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こころ鳳ペットクリニック、大阪どうぶつ夜間急病センター所属。小動物臨床に従事。犬猫をはじめ、鳥類、爬虫類、両生類、霊長類など様々な小動物の診療・手術執刀を行う
フランス語で「犬の鼻」を意味するトリュフ(truffe)。トリュフは特別に希少なキノコで、高級食材として人気があります。地下で育つトリュフのような地下生菌のキノコは、一般的なキノコのように空気中に胞子を飛ばせないので、強い香りを放つように進化してきました。
トリュフの胞子が成熟すると魅力的な香りを出し、その香りによって犬はトリュフを探し当てることができます。トリュフは犬が食べても問題のないキノコです。トリュフは、「世界三大珍味」のひとつで「キッチンのダイヤモンド」と言われる高級食材。イタリアをはじめとするヨーロッパ各地が主な産地ですが、日本国内でも自生のトリュフが発見されて、しばしばメディアで発表されています。
トリュフが独特なのは、香りや希少性だけではありません。キノコと言えば、地面からニョキっと生えていてカサを広げた形がイメージされますが、トリュフは塊状の形をしていて、土の中に隠れて生きているキノコです。食べ頃になると芳醇な香りを漂わせ、動物を誘って胞子を外に運ばせるように進化しました。そのため、トリュフハンターと呼ばれるプロたちが、嗅覚の優れた犬を使ってトリュフを探し当てて収穫しています。今回は、トリュフのことや、トリュフ犬、与えるときの注意点などを解説します。
目次
- トリュフを探す犬が活躍中
- そもそもトリュフとは
- 犬がトリュフを食べても大丈夫?
- 犬にトリュフを与える際の注意点
- まとめ
トリュフを探す犬が活躍中
森の中に入ってトリュフを収穫するトリュフハンターと呼ばれるプロがいます。白トリュフで有名なピエモンテ州では、州が実施する試験に合格した公認のトリュフハンターが4000名ほど活躍しているそうです。
トリュフは広葉樹の根に寄生して地中深くに生きる塊状のキノコであるため、探し出すには知識と技術がいります。好き勝手にあちこち掘っていいわけでもありません。一方で、トリュフは自分で胞子をまき散らすことができないので、食べ頃になると芳醇な香りで動物をおびき寄せ、胞子を運んでもらおうとします。その性質を生かし、トリュフハンターは犬にトリュフの香りを覚える訓練をしてトリュフを探して掘り当てています。その特別な訓練を受けた相棒犬をトリュフ犬と言います。
犬がトリュフ探しをはじめた理由
昔は、特別に訓練をしなくても、トリュフを探せる動物を活用していました。代表的な動物はメスの豚です。トリュフの香りが、オス豚のフェロモンによく似た香りであるのです。しかし、豚は見つけたトリュフを食べてしまうので、人と豚との奪い合いが発生します。トリュフが埋まっている小さな穴めがけて、体重100kgほどの豚と争うことは命がけの行為です。豚は人間がトリュフを取り上げようとすると噛みつくこともあり、相棒とは言いにくい存在です。
そこで、飼い主であるトリュフハンターのためにトリュフを見つけてくれるトリュフ犬が活躍するようになりました。トリュフ犬は穴を掘って「ここだよ」と教え、そこにトリュフハンターが近づくと、その場をすんなり明け渡す良い子なのです。
トリュフ犬に向いている犬
トリュフ犬は、半径80m、地下20㎝にあるレンズ豆ほどのトリュフでも探し当てることができるようです。どの犬種もトリュフ犬になることはできますが、数十ヘクタールの広域で活動するので、動きやすい毛の短い犬種や、地面から鼻が遠すぎない小型~中型犬が向いていると言われています。
たとえば、穴掘りが大好きで嗅覚が優れている「ロマーニョ・ウォーター・ドッグ」。別名「トリュフ・ドッグ」と呼ばれるほど、トリュフ探しに最適な犬です。絶滅の危機もありましたが、テリアやプードルの交配によってその危機を乗り越え、今ではトリュフ探しに加えて麻薬探知犬や警察犬として活躍しています。
このほか、もともと水鳥の回収を行う狩猟犬で学習能力が高い「トイ・プードル」、世界中で最も多い牧羊犬で極めて知能が高く運動能力も優れている「ボーダー・コリー」、狩猟犬で洞察力や作業能力に優れた「ラブラドール・レトリーバー」などがトリュフ犬に向いています。多くのトリュフハンターは、扱いやすい小型犬を特に好んで相棒にするようです。
そもそもトリュフとは
世界の三大キノコといえば「トリュフ」「ポルチーニ」「マツタケ」です。これらは他のキノコと比較して、ケタ違いに高額で取引されています。中でもトリュフは世界三大珍味のひとつにも数えられていて、「キッチンのダイヤモンド」と呼ばれる高級食材です。サイズはゴルフボールからジャガイモほど。薄切りにして料理のうえにトッピングするなどの方法で香りづけに利用されています。一皿に薄切りのトリュフがほんのちょっぴり追加されるだけで、飛び切り高価な料理となります。
世界には100種類ほどのトリュフがあり、そのなかで食べることができるのは約30種類のみ。そのほとんどは黒いトリュフです。そのため、白いトリュフは特に貴重とされ、イタリアでは食べ物の王様として珍重されているそうです。黒トリュフは年間を通して手に入りやすいですが、白トリュフは10月を旬に秋~冬に変わる短い季節にしか手に入らないことが、白トリュフをより貴重なものにしています。かつて白トリュフは野生のみで育ち人工栽培の技術が確立されていませんでしたが、今はフランスなどで人工栽培が行われ、日本でも2022年に人工栽培に成功しています。
犬がトリュフを食べても大丈夫?
「しいたけ」「しめじ」「えのき」「まいたけ」など、他のキノコ類と同じように少量を与えるぶんには問題ありません。メスの豚と違って、犬がトリュフを好んで食べるわけではありませんし、栄養価も高くありません。味は「トリュフの価値は味ではなく香り」と言われているように、無味に近いものです。生のマッシュルームの味に近く、トリュフならではの味をそれほど感じないようです。歯ごたえはサクッとしていますが、犬は食べ物をほとんど丸飲みする性質がありますので、歯ごたえを楽しんでくれることはないでしょう。高価なだけに愛犬に少量しか与えられないとすれば、積極的に食べさせる必要はありません。
トリュフの栄養素(100gあたり)
カロリー 284kcal
脂質 0.7g
ナトリウム 35mg
カリウム 754mg
食物繊維 70g
カルシウム 159mg
鉄 5.9mg
マグネシウム 83mg
犬にトリュフを与える際の注意点
犬の食事にトリュフを取り入れたい場合、どんな与え方をしたらいいのでしょうか。ここでは犬に与えるのに適切なトリュフの量や種類、トリュフを与えないほうがいい犬などについて紹介します。
与える量に注意する
トリュフを大量に与えることはないと思いますが、食物繊維が多いため、食べすぎると消化不良を起こして嘔吐や下痢をするかもしれません。与える際は1日の摂取カロリーの10%程度にとどめておくとよいでしょう。適量の目安は、小型犬で30g程度、中型犬は50g程度、大型犬ならば90g程度と言われています。5kgに満たない小型犬や子犬の場合はお腹を壊しやすいため、愛犬の消化能力を考慮した量をあげてください。シニア犬も高齢になればなるほど消化吸収能力が低下してくるので、与えすぎないようにしましょう。
加工品は与えない
「トリュフ塩」「トリュフオイル」「トリュフバター」「トリュフペースト」「トリュフパスタソース」「トリュフリゾット」「トリュフチップス」「トリュフフライドポテト」など、トリュフを混ぜた調味料や加工食品は意外にもたくさん販売されています。オンラインで簡単に入手できますが、人間用に味つけされたトリュフの加工品は与えないようにしましょう。人間用の味付けは犬には濃すぎます。いつものドッグフードにかけるなど、味つけや香りづけのつもりで与えることも避けてください。
腎臓病の犬には与えない
きのこ類には「カリウム」が多く、トリュフ100g当たり754mg含まれています。カリウムはナトリウムと作用しながら、水分バランスを維持したり、血液の浸透圧を調整したりする働きがあるので高血圧を予防できます。また、神経の情報伝達をサポートするなどの役割を担っています。ただし、腎臓の機能が低下している犬やシニア犬の場合は、カリウムが体内に溜まって高カリウム血症になる可能性がありますので与えないようにしましょう。どうしても与えたい場合は、獣医師さんに一度相談してください。
様子を見ながら少しずつ与える
きのこにアレルギー反応を起こす犬はゼロではありません。そのため、初めてトリュフを与えるときは、少しだけ食べさせてください。その後、愛犬の様子に異変がないかをご確認ください。「皮膚をかゆがる」「目が充血する」「下痢や嘔吐」「元気がない」といった様子が見られたら、アレルギーを発症しているかもしれません。もし、アレルギー症状が見られたら、すぐに動物病院に連れていってください。
動物病院に行く前に電話で連絡を入れて愛犬の様子を伝えておくと、応急処置のアドバイスをもらえますし、診療もスムーズに進みます。「犬種」「体重」「年齢」「既往歴」「飲んでいる薬」「いつどれくらいの量のトリュフを食べたのか」「どんな症状がどのくらいの時間続いているのか」などの情報を整理して、獣医師に愛犬の様子を具体的に伝えるようにしましょう。愛犬が何にアレルギーを持っているか調べてもらったことがないのであれば、動物病院に連れていって詳しいアレルギー検査をしておくと良いでしょう。
まとめ
トリュフは犬に与えても問題ありませんが、栄養を摂るためなら他のキノコのほうが優秀です。世界三大珍味のトリュフを愛犬にお裾分けして、一緒に贅沢なひと時を楽しむのであれば、この上ない食材と言えるでしょう。ただし、愛犬がきのこにアレルギー反応を起こす可能性はゼロではありません。アナフィラキシーショックと呼ばれるアレルギー反応を起こせば、短時間で命に関わる危険な状態に陥ります。もし、まだかかりつけの動物病院を決めていない場合は、緊急時に冷静に対応できるよう、近所の動物病院を調べておくと安心です。なお、夜間や休診日で近所の動物病院を受診できない場合がありますので、その際に連れていける24時間対応の動物病院や夜間動物救急救命センターを探しておくこともおすすめします。