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上京どうぶつ病院院長。北里大学出身。日本獣医生命科学大学付属動物病院にて研修後現職。
煮干しとは、生の小魚を煮て乾燥させたもので、オメガ3脂肪酸やカルシウム、たんぱく質などの栄養素が豊富に含まれています。しかも、子犬、成犬、シニア犬と、どのライフステージにいる犬にも、うれしい健康効果がある食べ物です。塩分を抑えた犬用の煮干しも販売されています。今回は、その健康効果と与え方の注意点などを解説します。
目次
- 犬用の煮干しとは
- 犬に煮干しを与えるメリット
- 煮干しの成分と犬の健康への効果
- 犬に煮干しを与える際のポイント
- まとめ
犬用の煮干しとは
人間にとって馴染み深い煮干しは、犬用のおやつとしても販売されています。まずは、犬用の煮干しに使われている魚の種類や、含まれている成分について紹介します。
煮干しとは
煮干しとは、生のカタクチイワシやウルメイワシ、キビナゴなどの小魚を煮て乾燥させた食べ物です。日本では古くからだし汁をとるために利用されるほか、ふりかけや佃煮の原料として親しまれてきました。栄養バランスもよく、魚由来の「たんぱく質」をはじめ、「オメガ3脂肪酸 DHA・EPA」「カルシウム」「鉄分」などが豊富にふくまれています。
塩分の過剰摂取に注意
愛犬に人間用の煮干しを与えても問題ありませんが、塩分の過剰摂取には気をつける必要があります。ふりかけのようにいつも与えているフードに細かく砕いてかけたり、ご褒美や栄養補給時のおやつとして与えたりするなど、少量に留めましょう。
また、味付けされていないだし用の煮干しを湯通しして塩分を抜いてから与えてください。製造工程で塩が添加されていない犬用の煮干しを購入すれば、手間がありませんし、安心して与えることができます。なお、煮干しを原料としたドッグフードも市販されています。塩分を減らして、柔らかく食べやすいように加工されていますので人気があるようです。
犬に煮干しを与えるメリット
栄養バランスの良い煮干しを犬が食べるメリットについてまとめました。
栄養補給ができる
煮干しには、オメガ3脂肪酸やカルシウム、たんぱく質、ナイアシン、ビタミンB12など、いろんな栄養素が豊富に含まれています。
◆ 煮干しに含まれる栄養(100g当たり)
エネルギー 332kcal
カルシウム 2200mg
マグネシウム 230mg
リン 1500mg
亜鉛 7.2mg
ビタミンB12 41.3μg
食塩 4.3g
DHA 320mg
EPA 260mg
※参照:「食品成分データベース」(文部科学省)
うま味成分が含まれていて食べやすい
犬が感じる味覚は「甘味」「苦味」「酸味」「塩味」「うま味」の5種類と言われています。煮干しには「イノシン酸」という、うま味成分が含まれ、新陳代謝を活性化させることにも機能します。うま味とはアミノ酸のことで、その中にもグルタミン酸やアスパラギン酸など多くの有機酸が含まれています。食欲がないときにフードに細かく砕いた煮干しをふりかければ、食いつきがよくなるでしょう。
煮干しの成分と犬の健康への効果
煮干しには、栄養素が豊富に含まれており、子犬、成犬、シニア犬、どのライフステージにいる犬にも健康効果があります。煮干しに含まれる代表的な成分と健康効果は、以下の通りです。
DHA・EPA
オメガ3の不飽和脂肪酸である「DHA」と「EPA」は、魚の脂肪分に含まれている成分で、特にイワシやサバなど脂ののった青魚に多く含まれています。「DHA」「EPA」は、人間の体内ではほとんど作ることができない必須脂肪酸であり、サプリメントなどの健康食品として販売されていることからよく知られるようになりました。
「DHA」は、脳や神経の働きを活発にする栄養素であり、老化や認知症の防止にも役立ちます。皮膚や関節の健康維持にも効果があるため、犬が発症しやすい皮膚炎や関節炎における症状の緩和が期待できます。即効性はありませんが、オメガ3脂肪酸は長期的な服用で健康維持や関節炎の痛みをやわらげることを目的に開発された犬用のサプリメントにも含まれています。
「EPA」は、血液の中性脂肪を正常に保ち、血栓ができることを防止する成分です。この働きは血液サラサラ効果と言われるもので、生活習慣病である心筋梗塞、動脈硬化、脳梗塞を予防できます。「DHA」「EPA」は、犬のライフステージすべてにおいて効果を発揮します。具体的には、以下の通りです。
◆ 子犬
オメガ3脂肪酸の免疫力アップと成長促進の効果が、子犬に大きく機能します。さまざまな病気や感染症、アレルギーを予防できる丈夫な身体づくりに効果的です。
◆ 成犬
子犬と同様に、免疫力アップと成長促進に効果的です。運動神経の発達、ケガの早期回復、加齢からくるさまざまな病気の防止につながります。
◆ シニア犬
身体の不調がでやすいシニア犬には、皮膚炎や関節痛などの症状緩和に効果を発揮します。また、脳の老化による認知症、重病となる心臓病や動脈硬化といった生活習慣病を防止します。
カルシウム
煮干しには牛乳の約20倍ものカルシウムが含まれています。カルシウムは骨や歯の形成に欠かせない栄養素です。また、神経や筋肉の活動をサポートします。ただし、カルシウムは与えすぎてもいけません。
たとえば、子犬にカルシウムを過剰に与えると、成長するにつれ骨が曲がったり短くなったりといった異常が生じることもあるようです。これは、大型犬に起こりやすいことが知られています。子犬用のドッグフードにはカルシウムが多めに含まれていますので、基本的には追加をする必要はありません。煮干しを与えすぎないようにしてください。シニア犬も同様です。高齢になるにしたがって、必要なカルシウムの量は20%ほど減少すると言われています。
マグネシウム
マグネシウムは、犬の必須ミネラルの一つです。マグネシウムは「骨」と「細胞内液」を構成する成分となったり、血圧や体温を調整したり、神経伝達や興奮を抑えたりする成分で、犬の健康を維持するために不可欠とされています。
特にカルシウムだけで骨の生成はできず、マグネシウムがあればこそ上手く骨が結合、沈着します。つまり、マグネシウムが不足してしまうと、骨がもろくなってしまうということです。また、体内の酵素を活性化させ、体内に吸収された「糖質」や「たんぱく質」といった栄養素の代謝を促進させます。ただし、マグネシウムも過剰摂取は禁物です。与えすぎると「神経障害」「尿結石ができやすくなる」といった症状が見られる場合があります。
犬に煮干しを与える際のポイント
煮干しは犬にとってメリットが豊富な食材ですが、与える際にはいくつか注意点があります。ポイントを抑えて、煮干しを犬の健康維持に役立てましょう。
食べやすい大きさに加工する
犬におやつを与えると一瞬でなくなりますよね。これは、犬が食べ物を丁寧に咀嚼することなく飲み込んでいるからです。煮干しも他の食材と同じように丸飲みしますので、乾燥した固い煮干しをそのままの形で与えたら喉や食道にひっかかったり、消化不良を起こしたりするリスクがあります。
犬の体格や年齢に考慮して、食べやすいサイズに手でちぎったり、細かく刻んだりしてから与えると安心です。たとえば、子犬やシニア犬に与える際は、ゆでてやわらかくしてから与えることをおすすめします。
適量を与える
人間用の煮干し100g当たり、海水由来の塩分が4.3g含まれています。愛犬に与える際は、塩分の過剰摂取にならないように注意しましょう。過剰摂取によって「尿路結石症」にかかるリスクが高まります。
「尿路結石症」とは尿道に小さな石のような塊ができて尿が出にくくなる疾患です。「食欲がなくなる」「1回のおしっこの量が少なく回数が増える」「おしっこに血が混じる」「痛みでキャンと鳴く」「痛みでブルブル震える」といった症状が見られ、尿が出なくなると尿毒症にまで発展し、死に至る可能性があります。
<体重別の適量>
体重1㎏当たりのナトリウム推奨量は50mgとして算出しています。
3㎏ 7g
5㎏ 14g
10㎏ 27g
15㎏ 42g
20㎏ 56g
アレルギーに注意する
初めて煮干しを与える際は、少量ずつ体調や様子を見ながら与えてください。アレルギー反応があれば元気がなくなり、下痢や嘔吐、皮膚のかゆみ、身体の震えといった症状が見られます。症状が見られたら、すぐに動物病院に連れていってください。
動物病院に行く前に電話で連絡を入れて愛犬の様子を伝えておくと、応急処置のアドバイスをもらえますし、診療もスムーズに進みます。「犬種」「体重」「年齢」「既往歴」「飲んでいる薬」「いつどれぐらいの量の煮干しを食べたのか」「どんな症状がどのぐらいの時間続いているのか」などの情報を整理して、獣医師に愛犬の様子を具体的に伝えるようにしましょう。
もし愛犬にどんなアレルギーがあるかを検査したことがないのであれば、動物病院で詳しい検査をしてもらうことも可能です。まだ動物病院にかかったことがないのであれば、アレルギーをはじめ急な診療が必要となった場合に備えて、近所の動物病院を調べておくと良いでしょう。また、夜間や休診日でかかりつけの動物病院に行けない場合もありますので、24時間対応の動物病院や動物救急救命センターも併せて調べておくと安心です。
持病のある犬は獣医師に相談する
健康な犬の場合、煮干しは適量であれば与えても問題のない食べ物です。栄養もあるのでおやつにもぴったりです。しかし、胃腸の弱い子犬や持病があって投薬中の犬の場合は、与える前に獣医師さんに与えても問題ないかを確認することをおすすめします。
たとえば、腎臓病の犬は、煮干しに含まれるリンが病状を悪化させてしまいますので注意が必要です。また、カリウムもうまく排出することができず、体内に余分なカリウムが溜まってしまいます。カリウムが溜まると低血圧や不整脈などの心臓疾患へとつながるリスクがありますので与えてはいけません。
まとめ
煮干しに含まれるオメガ3脂肪酸のEPAやDHAは、どんなライフステージにいる犬でも健康効果が期待できる栄養素です。また、妊娠中や授乳中の母犬にとっても重要な栄養素であり、胎児の順調な発達と成長を促進します。子犬の皮膚を健康に保ち、アレルギーや皮膚炎などの発症リスクを抑えることができるとも言われています。煮干しを与える際は「塩分」「与え方と量」「食物アレルギーの有無」「愛犬の持病」に注意して、犬の健康維持や成長のためにご活用ください。