院千林分院分院長。ペット薬膳管理士、中医学アドバイザー。動物病院でペットの診療にあたる傍ら犬猫の手作りご飯教室や問題行動のカウンセリングを行う。
犬の嗅覚は非常に優れていることで有名ですよね。実際、警察犬は足跡などのわずかな匂いをたよりに犯人を追跡したり、遭難者を探し当てたりすることができ、人間と比べてもはるかに嗅覚が発達しています。この記事では、犬の嗅覚はどれほどすごいのか、どこまで嗅ぎ分けることができるのかなどについてバーニー動物病院千林分院 分院長の堂山有里先生監修のもと、詳しく解説していきます。
目次
- 犬の嗅覚は人間の何倍?
- 犬の嗅覚がすごい理由は?
- 犬がいろんなものや人、他の犬の匂いを嗅ぐ理由は?
- 嗅覚が優れている犬にとって好きな匂い・苦手な匂いはあるの?
- 犬種によって嗅覚に差はあるの?
- 警察犬は嗅覚を高める特別な訓練を受けているの?
- 嗅覚の優れている犬と暮らす上での注意点は?
- 犬の嗅覚は年齢とともに衰える?
犬の嗅覚は人間の何倍?
犬は人間よりも敏感に匂いを感じることができます。犬の嗅覚は、嗅ぎ取る匂いの種類にもよりますが、人間の数千~1億倍とも言われることも。
ただ、犬も人間も匂いを感じる基本的な仕組みは同じです。嗅上皮と呼ばれる鼻の粘膜にある嗅細胞に匂い分子がくっつくことで脳に情報が伝わり、匂いとして認識されます。犬の嗅覚が優れているのは、この嗅上皮の範囲が人間よりもはるかに広いためです。犬の嗅上皮の面積は人間の40〜50倍にもおよび、匂い分子をキャッチする嗅細胞の数も人間と比べて圧倒的に多いです。犬種にもよりますが、牧羊犬では1〜2億倍ほどあるとも言われています。
犬の嗅覚がすごい理由は?
犬の嗅覚が優れていることはよく耳にしますが、実際にどのような点が優れているのか、具体的に見ていきましょう。
わずかな匂いを嗅ぎ分けることができる
犬は嗅上皮の面積が広く、嗅細胞の数も人間と比べて圧倒的に多いです。そのため、人間では感知できないわずかな匂いでも嗅ぎ分けることができます。
どのくらいの距離まで嗅ぎ分けられる?
前述の通り、犬はわずかな匂いを嗅ぎ取ることを得意としています。そのため、特に嗅覚の優れた犬では、4日前の人の足跡の匂いを嗅ぎながら160kmも追いかけることができた、という実験結果もあるそうです。また、8km先の発情中のメスの匂いを察知できるとも言われています。
犬が嗅ぎ分けるのが得意な匂い
犬の嗅覚は、どんな匂いでも等しく嗅ぎ分けられるわけではなく、感知しやすい匂いもあれば、感知しにくい匂いもあります。犬が得意とする匂いとしては、以下の2つが挙げられるでしょう。
酢酸
酢酸は、天然に広く存在する脂肪酸の一種です。人間の汗に含まれる酸っぱい匂いの成分で、酸味と刺激臭を放ちます。
吉草酸
カノコソウの根と根茎から抽出される脂肪酸の一種です。足の裏で菌が増殖して発生する独特の匂いは、この異性体であるイソ吉草酸が原因。犬は人間が感知できる濃度より170万倍薄くても、吉草酸の匂いを嗅ぎ取れると言われています。
犬がいろんなものや人、他の犬の匂いを嗅ぐ理由は?
犬は散歩の最中などに、見知らぬ人や他の犬、道端の草花などさまざまな対象の匂いを嗅ぎますよね。犬がこのような行動を取る理由は、情報収集をするためです。犬は人間ほど視力が良くない代わりに、匂いの情報を用いて外の世界を認識します。私たちが目で見て情報を得ているように、犬は匂いを嗅いで情報を得ているのです。例えば、その道を通った犬の性別や体の大きさ、どのくらい前に通ったのか、若いのか年をとっているのかなど、匂いを嗅ぎ分けることで、さまざまな情報を得ていると考えられています。
嗅覚が優れている犬にとって好きな匂い・苦手な匂いはあるの?
犬の匂いの好みには、生まれつき備わっている本能的な好みと、その匂いを嗅ぐと良いこと・悪いことがあったという経験から生まれた好みがあります。ここでは一般的に犬が好む匂いと苦手な匂いをそれぞれ見ていきましょう。
犬にとって好きな匂い
飼い主の匂い
犬が飼い主の匂いを好むのは、大好きな飼い主の匂いを嗅ぐと心地よい気持ちになるからだと言えます。嗅覚は大脳辺縁系と呼ばれ、最も原始的な脳に作用する感覚です。ある匂いを嗅ぐと懐かしい気持ちになったり、特定の記憶が呼び起こされたりする経験をしたことがある人も多いのではないでしょうか? 匂いの記憶は脳に直接作用し、感情を揺さぶるもので、犬も例外ではありません。
食べ物の匂い
食べ物に対する匂いの好き嫌いには個体差があります。しかし、肉や魚、乳製品などのタンパク質の匂いは、犬にとって生きるために必要なものを意味するため、本能的に好む匂いと言えるでしょう。
犬にとって苦手な匂い
タバコ・アルコールの匂い
犬は一般的に、刺激の強い匂いや人工的な匂いは好みません。タバコの煙やアルコールは犬にとって刺激の強い匂いのため苦手です。
強い芳香剤の匂い
芳香剤の香りは、自然界に存在しない人工的な匂いのため、犬は好みません。
ツンとした酢の匂い
ツンとした匂いや酸臭は食物が腐敗していることを意味するため、犬は本能的に避けると言われています。
柑橘系の匂い
柑橘系の匂いが苦手な犬もいます。柑橘系の果物の皮に含まれる精油の香りが不快感を与えると考えられるでしょう。
犬種によって嗅覚に差はあるの?
犬は嗅覚が優れた動物ですが、匂いを嗅ぎ取る能力には犬種によって差があります。嗅覚が優れた犬種と嗅覚が弱い犬種をそれぞれ見ていきましょう。
特に嗅覚が優れた犬種
犬の中でも、鼻が長い犬種は嗅上皮の面積が広い分、嗅細胞の数も多く、嗅覚が優れています。また、柴犬は数ある「猿追い犬(モンキードッグ)」の一種として活躍していたそう。猿追い犬とは、農作物の被害を防ぐために猿を山へ追い戻す日本の使役犬です。日本犬はもともとマタギ猟で樹上の獲物を追うことが多かったため、本能的に上方に漂う匂いを感知することに長けていると考えられています。
嗅覚が弱い犬種
- パグ
- フレンチ・ブルドッグ
- ボストンテリア
短頭種と呼ばれる犬種は、鼻が極端に短いため嗅、上皮の範囲が狭く、かつ鼻の穴の開口部が狭く、空気が鼻に入ってくる量が少ないため嗅覚が弱いと考えられます。
警察犬は嗅覚を高める特別な訓練を受けているの?
犬は生まれつき優れた嗅覚を持っていますが、その能力を最大限に発揮するため、特別な訓練を受けているのが警察犬です。警察犬には、複数の匂いを正確に嗅ぎ分けたり、地面に残ったわずかな匂いをたどって対象を追跡したりする能力が求められます。そのため、それに特化したスキルを訓練によって身につけているのです。
嗅覚の優れている犬と暮らす上での注意点は?
人間よりも嗅覚が優れている犬は特に匂いに対して敏感なので、一緒に暮らす際は以下の点に注意しましょう。
刺激の強い芳香剤や洗剤は使わない
犬は人間が感じている以上に微細な匂いを感じ取っています。芳香剤や床のフロアモップ、柔軟剤などで匂いの強いものを使うのは避けたほうがよいでしょう。また、香水や化粧品など、日常生活の中で人間には心地よく感じられる匂いでも、犬には刺激が強く不快に感じられることがあります。犬がその匂いを嫌がっていないかどうか飼い主が意識的に確認し、気を配ってあげることが大切です。
発情中のメスの匂いを追ってしまわないよう注意
犬は、8km離れた場所にいる発情中のメスの匂いを嗅ぎ分けられると言われています。特に去勢手術をしていないオスは、近くに発情中のメスがいると追いかけたり、過度に興奮してしまったりすることもあるので気をつけましょう。
初めての場所で匂いを嗅ぐことをやめさせない
匂いを嗅ぐことは犬にとって大切な情報収集の手段です。匂いを嗅ぐ能力を高めることは犬の生活をより鮮やかに、より暮らしやすいものにすることにつながります。散歩中や初めての場所で夢中になって匂いを嗅いでいるときは、その場で一生懸命に情報処理を行なっているということです。そうした場面では、無理やり嗅ぐのをやめさせるのではなく、愛情を持ってその様子を見守り、少し待ってあげるようにしましょう。
犬の嗅覚は年齢とともに衰える?
犬の嗅覚は年齢とともに衰えていきますが、視覚や聴覚などその他の感覚と比べると、衰えにくいと言われています。犬は、目や耳の機能が低下しても、嗅覚を頼りに人やものを認識することができます。それだけ嗅覚は犬にとっては重要な感覚なのです。