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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
リードを外して愛犬を思いきり遊ばせてあげられるドッグランは、犬の運動不足やストレス解消にもつながります。しかし、「愛犬が他の犬とケンカしないか不安」「飼い主どうしのコミュニケーションが心配」という方もいらっしゃるのでは? そんな人のために、獣医師の茂木千恵先生に伺った、ドッグランデビューの前に知っておきたいマナーや準備をご紹介します!
目次
- ドッグランってどんなところ?
- 愛犬をドッグランに連れて行くメリットは?
- ドッグランに行く前に必要な準備
- ドッグランに必要な持ちもの
- ドッグランで気をつけたいマナー
- ドッグランでよくあるトラブルと対処法
- ドッグランに連れて行ってはいけない犬は?
- 愛犬に合うドッグラン選びのポイントは?
ドッグランってどんなところ?
ドッグランとは、柵、または塀で仕切られた広場の中で犬をリードから離し、自由に遊ばせることができるコミュニケーションスペースのこと。発祥は、1990年代にニューヨークで生まれた犬専用の公園広場と言われています。今では世界各地にドッグランが作られるようになりました。
日本でもドッグランは自由に犬を走らせることのできる公共の施設として、犬の適正な飼育のために活用されています。近年の調査では8割以上の飼い犬が主に屋内で飼育されており、運動不足などによる慢性疾患や問題行動の原因になると言われています。ドッグランは、犬の運動不足を解消することができ、犬が本能として持っている「自由に運動したい」欲求を発散するのに最適です。
愛犬をドッグランに連れて行くメリットは?
犬をドッグランで遊ばせることのメリットには、どんなものがあるのでしょうか? 代表的なものをいくつかご紹介します。
犬の運動不足を解消する
屋内飼育が主流となっている今、犬の一日の運動欲求を発散するためには長時間の散歩が必要と考えられています。その点、ドッグランは犬が自由に走ったり遊んだりすることが適度な運動となって、比較的短い時間で運動不足を解消できます。
犬のストレスを発散させる
留守番や運動不足によって、犬がストレスを溜めてしまう場合があります。普段の生活でも、家の外から物音が聞こえてきたり、散歩中に知らない人間と遭遇したりすることで、犬がストレスを感じている場合も少なくありません。ドッグランのように体を自由に動かせる環境は、体だけでなく脳のリフレッシュにもつながります。
犬の社会化に役立つ
室内飼い、さらに単頭飼いの場合は、犬が自分以外の犬と交流する機会が極端に少なくなります。すると、犬同士のボディランゲージやコミュニケーションの方法を学ぶことができません。
犬の社会化期と言われる生後3~12週ごろまでに、他の犬を見せたり、同年代の子犬同士で遊ばせたりすることが大切と考えられています。さらにこの時期は、人間社会にあるいろんなものに慣れさせておきましょう。これにより、ドッグランに連れて行ったときにも他の犬との出会いを好意的に受け入れ、社会性を身につける良い機会となります。
飼い主が犬のことを知る機会になる
ドッグランでは犬同士でしか見せない行動やしぐさが見えて、愛犬のことをより深く知るきっかけになるはずです。また、ドッグランで知り合う他の飼い主と情報交換する機会にもなり、ドッグライフがより豊かになるでしょう。
ドッグランに行く前に必要な準備
ドッグランデビューの前にしておくべき準備やしつけは、下記を参考にしてください。
ワクチン接種
ドッグランには、不特定多数の犬が出入りしています。そのためほとんどの場合、ワクチン未接種、狂犬病予防接種を1年以内に受けていない犬の利用は禁止されています。
ノミ・ダニ対策
丘陵地を切り開いたような地形や野草が繁茂している区画には、マダニやノミなどの寄生虫が潜んでいます。犬を遊ばせる前にノミ・ダニ対策をしっかりと行い、ドッグランで遊んだあとは素早くブラッシングなどをして衛生管理に努めましょう。
最低限のしつけ
普段の散歩とは違い、ドッグランでは犬が号令を聞かず飼い主の元に戻らない可能性が高いです。帰る前に犬を捕まえるのに苦戦すると、犬に「ドッグランに行くと飼い主に追いかけられたり叱られたりする」という経験を積ませてしまい信頼関係を損ねることになります。「来い」「おいで」などの号令で、犬が自分から戻ってこられるように練習しておきましょう。
他の犬に慣れさせておく
初めて出会う犬に対して友好的に振る舞えなくても、徐々に慣らすことは可能です。まずは、散歩時に他の犬が近づいてきたときに落ち着いてすれ違えるよう、飼い主主導で練習しましょう。飼い主が「おすわり」「待て」などの号令を出してじっと待機できたらごほうびをあげてください。「吠えずに座っていたら褒められた」と学習してくれますよ。
また、自分から怖がらずに他の犬に近づく練習も大切です。飼い主同士が顔見知りで、落ち着いている成犬かシニア犬が相手なら、多少怖がりの犬でも優しく触れ合ってくれることが期待できます。他の犬と穏やかに触れ合う経験を積むことは、犬にとって他の犬に友好的に振る舞う自信をつけてくれるでしょう。
行く予定のドッグランについて調べておく
利用する時間帯は十分に検討しましょう。初めて行くドッグランの場合は、犬の数が少ない時間帯に入り、他の犬が来る前に場所に慣れておく余裕を与えてあげられるといいですね。事前に、電話などで空いている時間帯を聞いておくのがおすすめです。
ドッグランに必要な持ちもの
実際にドッグランに連れて行く日に持って行くアイテムは下記の通りです。
鑑札
犬を飼うときには、飼い主は住んでいる自治体に登録することが義務付けられています。そのときに発行される鑑札は、犬の飼い主を明確にするためのもの。ドッグランに行く際には、トラブル防止のためにも必ず犬につけておくようにしましょう。
ワクチン証明書
ほとんどのドッグランでは、1年以内のワクチンと狂犬病の接種証明書を提出するよう求められます。公共の場であるドッグランに感染症の懸念のある犬を入れないための確認作業ですので忘れないようにしましょう。
リード
ドッグランは、安全に犬同士が交流したり運動したりできる公共施設です。ランの周囲を歩かせるとき、ランに入るとき、出るとき、ランの中で犬が興奮してしまって落ち着かせたいときなどにはリードが必要です。必ず持って行きましょう。
排泄物用のビニール袋
普段は屋外で排泄しない犬でも、たくさんの犬と交流したりいつも以上に運動したりすると排泄したくなる場合が多いです。他の犬と利用者に迷惑が掛からないよう、愛犬が排泄したらすぐに片づけられるよう携帯しましょう。
飲み水
運動の量や犬の活発さに関係なく、屋外では水分補給は欠かせません。施設によってはランの中に犬用の飲用水が用意されている場合もありますが、水皿が共用だと感染症のリスクが伴います。飲み水と飲ませるためのお皿もセットで持参してください。
ペットシート
排尿してしまったときに吸い込ませて素早く処理することができます。犬が興奮して嘔吐した、池や水路に落ちたなどの場合にも役立ちますよ。
また、下記のアイテムも持って行くと便利かもしれません。
マナーベルトやマナーパンツ
尿マーキングの癖がある犬が、においを嗅いでその上に排泄してしまうことも多く見られます。マーキングの懸念がある場合は、あらかじめマナーベルトやおむつを装着してから入場すると安心です。
暑さ対策グッズ
暑い日は、犬の体温がすぐに上昇してしまい熱中症の危険があります。体温を素早く下げることのできるミストタイプの扇風機や保冷剤、クールバンダナなどを活用しましょう。送風機能だけの扇風機やうちわでは、犬の体温を下げる効果があまりないので注意してください。
大きなタオル・足ふきタオル・ウェットティッシュ
犬が思い切り遊んだあと、体に泥や草の実などが付いていることがあります。屋外のドッグランで拭いてもキリがないので、一度クレートに犬を入れて落ち着かせてから拭いてあげるのがおすすめです。また、ランの中で犬同士が険悪になったときには大きなタオルを犬同士の間に垂らして攻撃を遮ることにも使えます。
ドッグランで気をつけたいマナー
ドッグランは公共の施設です。他の犬と利用者に対するマナーにも気をつけましょう。
出入りの際はリードをつける
ドッグランに入る際、すでに他の犬が中で遊んでいる場合は、まず犬と一緒に柵の外から中の様子を見てみましょう。犬が中に入りたそうにしていたら、始めのうちはリードを繋いだまま入場してください。入場後すぐに他の犬が近づいてくることもありますが、焦らずにリードを付けたまま犬同士を出会わせて落ち着くまで待ってあげましょう。
愛犬から目を離さない
愛犬がドッグランを楽しめるか否かは、飼い主の見守りにかかっています。犬の気持ちは素早く切り替わるため、さっきまで穏やかに遊んでいたのに次の瞬間には相手に噛みつきそうになっている、ということもあります。飼い主同士の会話に夢中になりすぎて愛犬から目を離すことがないようにしましょう。
犬にトイレの場所を確認させる
ほとんどのドッグランでは、ランの中に犬用トイレが設置されています。入場したら、まずトイレの場所に連れていきにおいを嗅がせてあげましょう。もし、指定の場所以外で排尿してしまった場合は、施設ごとの規則に従って対処してください。フンをした場合は、他の犬が触れる前に必ず拾いましょう。トイレがない場合は、入場前に排泄を済ませておくのがマナーです。
他の犬の前でおもちゃを使わない
おもちゃの持ち込みを禁止しているドッグランもありますが、許可している施設であってもおもちゃを使うのは他の犬がいないときだけにしましょう。他の犬がおもちゃを使いたがったり、愛犬がおもちゃを追いかける様子を見て興奮してしまったりし、犬同士のけんかに発展するリスクがあります。
おやつなどの食べ物を持ち込まない
ドッグラン内で犬におやつを与えるのはやめましょう。自分の犬にだけ与えるつもりでも、他の犬が匂いでおやつがあると気づき欲しがってしまい、犬同士のけんかにも繋がります。
他の犬と交流するときは相手の飼い主に声をかける
飼い主の許可なく他の犬を触ったり写真を撮ったりするのはマナー違反。飼い主がいないところで知らない人間に触られると、犬が興奮したり怖がったりすることもあります。犬のほうからおねだりしてきたとしても、まずはその犬の飼い主に確認をとってから、手を差し出して犬の出方を待つ程度に留めておきましょう。
他の犬が嫌がることはしない
愛犬が他の犬を追いかけまわしたり、マウンティングしようとしたりする場合は、すぐにやめさせましょう。リードに繋いで興奮を鎮めるほか、いったん場外に出て落ち着かせるのも効果的です。
子どもを連れて行きたい場合は利用規約を確認する
利用規約で立ち入りが可能となっていても、小学生以下の子どもを連れて行くのはリスクを伴います。子どもが急に大声や甲高い声を出して動いたりすることは、犬にとっては驚いたり怖さを感じたりするものです。犬との接し方を十分に理解でき、落ち着いた行動ができるようになるまでは一緒に立ち入らないことをおすすめします。
犬以外の動物を連れて行かない
ドッグランは、純粋に犬同士が安全に触れ合うことが目的の場です。嗅覚の鋭い犬が犬以外の動物の存在に気づいたとき、思いがけず危険な行動をとるかもしれません。決して犬以外の動物を連れて入場しないでください。
人間の飲食、喫煙は禁止
食べ物の匂いは、犬にとって大変魅力的です。犬に刺激を与えかねないので、ラン内には人の食べ物でも持ち込まないようにしましょう。また、タバコは副流煙による他の犬たちへの懸念があります。あくまでもドッグランは共用スペースであることを念頭において行動してください。
飼い主一人で複数頭を連れて行かない
他の犬も複数いる環境では、飼い主一人で2頭以上の犬の動きを把握することは困難です。自分の犬の安全を確保するためと、他の犬に迷惑をかけないためにも、自由に動く犬が1頭だけになるように残りの犬はリードにつないで管理する必要がありますが、その場合繋がれている犬がストレスを感じてしまいます。ドッグランには1頭だけを連れて入るのが賢明です。
入りたがらない愛犬を無理に連れ込まない
「せっかくお金払って来たのに」とがっかりしてしまうかもしれませんが、愛犬がドッグランに入りたくなさそうにしていたら無理に連れ込んでも良いことはほとんどありません。日時をずらして再チャレンジしてください。
ドッグランでよくあるトラブルと対処法
他の犬との交流の場であるドッグランに行く前に、トラブルへの対処法も知っておくと安心です。よくあるトラブルと適切な対処をご紹介します。
犬が興奮して鳴き続けている
他の犬に対して興奮している場合は、まずは他の犬から離れたり一度ランの外に出たりして、愛犬の気持ちを落ち着かせましょう。ランの中にいて常に鳴く場合は、共用のドッグランに行くのをやめて貸し切りタイプのランを利用するか、普段の散歩で他の犬と落ち着いてすれ違えるように練習してから再トライすると良いでしょう。
他の犬にマウンティングする
雄犬の場合、特に去勢していない犬は、相手が雌でなくともマウンティングすることで自分の強さをアピールします。乗られたほうの犬が怒ってけんかに発展するリスクもあるので、見つけたらすぐにやめさせましょう。
他の犬のおもちゃやおやつを横取りする
おもちゃやおやつを持ち込めるランもありますが、トラブルにつながるため持ち込むのはおすすめしません。もし、他の犬がその飼い主からおもちゃやおやつをもらっているのを見たら、愛犬を呼び寄せてリードにつなぎ、ランの外に出てからおやつを与えましょう。しばらくは再入場しないくらいの危機管理が必要です。
他の犬に唸っている、他の犬に唸られている
犬が他の犬を凝視して鼻にしわを寄せているのは、攻撃の一歩手前のサイン。双方が引かない場合は、噛み合いに発展しかねません。この場合は、低い声で「おいで」「まて」など犬が得意な号令を出してください。高い声を出したり犬の名前を呼んだりするのはNG。犬が応援されていると勘違いしてしまいます。
万が一、犬が人を嚙んでしまったら警察に届け出る必要があります。犬同士が噛み合う場合は、飼い主同士で協議できれば当事者同士で対処も可能です。状況がひっ迫している場合はタオルなどを使って犬の視線を遮りながら相手の犬との距離をとりましょう。犬と飼い主自身のためにも、犬の行動をしっかりと管理できる自信がついてからドッグランに連れて行きましょう。
ドッグランに連れて行ってはいけない犬は?
ワクチンや基本的なしつけを済ませていても、下記の犬はドッグランに連れて行かない方がいいでしょう。
ヒート(生理)中の犬
ヒート中の雌犬は、他の雄犬がいるかもしれないランに連れ込んではいけません。他の犬がそのにおいを嗅ぐことで性的に興奮し、周りの犬同士でけんかをしてしまうためです。
好戦的な犬
愛犬が好戦的な場合、けんかになる状況を極力避けること、けんかしそうになる前に気持ちを切り替えるなどのトレーニングが必要です。他の犬や利用者を怪我させた場合、飼い主の管理責任が問われ、社会的責任を負うことになるので気をつけましょう。
伝染性の病気を持つ犬
ドッグランは、子犬やシニア犬など免疫力が高くない犬も利用します。感染リスクがある疾患を持っている犬がドッグランに入ることで、他の犬に感染が拡大してしまいかねません。動物病院で愛犬に感染力がないことが確認されてから出かけるようにしましょう。
愛犬に合うドッグラン選びのポイントは?
準備ができたら、初めて行くドッグランをどこにするか決めましょう。ドッグランを選ぶ際のポイントは下記を参考にしてください。
自宅からの移動手段と所要時間
子犬やシニア犬の場合、長時間の移動は負担が大きくなります。犬によって多少異なりますが、30分以内の移動であれば無難でしょう。車や自転車などの移動手段に慣れさせておけば選択肢も広がります。
床の素材
地面が草地、木立の間、人工芝、天然芝、ウッドチップ、クッションフロアなど施設によって異なります。柔らかい地面は犬の足腰に負担が少ないのでおすすめ。天然素材の場合は、雨天や雨上がりに汚れてしまうことは想定しておきましょう。人工的な素材であれば天候に左右されにくいですが、夏場は暑くなりすぎるなどの懸念があります。
混み具合
初めてドッグランに行く場合は、先に他の犬が居ないほうがベター。営業時間帯が決まっている施設なら、開始直後に入場できるようにスケジュールしておくといいでしょう。動き回るのが好きな犬にとって、混雑した状況はストレスを感じてしまいかねないので注意が必要です。
広さ
十分な広さがあるドッグランだと、犬もリラックスして過ごせます。快適に過ごせる広さは犬によって異なりますので、まずは上記のポイントが押さえられている施設を訪れてみて、愛犬に合っている広さかどうか見極めるのが良いでしょう。
※記事内に掲載されている写真と本文は関係ありません。