公開
転勤族の夫とともに、全国を転々としている。現在は東京の片隅で書店員として勤務。今年、『書店員は見た 本屋さんで起こる小さなドラマ』を上梓した。

大型犬が転勤族の家の前に捨てられていた……!
捨て犬を家族に迎え、少しずつ形を変えていく家族の日々。
森田めぐみさんと、愛犬・レイルくんとの10年を振り返っていきます。毎月第2・第4水曜日更新
目次
- 愛犬のお散歩での出来事
- 愛犬が散歩中に拾いもの…
- 犬が、仔犬を拾った
愛犬のお散歩での出来事
それは、よく晴れた朝だった。
子どもたちを送り出し、TVのチャンネルを教育番組から情報番組に切り替えると、キャスターが今日が今年初めての真夏日になることを爽やかに伝えていた。
いつもなら、夫がまだ暗いうちからレイルを朝の散歩に連れ出すのだが、今日にかぎって寝坊してしまい、私が連れて行くことになっている。
日差しが本格的に強くなる前に、家を出なければ! 私は、日焼け止めを塗りたくると、化粧もそこそこに、レイルにハーネスを装着した。
余談だが、このハーネスは引っ張り防止機能があるものだ。レイルに食いちぎられてしまい、すでに3代目。当時は値段も高く、泣く泣く買い替えていたが、先ほどネットで調べてみたら、現在では似たようなものが当時の半値近くの価格で販売されていた。めちゃくちゃ良い時代になりましたね……!
時を経て、年老いたレイルは今、引っ張り防止どころか、リフトハーネスという、立ったり歩いたりを飼い主がサポートするタイプを使用している。ぐいぐい引っ張っていた頃が懐かしいぜ。

愛犬が散歩中に拾いもの…
あ、話がそれましたね。時を戻そう。
ぐいぐい引っ張り期のレイルにハーネスを着け、散歩に出た私。すでに気温が高くなっていたので、木陰の多い、遊歩道のコースを歩くことにした。
当時住んでいた私の地元は、歩道が広く、街路樹も整備されている。何度も引越しをしたけれど、犬の散歩のしやすさはあの街が一番だったな。
午前中の遊歩道は、同じように犬のを散歩している人のほか、ジョギングやウォーキングをする人もいて、なかにはレイルに声をかけてくれるかたも。
良い気分で歩いていたら、向こうからウォーキング中のママ友が。
「おはよう! 明日の懇談会、行くよね?」
おしゃべりをいると、レイルが突然、近くの茂みに顔を突っ込んでいった。
いつもそんなことしないのに、なんで⁉
「こら、やめなさい!」と叱るも、レイルはなかなか出て来ない。
ママ友が「もしかして、モグラとか咥えて出てきたりしない…?」と不穏なことを言い出し、「まさかねぇ」と答えた直後。
ぎゃーーーーーー!! 茂みから出てきたレイルは、茶色い物体を咥えていた。
あわててレイルの口元に手をやると、その物体に噛み付いているわけではなく、咥えて運んできただけの様子。
それは、茶色でコロコロした、仔犬だった。
「犬が、犬を拾ったね……」ママ友が呆然と呟いた。
手のひらサイズのその仔犬を、レイルはべろべろ舐めている。
「レイル、やめなさい!」仔犬を引き離すと、レイルは悲し気な顔で私を見つめた。
いつのまにか、ママ友や近くを通りかかった人たちが、茂みの辺りを確認してくれていた。
「他に犬はいないみたい」
その場にいた人々にお礼を言い、これから用事があるというママ友とも別れ、帰りの散歩コースを変更。私は、警察に届けを出すため、交番へと向かった。
犬が、仔犬を拾った
交番に行くと、警察のかたがふたりいらっしゃって、「あ、昨日の犬と同じだね」「兄弟かな」と話し出した。聞けば、昨日も遊歩道のあたりで段ボール箱に入った犬数匹を拾ったかたがいたそうで、「この犬とそっくりな子が3匹いた」という。
「でも昨日も気温が高かったでしょう。みんな弱っててね、死んじゃったんだよ。かわいそうに」
年上の警察官は、お家で柴犬を飼われていると言い、「こんな小さな子たちを捨てていくなんて、最低だよね」と呟いた。
昨日、兄弟が拾われる前に、この犬だけ箱から脱出したのだろう。「外に出たら水を飲んだりもできただろし、日陰に隠れていたから、この子は助かったのかもね」
犬好きの警察官が、仔犬を撫でた。
……あぁ、もうダメ!! こんなのほっといて帰れるわけないじゃんか!!
約10年近く前のことなので、現在とは対応が変わっているかもしれないが、まだミルクの時期であろうこの犬を、私が一旦預かりたいと申し出ると、3カ月間は私に所有権がないことをについて説明され、書面に署名をし、犬を預からせてくれた。
雨水なんかを飲んでいたなら、すぐに動物病院にも連れて行かなければならない。
ミルクも買いに出かけなければ。
幸い、交番から自宅までの間に、かかりつけの動物病院がある。
暑くなる前にさっさと帰宅するつもりだったのに、思いがけず長い散歩になってしまった。
右手には大型犬、左手には交番でもらった古タオルに包まれた仔犬。なんだこの状況。
レイルがタオルの中を気にして、こちらを何度も見上げる。
君、もしかして面倒見がいいタイプなのかね…?
レイルの新しい一面を見たかもしれない。
レイルと私は、急ぎ足で動物病院へ向かった。
