更新 ( 公開)
「犬はマムシに咬まれても大丈夫」と言われることがありますが、本当なのでしょうか?マムシというと山奥にしかいないような印象があるかもしれませんが、愛犬との毎日の散歩中にも、時間帯によっては草むらでマムシと遭遇してしまう危険性があります。この記事では犬がマムシに咬まれてしまった時の症状や、具体的な対処法などをペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets代表で獣医師の石井香絵先生に解説していただきます。
目次
- 犬がマムシに咬まれる危険性があるのはどんな場所?
- 犬がマムシに咬まれた時の対処法は?
- 犬がマムシに咬まれた時の症状とは?
- 犬がマムシに咬まれてしまった際の動物病院での処置内容や経過は?
- 犬がマムシに咬まれないために注意しておくべきことは?
犬がマムシに咬まれる危険性があるのはどんな場所?
マムシがどんな生き物でどんな場所に潜んでいるのか、知らない人が多いでしょう。まずはマムシの生態について解説します。
マムシってどんな生き物?
マムシはクサリヘビ科の毒ヘビの一種です。代表的なニホンマムシは、全長約60センチメートル程度で、頭は三角形、首は細く、尾部は細くて短め。灰褐色の地に暗褐色の輪状の斑紋(はんもん)があります。また、アカマムシと呼ばれる赤褐色型もいます。
春から秋(4~10月頃)にかけて活動し、気温が低い時には動きが緩慢になって冬には冬眠します。通常、夜行性のため昼間はあまり動き回りません。変温動物のため、気温が下がる早朝などは体温を上げるために日当たりのよい場所に出てくることも。マムシは基本的には大人しい蛇なのですが、犬が好奇心からマムシの匂いを嗅いだり、近づき過ぎてしまうことで咬まれることがあります。
散歩中の草むらなどに注意
マムシは水田の脇や小さな川辺、背丈の高い草むらなどの湿地や竹薮などに好んで住み着きます。メスのマムシは、産卵期の8~10月頃には攻撃性が増すと言われていますので、夏から秋にかけて、山歩きやキャンプに愛犬を連れて出掛ける人は、とくに注意が必要です。また、山道や湿った草むらや田んぼのあぜ道などを、早朝や夜間に散歩をする際には、愛犬だけでなく飼い主自身も気をつけてください。
犬がマムシに咬まれた時の対処法は?
犬はマムシの毒に強いと言われることもあります。そのため、たとえ愛犬が咬まれてもそのまま放っておいても大丈夫だと思っている飼い主がいるかもしれません。しかし、実際はきちんと対処してあげないと全身症状にまで至ってしまうことがあります。
マムシに犬が咬まれても死なないという噂は本当?
「犬はマムシに咬まれても死なない」という噂があるようですが、前述したように、そんなことはありません。人と比べると死亡率が低いですが、咬まれて亡くなってしまうケースもあります。体に入った毒の量や犬のサイズ、咬まれた箇所の深さによっては溶血作用をもつ毒の作用で輸血が必要になる場合やショック状態に陥ることもあります。
咬まれた直後は症状が現れなくても、適切な処置をしないと傷口から継続的に出血し、皮膚の壊死により皮膚に大きな穴が開いてしまうこともあります。マムシ毒はハブ毒の3倍以上の毒性を持っています。くれぐれも、咬まれたことを軽視しないようにしましょう。
マムシに噛まれたらまずは動物病院に急いで連れて行く
咬まれた箇所や、体に入った毒の量によっては重度の貧血を起こす場合があるだけでなく、咬まれたところがひどく化膿したり、壊死することもあります。ショック状態になり死亡することもありますので、愛犬がマムシに咬まれた場合は軽視せずにすぐに動物病院に連れていきましよう。
家で出来る応急処置はある?
愛犬がマムシに咬まれてしまったら、飼い主が動揺して適切な判断ができなくなる可能性があります。まずは落ち着いて、自宅でできる応急処置をしましょう。具体的には、なるべく患部を触れたり圧迫したりせずに、咬まれた箇所を水道水で洗ってください。その後、安静にして動物病院に連れて行きましょう。
飼い主が毒をもらってしまう可能性がある?
愛犬がマムシに咬まれた時、咬まれた箇所から毒が回らないように、口で吸引する方法がとられていた時代がありました。このやり方は、うまく吸引できずに逆効果になるだけでなく、人間がマムシの細菌をもらって二次感染を発症する危険性があるので絶対にやめてください。
咬まれてしまった状況や時間を把握しておく
動物病院を受診するにあたって、咬まれた時間や状況についてメモを残すなどしておくといいでしょう。こうした情報をわかる範囲で獣医師に伝えることは、治療に役立ちます。
犬がマムシに咬まれた時の症状とは?
マムシに咬まれた痛みがあるため、飼い主がその瞬間を見ていれば異変に気付くことができるでしょう。咬まれた患部に2つの咬み傷を残すのが、マムシの特徴です。
咬まれた箇所が腫れ上がる
咬まれた際にキャンと鳴いて反応する時もありますが、鳴かない場合もあります。鳴かなかった場合にも、咬まれた箇所が出血し、その付近が腫れてくるのでわかります。
皮膚の壊死や化膿が起こる
マムシ毒はたんぱく質を分解し、出血や浮腫を引き起こす作用があります。このため、患部が腫れ、皮膚や組織が壊死し、出血が見られます。痛みが伴うため、足を咬まれると足を引きずる様子が見られます。
全身に症状が広がることも
症状が進行すると元気食欲の低下、過剰なパンティグ(ハアハア息が荒い様子)、貧血、頻脈、発熱、嘔吐、意識低下が見られるようになります。こうした症状が見られたら、危険な状態になっている可能性がありますので、動物病院に急ぎましょう。
犬がマムシに咬まれてからどのくらいで発症する?
咬まれた後、出血と痛みの症状は急速に表れます。患部が腫れてくるのは咬まれてから1時間以内です。その後の処置のタイミングによって、患部の壊死や化膿の範囲や出血度合い、全身症状が見られるようになるかが変わってきます。
犬がマムシに咬まれてしまった際の動物病院での処置内容や経過は?
マムシに咬まれた場合、動物病院では具体的にはどのような治療を行うのでしょうか。また、完治するまでの期間なども、飼い主にとっては気になるところですよね。
動物病院で行う処置
患部の視野を広げ、清潔に保つために剃毛し、洗浄消毒を行います。傷口には抗生物質軟膏や、場合によっては損傷した肉芽の形成を助ける薬を塗ります。全身状態を血液検査で確認をし、抗生剤、止血剤、ステロイド剤を、抗ヒスタミン剤などを犬の状態に合わせて選び全身投与します。貧血がひどい場合は輸血を行うこともあります。
治療してからどのくらいで治るの?
治療をどの段階で開始したか、また症状がどれくらい悪化していたかによって予後は変わってきます。咬まれたその日に適切な処置を受けていれば、1週間以内には改善が見られます。ただし、患部の壊死や化膿がひどい場合は皮膚や被毛の再生には1か月以上時間がかかります。
犬がマムシに咬まれないために注意しておくべきことは?
マムシに咬まれることのないように、散歩コースの注意点や愛犬へのしつけについても解説します。
出来るだけ整備された散歩コースを選ぶ
愛犬がマムシに咬まれないようにするには、蛇が潜んでいそうな水田脇や草むらにはできるだけ近づかないようにすることが一番です。特に春から秋にかけてはマムシも活動的になります。アウトドアレジャーに出かけた先の自然がたくさんある場所では、特に注意が必要になります。
動く物を見境なく追うことがないように、適切なしつけを行う
犬は本能的に動くものや生物に興味を持ち、追いかけたり匂いを嗅いだりする動物です。いつも散歩中には匂い嗅ぎ、拾い癖があるような子は、鼻先が下を向いています。日ごろから散歩中には、飼い主とコミュニケーションが取りつつ顔をあげて歩ける練習をしておくといいでしょう。また、万が一なにか危険なものに近づこうとした際にストップをかけられるように、「ダメ、離れろ」または「おいで」などのコマンドを教えておくことをおすすめします。
マムシ以外で犬が注意するべき蛇の種類は?
日本にはマムシのほかにハブやヤマカガシという毒蛇が存在します。一方、アオダイショウ、シマヘビ、ヒバカリ、タカチホヘビ、ジムグリ、シロマダラなどは無毒の蛇です。
毒がある蛇は特に注意が必要ですが、毒のない蛇でも遭遇したらむやみに刺激せずに蛇が通りすがるのを待つ、または蛇が好んで住んでいる水田や水辺、林や茂みに入っていかないことが大切です。