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神経病・てんかんの診療に力を入れる。重要な診断ツールで行動学的との鑑別にも役立つ脳波検査も実施。一般診療に従事しつつ、神経病に悩む動物の診療・手術を実施。
老犬の足元がプルプル震えていると、病気かな?ケガかな?と心配になってしまう人も多いでしょう。
この記事では、高齢の犬が震えているときに考えられる原因とその対処法について解説します。老犬の震えは、心配のいらない加齢による生理現象の場合もあれば、痛みや内臓・神経の病気が原因で起こることもあります。中には緊急を要するケースもあるため、いざというときに落ち着いて対処できるよう“老犬の震え”について正しく知っておきましょう。
目次
- 年を取ると震えやすい!?老化による症状のケース
- これって犬の老化のサイン?視力や聴力をチェックするには
- 老犬の震えは痛みや病気のサインかも!?
- 老犬が震えたらこれをチェックして
- 老犬の震え改善のためにできること
- まとめ
年を取ると震えやすい!?老化による症状のケース
犬は私たち人間と同様に、年を重ねるにつれてさまざまな機能が衰えていき、加齢が原因の震えが現れることがあります。ただし、老化が原因と考えられる震えのすべてに治療が必要というわけではありません。原因に応じて、飼い主が愛犬に適した対応をしてあげましょう。
寒さが原因
寒さを感じると、人間が身体を震わせるように、犬も寒さで震えます。これは、筋肉を震わせることで熱を生もうとする生理現象です犬も高齢になると筋肉量が減少して、基礎代謝が下がるため、体温が低くなりやすくなります。さらに運動量も減って身体が温まりにくいことから、寒さで震えることが多くなります。
筋力低下が原因
筋力が低下することで踏ん張りがきかず、立ち上がったりしゃがんだりする際に、足が震えてしまうこともあります。加齢とともに足腰が弱くなっていくのは人間と同じです。若くて元気なうちから「筋肉貯金」をしておくことが理想です。また自力歩行ができない場合は、介助ハーネスでケアしながら残った筋肉を大切に温存するようにしてあげましょう。
神経調節の不調が原因
高齢になると、筋肉を動かす神経のバランスが悪くなって、立ち上がろうとするときに後ろ足が震えてしまう「老齢性振戦」という症状が出ることがあります。認知機能障害症候群(認知症)の際にも見られることがあります。
ひどいケースでは身体のガクガクが激しすぎて転んでしまうなど日常生活に支障が出ることもあります。その他、重度の脳萎縮や大脳基底核の障害でも震えが起こることがあります。症状は変化しない場合もありますが、中には進行することもあります。
不安や恐怖感、精神的な原因
高齢になるとともに、犬も視力や聴力などが衰えていきます。そのため、これまで大丈夫だったことや、ささいなことにも不安や恐怖を感じるようになり、精神的な原因から震えることがあります。
不安や恐怖の原因となっているものや音、人物などから遠ざけてあげたり、飼い主が寄り添って優しく声をかけてあげ安心させてあげたりするなどして対処しましょう。
これって犬の老化のサイン?視力や聴力をチェックするには
小型犬はおよそ9才、大型犬は7才で高齢期といわれます。高齢期になると、白髪が増えたり被毛の艶がなくなったり、目が白っぽくなってくるなど、見た目が変化します。
他にも、段差でつまずく、名前を呼んでも反応が遅いなど、行動の変化からも老化が感じられるようになっていきます。ここでは、愛犬の老化のサインとなる視力と聴力のテストを紹介します。
老犬の「視力」をテストするなら
視力の低下は老化現象のひとつとして目の病気でなくても起こります。最近つまずきやすい、物にぶつかるようになった、警戒しながら慎重に歩くようになった、などの行動が見られるようになったら、視力の低下が原因かもしれません。ただし、普段過ごしているお家などの場所では、あたかもよく見えているように動けることもあります。
よく見えない不安や恐怖から、怖がりになったり震えが出たり、逆に攻撃的になってしまうこともあります。愛犬の視力が落ちているかどうかを知るため、次のテストをしてみましょう。
- 犬の目の前に急に手を出してみてください。犬は目を閉じますか?目を閉じたら見えています。
※注意:勢いよくやって風が目に当たってしまうと視力に関係なく目を本能的につむってしまいます。また、まつげやヒゲにも当たらないように気をつけて手を出してください。
- 犬を台の上に乗せて、ティッシュなどを丸めたものを、犬の頭上から片方の目の前を通過するように落とします。犬は目で追いますか?見えていれば、視線や首を動かして丸めたティッシュを追いかけます。左右交互に行って両目が見えているか確認します。片目を手で覆ってつぶらせて実施するとより正確です。
- 犬に気付かれないように、犬が歩く場所に障害物(犬がぶつかっても危険がない素材や形の物)を設置してください。犬がそれを避けて歩くことができますか?(迷路試験と言います)
- 朝と夜の散歩で、歩き方などに違いはありませんか?夜間、暗い環境だと歩きにくそうにしていませんか?
視力の低下は老化現象のひとつですが、まれに目の病気であるケースもあります。前述のテストをしてみたり目の見た目が明らかに変で不安がある場合は、獣医師に早めに相談してください。
また愛犬の目が見えにくくなっていることがわかったら、明るいうちに散歩に行くようにしたり、家具の角にクッション性のガードを付けたりするなど、犬が安心して過ごせる環境を飼い主が作ってあげましょう。
老犬の「聴力」をテストするなら
玄関チャイムに反応しなくなったり、名前を呼んでも反応が遅くなったりしたら、聴力の低下を疑いましょう。犬の聴力は次のテストでチェックすることができます。
- 犬の背後から鈴を鳴らしてみてください。犬は振り向きましたか?
※クリッカーは風を発生させずに音がならせるので、聴覚の検査に使用するには非常に良いです。
- 犬が眠っているときに、名前を呼んでみてください。はじめは小さな声で、少しずつ声を大きくして呼んでいきましょう。どの程度の大きさで犬が反応するか確認します。
犬自身は聴力の低下に気が付きません。散歩中に車や自転車などが近付いても犬は気が付きにくくなっているので、これまで以上に配慮が必要です。急に触ったりすると、犬は驚いて震えが出たり、攻撃的になってしまうことがあるので、犬に飼い主の存在が見えるように気を配りながら触るようにします。
犬は聴力が低下しても、高音域は最後まで聴覚が残る傾向にあります。そのため、飼い主さんの声には反応しなくても、鈴やクリッカー・ビニール袋のクシャ音・金属音などには反応することもあります。このような子ではいきなり高音を出すとストレスになるので注意してください。
また、聴力の低下は老化現象だけでなく、耳や耳からつながる神経の病気が原因であることもあります。他に気になる仕草などがあれば獣医師に相談しましょう。
老犬の震えは痛みや病気のサインかも!?
老犬の震えには、痛みや病気が原因のケースもあります。
低体温症での寒さによる震えや、脳腫瘍・てんかん・振戦症候群などの脳神経系の疾患でも同じような震えが起こることもあります。他にも、甲状腺機能低下症をはじめとするホルモン分泌関連疾患や中毒、低血糖、低カルシウム血症などでも痙攣が起こります。
また高齢になると、過去に罹患した病気やケガが、加齢によって悪化したり再発したりすることもあります。骨関節やお腹などの痛みが原因の震えもあるので、老犬の震え症状の原因を探す際は既往歴も考慮する必要があります。
愛犬の震えが加齢による筋力の低下によるものなのか、痛みや病気の震えなのか、日頃から観察して少しでも心配があれば獣医師に診てもらいましょう。犬が震えている様子をスマホで動画撮影して、診察時に見せると診断の参考に非常に役立ちます。
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老犬が震えたらこれをチェックして
愛犬が震え出したら、まずは次に紹介する事柄をチェックしましょう。緊急性のある状況なのか判断できるようにしておくと安心です。
意識の有無をチェック
犬が震えたら、まず意識があるか確認しましょう。呼びかけに反応するかもチェックします。意識はあっても自力歩行ができない場合は、神経系の疾患の可能性が高まります。早期治療が必要なので、急いで動物病院へ連れて行きましょう。
また、意識がない場合は、てんかん発作の可能性があります。適切な処置をしないと後遺症が残ったり最悪は亡くなるケースがあるので、至急動物病院へ連絡して連れて行ってください。
体温をチェック
震えの原因が熱中症や低体温症ではないか、体温を確認しましょう。平常時の犬の体温はおおよそ38.0~39.0℃です。これより体温が高くなっている場合は熱中症かもしれません。
常温の水で全身を濡らしてあおぐなどして病院へ連れて行ってください。逆に低体温になっている場合は、毛布などで身体をくるんで温めながら病院へ連れて行きましょう。
犬も人と同様に平熱に個体差があります。何かあった時に適切な評価ができるよう、元気な時の平熱を把握しておきましょう。
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脚や腰、身体をやさしく触ってチェック
犬が震えたら、その原因が痛みによるものではないか、犬の身体をやさしく触って確認しましょう。特定の部位を触ると嫌がる、歩き方がおかしい場合は、痛みを感じている可能性があります。またお腹がキュルキュル鳴っているのであれば、消化器系の異常を疑いましょう。
トイレを我慢していませんか?下痢症状はありませんか?さらに嘔吐症状もあるなら、消化器系の病気の可能性が高いかもしれません。異変や不安がある場合はそのまま放置せず、獣医師に相談しましょう。
老犬が急に震え出したら要注意!獣医師へ相談して
犬が急に震えるようになったら、若い犬でも老犬でも年齢に関わらず注意が必要です。特に、老犬の場合は「非常に危険な状況」である可能性があることを頭に入れておきましょう。
日常的に震え症状が見られるわけではなく、急に現れた場合に自己判断で様子を見るのは、場合によっては危険です。速やかに動物病院へ連れて行くことをおすすめします。
老犬の震え改善のためにできること
前述したように、老犬の震えにはさまざまな原因があります。しかし、筋力低下や寒さが原因の場合は、飼い主が予防策を講じることで愛犬を守ることができます。
例えば、日々の散歩を欠かさないことです。犬にとって歩くことは、犬らしく生きる上で非常に大切なことです。歩くことは、筋肉量の維持や全身の血行を促進して基礎体温を上げることにもつながります。
また、陽の光に当たったり外部の刺激を受けることで精神的にも良いです。以前のようにたくさん歩けなくなってきても、ゆっくりで構いません。愛犬のために、日々の散歩を続けることが重要です。
また、筋力が落ちてくると、フローリング床では滑りやすくなり、関節などを痛めるリスクがあります。マットを敷くなど床材を滑りにくいものにする他、階段など段差にも配慮が必要です。踏ん張る力がさらに弱くなった犬には、水を飲んだり食事をしたりする際の食器の高さも、無理のないものに交換してあげるなど、細やかな配慮をしてあげましょう。
加えて、犬が過ごす空間の温度変化にも注意しましょう。床に近い高さの空間が犬にとって適した温度になっているか、家の中でも部屋間を移動する際に廊下が寒くないかなど、細かく配慮してあげましょう。寒い季節は洋服を着せてあげるのもよいでしょう。
まとめ
老犬の震えは加齢によるものもありますが、中には緊急を要する危険なケースもあります。特に、老犬が急に震え出した場合は安易な自己判断は禁物です。少しでも判断に迷うことがあれば、速やかに動物病院を受診するようにしましょう。
また、加齢による生理的な震えで特に治療は必要なくても、犬にとっては決して気持ちの良いことではないこともあります。愛犬が安心して快適に過ごせるように、飼い主が正しい知識をもち、できる限りのケアをしてあげましょう。