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アメリカ獣医行動学会会員、ペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets 代表。問題行動の治療を専門とし臨床に携わる。
愛犬の健康を維持するために必要となる投薬。しかし、犬が薬を飲むのを嫌がって、うまく投薬できずにお困りの方も多いのではないでしょうか。それが毎日のこととなれば、飼い主と犬の双方にストレスが溜まってくるかもしれません。そこで今回は、「ペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets」代表で獣医師の石井香絵先生に教えていただいた、犬に上手に薬を飲ませる方法や犬が薬を嫌がるときの対処法について解説していきます。
目次
- 犬が薬を飲まないのはなぜ?
- 犬の薬の種類とは?
- 犬の薬の種類ごとの飲ませ方と上手に飲ませるためのコツ
- 犬が薬を嫌がる時の対処法は?
- 犬に薬を飲ませる時の注意点は?
犬が薬を飲まないのはなぜ?
犬の薬の飲ませ方をご紹介する前に、そもそも犬はどうして薬を飲むのを嫌がるのでしょうか? その理由について解説していきます。
味が嫌いだから
薬には苦味があるものも多く、犬は一度その味を経験すると薬を飲むのを嫌がることがあります。食事に薬を混ぜた場合も、食事自体を食べなかったり、薬の部分だけ残したりする犬もいます。錠剤は口にいれたあと、こっそり吐き出していることもあるので、神経質な犬の場合はとくに注意が必要です。
匂いが嫌いだから
薬には独特の匂いがあり、ドッグフードや液体状のエサに混ぜても口にしてくれないことがあります。犬の嗅覚はたいへん優れているため、強い香りのする食べものに混ぜたとしても、薬の匂いを嗅ぎ分けてしまい、うまく与えられないケースも見られます。
日頃から美味しいおやつをもらいすぎているから
日頃から間食として美味しいおやつを1日のうちに何度ももらっていると、いざ薬を飲ませようとしておやつに包んで与えても食べてくれないことがあります。食いしん坊の犬であれば問題ありませんが、食欲にムラがあったり、食事に執着がない犬は、間食をできるだけ減らし、ご飯をしっかり食べられるようにしておくことが大切です。
薬の量が多いから
大型犬の場合や薬の種類によっては、量の多い薬を一度に飲ませなければならないことがあります。錠剤やカプセルタイプの薬であればそれほど問題はありませんが、量の多い粉末薬の場合、食事に混ぜたり、水に溶いて与えるときに薬の存在をうまく隠しきれなかったり、薬を与える際に時間がかかったりして、嫌がるようになります。
飼い主の様子がいつもと違うから
犬は飼い主の言動にとても敏感です。薬の準備をしようと思った時点でその変化に気づく犬もいます。飼い主が「今日は失敗しないように薬をあげなきゃ」「薬を飲んでくれなかったらどうしよう」などと過度に緊張したり、不安になったりするとその雰囲気を犬が感じ取ってしまいます。愛犬がリラックスして薬を飲んでいる様子をイメージしながら、普段通りの落ち着きをもって、薬を準備して与えるようにしましょう。
犬の薬の種類とは?
犬の薬にはさまざまな形状があります。形状の違いは薬効成分を必要なタイミングで必要な体の部位に届けるためです。それぞれの形状と特徴を知っておきましょう。
錠剤
粉を圧力によって一定の硬さに固めたものが錠剤です。飲みやすさや扱いやすさに優れており、長期保管できるのが特徴です。薬の苦味を隠すため、表面に糖がコーティングされているものもあります。
カプセル剤
カプセル剤は、ゼラチンで作られたカプセル内に粉状または液状の薬が入っています。錠剤よりも薬の吸収が速く、飲みやすいのが特徴ですが、水なしで与えると喉や食道に薬が張り付き、粘膜を痛めてしまうこともあるので注意が必要です。
粉末薬(散剤・顆粒剤)
粉末状の薬は、体内への薬の吸収が速く、量を微調整できるメリットがある一方、味や匂いをダイレクトに感じやすいため、与えづらいという欠点があります。
液剤、シロップ剤
薬の成分に精製水や甘味料を加えて飲みやすくしたものです。薬の成分が溶け出しているため効果が速く現れ、甘味がついていることで飲みやすくなっています。
犬の薬の種類ごとの飲ませ方と上手に飲ませるためのコツ
薬は形状ごとに飲ませ方も変わってきます。それぞれの薬の正しい与え方と、上手に飲ませるコツを見ていきましょう。
粉末薬の飲ませ方と上手に飲ませるためのコツ
粉末薬は、愛犬が好きな食べ物や日頃の食事に混ぜて与えるのが一般的です。食事に混ぜる方法がうまくいかなかった場合は、少量の水に溶いてシリンジで吸い、口の脇(犬歯より後方)から少しずつ飲ませます。このとき、一度にたくさん入れると誤嚥してしまう恐れがあるので、ゆっくりと行ってください。
錠剤、カプセルの飲ませ方と上手に飲ませるためのコツ
錠剤やカプセルを飲ませるときは、犬の顔を斜め45度ほどまで上げて、両手で上下の顎を優しくおさえて下顎を下げて口を開けます。錠剤を喉の奥に入れて口を閉じ、喉を優しくなでたり、鼻にふっと息を吹きかけて、飲み込ませます。飲み込んだかどうか必ず確認しましよう。カプセル剤は、喉や粘膜に張り付いてしまうことがあるので、飲ませたあとに必ず水を与えてください。
なお、この方法を行うには、犬のストレスにならないよう、日頃から口周りに触れるなどして、口を開ける練習ができていることが望ましいです。過度に嫌がったり、咬みついてきたりする場合は無理せずに食べ物などに包んで与えてみましょう。
水薬、液体、シロップの飲ませ方と上手に飲ませるためのコツ
水薬やシロップをシリンジで吸い、口の脇(犬歯より後方)から少しずつ飲ませます。誤嚥を防ぐため、少しずつゆっくりと飲ませるようにしましょう。
犬が薬を嫌がる時の対処法は?
犬が薬を飲むのを嫌がったとき、どのようにして薬を与えればよいのでしょうか? 対処法をご紹介します。
食べ物と一緒に薬を飲ませる方法
薬をご飯に混ぜて与えるのは有効な方法のひとつですが、ご飯全体に薬の味や匂いがついてしまうとそのご飯自体を食べなくなってしまうことがあります。いつもの食事に薬を混ぜるときは、与えるご飯すべてに混ぜるのではなく、少量の食事に混ぜるようにすることが大切です。
薬を食事に混ぜる際は、フードを手のひらにたいらに乗せて、その真ん中に薬を乗せ、薬ができるだけ露出しないようにフードでしっかり包みましょう。大福のように皮(フード)であんこ(薬)を包むイメージです。この方法をドライフードで行う場合は、ふやかしてウェットフード状にする必要があります。
<薬を混ぜるのにおすすめの食べ物>
ドッグフード以外に薬を混ぜるのにおすすめなのが、かぼちゃやいも類です。こうした甘味のある食材は犬が好んで食べてくれます。かぼちゃやいもを蒸してつぶしたもので、薬を包んで与えましょう。薬が入っていると分かってしまい、好物のものでも口にしない場合は、犬の上顎や鼻に付着させて与えてみましょう。とろみのある犬用のスープに混ぜて与えてもよいです。
服用ゼリーや投薬補助トリーツを使う
犬用の服用ゼリーや投薬補助トリーツも市販されています。その中に薬を入れたり、埋め込んだりすることで薬を抵抗なく与えることができます。投薬補助トリーツは、シート状になっていてオブラートのように薬を包んで与えるものと、中心に穴が開いておりその穴に薬を入れて与えるものがあります。
犬に薬を飲ませる時の注意点は?
犬の投薬について、気を付けるべきポイントを押さえておきましょう。
犬が嫌がっても薬を飲ませないのはNG
犬が薬を飲むのを嫌がる姿を見ると、無理して与えたくないと思う飼い主も多いかもしれません。しかし、犬が嫌がるからといって、薬を飲ませないのはNG。暴れたり咬みついてうまく飲ませることができない場合は、かかりつけの動物病院で飲ませてもらったり、薬を飲ませやすい形状に変更できないかを相談してみてください。
飼い主がイライラしない
出勤前など時間に追われているときはなおさら、犬に薬を飲ませることに苦戦して時間をとらえると、飼い主がイライラしてしまうことがあるかもしれません。飼い主がイライラしたり怒ったりすると犬は余計に薬を拒むようになります。時間と気持ちには余裕を持って犬を誉めながら薬を飲ませましょう。
無理に飲ませようとしない/飲んだらご褒美を与える
犬の健康管理のためといっても飼い主が嫌がる犬に薬を飲ませようとして、飼い主が無理やり犬の口を開けたり、力んでしまうと逆効果になります。犬は余計に口を強く閉じたり、逃げ出したりしてしまうかもしれません。犬が薬を飲んだら、日頃もらえない美味しいおやつを与えたり、大好きな遊びをしてあげたりと、ご褒美をあげるのがおすすめです。薬のあとに楽しいことや美味しいことがあるとわかると、犬も頑張って薬を飲んでくれるようになります。
誤嚥に気をつける
錠剤やカプセル剤を犬の口を開けて与える場合、誤嚥に注意しましょう。とくにシニア犬は嚥下反射が鈍くなっており、誤って薬が気道に入ってしまうと肺炎になるリスクもあるので注意が必要です。
薬の形状は勝手に変えない
薬の形状は薬をどのように作用させるかによって異なっています。薬効効果に違いがでてしまうので、飼い主の判断で形状を勝手に変えないようにしてください。処方された薬の形状では飲ませづらい場合は、主治医に相談しましょう。
食べ物との飲み合わせ
食べ物に混ぜて薬を与える際には、食べ物の種類によって薬の効果が半減してしまうこともあるので、飲み合わせには注意しましょう。処方されたときに主治医に確認しておくと安心です。
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