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かどのペットクリニック院長。皮膚科や小児科、産科分野に興味があり、特にこれらの分野は院内の診療の中でも力を入れている。
普通のくしゃみの場合は鼻から外に息を出しますが、「逆くしゃみ」は息を吸いながら、鼻をズーズーと鳴らしている行動のことを指します。今回は、犬の逆くしゃみの特徴や原因、心配される病気などをかどのペットクリニック院長で獣医師の葛野莉奈先生に解説していただきます。
目次
- 犬の逆くしゃみとは?
- 犬が逆くしゃみをする原因は?
- 犬の逆くしゃみが起きやすい犬種や年齢は?
- 犬の逆くしゃみを引き起こす病気は?
- 犬の逆くしゃみが起きたときの対処法は?
- 犬の逆くしゃみを放置すると、どのようなトラブルが起こる?
- 犬の逆くしゃみの注意点は?
犬の逆くしゃみとは?
犬の逆くしゃみというのは、正式には「発作性呼吸」といいます。突然、発作を起こしたかのようにブウブウ、ズーズーと鼻をならすので、呼吸の異常なのかと思ってしまう方もいるはずです。普通のくしゃみは、何らかの刺激があったり、鼻腔周囲の炎症や違和感などの病気があった時に息を吐きだして発することが多いですが、逆くしゃみは、行動自体は病的なものではなく息を吸いこむ時に音がなっていることを指します。
犬が逆くしゃみをする原因は?
逆くしゃみの行動自体は病気ではないので、はっきりとしたメカニズムや、なぜそのような呼吸に至るかなどは特定されていません。しかし、考えられる原因を紹介します。
体の構造
咽頭と呼ばれる鼻の奥の部分にある筋肉が刺激を受けることで、発作的な呼吸につながることもあります。
アレルギーなど鼻の粘膜への刺激
花粉症などのアレルギーも逆くしゃみの誘因になる可能性も。また、興奮などによる鼻の粘膜への刺激によって発作性の呼吸が増えることもあります。
何らかの病気
興奮したり、呼吸の状態の異常を伴ったりする病気の場合、逆くしゃみを引き起こす可能性があります。
犬の逆くしゃみが起きやすい犬種や年齢は?
犬の逆くしゃみの原因は明確にはわかっていませんが、逆くしゃみをしやすい犬種や年齢はある程度特定されています。
小型犬で短頭種
パグやフレンチ・ブルドッグなどの短頭種の場合、マズルが短く、軟口蓋(なんこうがい)と言われる口腔内の気管に近い部分が刺激を起こすことがあります。これは「軟口蓋過長」と呼ばれる刺激ですが、それにより異常呼吸になってしまうのです。また、明らかな短頭種ではありませんが、チワワやパピヨンなどの小型犬も軟口蓋や咽頭付近の構造により、逆くしゃみをすることがあります。
老犬
加齢とともに起こる筋肉の衰えや水分の変化などで気管付近や口腔内の粘膜や皮膚がたるむ傾向があります。そのたるんだ皮膚や粘膜が刺激となり、逆くしゃみを誘引してしまうのです。また、筋力が低下していると、呼吸の際に小さな刺激にも反応しやすくなり、逆くしゃみを起こすこともあるでしょう。
犬の逆くしゃみを引き起こす病気は?
逆くしゃみをすること自体は病気ではありませんが、以下のように何らかの病気が潜んでいる場合があります。詳しく見ていきましょう。
乾燥による軟口蓋の炎症
軟口蓋部分が炎症を起こし、腫れたりたるんだりすることで、呼吸時の刺激になることがあります。その場合、投薬や霧状にした薬液を口や鼻から吸入するネブライザー療法などの処置が必要です。以前は呼吸音に何も感じなかったのに、急に音がするようになったり異常音がするようになったりした場合は動物病院の受診を検討しましょう。
口や鼻の腫瘍
口や鼻に腫瘍がある場合、呼吸の邪魔をして呼吸しづらくなっていることが、刺激となり逆くしゃみを引き起こす可能性があります。特に外見上にも異常があり、急に排膿や出血を伴った異常な呼吸をしたり、逆くしゃみをしたりする頻度が増えた場合、腫瘍がある可能性が高まります。画像検査や採材をして腫瘍の存在する部位を特定し治療が必要となることもあるので、早めの受診が必要です。
犬の逆くしゃみが起きたときの対処法は?
犬の逆くしゃみが起きたときに飼い主が行うべき対処法は以下のようなものが考えられます。こちらを参考にして実践してみてください。
慌てず騒がず、まずは落ち着くこと
愛犬が逆くしゃみをしていると、心配になって慌てる飼い主もいるかもしれません。しかし、飼い主が慌てていると犬も余計にパニック・興奮してしまうので、まずは落ち着きましょう。逆くしゃみのほとんどの場合は数分程度で自然におさまります。
愛犬の背中や胸を優しくなでて落ち着かせる
息を吸った際、発作を起こしたようになってしまい、犬がパニックになることがあります。落ち着かせるようにやさしくなでてあげましょう。
愛犬の症状を記録しておく
動物病院を受診した際に、逆くしゃみの症状を獣医師に伝えやすいよう動画撮影や症状の頻度をメモしておきます。動物病院で犬が逆くしゃみをしなかった場合でも、スムーズな診断につながります。
犬の逆くしゃみを放置すると、どのようなトラブルが起こる?
逆くしゃみと一般的なくしゃみの区別はしづらいかもしれません。万が一、病的なくしゃみが起こっていた場合、命にかかわる疾患が隠れている可能性があります。たとえば、それが腫瘍などであった場合は、早期治療が必要なので動物病院を受診してください。何かの炎症でくしゃみが出ている場合は、それ以上の負担にならないよう、投薬を行い、症状を軽減させてあげましょう。
逆くしゃみの頻度が多い場合は?
逆くしゃみが病的なものかどうかは判断が難しいので、頻度が増えたり程度が悪化したりするようであれば、動物病院に行き、かかりつけの獣医師に相談してみましょう。受診したときにその場で逆くしゃみと思われる呼吸をしない可能性もあるので、自宅で逆くしゃみをしていたら動画を撮影しておくことをおすすめします。
犬の逆くしゃみの注意点は?
逆くしゃみをしている姿が苦しそうで、飼い主としても慌ててしまうでしょう。しかし、慌てる飼い主を見ると、犬もさらにパニックになってしまいます。まずは落ち着かせてあげて、冷静に撮影をしたり、見かけた頻度などを思い出してメモしたりしましょう。
一方で、逆くしゃみのことを知っていると、体質や習慣だからと安心してしまいがちですが、実は病気のサインである場合があります。毎回冷静に判断して分析しておけば、受診のタイミングを見誤ることもないので、観察するようにしましょう。