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動物保護団体に勤務後、保健所から犬猫を預かり里親を探す“一時ボランティア”を続ける。2018年から自身の経験を通した漫画をインスタグラムに投稿し、話題を呼ぶ。
『たまさんちのホゴイヌ』は、保護犬との暮らしを、優しい絵と言葉で綴ったコミックエッセイです。一緒に暮らす犬たちや、それをとりまく人たちが、愛情あふれる視点で描かれています。作者のtamtam(タムタム)さんに、お話を伺いました。
目次
- 保護活動の実体験を描いたコミックエッセイ「たまさんちのホゴイヌ」
- 「たまさんちのホゴイヌ」作者tamtamさんの活動
- 保護犬をかわいそうな犬なんかにしてたまるか
- 単身、未婚カップル、高齢者は保護犬を飼ってはいけない?
- 保健所や動物愛護センターに犬や猫が嫌いな人はいない
- 散歩嫌いを克服した元野犬のビビちゃん
- 老犬の保護犬を引き取ってよかったこと
- 保護犬だからいい、ペットショップだから悪いではない
- 『たまさんちのホゴイヌ』の売上は全額保護犬の支援活動に寄付
- 『たまさんちのホゴイヌ』が、たくさん人の犬との向き合い方を変える
保護活動の実体験を描いたコミックエッセイ「たまさんちのホゴイヌ」
『たまさんちのホゴイヌ』はご自宅で犬と猫の保護活動をされているtamtam(タムタム)さんの実体験にもとづいた物語です。SNSで人気となり、2022年11月に書籍化しました。発売からわずか3ヶ月で3刷重版が決定するなど、多くの人の共感を得ています。
誰かを悪者にすることなく、犬たちを被害者にすることもなく、「保護犬だからかわいそう」「ボランティア活動をしているから偉い人」「保健所は怖いところ」など、動物愛護や保護活動のなかでいつのまにかはられていたレッテルをそっとはがして、動物愛護や、保護活動を身近に感じさせてくれる作品です。
「たまさんちのホゴイヌ」作者tamtamさんの活動
tamtamさんがご自宅で犬や猫の保護活動を始められたのは2018年頃のこと。保護活動自体は、以前に動物保護団体やブリーダーで働いていた頃から継続されています。
現在tamtam家は、tamtamさんご本人にパパ、息子さんのけーくん、娘さんののんちゃんの4人家族に加えて、飼い犬が1匹と飼い猫が4匹、里親探し中の犬が5匹と、猫が2匹。合わせて12匹の大家族です。tamtamさんのお宅から、今までに50匹以上の犬と猫が新しい家族へ譲渡されました。
「50匹を超えたぐらいから、譲渡数をカウントするのはやめました」
その理由は、譲渡先を探すのが難しい野犬や野良猫の保護に、力を入れるようになったからだそうです。子犬や子猫はすぐに里親さんが見つかることが多いのですが、人馴れしていない野犬や野良猫はそういうわけにはいきません。
「人に慣れている子犬を5匹譲渡するよりも、人に慣れていない野犬を1匹譲渡する方が大変だったりするんです。数を気にするのではなく一頭一頭にしっかりと寄り添った保護をしたいと思っています」
保護犬をかわいそうな犬なんかにしてたまるか
『たまさんちのホゴイヌ』では、7匹の犬が登場します。最初に紹介されるのは、保健所から引き取られた、ガリガリに痩せ細った中型犬のボスです。
「ボスのエピソードは特に人気がありました。たくさんの方に読んでいただき、メッセージもいただきました」
tamtamさんがボスを撫でようとしたその時、身をかがめて怯える姿を見て、以前の飼い主による虐待を疑います。その時tamtamさんは、かわいそうと感じた気持ちを振り払い「かわいそうな犬なんかにしてたまるか」と、不幸な過去を見つめるのではなく幸せな未来を切り開くことを誓います。
「作中で『かわいそうな犬と言う言葉からは何も始まらない』と書いたのですが、それに共感してくださった方が多く、とても嬉しかったです」
引き取った当初は骨と皮ばかりで、下痢が続きアレルギーもありなかなか太れなかったボスですが、現在はすっかり元気になり、ダイエット食を食べさせるほどふっくらしました。ボスは現在もtamtamさんのお宅で新しい家族との出会いを待っています。
単身、未婚カップル、高齢者は保護犬を飼ってはいけない?
『たまさんちのホゴイヌ』には、tamtamさんが以前、動物保護団体で勤務していた頃に出会った、チロちゃんという盲目の犬も登場します。
チロちゃんは、飼い主である1人暮らしのおじいちゃんが入院する間だけと施設に引き取られたものの、その後おじいちゃんは病気で亡くなってしまいます。
「お年寄りが犬を飼うということが最近問題になっていますよね。もし自分に何かあったらペットがどうなるのかを、きちんと考えてからお迎えしないと、行き着く先が悲劇になってしまうかもしれません」
実際、行き場を失ったペットの元飼い主は、高齢者が多いという現実があります。保護犬や保護猫の譲渡活動をしている団体は、60歳以上は応募できないという条件を出しているところがほとんどです。
犬や猫の平均寿命が伸びているからこそ、看取りについてもっと深く考えて欲しいというtamtamさん。
「寝たきりの状態でも2年3年頑張れる子もいます。介護は人にとっても犬にとっても、精神的にも肉体的にも大変なことです。それが老後にできるのか考えたら、ちょっと難しいっていう人もいるんじゃないかなと思うんです」
しかし、tamtamさんが伝えたいのは、高齢者は犬を飼うべきではないということではありません。
「高齢者だけでなく、一人暮らしの人や、未婚のカップルも、保護犬を引き取りたいのに断られてしまうことはよくあります。結婚してないから、60歳以上だからダメというのではなく、譲渡については各家庭によって条件を変えていくべきだと私は思います」
夫婦でお迎えしても別れてしまう可能性や、若い人が飼ったとしても事故に合う可能性も否定できません。『たまさんちのホゴイヌ』では、もしもの時に、犬がどこにいくのかを考えて欲しいという思いも語られます
保健所や動物愛護センターに犬や猫が嫌いな人はいない
作中では、保護犬との暮らしだけではなく、保護犬を収容する施設や団体、そこで働く人たちについても描かれています。保健所に収容されたモカのエピソードでは、職員さんが怯えの強いモカのために体を撫で、声をかけつづけるというシーンがありました。
「皆さんに話を聞くと、保健所は怖いところという印象があるようです。読者の方でも保健所に行ったものの、犬の鳴き声を聞いてしまうとダメだったとおっしゃる方もおられました。かわいそうで涙が出たと。もう少し踏み込んで、そこで働く人たちを見て欲しいなと思います」
tamtamさんが先日訪ねたのは、殺処分もある動物愛護センターでした。そこで目にしたのは、明らかに捨てられていた、畑の中で保護された老犬を、職員の方が丁寧に介護する姿でした。
「私は保健所や愛護センターの人たちで明らかな悪者は見たことがありません。どの人も犬や猫に対して向き合って少しでも良い環境をと頑張っています」
保健所は怖いところというイメージが強いけれど、収容されている犬や猫の表情や落ち着きを見れば、この人が普段世話してくれてる人なんだなということがわかるとtamtamさんは言います。
「保健所は、保護犬を犬舎に詰め込んで、殺処分のボタンを押すのを待つだけの場所ではありません」
殺処分を事務的な作業として捉えれば、ボタンを押すだけなので誰にでもできてしまいます。犬とか猫が嫌いな人がやってしまえば誰も傷つかないですむのかもしれません。それでも職員の方たちは、最後まで命と向き合って頑張っています。
tamtamさん自身も、保健所や動物愛護センターで働く人たちの姿を見て、この人たちのためにも頑張りたいという思いを強めました。
散歩嫌いを克服した元野犬のビビちゃん
『たまさんちのホゴイヌ』に登場する、野犬のビビちゃんは、名前の由来も「びびり」から来ているほど臆病な性格の持ち主です。
tamtamさんの家に来た当初、ビビちゃんは散歩を嫌がり暴れてしまい、なかなかうまくいきませんでした。近所の人から、『かわいそうで見ていられない』と言われたこともあったそう。それでも、ビビの性格を理解しているからこそ、しばらくはまともに歩けないだろうなという覚悟のもと、練習を続けたと言います。
「最初嫌がっていても、最終的には散歩を楽しんでくれるっていう確信があったので、諦めずに毎日チャレンジしました」
一度、パニックになったビビちゃんに噛まれたこともあるそうですが、それでもtamtamさんは散歩をやめませんでした。
「私が特別ということではなく、この子ってこういう動きするよねっていうのが、普段接している家族だったらわかるんですよね。現在は散歩が大好きになったビビちゃんですが、怖いことがあるとまた元に戻ってしまうときもあります。でももうそんな時はどう対処したらいいかを知っているので、お互い動じなくなりました」
ビビちゃんの様子は書籍だけではなく、動画としてYouTubeでも公開され、200万回以上再生されています。そこにはすべてに怯えていた野犬が、1年間tamtamさん家族と暮らす姿がまとめられ、散歩を楽しむビビちゃんの笑顔が映し出されています。
「いかに犬にとって散歩って重要か。外に出て太陽を浴びて歩くことって、歩くことによってお腹も減るし喉も渇く、生きてるってことそのものです。犬にとって散歩って、すごく大事なことなんですよ。それを伝えたくて描きました」
老犬の保護犬を引き取ってよかったこと
tamtamさんのお宅に引き取られたのは、保健所や愛護センターに収容されていた野犬や保護犬、ブリーダーの繁殖引退犬だけではありません。老犬シロさんは、一般家庭で長年外で短い鎖に繋がれていた飼い犬でした。
「シロは雨ざらしのなか、1メートル位の鎖で繋がれていました。ご飯は骨とか魚のアラとか残飯をもらって食べていました」
でも、かわいそうだから保護した訳ではないとtamtamさんは言います。
「老犬からお迎えするなんて偉いねと言われるのですが、もう単純にかわいいから連れてきたんです。シロは過酷な環境で暮らしているのに、すごく生き生きとしていて、楽しそうだったんですよ。会いに行くと、ワーって尻尾フリフリってしてこっちに来てくれて」
シロと出会ったばかりの頃はまだペット不可の物件に住んでいたtamtamさん。子供もまだ小さく、シロのお迎えには3年ほどの時間を要したそうです。ようやく持ち家に引っ越しをして、満を辞してシロをお迎えします。引き取った時点でシロの年齢は15歳でした。
当時の働き方や子供の年齢を考えると、もしシロが2歳や3歳という若い犬だったら、譲渡をしていたと思うというtamtamさん。
「シロが老犬で本当によかったって思っています。だって家に置く理由があるじゃないですか。老犬だからって言い訳できたから、家族になれたんです。もちろん本音を言えばもっと早くに迎えたかったし、長く一緒に過ごしたかったという思いはありますけどね。」
保護犬だからいい、ペットショップだから悪いではない
『たまさんちのホゴイヌ』では、犬を飼おうか悩んでいる人に対して、「結婚しても連れて行けますか?」「家族にアレルギーが出たら?」「吠えたら?」「人を噛んだら?」など、いくつもの質問がなげかけられます。
これは以前tamtamさんが勤務していた動物保護団体で、譲渡希望者にするアンケートと同じ内容だそうです。
犬や猫を、深く考えずにお迎えしてしまう人もいます。もしかしたらお迎えした子が、人を噛む子になるかもしれないし、懐かないかもしれません。
『たまさんちのホゴイヌ』の中でも「責任」と言う言葉が使われていますが、実際には犬を飼う責任や覚悟と言う言葉は実体のないもので、何をするのが責任で何をすることが覚悟になるのか、定義はありません。
「問題のない子はいません、必ず何か問題が起きるということを理解した上で、そのとき責任を持てるのかということ、それでも飼う覚悟があるのかということをまず考えて欲しいです」
また、tamtamさんが作品を発表するなかで、読者の方から「保護犬じゃなくてごめんなさい」という声が少なからずあるそうです。
「ペットショップで飼うことや、生体販売について描いていると、保護犬じゃなくてごめんなさいって結構言われたりするんです。保護犬を引き取るためには審査が必要なことが多く、経過も見てもらえるから飼うなら保護犬の方が良いという考え方もあるとは思います。でも、伝えたいのは、保護犬だからいい、ペットショップだから悪いという話ではありません」
お迎えした子の過去の生い立ちではなく、大切なのは今とこれから。かけがえのない家族として、自信を持って接してほしいという、tamtamさん。
『たまさんちのホゴイヌ』の売上は全額保護犬の支援活動に寄付
『たまさんちのホゴイヌ』の帯には「本書の売上の一部は、保護犬の支援活動などを行っている団体に寄付されます。」と記載があります。tamtamさんは、「公益社団法人アニマル・ドネーション」に印税の全額を寄付することを決めました。アニマル・ドネーションさんは、集まった寄付を振り分ける中間支援組織です。
「保護施設でもブラックなところはたくさんあります。ブリーダーじゃないか、お金儲けじゃないかっていう団体もあるんです」
寄付したいけど、どこに寄付をしていいのか分からない人や、自分が寄付したお金が果たしてきちんと保護に使われているのか知りたい方のために、アニマル・ドネーションさんが現場に行って自分の目で見て、健全な団体であることを確認してくれます。
『たまさんちのホゴイヌ』が、たくさん人の犬との向き合い方を変える
最後にtamtamさんに、作品を書いていてよかったと思う瞬間について伺いました。
「読者さんが、飼うことに対して真面目に向き合ってくれているのが伝わった時は、作品を描いて良かったなと思います」
『たまさんちのホゴイヌ』を読んで、家を建てて犬と暮らすことを夢見てきたけれど、自分は今はまだ飼うべきじゃないと考え直すきっかけにつながった方や、保護犬を迎えたと言ってくださった読者もいるそうです。
なかでも、一番多く寄せられた意見は、今自分の飼っている子を最後まで可愛がる、責任を持って飼うと言う気持ちが強くなったということだったそう。
「そう言っていただけて、ありがたいなと思います。『たまさんちのホゴイヌ』が、犬に対しての向き合い方が変わるきっかけになれたのなら嬉しいです」