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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
新型コロナウイルスによる外出自粛の影響でわんちゃんを飼い始める人が増えているそうです。しかし、動物を飼うということは責任を持ってその生涯を世話していくことでもあります。軽い気持ちで飼い始めると、どのような問題があるのか、獣医師の茂木千恵先生にお聞きしました。
目次
- コロナ禍の外出自粛でペットを飼い始める人が急増中!?
- 「癒されたい」「可愛い」という理由で犬を飼うことの危険性とは?
- 犬の飼い主として持つべき責任とは?
- 保護犬を譲り受けるときは何に注意すべき?
コロナ禍の外出自粛でペットを飼い始める人が急増中!?
新型コロナウイルス感染拡大の影響で外出自粛要請が出たり、在宅ワークが増えたりした影響で、わんちゃんなどのペットを飼う人が急増しているとニュースなどで取り上げられています。実際、国内のペットショップチェーンでは販売数が増加したところもあり、アメリカでは保護犬や保護猫の里親になりたい人が急増し、シェルターが空っぽになったという話も聞きます。
その理由のひとつは、わんちゃんなどのペットが私たち人間に与えてくれる癒しや安寧の効果でしょう。また、これまではわんちゃんを飼いたくても外で活動することが多く、トレーニングや世話をする時間が持てないという理由で飼うことを諦めていた人が、自宅で過ごす時間の増加により可能になったという面もあるようです。
「癒されたい」「可愛い」という理由で犬を飼うことの危険性とは?
わんちゃんを家に迎えるには、事前に確認しておかなくてはいけないことがたくさんあります。例えば次のようなことが挙げられます。
【犬のお迎え前に確認しておくべきこと】
- 安全に犬を閉じ込められる清潔で広い空間があるか
- 犬用のトイレを置く場所があるか
- 1日に何回も食餌を用意する時間や費用があるか
- 夜中に犬が吠えた場合、ご近所に理解してもらえるか
- 十分に運動させたり、遊んであげたりする時間や環境があるか
また、飼い始めたときがその犬の生活習慣を作っていく重要な時期になります。外出自粛や在宅時間の長い時期に飼うと、オーナーがいつも家にいる状態が習慣づきます。しかし外出自粛が緩められ、オーナーがこれまでのように屋外で活動するようになると、わんちゃんは初めて独りで過ごす経験をし、戸惑いや欲求不満を感じる可能性が高いでしょう。こうした不安をなくすには、わんちゃんが若いうちからひとりの時間を楽しめるよう環境をセットアップすることが不可欠です。
さらに子犬の場合、生後3週目から12週目を社会化期と呼び、この時期に環境や人、動物に対して積極的に接する経験をさせることで、成長後に新しい環境や人、動物に対して怖がらない、過剰反応しない性質になるとされています。しかし、残念ながら現時点では多くの子犬のためのしつけ教室の開催が保留されており、ソーシャルディスタンスを保つなど安全で有効な方法をもって子犬を社会環境に慣らせるには難しい場合があります。
そのため、経験値の高いドッグトレーナーにオンラインで相談するなど、何らかの手立てを考えることが必要です。多くのドッグトレーナーは、基本的なトレーニング方法を動画などで説明したり、子犬の問題行動を防止する方法を教えてくれたりと、この状況下でできる具体的なサポートを用意してくれているはずです。
また、コロナ禍で長期的な景気後退が予測される今、将来的に動物を十分に世話する時間的余裕と経済力を維持できるかどうかも重要です。
このように「可愛い」「癒されたい」という思いから衝動的に、あるいは間違ったタイミングで犬を飼うことは、さまざまな問題を引き起こす可能性があります。まずは自分のライフスタイルに合った犬種を選ぶことや人生設計において最適な時期に飼い始めること、飼い方や病院など知識とサポートを得られる準備をしてから、責任を持って取得する方法をじっくり考えましょう。
犬の飼い主として持つべき責任とは?
令和元年に改正され、令和2年の今年施行された動物愛護法では、オーナーはわんちゃんの終生にわたり適切な飼い方をすることが義務化されました。命ある存在を共生する相手として適切な環境下で飼育しなくてはならないのです。わんちゃんを虐待や、飼育放棄、遺棄することは、罰則の対象となります。飼い始めた動機がどうあれ、傍にいるわんちゃんを大切に扱うことをオーナーの一番の責任としてください。
また、周囲のコミュニティに受け入れられるよう、衛生面や騒音、悪臭、ゴミなどへの高い管理意識も必要です。
保護犬を譲り受けるときは何に注意すべき?
わんちゃんを飼おうとする際に、保護犬という選択肢も考えていただきたいと思います。動物愛護センターやシェルターから保護犬のわんちゃんをお迎えする場合、講習会や手続きなどで何度かセンターに足を運ぶ必要があります。例えば、東京都動物愛護相談センターの場合は次のようなステップを踏みます。
【保護犬を迎えるためのステップ】
- オーナーになるための条件を確認する。
- 飼う前の心構えと準備の説明(譲渡事前講習会)に参加する。
- 犬・猫とのお見合い/適正な飼い方の説明(譲渡講習会)を受ける。
- 書面などによる手続きをする。
譲渡の条件や進め方は、各施設で異なります。詳しくは地域の動物愛護センターや保護団体等のホームページで確認してください。また、譲渡会については環境省が各自治体のリンク先をまとめた「収容動物検索情報サイト」を設けています。ここから検索すると、有資格の保護団体にアクセスできるので活用しましょう。
自分で譲渡会を探してきた場合でも、違法な動物の管理に関わらないよう「第二種動物取扱業」の届出をしている団体かどうかの見極めをしましょう。オンラインの譲渡会も同様に、主催する団体が信頼できるかどうか、しっかり調べましょう。
また、届出がなされていても、必ず現地に赴いて状況を確認し、いったん預かっても自宅での飼育に困難を感じる場合は戻させてもらえるか否かを必ず確認しましょう。というのも多くの保護犬は過去の飼育歴が分かりません。引き取ってから数か月はおとなしく、いろいろな物事への恐怖反応が強く出たりもして、辛抱強く関係改善のための配慮が必要になります。過去のトラウマが何らかのイベントや刺激でよみがえり、攻撃的になったり恐怖反応やパニック発作を起こしたりすることもあります。その点はあらかじめ覚悟しておくべきでしょう。
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