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酪農学園大学獣医学群獣医学類卒業後、動物病院勤務。小動物臨床に従事。現在は獣医鍼灸師の資格を得るために鍼灸や漢方を用いた中医学による治療を勉強中
オスの犬を飼い始めたら、去勢について考える必要があります。メリットが多い去勢手術ですが、デメリットも考慮しなくてはなりません。この記事では、犬の去勢手術について紹介します。手術をおこなうメリットやデメリット、タイミングやかかる費用なども解説しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
- 犬の去勢手術でのメリット
- 犬の去勢手術でのデメリット
- 犬の去勢手術を受けるタイミング
- 犬の去勢手術の流れ
- 犬の去勢手術にかかる費用
- 犬の去勢手術後のケア方法
- まとめ
犬の去勢手術でのメリット
オス犬の去勢とは、精巣の摘出手術を指しています。なぜ去勢手術をおこなう必要があるのか、疑問に思っている人もいらっしゃるでしょう。犬の去勢手術をおこなう人が多い理由は、次のようなメリットがあるためです。
- 妊娠トラブルを避けられる
- 病気を予防できる
- 発情期のストレスをなくせる
- マーキング行動を減らせる
4つのメリットについて、内容をそれぞれ紹介します。
妊娠トラブルを避けられる
去勢手術には、妊娠トラブルを避けられるというメリットがあります。
- 頭飼いをしていて未避妊の犬がいる
- ドッグランに行く機会がある
上記のような場合、未避妊の犬と接触したとき、交配してしまう可能性があります。ドッグランでほかの犬を妊娠させてしまうと、トラブルになる可能性が高いでしょう。去勢手術をしておくことによって、妊娠によるトラブルの発生を避けられます。
病気を予防できる
去勢手術は、生殖器・男性ホルモンに起因する病気を予防できるということも大きなメリットです。予防できる病気には、次のようなものがあります。
- 精巣腫瘍
- 前立腺炎
- 前立腺肥大
- 前立腺癌
- 肛門周囲腺腫
- 会陰ヘルニア
悪化すると命にかかわる病気もあるため、去勢手術によるメリットは大きいといえます。
発情期のストレスをなくせる
去勢手術は、発情期のストレスをなくせることも大きなメリットです。発情期を迎えたオスは、メス犬のフェロモンを感知すると興奮して追いかけようとします。散歩中やドッグランなら、トラブルを防ぐために犬を制止しようとするでしょう。
しかし性衝動を制止された犬は、ストレスを感じて攻撃的になってしまう可能性があります。また、未去勢のオス同士が、メス犬をめぐって喧嘩をすることも少なくありません。手術をしておくと、発情期のストレスによるトラブルはなくなります。
マーキング行動を減らせる
去勢手術は、マーキング行動を減らせることもメリットのひとつです。手術によって男性ホルモンが減少すると、犬が持つ縄張り意識が弱まります。縄張り意識が弱まると、尿によるマーキングが減る可能性が高いでしょう。そのためには、犬が尿マーキングを始めるより早い段階での去勢手術が必要です。
ただし、尿マーキングを予防できる確率は、100パーセントではありません。去勢手術後でもマーキング行動がなくならない犬も少なからずいます。
犬の去勢手術でのデメリット
犬の去勢手術にはいくつかのデメリットもあります。手術を検討している場合は、メリットだけでなく、デメリットも把握しておきましょう。去勢手術によって考えられる大きなデメリットは次の4つです。
- 繁殖させられなくなる
- 肥満のリスクがある
- 全身麻酔によるリスクがある
- 特定の疾患へのリスクが高くなる
デメリットについても内容をひとつずつ確認してみましょう。
繁殖させられなくなる
去勢手術をおこなうと、繁殖させられなくなることがもっとも大きなデメリットです。子犬を迎えたばかりのうちは、繁殖まで考えていない飼い主も少なくありません。
しかし一緒に暮らすうちに、「愛犬の子孫を残したい」と思うようになる可能性もあるでしょう。子犬を残したくなったとしても、去勢手術をしてしまうと叶いません。後悔しないように、慎重に検討してから手術を決めましょう。
肥満のリスクがある
去勢手術をおこなうと、犬が太ってしまう可能性があります。術後に太ってしまうのは、次のような理由からです。
- 筋肉量が減り代謝が落ちる
- 食欲を抑制する男性ホルモンが減る
- 発情に使うはずだったエネルギーが消費されなくなる
術後もそれまでと同じ食事を続けていると、カロリーの摂り過ぎになり、肥満へとつながってしまいます。去勢後はフードの内容や量を調整し、肥満にならないように気をつけましょう。
全身麻酔によるリスクがある
去勢手術は、全身麻酔によるリスクがあることもデメリットのひとつです。動物病院では注意して手術をおこないますが、それでも全身麻酔にはリスクがあります。アナフィラキシーショックによって、命を落とす可能性もゼロではありません。パグやフレンチ・ブルドッグなどのような短頭種は、麻酔をしたあとに気道閉塞を起こす可能性もあります。手術後は愛犬の体調管理に十分に気を配りましょう。
特定の疾患へのリスクが高くなる
最近の研究によると、一部の犬種では、去勢手術によって特定の疾患へのリスクが高くなることが判明しています。
- ゴールデン・レトリーバー
- ラブラドール・レトリーバー
- ジャーマン・シェパード
上記の犬種は、生後6か月を迎える前に去勢手術を受けると、関節疾患のリスクが2~6倍になってしまいます。そのため手術を受けるタイミングには注意が必要です。また、ドーベルマンは関節疾患やがんにつながるリスクがあるため、去勢しないほうがよいとされています。
犬種によって違いが見られるため、手術を検討している場合は動物病院で相談してみましょう。
犬の去勢手術を受けるタイミング
去勢手術にあたって、どのタイミングで受けたらよいのか迷っている人も多いでしょう。オス犬の場合、生後約1年で生殖機能が成熟するため、それより早い段階である生後6か月前後の手術を推奨する病院が多い傾向があります。
去勢手術自体は、成犬になってから受けることも可能です。ただし、犬が高齢になってからの手術では、全身麻酔によるリスクが高くなってしまいます。タイミングで悩んでいるのなら、まずは手術を受ける予定の動物病院で相談してみてください。
犬の去勢手術の流れ
去勢手術がどのような流れでおこなわれているのかも確認してみましょう。実際の流れは動物病院によって違うため確認が必要です。参考として、一般的な去勢手術の流れを紹介しますので、ぜひご確認ください。
動物病院で相談し必要な検査を受ける
去勢手術を受ける場合は、まず動物病院で相談する必要があります。費用や手術の流れについて確認してみてください。基本的に、去勢手術を受けるためには予約が必要です。手術を受けられる曜日、時間が決まっている動物病院もありますので、確認のうえでスケジュールを調整しましょう。
手術にあたっては、事前に問診や血液検査などが必要です。必要に応じて、レントゲン検査や超音波検査などがおこなわれる場合もあります。
精巣を摘出する
手術の当日は、時間に余裕を持って動物病院を受診しましょう。当日、飼い主の様子が普段と違っていると、犬が不安になってしまいます。過剰に声をかける必要はありません。怖がらせてしまわないよう、なるべく普段どおりに接してください。手術では犬に全身麻酔のうえで陰嚢を切開し、精巣を摘出して縫合します。
問題がなければ帰宅する
手術が終わって5~6時間で麻酔が切れます。病院によっては日帰り手術が可能です。犬の意識が戻り、とくに問題がなければその日のうちに帰宅できます。
犬の去勢手術にかかる費用
去勢手術にかかる費用は、犬の大きさや病院などによって違いがあります。手術費用の目安は以下のとおりです。
- 小型犬:3~5万円
- 大型犬:5~7万円
費用には、薬代やエリザベスカラー代なども含まれていることが一般的です。また、体重が重いと、手術費用も高額になる傾向にあります。具体的にどの程度の費用がかかるかは、動物病院への確認が必要です。
なお、去勢手術には、ペット保険が適用されません。ただし、自治体や獣医師会によっては、助成金や補助金が受けられる場合もあります。助成金や補助金は特定の条件を満たす必要があるため、自治体や獣医師会のホームページで確認してみましょう。
犬の去勢手術後のケア方法
去勢手術後の犬には、適切なケアが必要です。早く回復できるように、しっかりとケアしてあげましょう。ここでは、去勢手術後の犬に必要なケアについて紹介します。
手術後は暖かい場所で休ませる
去勢手術は日帰りになる可能性があります。手術後に帰宅したら、暖かい場所でゆっくりと静かに休ませましょう。薬が処方されるので、獣医師の指示どおりに正しく飲ませるようにしてください。
麻酔が切れたら食事を与えられますが、まずは半分程度を与えて様子を見ます。食欲がないようなら無理に食べさせる必要はありませんが、新鮮な水がいつでも飲める状態にしておきましょう。通常は1~2日程度で犬の食欲が戻ります。2日経っても食事をしようとしない、動けないといった様子なら、動物病院に相談してください。
散歩は犬の様子を見ておこなう
手術当日の散歩は控えましょう。いつ頃から散歩をしてもよいのか、タイミングを獣医師に確認しておくと安心です。通常は術後3日ほどで散歩ができるようになりますが、無理をさせないよう注意する必要があります。
また、手術直後のドッグランはNGです。散歩に行く際は、走らせず、ゆっくりと歩かせるようにしましょう。普段どおりの距離ではなく、短めにして、様子を見ながら少しずつ距離を長くしていってください。
傷口を濡らさない
犬が傷口を舐めないよう、6~8日程度エリザベスカラーを装着します。舐めてしまうと、傷口が開くおそれがあるためです。治りが遅くなってしまうため、去勢手術後は傷口を濡らさないようにしましょう。散歩では縫合した部分を濡らさないように注意してください。
まとめ
去勢手術にはメリット・デメリットの両方があります。最終的にどうするか、飼い主が慎重に判断しなくてはなりません。病気の予防になるものの、去勢手術が影響するといわれる病気もあります。去勢していないオスの犬は、ストレスで攻撃的になるおそれがあるため注意が必要です。動物病院で相談しながら、慎重に検討してみてください。