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『犬のトラブル法律相談所』では、犬に関するトラブルについて、実際に発生した事例を現役の弁護士の方に紹介していただきます。今回のトラブルは糞尿の悪臭にまつわるお話。いつあなたが当事者になるかわかりません!様々な事例から学び、もしもトラブルの当事者になっても対応できるよう、正しい知識を手に入れましょう。
※この記事の解説は、ひとつの見解です。お客様の問題の解決を保証するものではありませんのであらかじめご了承ください。
目次
- 【事例】悪臭を理由にマンションから飼育禁止を求められた
- 【ポイント】『受忍限度論』について解説
- 【判決】飼い主に対して裁判所が命じた内容とは?
- 【学び】お散歩中の糞尿問題について
【事例】悪臭を理由にマンションから飼育禁止を求められた
今回は、ペットの糞害を巡るトラブルについてお話しします。この記事で紹介する事例を含め、糞尿被害が問題になった裁判例の多くが猫によるものですが、犬に置き換えても非常に参考になると思います。なお、犬の場合は吠え声のうるささ(つまり、騒音)が問題とされるケースが多く見られます。
お話を伺ったのは・・・⽯井⼀旭 先⽣ [弁護士/あさひ法律事務所 代表]
事案
マンションで3匹の猫を飼育していた飼い主(=被告)が、猫の糞尿の悪臭がひどいことを理由として、マンション管理組合(=原告)から動物の飼育禁止・猫の退去・糞尿の除去・消臭措置を求めて訴えられた事案です。
<東京地裁平成19年10月9日判決>
【ポイント】『受忍限度論』について解説
管理組合のとっていた行動
この事例では、裁判に至るまでの間に『管理組合』が『飼い主』に何度も是正を求めていました。ただ、状況が改善されなかったため、管理組合は規約を改定してペット飼育を禁じました。
しかし、それでも状況が変わらなかったため、管理組合は飼い主に動物飼育を禁じる内容の決議をし、この決議に従わなかったということで訴えを起こしました。
今回のポイント『受忍限度論』とは?
騒音・悪臭・日照権侵害などが問題となる裁判において、裁判所はしばしば「受忍限度論」と呼ばれる基準を用いて判断をしています。”受忍”というのは、迷惑に対して耐え忍んで我慢する事、”受忍限度”というのはその我慢できる範囲のことです。
人間が集団生活をしていく以上、他人から一定の迷惑をかけられることや、他人にある程度の迷惑をかけてしまうことは避けられません。これらをすべて違法だとして賠償の負担を課していたら、人間の社会生活・経済活動は成り立たなくなってしまいます。そこで、裁判所ではその”迷惑の程度”が、社会生活一般の受忍限度を超える場合のみを違法としているのです。
犬の糞尿被害に関しても、我慢できる範囲を超えているかどうかで判断する問題、つまりこの『受忍限度論』が当てはまると考えられます。
【判決】飼い主に対して裁判所が命じた内容とは?
裁判所が下した判決
裁判所は飼い主(=被告)に対して動物の飼育禁止、猫の退去、及び糞尿の除去・消臭措置を命じる判決を下しました。
その中で、
・原告側が規約改定をした後も被告が猫の飼育を継続し、その結果マンション住民から苦情が多数寄せられていたこと
・原告側から被告に改善を求める通知が出されたり、動物飼育禁止の決議がされたこと
・マンション住民の90%から悪臭被害の訴えがあったこと
といった事情をあげました。その上で、被告がこのマンションの生活の利益を害しているとして、原告の請求を認めました。そして被告に対し、動物の飼育禁止、猫の退去、及び糞尿の除去・消臭措置を命じる判決が言い渡されたのです。
【学び】お散歩中の糞尿問題について
お散歩中の糞尿の放置
犬の場合、糞尿問題として思い浮かぶのは、お散歩中の糞尿の放置によるトラブルではないでしょうか。住宅に「犬の糞尿をさせないで/放置しないで」といった内容のプレートが掲出されているのを見かけることもよくありますよね。多くの方が始末をしているかと思いますが、トラブルが発生していることも事実です。
条例での規制
ペットの糞の放置については、地方自治体の条例で規制されていることが多くみられます。例えば京都市では「京都市動物との共生に向けたマナー等に関する条例」の中で、糞回収の道具の携帯義務・糞の回収義務を定めており、回収違反者には3万円以下の過料が科せられることとされています。こういった規制の多くは「まちづくり条例」や「環境美化条例」といった形で定められていますので、一度、お住いの地域の条例を調べてみてください。
不要なトラブルを避ける
このように、今やペットの糞の始末は単なるマナーにとどまらない問題となっています。犬の散歩の際には、糞を回収するための袋やスコップ、水を入れたペットボトルを携帯し、犬が糞をしたらすぐに始末しましょう。無用なトラブルを避け、世間のペットに対する目が厳しくなりすぎないよう心配りが大切です。
初稿:2021年8月12日