更新 ( 公開)
こころ鳳ペットクリニック、大阪どうぶつ夜間急病センター所属。小動物臨床に従事。犬猫をはじめ、鳥類、爬虫類、両生類、霊長類など様々な小動物の診療・手術執刀を行う
犬のリンパ腫は程度の差はありますが、すべてが悪性のがんです。全身性のがんで、血液のがんに分類されます。残念ながら原因は未だ解明されていません。遺伝的な要因や発がん物質の摂取、炎症性疾患、感染症、加齢など複数の要因が重なっていると考えられています。悪性リンパ腫は一度発症すると完治は難しく、無治療の場合、早期に死に至る確率が高い病気です。そのため早期発見、早期治療が重要になります。いち早く詳しい検査をして、適切な治療をはじめましょう。
目次
- 犬の悪性リンパ腫とは
- 悪性リンパ腫にかかりやすい犬種と年齢
- 悪性リンパ腫の種類
- 悪性リンパ腫のステージ
- 悪性リンパ腫の症状
- 犬の悪性リンパ腫の検査方法と治療方法
- まとめ
犬の悪性リンパ腫とは
犬の悪性リンパ腫とは、血液のがんの一つであり、全身にいきわたる血液中の細胞「白血球」の一種であるリンパ球ががん化して増殖する悪性腫瘍です。リンパ腫は犬の造血系腫瘍の中で最も発生頻度の高い腫瘍であり、犬の腫瘍全体の7~24%を占めていると言われています。
リンパ腫は身体のほぼすべての組織に発生する可能性があります。リンパ腫に良性腫瘍はありません。種類はありますが、すべて悪性腫瘍で、ゆっくり病態が進行するものや、急速に悪化するものなどがあります。
悪性リンパ腫にかかりやすい犬種と年齢
リンパ腫にかかりやすいと言われているのは大型犬で、好発犬種はゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバー、ボクサー、バセット・ハウンド、セント・バーナード、ブルドッグなどが挙げられます。一方で発生リスクの低い犬種は、ダックスフンドやポメラニアンと言われています。
また、一般的に中~高齢(5~10歳)のころに発生することが多いようです。1歳未満で発生することは、ほぼありません。10歳の犬は1歳の犬より57倍もリンパ腫になりやすいとも言われています。
悪性リンパ腫の種類
リンパ腫は、発生する場所の違いによって「多中心型リンパ腫」「消化器型リンパ腫」「その他のリンパ腫」に分類されます。このうち「多中心型リンパ腫」が最も発生頻度の高いリンパ腫です。それぞれ、症状や治療に対する反応、治療後の経過は異なります。
多中心型リンパ腫
多中心型リンパ腫は、犬のリンパ腫の80~85%を占める最も発生頻度の高い種類です。同時にさまざまな臓器にリンパ腫が発生し、臓器ごとに異なる症状がいくつも出てしまいます。体表や体内にあるリンパ節のうちの複数(あるいはすべて)が大きく硬くなります。「顎に塊がある」「脇が腫れている」と気づいて、動物病院を受診するケースが多いようです。
消化器型リンパ腫
犬のリンパ腫のうち5~7%ほどの比較的発生率の低いリンパ腫です。犬の胃や腸には、消化管内にいる細菌や外部から入ってきた病原体から身体を守る消化器の免疫組織が存在します。そこに腫瘍が発生し、消化管リンパ組織、腹腔内のリンパ節が腫れます。塊のようなしこりができることもあれば、塊にならず消化管に広がることもあります。
その他のリンパ腫
皮膚に腫瘍ができる「皮膚型リンパ腫」があります。皮膚に腫瘍ができる「脂肪腫」や「肥満細胞腫」といった腫瘍や皮膚病と間違いやすいようです。また、肺や心臓がある胸腔内のリンパ組織が腫れる「縦隔型リンパ腫」もあります。他にも鼻、眼、神経などにも発生することがあり、発生する部位や進行具合により様々な症状を引き起こします。
悪性リンパ腫のステージ
犬のリンパ腫の進行状況を規定するために、世界保健機構(WHO)のステージ分類が広く用いられています。犬の多中心型リンパ腫においてWHO分類では、以下のステージⅠ~Ⅴとサブステージに分類し、ステージが高いほど生存期間が短いとされています。
◆ステージⅠ
単一のリンパ節および単一の臓器(骨髄は除く)のリンパ系組織に限局した病変が認められる
◆ステージⅡ
一つの部位における複数のリンパ節に浸潤している
◆ステージⅢ
全身のリンパ節に病変を認める
◆ステージⅣ
肝臓または脾臓にも浸潤している
◆ステージⅤ
血液や骨髄に腫瘍細胞が認められる、または他の臓器(眼、神経、肺など)への浸潤を認める
●サブステージ
ステージはさらに全身症状の有無によりサブステージa(症状なし)またはb(症状あり)に分けられる
悪性リンパ腫の症状
初期症状はリンパ腫の種類により様々
◆多中心型リンパ腫
主に見られる初期症状は、リンパ節の腫れです。初期症状では目に見える体調や食欲の変化は特に感じられず、いつも通り過ごしている場合が多いようです。見た目にわからなくても、体表にあるリンパ節に触ることで腫れを確認することができます。体の外から触れることができる犬の首、顎、脇、膝裏、足の付け根などのリンパ節に触ってチェックし、腫れていれば丸いものが手に触れますので発見しやすいでしょう。たとえば大型犬の首であれば、卓球のボールほどのサイズ、膝裏であればパチンコ玉ほどのサイズの丸いものが触れます。リンパ節が腫れる疾患には炎症(歯肉炎、皮膚炎など)、感染症(真菌、細菌、ウイルス)などもあるため、動物病院では鑑別診断を行います。
◆消化管型リンパ腫
消化管型リンパ腫の初期症状は、下痢、嘔吐、体重減少、食欲不振などの胃腸症状です。また血液中のタンパク質が何らかの原因で正常よりも減少する低タンパク血症も見られます。
◆皮膚型リンパ腫
一般的には、紅斑(こうはん)や丘疹(きゅうしん)、水疱などの湿疹症状が見られます。脱毛する場合もありますし、口内炎のように口の中の粘膜に症状が出ることもあるようです。ゆっくり進行していきますが、次第に皮膚に大きな塊ができて、ただれ、潰瘍、出血などを経て、リンパ節や肝臓、脾臓、肺などの臓器に転移します。場合によっては白血球が激しく減少して免疫力が低下し、発熱や倦怠感などの全身症状が見られることもあります。
◆縦隔型リンパ腫
呼吸の回数が増え、咳が出るなどの呼吸器症状が見られます。また、いつもはピンク色である口の中の粘膜や舌が青紫色や黒ずんだ色になっているチアノーゼといった症状も出る場合があります。
末期症状は明らかな異常
明らかな異常が目で見て確認できる場合は、症状がかなり進行している可能性が高いです。どのリンパ腫も病状が進むと、食欲不振、元気低下、体重減少などで、急激に痩せて体力が落ちる「がん悪液質」が見られます。またリンパ腫の種類や病態にもよりますが「呼吸困難」や「腸閉塞」などの症状も出てくる場合があります。
犬の悪性リンパ腫の検査方法と治療方法
検査方法
リンパ腫はすべてが悪性のガンです。詳しく検査をして正しく診断することが治療を成功させるポイントです。リンパ腫を診断するための検査には、主に2種類の方法があります。「生体組織採取検査(=組織生検)」と「細針吸引検査」です。
「組織生検」は全身麻酔下での外科的処置で、病変と想定されるリンパ節を切除し、顕微鏡で病理組織学的に検査する方法です。結果が出るまでに1週間ほど要しますが、針吸引検査に比べリンパ節の状態や病変をより詳細に知ることができます。また気道や食道を圧迫しているリンパ腫を外科的に切除することで、QOL(クオリティオブライフ)の改善も期待できます。デメリットは、全身麻酔下での外科的処置であるため、麻酔リスクを考慮する必要があることです。
「細針吸引検査」は、細胞診やFNA(=Fine Needle Aspiration)と言われることが一般的です。病変と想定されるリンパ節を針で刺し、細胞を採取します。その細胞をスライドガラスに載せ、塗抹を引いて染色し顕微鏡で観察します。診断精度は生検よりも落ちるデメリットはありますが、犬の負担が少なく安価で検査ができることがメリットです。
これらの検査に加え、さらにリンパ腫の種類を詳しく分析するために、特殊な検査を行う場合があります。
また、リンパ腫と診断してどこまで広がっているかを判定するには、身体検査、血液検査、尿検査、画像検査(超音波検査、レントゲン検査、CT検査など)といった全身の検査が必要です。
治療方法
リンパ腫は、サプリメントや食事療法のみで治ることはありません。抗がん剤が効きやすい病気であるため、リンパ腫の治療は基本的に抗がん剤を用いた化学療法を選択します。抗がん剤での治療の目的は、長期的にがんを抑え込んで、延命させることです。
治療では、前述のステージ分類や病理組織学的検査などにより、最も効果的と思われる抗がん剤を使用します。1種類のみの抗がん剤を使用することもありますが、複数の抗がん剤を使う「多剤併用療法」が主流となっているようです。投薬の頻度は薬剤によって異なりますが、1週間に1回程度の場合が多く、半年間ほど通院が必要となります。
抗がん剤治療では、高い効果を期待できる反面、副作用が強く出る可能性があります。副作用には嘔吐や下痢といった消化器症状のほか、免疫力の低下や血尿が出ることもあるようです。抗がん剤投与により白血球が著しく減少した場合は、抗がん剤の量を調整したり、休薬して投与時期を変更したりしながら治療を進めていきます。
なお、消化器型リンパ腫や一部にとどまっている皮膚型リンパ腫など特定の症例に関しては、外科的治療や放射線療法を行うことがあります。治療は多様な組み合わせと投与計画がありますので、リンパ腫の種類や犬の状態などの要素を踏まえて検討し、獣医師と相談しながら治療方針を決めていくことになります。
まとめ
悪性リンパ腫は、血液中のリンパ球ががん化する病気です。愛犬の状態やステージなどによっても異なりますが、無治療では数週間で死に至る場合があります。原因がはっきりとしていないため予防も困難です。そのため早期発見、早期治療が愛犬の命を守るうえで重要となります。愛犬とスキンシップをする際には体表のしこりやリンパ節の腫れをチェックし、疑わしい場合は様子を見ようとせず、すぐに動物病院に連れていきましょう。