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日・米・英にて行動診療やパピークラスを実施する動物行動コンサルティングはっぴぃているず代表。日本でまだ数十名しかいない獣医行動診療科認定医として幅広く活躍。
柴犬は日本原産の日本犬として昔から親しまれてきた犬種です。柴犬といえば、気ままな性格で「しつけが難しい」といわれることも多いかと思いますが、それは本当なのでしょうか? 今回は、柴犬のしつけの開始時期やしつけをするときのコツ、注意点などについて、動物行動コンサルティングはっぴぃているず所属の獣医師、フリッツ吉川綾先生に解説いただきます。
目次
- 柴犬のしつけは難しい?
- 柴犬の性格や特徴は?
- 柴犬を迎え入れる前に準備しておくことは?
- 柴犬のしつけを始める適切な時期は?
- 柴犬の子犬期のしつけ方の注意点は?
- 柴犬の子犬・成犬・性別によるしつけの違いはある?
- 柴犬に起こりやすい問題行動とその対処法は?
- 柴犬のしつけやトレーニングをするときのコツは?
- 柴犬のトレーニングに役立つグッズは?
柴犬のしつけは難しい?
一般的に、イエイヌは社交的で、遊び好きであり、人をよく観察したりその指示に従ったりするのが得意です。しかし、柴犬はイエイヌの中でも特に「原始的な犬」といわれ、祖先であるオオカミと最も近い遺伝子を持っています。つまり、他の犬種に比べて、野生の犬であるオオカミの性質をより色濃く残している可能性があるのです。
「しつけ」とは、人と犬が快適に暮らせるよう、犬にルールを教えておくことを言います。人と犬が家族として暮らすにあたって、人が犬のことを理解した上で、犬に人の社会に必要なルールを教えていくことはどの犬種においても必要です。柴犬に対しても、その特性を理解して、犬にとって分かりやすい方法で交流していくといいでしょう。
柴犬の性格や特徴は?
日本犬の中で最も人気がある柴犬。他の犬種と比べて、全体的な愛情欲求や他人への人懐こさは低く、自立した性質を持つ一方で、信頼関係を築いた家族とは強い絆を作ります。また、警戒心が高いことから、他の人や犬への攻撃性、縄張りを守るための行動や警戒からくる吠えは多いでしょう。
柴犬の短所といわれがちな行動には下記のようなものがあります。それぞれの理由と対策をご紹介します。
頑固で指示に従わない、飽きっぽい
柴犬は愛玩犬として生まれた犬種ではないので、イエイヌの祖先であるオオカミの特徴を備えています。そのため、無条件に人との交流を楽しんだり、人が望む行動をとったりすることに集中できるわけではありません。また、もともとの警戒心の強さも、自分が安全だと感じる環境から外れたがらない頑固さに繋がっているのかもしれません。
この性格に寄り添うには、まずは飼い主が犬から信頼されることが大切です。飼い主の都合で良いことと悪いことのルールが変わることがないように、一貫性のある態度で接すること。普段から、安全で快適な場所、体にあった食事、必要な運動や散歩などの機会を与えること。悪いことをしていたら、「ダメ」と言うばかりではなく、「○○しなさい」と正しい行動に誘導して、それができたらしっかりと褒めること。「飼い主の指示に従うと良いことがある」と学習してもらえるように、トレーニングするのも有効です。
他人や見知らぬ犬にそっけない
もともと柴犬は、基本的に1対1で行う猟や、家や土地を守る番犬として働いていきました。多頭で狩りを行う洋犬や愛玩犬としての役割を担ってきた犬種と違い、家族以外の犬や人にはフレンドリーではないのが一般的です。
この場合は、人の都合で他の人や犬と無理に仲良くさせようとしないこと。柴犬が持つ性質として認めてあげてください。一方で、子犬の頃から遊んでいた人や犬とは、良い付き合いができる柴犬も多いです。子犬期から遊びなどを通じて、他の人や犬との楽しい経験を積んでおくことで、成犬になってからも必要以上に警戒することは減るでしょう。
攻撃的で、飼い主や他人に対して噛んだり唸ったりする
人に対して噛む、唸る、吠えるといった問題行動が現れる柴犬もいます。これも柴犬がもともと持つ強い警戒心が背景にあり、さまざまな理由で攻撃的になる可能性があります。深刻な問題になる前に、専門家に相談してください。
柴犬を迎え入れる前に準備しておくことは?
実際に柴犬を迎えしようと考えている方は、下記のような準備をしておくことで柴犬のしつけがしやすくなるかもしれません。
柴犬についてよく知る
まずは、柴犬について知る機会を設けましょう。「柴犬はどんな性格や行動的な特徴を持っているのか?」、「柴犬はどんな病気にかかりやすいのか?」、「柴犬が心身ともに健康で過ごすためにはどのようなケアが必要か?」、「そのためには何が必要なのか?」、「どのくらいの費用が必要なのか?」など、一緒に暮らすことを想像しながら柴犬に関する知識をできる限り把握しておくのがおすすめです。家の近くにある動物病院を調べて、お話を聞きに行ってみるのも良いでしょう。
社会化期に備える
飼い主はもちろん、他の人や犬、車や大きな音などの人間社会にあるさまざまな刺激に慣れさせるためには、子犬のうちになるべく多くの経験をさせてあげることが有効です。特に柴犬の場合は、警戒心が強く人懐こい性格ではないため、成犬になってから新しいも人や動物、モノを好意的に受け入れることが得意とは言えません。もし、子犬を迎えるのであれば、パピークラスがある施設も探しておきたいですね。
かかりつけ医や専門家を探しておく
犬と家族になってから、飼い主と愛犬の性格が合わなかったり、犬が多くの病気を抱えてもお世話ができなかったりすると、犬も人もとても大きな心身の負担を背負うことになります。柴犬を飼うことは自分の生活スタイルにあっているのか、柴犬と人が幸せに生活するにはどんな変更や注意が必要なのかなどを、それぞれの分野の専門家に、事前に相談する機会があると安心です。家から通える動物病院を探して、かかりつけ医や行動診療を行なっている獣医師、犬の行動に詳しい専門家に相談してみることをおすすめします。
柴犬のしつけを始める適切な時期は?
柴犬をお迎えしたらまず、人間社会の刺激に慣れさせることが何より大切です。これは子犬のうちに行うほうが慣れやすく、特に社会化期といわれる生後3か月ぐらいまでの時期にできると最も理想的です。柴犬は、成犬になってから知らない人や犬、モノを受け入れることが得意ではありません。なるべく子犬のうちに、年齢や性別、服装などもさまざまな人に出会い、犬種やサイズの異なる犬、今後よく目にすると思われる他の動物との良い経験を多くさせてあげてください。一緒に暮らす家族にとってはもちろん、柴犬にとっても将来に生活のしやすさに大きな差を与えるほど重要なことです。
柴犬の子犬期のしつけ方の注意点は?
それでは、柴犬の子犬期の飼い方や、しつけをするときの主な注意点を見ていきましょう。
トイレトレーニングの注意点
子犬との生活で、第一に生じる問題がトイレの失敗。ここでトイレを教えきれずにしつけを失敗してしまうと、将来に渡って飼い主と犬の関係がギクシャクし、両者にとってストレスになってしまいます。幸い、柴犬はその繊細な性格から、自らの排泄物で体を汚してしまうことを嫌がる傾向があります。飼い主は教えることにあまり苦労せずに、柴犬が自分で「トイレ」と認識した場所で排泄するようにはなるでしょう。一方で、一度トイレの場所を誤って認識してしまうと、飼い主が正しい場所での排泄を教えようとしても、隠れて別の場所に排泄するようになったり、排泄を我慢して病気などに繋がったりすることがあるかもしれません。お迎えしたらすぐにトイレトレーニングを始め、深刻な問題に発展しないようにしましょう。
クレートトレーニングの注意点
クレートトレーニングの目的は、犬にクレートが自分専用の安心できる場所であると教えてあげることです。子犬のうちからクレートに慣れさせておくと、日常的に安心して過ごせる場所ができて落ち着いた生活ができるようになります。また、病院や旅行に連れて行く時のストレス軽減にもつながりますよ。
甘噛み対策の注意点
柴犬は体力があり、特に子犬のうちはエネルギーを持て余すことも多いです。そのため子犬期の遊びとして見られる甘噛みが、激しくなってしまうことも少なくありません。飼い主がこれにうまく対応できず、信頼関係を築くのが難しくなってしまう場合もあります。柴犬は比較的、攻撃性も警戒心も高い犬種です。飼い主との信頼関係が築けないことが、深刻な問題行動に繋がりかねません。
甘噛み対策のコツは2つ。1つ目は、十分にエネルギー発散の機会を与えること、2つ目は、人を噛んではいけないことを教えることです。おもちゃを使ってたっぷり遊ばせ、散歩に行けるようになったら十分運動や交流をする機会を与えると良いでしょう。また、歯が人の皮膚に当たったら、「痛い」「いけない」などとはっきり言って、遊びを中止し、その場から立ち去るようにしましょう。
基本的なコマンドトレーニングをしておく
「すわれ」「ふせ」「待て」「おいで」といった基本的なコマンドの練習は、犬と人が同じ目標に向かって一緒に作業するということです。これを通じて、信頼関係を築くことができます。また、人と犬は会話をすることができないので、このような共通の言葉を持つことで、コミュニケーションが取りやすくなるでしょう。その他のルールを教えるトレーニングにおいても、基礎としてとても役立ちます。
柴犬の子犬・成犬・性別によるしつけの違いはある?
警戒心が強い一方で、信頼し合えると強い絆を結ぶことができる柴犬。成長過程や性別によって、しつけで意識したいポイントがあります。
子犬の場合
なるべく多くの経験を通じて、人間社会にあるさまざまな刺激を、好意的に受け入れられるように慣らしてあげることが最も大事です。その中で、前章で挙げた主なトレーニングを楽しんで行い、飼い主と犬が一緒に成長することで信頼関係を強めていけます。
成犬の場合
柴犬は大人になってから、新しい刺激に慣れることが得意ではありません。まずはその犬の個性を尊重した対応が求められます。犬の性格に合わせた方法でトレーニングを行えれば、いつでも関係づくりやしつけを行うことができます。
オス・メスの違い
一般的に、メスのほうがトレーニングが得意だといわれています。オスは比較的頑固で、警戒心が強い傾向にあるので、飼い主は根気強く、そして分かりやすくしつけていく姿勢が大切です。
柴犬に起こりやすい問題行動とその対処法は?
柴犬によく見られる問題行動と対処法も知っておきましょう。ただし、具体的な原因や診療名は、ケースバイケースです。飼い主にとって、一緒に生活する上で問題となる行動ならば、改善策を専門家に相談することが第一。ここでは主な場合をご紹介します。
散歩中に他の犬に吠える
まずは、無理に近寄らず、距離をとって犬が吠える機会を減らしてみましょう。犬が吠えている理由や状況によって、その後のアクションが変わってきます。吠えで困っている場合は、しつけインストラクターや行動診療医に相談しましょう。
散歩中の引っ張り
犬が飼い主を引っ張っている間は、前に進まないようにすること。引っ張ってきたら立ち止まり、リードが緩んだ状態のときだけ進むようにしましょう。この場合も、相談するならばしつけインストラクターや行動診療医がいいでしょう。専門家と一緒に散歩中の歩き方を練習できると安心です。
触ろうとすると嫌がったり噛んだりする
まず、犬が嫌がるような触り方はしないことが大切です。攻撃行動は、どんどん悪化してしまう可能性があるので、問題が深刻になる前にかかりつけの獣医師に相談し、行動診療科を受診することをおすすめします。
自分のものを守ろうとする
子犬のうちに、犬に「ものを取られて嫌だった」と思わせるような対応をしないことがポイントです。犬に取られて困るものを、犬の届くところに置かない環境づくりを徹底しましょう。それでも何かを取られてしまった場合は、追いかけたり叱ったり、無理に取り返そうとはしないで、おやつなど犬が喜ぶものと交換してくださいね。「離せ」というコマンドを教えておくことも予防につながります。
柴犬のしつけやトレーニングをするときのコツは?
柴犬のしつけやトレーニングをする際はいくつかコツがあります。それぞれ見ていきましょう。
一貫した態度で接する
飼い主の都合で、やって良いこと、悪いことが変わってしまうと、犬が覚えようとしているルールにも一貫性がなくなり混乱させてしまいます。犬にルールを教えるならば、飼い主も行動を一貫させましょう。
しつけは短期集中で行う
トレーニングは、犬にとって興味のないことを長時間やっても集中力を欠いてしまうばかりです。まずは、簡単なコマンドトレーニングを短時間からやらせてみましょう。目安としては5分以内の練習を1日に数回繰り返すことです。これを毎日繰り返します。犬ができる得意なコマンドへの練習を取り入れながらも、徐々に難しくしていきます。その際、犬が喜ぶように褒めてあげることもとても大切です。良い行動をしたら、すぐに褒め言葉とおやつを与えるなど、テンポよく褒めてあげてくださいね。
柴犬のトレーニングに役立つグッズは?
下記のような、トレーニング時に役立つグッズも市販されています。愛犬の個性に合わせて取り入れてみてもいいでしょう。
フードポーチ
おやつは、犬を正しい行動へ誘導するものとして、またご褒美としてもしつけに役立ちます。愛犬が苦手なものに、良い印象を与えるきっかけとしても有効です。つまり、トレーニングにおいては飼い主がおやつをタイミングよく出せるかが重要になってきます。服のポケットに忍ばせてもいいですが、服が汚れたり、うっかりおやつが入ったまま洗濯してしまったりすることもあります。おやつをさっと取り出せて管理しやすいポーチはとても便利です。
ロングリード
少し離れた距離から「おいで」と呼び戻す練習をするのに役立ちます。たくさん走ることで、エネルギー発散にもなるので柴犬には特におすすめです。
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