2024年01月26日 公開
埼玉県在住。芸術大学を卒業後、一般企業に勤めながらイラストや漫画の仕事を始める。2015年、フリーランスとなり、現在も活動中。元保護犬の愛犬・もなかと暮らす。
![「なんか笑っちゃう」犬との瞬間を漫画に。等身大の愛犬を発信する、さかぐちまやさん](https://img.wanqol.com/2023/12/ac97bf1a-mayasakaguchi_interview_top-min.jpg?auto=format)
愛犬もなかちゃんの姿を、愛くるしく、ときにシュールに描く、飼い主さんとの日常とは?
目次
- 舌を「ペちょら」? 犬が醸し出す質感やにおい、体温、鼻息まで再現
- ひときわハイテンションだった沖縄生まれの元保護犬・もなかちゃん
- 夜鳴き、うんちまみれ…子犬の扱いに頭を悩ませた日々
- 絵日記での発信が、愛犬への育児の不安を和らげてくれた
- 優等生じゃない愛犬の、等身大の姿を発信したい
- 夫婦の絆を強めてくれた愛犬は、“存在感のでかい同居人”
舌を「ペちょら」? 犬が醸し出す質感やにおい、体温、鼻息まで再現
愛犬との一瞬をすくいあげ、楽しくユーモアたっぷりに描いている、イラストレーター・漫画家のさかぐちまやさん。
言葉で説明すると面白さが半分も伝わらなくてもどかしい気持ちになるとき、絵を描いて発信しています。
「ワンちゃんと過ごしていると、『なんか笑っちゃう』瞬間ってありますよね。この“なんか”こそが、『見逃しがちな犬のあるある行動』のひとつなのかもしれません。そのときの表情や態度、その場の状況やテンポ感などをメモし、絵に落とし込んでいます」
![さかぐちさんの漫画作品 さかぐちさんの漫画作品](https://img.wanqol.com/2023/12/954a3e87-mayasakaguchi_interview_01-min.jpg?auto=format)
「もなかは“THE犬”という犬らしい犬ではないと思っていたので、『うちの子と一緒』『あるある!』と言っていただけるのが驚きでした。どの子にも共通する瞬間があるんですね」
さかぐちさんの描くもなかちゃんの絵は、もなかちゃんの感情が細やかに表現され、犬の質感やにおい、体温、鼻息や声までも伝わってくるため、見る人の五感を刺激します。
舌なめずりをする独特の擬音「ぺちょら」にも共感の声が寄せられました。
![もなかちゃんとさかぐちさんの描く「ペちょら」顔のもなかちゃん もなかちゃんとさかぐちさんの描く「ペちょら」顔のもなかちゃん](https://img.wanqol.com/2023/12/025e9f4b-mayasakaguchi_interview_02-min.jpg?auto=format)
もなかちゃんの豊かな表情も見どころの一つです。
ちょっとした線や点をうまく使って表情のバリエーションを出しています。目を細めたり、ちらっと黒目をつけたり、あごのまわりに線を入れたりすることで、絶妙な表情が生まれます。
「もともと私の絵は線が多くなく、できるだけ削れるところは削れるよう取捨選択を意識しています。だからこそ、少ない線のなかで、いかに“もなからしさ”を出せるかにこだわっています。これからも表情をよく観察して、いろいろなもなかを描いていきたいです」
そんなさかぐちさんは2023年夏に、コミックエッセイ『犬を揉む-ぺちょら…ときどき帰宅拒否-』を発売。顔を揉まれるもなかちゃんの表紙が目印のフルカラーコミックは、犬飼いさんや犬好きさんを魅了しています。
ひときわハイテンションだった沖縄生まれの元保護犬・もなかちゃん
![生後2〜3ヶ月のもなかちゃん、ボランティアさんのお宅にて 生後2〜3ヶ月のもなかちゃん、ボランティアさんのお宅にて](https://img.wanqol.com/2023/12/6d27d323-mayasakaguchi_interview_03-min.jpg?auto=format)
さかぐちさんが、いくつかの譲渡会を回ったなかで出会ったのが、もなかちゃんです。もともとさかぐちさんは、実家で元保護犬の子と一緒に暮らしていました。ご主人も雑種の子犬を譲り受けた経験があり、2人とも譲渡会からワンちゃんを迎えることに違和感はありませんでした。
「たくさんの子犬のなかに、1匹だけテンションが違う子がいたんです。ほかの子は眠そうにしていたり緊張して縮こまっていたりしていたのですが、その子は『遊ぼう遊ぼう』とちょっかいを出していて。はしゃいで空回りする姿にグッときて、その場で申し込みをしました」
審査を経て、晴れてさかぐち家の一員となったのです。
![沖縄出身の元保護犬 雑種のもなかちゃん 沖縄出身の元保護犬 雑種のもなかちゃん](https://img.wanqol.com/2023/12/574d2ff9-mayasakaguchi_interview_04-min.jpg?auto=format)
夜鳴き、うんちまみれ…子犬の扱いに頭を悩ませた日々
待ちに待ったもなかちゃんとの暮らしでしたが、当日の夜から予想外に大変な事態にぶつかります。
「深夜から早朝にかけてずっと吠えていました。寝室が私たちと別だったので、寂しかったのかもしれません。それが数ヶ月もつづいて、心身ともに疲労困憊でした」
さらに、トイレ問題もあったといいます。
「もなかが、夜中にケージの中でうんちをし、そのまま暴れてうんちを全身に擦り付けるようになったんです。毎朝、うんちまみれの犬とケージを洗うことから1日をスタートしていました(苦笑)」
朝の暖かい朝日を浴び、庭先で汚れたケージを洗いながら「冬じゃなくてまだよかったと思おう」と言い聞かせていました。当時は、心が折れないように必死だったと振り返ります。
![生後3ヶ月のもなかちゃん 生後3ヶ月のもなかちゃん](https://img.wanqol.com/2023/12/4d43161a-mayasakaguchi_interview_05-min.jpg?auto=format)
「それまでもしつけの本を読んで心の準備をしていましたが、実際に犬を飼うと、本に書かれていないことがいっぱい起こりました。『うんちを擦りつけるときはどうしたらいいか』なんてことは、本には書いてありません。これからどうしたらいいのだろうと打ちひしがれていました」
そんな不安な日々のなかでたどり着いたのが絵日記です。もなかちゃんの様子を記録するなかで、変化が起こります。
![愛犬もなかちゃんの夜泣き・朝泣き・要求吠えに悩まされた 愛犬もなかちゃんの夜泣き・朝泣き・要求吠えに悩まされた](https://img.wanqol.com/2023/12/86fc21e0-mayasakaguchi_interview_06-min.jpg?auto=format)
絵日記での発信が、愛犬への育児の不安を和らげてくれた
「今日もうんちを擦りつけて大変だった」「トレーナーさんに来てもらった」「ドッグスクールに行くことになった」などと、日常をイラストで綴るようになりました。
当時はいまのような漫画のような形式ではなく、できごとを絵と文でまとめた絵日記のような記録をSNSにアップしていました。
![さかぐちさんが過去に公開した愛犬との記録 さかぐちさんが過去に公開した愛犬との記録](https://img.wanqol.com/2023/12/e9d626c7-mayasakaguchi_interview_07-min.jpg?auto=format)
こうした絵日記の執筆を通し、さかぐちさんも自身が何に苦戦しているかを整理することができたのだといいます。
「『こうしなきゃいけない』『この育て方が正しい』などと自分を縛り、できないことばかりを見て落ち込んでいた自分に気づいたんです。もなかにも理想を押し付けて、無理強いをしてしまっていたのかもしれません。もう少しゆったりとした気持ちで対応しようと思えるようになりました」
絵日記を描くことで、自分に起きていることを客観的に捉えられるようになったさかぐちさん。絵日記を読んだ人からの反応にも勇気づけられたといいます。
「うまくいっていない育犬の日々を公開したところ、意外にもあっけらかんと笑ってもらえたんですよね。深刻に考えこんでしまっていましたが、周囲に笑ってもらえると、気持ちが楽になることを知りました」
優等生じゃない愛犬の、等身大の姿を発信したい
さかぐちさんが気をつけているのは、「キャラクター化した“もなか”が一人歩きしてしまわないこと」だといいます。
例えば、もなかちゃんが家にやってきたとき、不安なことばかりでなく、おもしろい出来事もたくさんありました。
「初めてもなかが氷を見たときのことは、いまでも思い出します。ケージに氷を1個置いたとき、興味深そうに氷を触ったり舐めたりしていました。でも、時間が経って氷が消えてしまうと、氷があった床を猛然と掘り始めたんです。『掘っても出てこないよ』となだめても納得いかず、しばらく氷を探していました。あの姿はとてもおもしろかったです」
そんなクスッと笑ってしまうエピソードも大変な出来事も、さかぐちさんの絵日記にはたくさん出てきます。
![さかぐちさんの愛犬 もなかちゃん さかぐちさんの愛犬 もなかちゃん](https://img.wanqol.com/2023/12/782d31f7-mayasakaguchi_interview_08-min.jpg?auto=format)
「漫画を面白くするには、多少の誇張やデフォルメは必要かもしれません。ただ、いろいろな人に見てもらいたいという気持ちが先走りすぎると、性格をより派手にしたり行動を脚色してしまったりして、本質からずれてしまうこともあります。
私は、これからも『等身大のもなか』を発信していきたいです。この子は、決してキリッとした優等生的ではありません(笑)でも、賢さや特別な能力がなくても、マイペースにのびのびと暮らす犬の日常を見て、『こんな子もいるんだ』って思ってもらえたら嬉しいです」
夫婦の絆を強めてくれた愛犬は、“存在感のでかい同居人”
4歳になった最近のもなかちゃんは、徐々に落ち着きも出てきました。
「子犬のころは常にパワーが炸裂している状態でしたが、今は遊ぶときと休むときのメリハリがついてきました。おとなしく過ごす時間も増えています。人と触れ合うことも好きになり、散歩中に道行く人やほかの飼い主さんにかまってもらっては喜んでいます」
![お散歩中、構って欲しそうなもなかちゃん お散歩中、構って欲しそうなもなかちゃん](https://img.wanqol.com/2023/12/06445b2b-mayasakaguchi_interview_09-min.jpg?auto=format)
さかぐち家にとって、もなかちゃんは家族というきっちりした枠組みでもなく、『存在感のでかい同居人』。愉快な仲間とルームシェアをしているような感覚なんだそう。
「もなかのお世話をしていくうちに夫婦間の連携も鍛えられましたね。あと、たくさんの苦労があったおかげで、予測していないことが起こっても、前よりも動じなくなりました(笑)」
いまは、お散歩が好きなもなかちゃんのために、海や山など、いろいろな場所に連れて行っています。
「もなかは、歩くのは好きですが、家のまわりの散歩道は明らかに飽きていて(笑)。タラタラとつまらなそうに歩いています。でも、海や川沿い、遠出をした先での遊歩道など、新鮮な場所を歩くときは、目をキラキラさせて足取りは軽やかになります。これからも、もなかをいろんな場所に連れて行きたいです」
![お散歩中にとまっているもなかちゃん お散歩中にとまっているもなかちゃん](https://img.wanqol.com/2023/12/521689ff-mayasakaguchi_interview_10-min.jpg?auto=format)
「ワンちゃんにはそれぞれ個性があり、その子にしかない良さや、そのお宅だけの特別で思い出もあると思います。コミックエッセイに描いた犬の“あるある”な姿を通して、おうちの子の新たな一面に気づき、より愛犬のことを愛おしく思えるような発信をしていきたいです」