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札幌市、平岡動物病院の院長。主に呼吸器、整形、眼科、歯科の外科とエキゾチックアニマル診療を中心に力を入れている。趣味は娘と遊ぶこと。
こんにゃくは犬が口にしても大丈夫な食べ物ですが、与える必要性に関しては疑問が残ります。97%が水分で食物繊維は豊富ですが、与えすぎると消化不良の原因になります。犬は食べ物を丸飲みする動物ですので、喉に詰まらせたり、腸閉塞を起こしたりするリスクもあります。必要な水分や食物繊維は飲み水とドッグフードで摂取できますので、こんにゃくを無理に与える必要はないでしょう。今回はこんにゃくに含まれる栄養素と、犬が食べることのデメリットについて紹介します。
目次
- 犬がこんにゃくを食べても大丈夫か
- こんにゃくに含まれる栄養素
- 犬がこんにゃくを食べるデメリット
- まとめ
犬がこんにゃくを食べても大丈夫か
こんにゃくには中毒となる成分が入っていないため犬が食べても大丈夫です。しかし、与えるメリットよりもデメリットが上回りますので、愛犬には食べさせないでください。
そもそも、こんにゃくは97%が水分で、栄養素やカロリーがほとんどありません。残りの3%の大半を占める栄養素は食物繊維です。こんにゃくは、犬の消化酵素で消化されない食物繊維「グルコマンナン」が水分を取り込んで固まった食品であるため、食物繊維から栄養を摂ることができるわけでもありません。
また、こんにゃくの食べ方によっては、体調不良を起こすリスクがあります。犬は唾液にデンプンを分解する酵素「アミラーゼ」がなく、繊維質のものを消化することが苦手な動物です。そのため、食べたこんにゃくのサイズによっては、消化不良を起こす可能性があります。健康的な成犬でも消化不良を引き起こすほどなので、消化器官が未発達の子犬や、身体の機能が低下している老犬、持病がある犬は、より重大な症状が出るリスクが高いでしょう。
さらには、命が脅かされるリスクもあります。食べ物をよく噛んで食べる人間でさえ、こんにゃくをのどに詰まらせる事故が発生しています。食べ物を他の犬や動物に奪われるリスクがあった野生時代の名残から、食べ物をよく噛まずに丸飲みする習性が犬にはあります。つまり、犬は人間以上に、のどに詰まらせるリスクが高いと言えるでしょう。これらの理由から、犬にこんにゃくを与えてはいけません。
こんにゃくに含まれる栄養素
こんにゃくは、97%が水分であり、残りの3%に以下の栄養素が入っている構造になっています。
こんにゃくの主な栄養
板こんにゃく(精粉こんにゃく)100g当たりの主な栄養
栄養素 含有量
エネルギー 5kcal
たんぱく質 0.1g
炭水化物 2.3g
食物繊維 2.2g
カルシウム 43mg
カリウム 33mg
脂質 0mg
(参考:日本食品成分表2022八訂)
食物繊維
食物繊維には「水に溶けやすい水溶性」と「水に溶けにくい不溶性」の2タイプがあります。水溶性は水に溶けてゲル状になって胃腸に溜まり、不溶性は水分を保って便の容積を増やすのが特徴です。前述の通り、こんにゃくは97%が水分で栄養素がほとんどありませんが、残りの3%に不溶性食物繊維が含まれています。水に溶けにくい不溶性食物繊維は、水分を吸収して便の容積を増やしますが、便が増えると大腸が刺激され、排泄がスムーズになります。
また、食物繊維は、有害物質を吸着させて便と一緒に排出し、腸内をきれいに掃除してくれる栄養素です。食物繊維は大腸の細菌によって発酵、分解され、ビフィズス菌などの善玉腸内細菌のエサになります。善玉菌が増えるにつれて腸内環境が改善されるため、便秘が解消されますし、大腸がんのリスクも減るでしょう。犬の健康にも良さそうではありますが、犬は繊維質の消化が苦手であるため、過剰摂取によって消化不良を起こして、嘔吐や下痢をしてしまいます。また、便秘になる場合もあります。
カルシウム
カルシウムは、骨や歯などを丈夫に形成する栄養素です。犬はカルシウムを体内で合成できないため、食べ物から摂取することが重要です。適量のドッグフード(総合栄養食)を主食として与えていれば、カルシウムが不足することはありませんので、わざわざこんにゃくで補填する理由はないでしょう。
カリウム
カリウムは、神経の伝導や筋肉の収縮に関わるミネラルです。塩分であるナトリウムとの相互作用で、細胞の浸透圧を維持するほか、水分を保持してくれます。そのほか、神経刺激の伝達、心臓機能や筋肉機能の調節、細胞内の酵素反応などの役割を担うようです。さらには、腎臓でナトリウムの再吸収を抑制して、余分に摂取した塩分を尿として排泄してくれるため、血圧を下げる効果もあります。
腎臓の機能が低下している場合は、カリウムの過剰摂取に注意しなければなりません。カリウムの大半は尿として排出されますが、腎不全などで腎機能が低下するとカリウムがうまく排泄されずに、高カリウム血症になります。犬が高カリウム血症になると、命を落とすリスクがあります。
犬がこんにゃくを食べるデメリット
こんにゃくを食べることで、犬に健康被害が及ぶリスクがあります。その理由についてまとめました。
消化不良で嘔吐や下痢をする
犬の身体がこんにゃくを消化する仕組みを理解するために、まずはこんにゃくの作り方について知りましょう。こんにゃくは、こんにゃく芋から作られます。こんにゃく芋を細かく砕いてペースト状にすりおろして練り、「水酸化カルシウム」という凝固剤を加えてさらに練ります。こんにゃく芋を砕いただけの状態のときは「グルコマンナン」という水に溶けやすい水溶性食物繊維が豊富に含まれていますが、水酸化カルシウムを加えた段階で水に溶けにくい不溶性食物繊維に変わります。
犬は体質として繊維質のものを消化することが苦手であるうえ、こんにゃくに含まれる食物繊維は水に溶けにくく、食べすぎると消化不良を起こして嘔吐や下痢をします。さらに、腸の中で詰まってしまうリスクもあります。
ミネラルの吸収を邪魔する
こんにゃくは、ほぼ水分でカロリーも低いため、健康的な食べ物のように見えます。しかし、食べる量によっては、こんにゃくに含まれる不溶性食物繊維が、ミネラルの吸収を妨げる場合があるようです。
人間の場合は適度に摂れば、老廃物や毒素を絡めて便が増え、やわらかくなって便通が良くなります。摂りすぎると、脂溶性ビタミン(A・D・E・K)、ミネラル(カルシウム・鉄・亜鉛など)の吸収を阻害するという短所があります。そのため、人間よりも身体が小さい犬は、こんにゃくによって栄養バランスが崩れてしまう可能性があります。
丸飲みして喉や腸で詰まる
犬は食べものをよく噛まずに丸飲みします。これは野生の頃の名残です。かつて犬は集団で狩りをして獲物を分け合っていたので、犬には我先に食べる早食いの習性が残っています。また、満腹中枢機能がほとんど働いていませんので、満腹を感じることがなくいつまでも食べ続ける大食いでもあります。
こんにゃくを与えた場合は、人間のように弾力のあるこんにゃくをよく噛んで飲み込むことはできませんし、大きな塊のままどんどん飲み込んでいってしまうことがイメージできます。そうなると、喉に詰まるリスクがありますし、こんにゃくは水分を吸って膨らみますので窒息の可能性も出てきます。さらに、腸にこんにゃくが詰まってしまえば腸閉塞になるでしょう。腸閉塞になった場合は、緊急で外科手術が必要です。腸閉塞は処置が遅くなればなるほど死に近づく恐ろしい病気なので、こんにゃくを与えるデメリットを甘くみないほうが良いでしょう。
食物アレルギーがある
こんにゃくの原料は、こんにゃく芋です。そのため、芋アレルギーを持っている犬は、こんにゃくを与えることによってアレルギーを引き起こす可能性が高いでしょう。また、こんにゃくにはタンパク質も含まれています。少量ではありますが、まれに体内の免疫機能が過剰に反応して食物アレルギーを引き起こすことがあるようです。
もし、愛犬がキッチンのテーブルに置いてあったこんにゃくを誤って食べてしまった場合は、下痢、嘔吐、皮膚の赤み、目の充血といったアレルギー症状が出ていないかを確認してください。もし、症状が見られたら、すぐに動物病院に連れていってください。
こんにゃくを使った加工品も要注意
低カロリーのおやつとして人気のこんにゃくを使ったゼリーも、犬の身体に悪影響を与えるリスクがあります。こんにゃくを使ったゼリー1個には、糖質、塩分、カリウムなどが含まれています。人間が食べるものとして作られていますので、犬が食べたら過剰摂取となります。
糖質を過剰に摂れば、肥満や糖尿病の原因となります。また、かなり多くのカリウムが入っています。腎臓を悪くしてカリウム制限を受けている愛犬は、特に注意が必要です。愛犬が誤って口にしてしまって体内のカリウムが過剰になると、胃腸炎や不整脈、心停止に陥ってしまうリスクがあります。命が危険にさらされますので、すぐに動物病院に連れていってください。
まとめ
人間にとってこんにゃくは、ヘルシーでダイエットにも利用されている人気の食べ物です。太り気味の愛犬や便秘気味の愛犬にも食べさせてあげようと思ってしまうかもしれませんが、与えないほうが賢明です。こんにゃくは食べても無害ですが、与えるメリットよりもデメリットが圧倒的に多いからです。
「栄養」「消化」「のどに詰まらせる事故」「病気」など、多方面からのリスクを考えても、こんにゃくは犬に与える必要のない食べ物です。栄養面であればドッグフードの方が優れていますし、ダイエット目的なら犬用のダイエットフードが販売されています。心から愛犬を大切に思うならば、おねだりされてもぐっと我慢することも愛情です。
もし、愛犬が誤ってこんにゃくを口にしてしまった場合は、時間が経つにつれてアレルギー症状が出る可能性があります。しばらく様子を見て異常が見られたら、すぐに動物病院に連れていってください。