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『犬のトラブル法律相談所』では、犬に関するトラブルについて、実際に発生した事例を現役の弁護士の方に紹介していただきます。今回はペットの預け先でのトラブルのお話。いつあなたが当事者になるかわかりません!様々な事例から学び、もしもトラブルの当事者になっても対応できるよう、正しい知識を手に入れましょう。
※この記事の解説は、ひとつの見解です。お客様の問題の解決を保証するものではありませんのであらかじめご了承ください。
目次
- 【事例】ペットホテルに預けた愛犬が行方不明に!
- 【判決】犬を行方不明にしてしまったペットホテルの責任は?
- 【事例】トリミングサロンで尻尾を切られた!
- 【判決】尻尾を切ってしまったサロンの責任は?
- ペットは法律上は”物”だけど命ある”物”
【事例】ペットホテルに預けた愛犬が行方不明に!
今回は、多くのドッグオーナーさんがお世話になるであろう、ペットホテルやトリミングサロンに関するトラブルを紹介します。ペットホテルに預けた犬がその後体調を崩したり、トリミングサロンに預けたら重篤な傷を負わされたなど、サービスを利用した際のトラブルに関しては、多くの相談が発生しているようです。
お話を伺ったのは・・・⽯井⼀旭 先⽣ [弁護士/あさひ法律事務所 代表]
事案
ペットホテルに預けた犬(2歳のチワワ)が、ホテルのスタッフが散歩中に逃げてしまい、そのまま行方不明に。
<福岡地方裁判所平成21年1月22日判決>
【判決】犬を行方不明にしてしまったペットホテルの責任は?
犬を預かったホテルの責任と実際の対応は?
ペットホテルに犬を預けることは、法律的には、物の保管を依頼する『寄託契約』と分類されます。寄託中に犬に損害が発生した場合、預かっていた人は飼い主に対してその損害を賠償しなければなりません。ここでいう「損害」は、犬が怪我をした・病気になったということだけでなく、今回のように逃げていなくなってしまった場合も含みます。
この事例で行方不明となった2歳のチワワは、怖がりやさんでした。そのため飼い主は、ホテルに犬を預ける際、「この子は他の犬を怖がるので別々に散歩させて欲しい」と文書で頼んでいました。しかし、ホテル側は他の犬と一緒に散歩に出しており、その最中にチワワは逃げてしまったのです。
不誠実だったホテルの対応も考慮された判決
判決では、飼い主さんが文書で指示したことに対しホテルが違反したことに加え、逃げたことをすぐに飼い主に報告しなかったり、逃げた状況についての説明が後になって変わったり、「従業員が捜索している」と飼い主に説明しながら実際には探していなかったりと、ホテル側の不誠実な対応が考慮されました。
結果、被告に対して慰謝料・弁護士費用を含めて60万円の賠償金の支払いが命じられました。一方で、飼い主が犬を捜すために仕事を休んだ分の休業補償は、損害として認められませんでした。
【事例】トリミングサロンで尻尾を切られた!
もう1件紹介するのは、トリミングサロンに預けている最中に発生した事案です。
事案
トリミングの最中、猫の尻尾を5センチも切り取ってしまった
<東京地方裁判所平成24年7月16日判決>
トリミングの最中、愛猫のしっぽが5センチも切り取られてしまったという事例です。猫はすぐに獣医師の治療を受け、幸い傷はふさがり後遺症もなかったとのことですが、飼い主は、猫の治療費・通院交通費に加え、猫のしっぽが短くなったことで以前のように軽快に動けなくなったとして猫の財産的損害と、飼い主自身の精神的不調による休業の損害、慰謝料などを求めて、トリミングサロン運営会社とトリマーに対し訴えを提起しました。
【判決】尻尾を切ってしまったサロンの責任は?
トリミングサロンの責任は?
トリミングサロンに犬を預けてカットしてもらうことは、業務委託契約あるいは委任契約に分類されます。そのいずれも、業務を請け負った側は、十分な注意をもって仕事を完遂する義務(善管注意義務)があります。誤って犬に怪我をさせたりすれば、損害賠償義務が発生します。
失った尻尾と裁判所が下した判決
判決では、トリマー側が「猫の安全に配慮し、傷つけないようにトリミングを行うべき注意義務」に違反して猫の尻尾を切断し、飼い主の所有物を傷つけたとして、トリミングサロン運営会社とトリマーの両者に賠償責任を負わせました。
しかし、賠償の内容としては、治療費・通院交通費と家族4人の慰謝料として約10万円を認めたにとどまりました。猫の財産的損害と飼い主の休業損害については独自の損害としては認めず、慰謝料を算定する際の考慮材料の一つにとどまりました。
ペットは法律上は”物”だけど命ある”物”
2つめの事例の判決では、「確かにペットは法的には"物"として処理されることになるが、生命のない動産(現金・商品・家財など)とは異なり、生命を持ちながらみずからの意思を持って行動し、飼い主との間に、さまざまな行動やコミュニケーションを通じて互いに愛情を持ち合い、それを育む関係が生まれるのであるから、その意味では人と人との関係に近い関係が期待されるものである」ということが示されました。
つまり、ペットは法律上あくまで”物”だけど、命のある”物”として扱おうということです。飼い主との間にコミュニケーションがあって、お互いに愛情を持ち合うという関係性は、誰より飼い主の皆さんが一番わかっているところだと思います。こうした裁判においても、人とペットの関係が、人と人の関係と同じように扱われることが、ますます当たり前なことになることを望みたいですね。