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国立研究開発法人国立環境研究所/環境リスク・健康領域 主任研究員。2023年〜メルボルン大学で研究している。犬と一緒に安心して暮らせる社会の実現を目指す。
犬を飼うと認知症リスクが約40%も低下するってほんと? 犬との幸せなくらしが、超高齢化社会にもたらすメリットとは
目次
- 犬を飼う高齢者は認知症リスクが約40%も低いことが判明
- 犬とのくらしは、高齢者の健康にいいことばかり?
- 愛犬との「散歩」が、認知症リスクを遠ざけていた
- 猫ではなく犬とのくらしのほうが、認知症予防には有効
- 大切なのは「犬に愛着をもっていること」
- オーストラリアは動物が社会となじみ自然と愛着が育まれる、理想的な環境
- ペット飼育者は介護保険の利用料が約半額? 犬の持つ力
犬を飼う高齢者は認知症リスクが約40%も低いことが判明
「犬を飼うと認知症リスクが低下」
2023年10月、犬好きには何とも嬉しい研究結果を報じたニュースが話題を集めました。
この研究をしたのは、独立行政法人東京都健康長寿医療センター客員研究員、国立環境研究所主任研究員の谷口優さんです。健康長寿の要因、特に認知症予防の研究をしています。
谷口さんは、幼い頃から動物とくらした経験があり、ジャックラッセルテリアの愛犬もいます。
「私自身、どんなに眠くても、雨が降っていても、毎朝早く起きて散歩に行っています。この愛犬のための運動習慣って、他の何ものにも変えられないですよね(笑)」
そんな谷口さんは2023年に、「ペット飼育と認知症発症リスク」に関する研究論文を発表しました。この研究によって、世界で初めてペット飼育と認知症発症との関連性が明らかになりました。
なぜ犬とくらしている人は、そうでない人に比べて認知症になる確率が低くなるのでしょうか。また、犬を飼っている人の中でも特に予防効果が期待できる人には、どのような特徴があるのでしょうか。主任研究員の谷口さんにお話を聞きました。
犬とのくらしは、高齢者の健康にいいことばかり?
東京都健康長寿医療センターは、東京都に住む65歳~84歳までの要介護認定を受けていない男女約1万1,200人(平均年齢74.2歳)を対象に疫学調査を行いました。
これまでの研究から、犬を飼育する高齢者は、飼育したことがない人と比べて、「フレイル」になるリスクが約2割も少なくなることなどがわかっています。
「フレイル」とは、年齢にともなって筋力や心身の活力が低下し、介護が必要になりやすい状態のこと。要介護に移行する前の虚弱状態のことです。
また、犬を飼育する高齢者は、飼育したことがない人と比べて、要介護や死亡のリスクが約5割も低いこともわかっています。
そこで谷口さんはさらに研究を進め、ペットの飼育経験と「認知症」発生リスクの関連性を調べました。
そして2023年10月の発表で明らかになったのは、主に次の3点です。
- 犬を飼っている人は、飼っていない人に比べて認知症発症リスクが約4割低い
- 犬を飼っている人のうち運動習慣がある人や社会的孤立状態にない人は、認知症が発症するリスクがさらに低い
- 猫を飼っている人と飼っていない人の間では、認知症発症リスクに特段の差はみられなかった
この研究は、2016年の調査で得られたペットの飼育経験をもとに、2020年までの介護保険情報に紐づいた調査です。
結果は上記のとおりで、犬の飼育者で認知症リスクの抑制に大きな効果があることが示されました。