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CaFelierペットクリニック院長。財団公益法人 動物環境・福祉環境evaの評議員、一般財団法人 犬猫生活福祉財団の評議員も務めている。
何歳になっても子どものようにかわいい愛犬ですが、人間の4倍ものスピードで年を取るといわれています。一般的に犬は小型犬でも大型犬でも7歳くらいからシニア期へ突入します。となると気になるのはやはり、健康問題です。「7歳なんてまだ若い」とのんびり構えていると、あっという間に愛犬の健康問題に直面してしまうかも!?
そこで今回は、獣医師・小林充子先生に、「犬の健康診断の必要性」を柱に、何歳からどのような検査をした方がよいのか、愛犬がシニアになってもずっと健康でいられるように私たちができること、などのお話を伺ってきました。
愛犬にできるだけ長く健康で過ごしてもらうためには、若いうちから取り組みたいことがたくさんありました。これからシニア期を迎えるわんちゃんの飼い主さんはもちろん、まだ若いわんちゃんの飼い主さんも必見です!
目次
- 犬の健康診断は何歳から必要?何がわかる?
- 犬のシニア期 愛犬の健康のためにできること
- 愛犬の健康のためには、“かかりつけ医”も大切
- まとめ:定期的な健康診断とかかりつけ医、愛犬の健康を守る環境を作っていこう
犬の健康診断は何歳から必要?何がわかる?
犬の健康診断の重要性はなんとなくわかっていても、「愛犬は若いし元気だし、まだ健康診断は受けなくても大丈夫かな」と思っていませんか?健康診断の費用は病院によりますが、血液検査だけでも1万円くらい、確かに悩んでしまうかも!?
そこで、教えて先生!健康診断は何歳からやった方がいいですか?どうしてやった方がいいんですか?
健康診断はどの年齢でも必要!若くても1年に1回
健康診断は、犬を飼い始めたときから1年に1回は定期的に受けて欲しいです。
まだ若い犬の場合は、健康診断では問診と触診、血液検査を主に行います。気になる所見や飼い主さんからの希望があれば、レントゲンなどの画像診断をすることもあります。
健康診断の目的は、「病気になるかもしれない」という兆候を見つけることです。未病の段階で、食事や生活習慣など気を付けることを見つけるために行います。
また、将来なりやすい病気がわかっている犬種であれば、なおさら早い時期から健康診断を受けて欲しいです。
キャバリアやチワワ、マルチーズやヨークシャーテリアなどは、心臓の肥大に伴って起こる『僧帽弁閉鎖不全症』にかなり高い確率でなってしまうとわかっています。早い子だと5歳くらいから心臓に病気の兆候が出始めます。その兆候をいち早く見つけることができれば、すぐに投薬治療を始めて、病気の発症や進行を遅らせることができるんです。
昔は血液検査だけではわからなかったことが医療技術の進歩によってわかるようになってきたことも、早いうちから健康診断を受けて欲しい理由に影響しています。
例えば腎機能検査。以前は、BUN(血中尿素窒素)やCre(クレアチニン)などの数値に異常が出て初めて腎機能が落ちていることに気付きました。ただ、これらの数値が上昇するときにはすでに腎機能の75%程度が失われている状態で、多飲多尿など何らかの症状が出てしまっているはずです。それが5年ほど前に『SDMA』という酵素を検査することで、腎機能が30〜40%程度落ちたところで発見できるようになりました。失った腎機能は治すことができません。だから現状の機能を維持して進行を遅らせる治療を行うために、早期発見が何よりも重要なのです。
腎臓の異変を早く見つけて、毎日の食事を低タンパクにしたり低ナトリウムにしてみたり、飲水量を増やしたりといった対策をすぐに始めてもらうことで、発症を3年後ろ倒しに、というようなことができるんですから。
健康の基本“食生活” を血液検査でチェックしよう
まだ若い犬を飼っていると、健康診断に時間と費用をかけることがもったいないと思っている人がいるかもしれませんが、若い犬だからこそ健康診断をしてもらいたいことの理由のひとつとして、「今食べているフードが、その子の体質に合っているか」ということがあります。
最近は、たくさんの種類のドッグフードやおやつが販売されていて、手作り食を取り入れている方も多くいらっしゃいます。飼い主さんが愛犬の健康を考えて与えている食事ですが、それがその子の体質に本当に合っているのかを、血液検査で客観的に見ることができるんです。
例えば「総蛋白」や「肝臓の酵素」の数値を見ることで、タンパク質をきちんと身体に吸収できているか、消化吸収するために内蔵に負担がかかっていないか、つまりその子に適した食生活を送っているかがわかるわけです。
食べた物が数値として出るまでには、だいたい2カ月くらいかかります。気になる数値があった場合は、与えているフードの何の食材が愛犬の身体に合っていないのかを、あれこれ検証していく時間がかかる作業になりますが、『食は健康の基本』ですから重要な問題です。愛犬の身体に適したフードを見つけるためには、フードを変えて2カ月ほどしてから、気になる項目だけ再検査をするということを繰り返してみてください。
健康診断のデータの蓄積が後に役に立つ
若いうちから健康診断を定期的に受けて欲しいもう一つの理由に、診断結果のデータが将来何か健康問題が起きたときに役に立つからということもあります。
血液検査の結果用紙をご覧になって、愛犬の数値がどの項目も参考基準値内だと安心される飼い主さんがいらっしゃいますが、参考基準値というのは平均値というだけで、「だいたい大丈夫だろう」、という目安です。あくまで目安であって、その子にとって安心な数値とは言い切れないんです。逆に参考基準値をオーバーしていても大丈夫なケースもあるし、その子の体質や犬種、年齢などによる特性もあります。
そこで役に立つのがその子の過去のデータです。1年前、2年前のデータがあれば、「元々この数値は高めだけど、変化がないから大丈夫かな」というように、その子の数値傾向が読みやすくなるんです。
だから、やっぱり若いうちから健康診断を受けて欲しい。何も問題ない状態が続いていたとしても、血液検査や画像検査のデータを蓄積しておくことで後々役に立つことがあるからです。
健康診断、10歳以上は半年に1回が理想
犬は10歳を超えたら健康診断は半年に1度、気になる数値が出たらその項目だけでいいので、こまめに検査をしていくことをおすすめしています。
いわゆるシニア期と呼ばれる頃になると、私は基本的に「何かあるぞ」、という目で診断結果を見るようにしています。
食欲もあるし、元気にお散歩もする、何も病気の兆候はなさそうだけどなぁ…と思っていても、飼い主さんとの会話で2.3日に1回くらいの頻度でほんの少しだけ軟便気味のときがある、と聞いて検査してみると、炎症性腸疾患だったり胆管が詰まっていたり、ときには慢性膵炎が隠れていた、なんてこともあります。
「犬にも飼い主にも自覚症状がないけど、身体の中で何かが進行しているかもしれない」、というのがシニアの健康状態です。
また、獣医師として画像検査をどの時点から取り入れるかが難しいと感じています。
腫瘍ができていても、血液検査で白血球やリンパ球は異常値が出るほどの動きは出ないことがほとんどです。血液検査では何も問題がないのに、エコー検査をしてみたら腹部に腫瘍ができていた、というようなケースも珍しくありません。
だから、健康診断でレントゲンや超音波などの画像検査もして欲しい。シニア期になればなおのことです。
犬のシニア期 愛犬の健康のためにできること
犬は人間の4倍ものスピードで年を取り、犬全体の平均寿命は14歳ほどといわれています。いつまでもかわいい子どものような愛犬ですが、あっという間にシニア期を迎えます。
そこで、教えて先生!愛犬がいつまでも健康でいるために、飼い主が注意することはありますか?
健康の曲がり角は7歳、10歳、12.3歳ごろ。変化を見逃さないで!
犬は何歳からシニアかというと、個体差があるとは思いますが、健康面でいうと大型犬も小型犬も7歳ごろにまず最初の変化があるように感じています。その後は10歳前後、12.3歳ごろに曲がり角がやってくる印象です。12.3歳を何もなくスルッとクリアする子は、健康に長生きする印象です。
そのため7歳を過ぎた子の飼い主さんには、気を付けて欲しいことがあります。例えば「うちの子もう10歳だから、おじいちゃんっぽくなってきたわ。」と感じたとき、その理由をきちんと検証することです。
犬も年を取ると、人間同様に聴覚、視覚、嗅覚など、どこが始まりになるかはそれぞれですが、そういった感覚が少しずつ鈍くなってきます。例えば、来客や電話に反応しなくなったり、家族が帰宅してもお出迎えをしなくなったり。散歩に出ても歩く距離が短くなった、すぐに家に帰りたがる、寝る時間が長くなったなど、若い頃とは違った変化が見られるようになるでしょう。
これらは、確かに加齢のせいかもしれません。でも、病気の可能性もあるんです。もしかしたら関節が痛いのかもしれない、心臓の肥大が始まっているのかもしれない。
だから愛犬のちょっとした変化を「年を取ったから」、と片付けてしまわないことが重要です。
愛犬と心は通じていますか?信頼関係が大切
犬には、すごく我慢強くて、痛かったり苦しかったりするのを表に出さない子もいれば、大袈裟なくらい大騒ぎする子もいます。そのときに、わんちゃんが本当はどれくらい痛がっているのか、苦しがっているのかを飼い主さんがわかってあげられるような関係性が大切です。
だけど密接に関わってわかり合っているからこそ注意したいのが、飼い主さんの精神状態がわんちゃんにダイレクトに影響するということです。
「この子なんだか様子がおかしいかも。どこか悪いじゃないかしら?」と神経質になり過ぎると、わんちゃん自身も「なんだか私具合が悪いのかも…」と元気がなくなってしまうことがあります。わんちゃんはとても細やかに飼い主さんの気持ちを感じ取るものなんです。
でもこれには良い点もあって、例えばリンパ腫の抗がん剤治療というと、とても大変な闘病をイメージするでしょう?でも、飼い主が治療をきちんと納得して「大丈夫、一緒に頑張ろう!」と前向きだと、わんちゃんも安定して良い結果が出やすい。飼い主さんの精神状態は犬の心にも身体にもダイレクトに影響するんだと実感しています。
意外な盲点!?充分な医療を受けさせるために必要なケージ慣れ
最近気になるのが、「ケージ慣れをしていない子が多い」ということです。
ケージ慣れをしていないとどういうときに困るかというと、例えばわんちゃんに点滴治療が必要になったとします。点滴治療は時間がかかるので、わんちゃんをお預かりをして点滴を終えてから飼い主さんにお迎えにきてもらうような形を取ることが多いのですが、ケージに入れたとたんに大暴れして点滴ができない。そうなると、その子にとって必要な治療なのに、諦めなくてはいけなくなってしまうのです。
愛犬がケージで落ち着いて過ごすことができるようにしておくことは、病気になって治療が必要になったときに、適切な治療を施すことができるということです。ケージに落ち着いて入っていられないことで、点滴ができない、さらには入院ができないなんてことになると、必要な治療ができなかったり、治療の選択肢が狭まってしまったりする可能性があるんです。きっとこういうことは、犬が若くて元気なうちはあまり考えないでしょうから、きちんと知っておいてもらいたいことです。
特に、犬はシニアになるとほとんどの子が「嫌なことは徹底的に嫌!」と頑固になっていきますから、もし愛犬がケージに入ることができないようだったら、今すぐにトレーニングを始めるべきだと思います。
愛犬の健康のためには、“かかりつけ医”も大切
犬のシニア期は、ちょっとした体調や行動の変化も見逃さないようにしないといけないことがよくわかりました。でも私にできるかな、と少し不安になってしまいます。
そこで、教えて先生!愛犬の健康を守るために、飼い主へのアドバイスはありますか?
愛犬の変化が「問題ない変化」なのか、「問題ある変化」なのかの見極めは、飼い主さんだけでは難しいと思います。だから、健康診断や、かかりつけ医を上手に活用してください。
愛犬の健康のことを気軽になんでも相談できるかかりつけ医がいることは、愛犬が高齢になって悩みが増えていくと、より一層大切なことになっていきます。獣医師側からしても、かかりつけ医として定期的に診せてくれていると、そのわんちゃんの変化や傾向がわかりやすいというメリットがあります。
私自身、定期的に診察を受けてくれている子なら、既往症や普段の様子、生活スタイルを良く知っているので、「散歩コースが変わったのよ」、なんてちょっとした話題からでも「これは検査した方がいいかな」と気が付いたり、何か起こったときにそれがその子にとってどれくらい重大なことなのか、また毎年この時期になるとこういう症状が出るから事前に気を付けないと、といったような的確なアドバイスがしやすいです。
ただ、かかりつけ医だけでなくいろんな獣医師が診察するメリットもあります。セカンドオピニオンです。私が診察をするときには、明確に数値や悪いものが出てるわけではないけど、「ちょっと変だな」と感じたら、必ず他の獣医師にも診てもらうように患者さんへ進言しています。
だから、場合によってはかかりつけ医だけではない選択肢も柔軟に使い分けできるといいと思います。
まとめ:定期的な健康診断とかかりつけ医、愛犬の健康を守る環境を作っていこう
飼い主さんにしか気が付けないわんちゃんの変化があります。愛犬の様子を見ていて、ちょっとでも気が付いたことがあったらメモを取っておくと良いでしょう。季節性の体調不良などは、経験則でわかっていればこれから先の傾向が見やすくなりますし、そういった日常の変化を信頼できる獣医師に相談できることが大切です。普段からそのわんちゃんを良く知っているかかりつけ医なら、飼い主がスルーしてしまいそうな些細な変化でも「それはおかしいかも。調べた方がいい」と判断することもあるでしょう。
健康診断は若いうちから定期的に、シニア期になったら半年に1回、画像検査もおすすめします。
犬はシニア期になると、いろいろなことが変わってきます。だから、飼い主さんだけでなく、かかりつけ医やトリマーさんなどプロの手を借りながら、一緒に愛犬の健康を守っていけるような環境を今から作っておくと安心です。
犬の健康診断については、こちらの記事でもくわしく解説しています。