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こころ鳳ペットクリニック、大阪どうぶつ夜間急病センター所属。小動物臨床に従事。犬猫をはじめ、鳥類、爬虫類、両生類、霊長類など様々な小動物の診療・手術執刀を行う
愛犬がはじめてドッグフードを吐き出した場合は驚くかもしれませんが、犬が食べたものを戻すことはよくあります。また、愛犬が普段と違う吐き方をした場合は、病気を疑って心配になるでしょう。犬の吐き方には3種類あり、嘔吐物の様子や色によって原因を見分けることが可能です。空腹や早食いなどの治療が不要なものから、異物の飲み込みやウイルスへの感染、食物アレルギーといった早急に治療が必要なものもあります。この記事では、犬の吐き方や嘔吐物の種類を解説したうえで、吐いた原因や、治療が必要かどうか見分けるポイントを紹介します。
目次
- 犬の吐き方は3つある
- 犬が吐いた時の症状と見るべきポイント
- 犬が吐く理由と対処方法
- 治療が必要な症状の見分け方
- まとめ
犬の吐き方は3つある
ドッグフードを吐いた際は、嘔吐物の状態を確認しましょう。ドッグフードが未消化の場合は「吐出」もしくは「嚥下障害」、消化済みのものが吐き出された場合は「嘔吐」の可能性が高いです。ここでは、3種類の犬の吐き方の仕組みを解説します。
吐出
食べ物が胃に届く前に、食道を逆流して吐き出されている様子を吐出と呼びます。前方に飛ばすような吐き方が特徴です。吐出した場合、犬が自身の嘔吐物を食べることがあります。食べても体に害はないものの、再び吐出する可能性もあるので、犬が口にする前に処理しましょう。
嚥下障害
嚥下障害とは、飲み込む(嚥下する)力が弱くて吐き出す状態のことを言います。大きなものを飲み込めない子犬や、飲み込む力が弱まった老犬に見られる症状です。上手く吐き出せないと、食餌や唾液、細菌などが肺に流れ込んで誤嚥性肺炎を引き起こす危険性があります。
嘔吐
食べ物が一度胃の中に入った後で逆流するのが、嘔吐です。嘔吐物は胃液で消化されて液体化している場合もあれば、食べ物の一部が残っている場合もあります。嘔吐は深刻な病気の可能性も考えられるので、注意が必要です。嘔吐の原因によって嘔吐物の色が変わるので、どんな色かチェックしておくことでかかりつけ医が症状を把握しやすくなります。
犬が吐いた時の症状と見るべきポイント
嘔吐物の色と状態から、犬が吐いた原因を絞り込むことが可能です。かかりつけ医が診察する際の参考になるように、観察するだけではなく、写真に撮るといいでしょう。ここでは、嘔吐物の色や状態ごとに考えられる原因を紹介します。
茶色
犬が茶色い嘔吐物を吐き出す原因は、嘔吐物がドロドロかサラサラかで異なります。ドロドロもしくは固形に近い状態で、ドッグフードと似たにおいがした場合は、消化不良が理由かもしれません。嘔吐物の色も犬が食べたドッグフードに似ているはずです。吐いた後も変わらず食欲があったり、元気に動き回ったりする様子を見せていれば、ほとんどの場合は深刻に捉える必要はありません。
さらさらとした液体状の場合は、消化器官に異常が起きている可能性があります。原因として考えられるのは、急性胃腸炎や胃潰瘍、十二指腸などの病気です。胃腸から出血し、その血が酸化して嘔吐物に混ざることで茶色になります。
赤色
嘔吐物が赤やピンクの場合は、何らかの原因で血が混ざっている状態です。出血箇所は、消化器官や呼吸器、口内などが考えられます。赤色が濃いほど出血量が多いことを示しているため、危険度が高いというサインです。赤黒い時は、胃潰瘍や腸閉塞といった病気や、胃、食道などにできた腫瘍から出血している可能性もあります。
白、透明
犬が吐く無色透明や白っぽい液体は、胃液や唾液、水のうちのどれかが逆流したものです。胃液や唾液の場合は空腹状態がつづいているサインで、白い泡や黄色い液体が混ざっていることもあります。水を吐いた場合は、水の飲み過ぎによるものです。原因がどちらであっても深刻な症状ではない可能性が高く、吐いた後は食欲や元気が戻ることもあります。
>犬が白い泡を吐く原因とは?対処法や危険な嘔吐との見分け方も解説
黄色
黄色や緑色をした嘔吐物は、胃液と胆汁が混ざって吐き出されたものだと考えられます。その場合、原因は逆流性胃炎(胆汁嘔吐症候群)です。胆汁は十二指腸から分泌される消化液で、胃が空の状態が続いた時に逆流してしまいます。病名がついてはいるものの、白や透明の嘔吐物と同じように空腹によるものです。そのため、食事の間が空いた場合に発症することがあります。
異物が混ざっている場合
嘔吐物の中にフードやおやつ以外の固形物が混ざっていた場合は、誤飲や誤食が理由の可能性があります。飲み込んだ異物によっては、中毒症状や腸閉塞といった症状を併発するリスクもあるため、かかりつけ医に相談してください。
寄生虫が出てきた場合
1歳未満の若齢犬や外飼いの犬の中には、吐物と一緒に寄生虫を吐き出す場合があります。1cm未満の虫から20cmほどの長い糸状の虫も出てくることがあるので、吐物の中に虫のようなものが見られた場合はすぐに病院へ連れて行く必要があります。
犬が吐く理由と対処方法
犬は身体の構造上吐きやすいため、吐く理由もさまざまです。吐くことでスッキリして何事もなかったような様子を見せることもあれば、病気が原因で嘔吐以外の症状も見られるケースもあります。ここでは、犬が吐く理由と、それぞれの対処方法を紹介します。
1. 空腹状態がつづいている
食事の間隔が長くて胃の中が空の状態がつづくと、胃液が増えて逆流する逆流性胃炎(胆汁嘔吐症候群)を起こします。逆流性胃炎が起きやすいのは、食事の量やタイミングが犬に合っていない時です。子犬のうちから成犬と同じように1日2食にしていたり、体重管理のために食事の回数や量を減らしたりしていると、空腹状態が長引いて逆流性胃炎を起こすことがあります。
吐いた後は無理に食べさせず、消化に良いフードを少しずつ与えてください。また、食事の量は変えないまま回数を増やすと、胃が空になる時間を減らす効果があります。
>犬は空腹時に白い泡を吐く?原因と危険な症状、病院に行くタイミングについて解説【獣医師監修】
2. 早食い、食べ過ぎ
フードや水を勢いよく摂取した場合や、過剰な量を摂取した場合は、胃の動きが追いつかずに戻すことがあります。嘔吐物は、フードが原因の場合は茶色でドロドロした固体で、水が原因の場合は透明の液体です。病気ではなく生理現象なので、吐いた後も元気で、吐き出したものを食べる場合もあります。
頻繁にフードや水を吐く犬には、1回の食事量を減らしたり、早食い防止のフードボウルを活用したりといった対策が効果的です。
>犬の早食いはやめさせるべき?4つのリスクと防止策を解説【獣医師監修】
3. 食道、胃腸が塞がっている
ジャーキーやガムなどの固くて大きな食べ物や異物を飲み込んだことで、食道や胃腸が塞がってしまうことが理由です。苦しそうによだれを吐き戻すなど、嘔吐以外にも消化器関連の症状が見られます。また、異物を取り除くために消化器の動きが活発になることで、腸閉塞を引き起こす可能性も考えられるため注意が必要です。
食道や胃腸が塞がっている時は、自分で対処しようとせず、すぐにかかりつけ医に相談して、適切な治療を受けましょう。
4. 誤飲、誤食
犬が消化できない異物を飲み込んだ時は、嘔吐や下痢、痙攣などの中毒症状を引き起こすこともあります。散歩ルートや公園でタバコ、観葉植物、除草剤などを飲み込んだり、自宅で人間の風邪薬やチョコレート、ネギ類、ナス科の野菜などを拾い食いしたりした場合は要注意です。
症状を和らげるために異物を吐かせようとすると、かえって症状が悪化する場合もあります。吐かせるべきかどうかを含め早急にかかりつけ医に相談して治療を受けてください。
>犬が誤飲・誤食した時の対処法は?特に危険なケースや予防法などについて解説【獣医師監修】
5. ウイルス、寄生虫に感染している
ウイルスや細菌、寄生虫などが体内で繁殖して、胃腸に炎症が起こしていることが原因です。嘔吐を繰り返すだけでなく、下痢や血便、体重減少などの症状も見られます。嘔吐を起こす可能性のある感染症は、パルボウイルス、ジステンパーウイルス、コロナウイルス、アデノウイルス1型などのウイルス性感染症、サルモネラ、カンピロバクターなどの細菌性感染症、犬回虫やジアルジアなどの寄生虫性感染症があります。
かかりつけ医による治療が必要なため、すぐに動物病院に連絡することが大切です。また、こうした感染症にかかるのは免疫機能が弱っているサインですので、他の病気にも注意しましょう。
6. ストレス
ストレスを感じると自律神経のバランスが乱れて、胃液の分泌量や腸の動きが異常になります。嘔吐だけではなく、下痢が起きたり、攻撃的な性格になったりと症状はさまざまです。ストレスの原因として多いのは、環境の変化や運動不足、飼い主とのコミュニケーション不足などが挙げられます。
ストレスの原因が特定できる場合は改善しましょう。積極的にスキンシップをとったり、たくさん散歩してストレスを発散したりすることで、症状が和らぐ可能性があります。原因に心当たりがない場合は、かかりつけ医に相談して適切な処置を受けてください。
7. 草を食べた
散歩中や庭で遊んでいる際に草を食べると、吐き出すことがあります。犬が草を食べる理由は、胸焼けをスッキリさせるため、体の毒素を吐き出すためなど諸説あり、正確な理由はわかっていません。
草を食べたことによる嘔吐は生理現象なので、基本的に治療の必要はありません。しかし、草には殺虫剤が付着している場合があるので、愛犬が草を食べているのに気づいたら止めるようにしましょう。どうしても草を食べたがる場合は、ペットグラスや茹でたキャベツなどで代用することもできます。
>犬が食べると危険な花とは?誤食した時の対処法や散歩中の注意点を解説【獣医師監修】
治療が必要な症状の見分け方
病気が原因で吐く場合には、かかりつけ医による適切な治療が必要です。ただし、犬が吐くことは珍しくないため、病気かどうか見分けるのが難しいかもしれません。ここでは、犬の行動や嘔吐物の状態から治療が必要かどうか見極める方法を紹介します。
数日にわたって何度も吐く
吐く回数が1日3回以上吐いた場合や何日にもわたって嘔吐を繰り返す場合には、消化器や内蔵の病気の可能性があります。
下痢の症状がある
嘔吐だけでなく下痢の症状が見られる場合は、消化器や内臓の病気や腫瘍、食物アレルギーなどの可能性が考えられます。犬が猫背のような姿勢をしていたら、胃腸に異常があって腹痛を感じているサインです。
吐いた後にぐったりしている
吐出や逆流性胃炎の場合は、吐いた後にケロッとしていることもありますが、吐いた後に元気がなく食欲も見られない場合は病気の可能性が濃厚です。嘔吐に繋がる病気はさまざまなので、かかりつけ医に判断を仰ぎましょう。
嘔吐物に血液が混ざっている
赤色やピンク色のものを嘔吐した場合は、体内のどこかで出血しているサインです。口内に傷がついて血が出ていることもあれば、消化器、呼吸器などの病気が原因の可能性もあります。
繰り返しえずいている
何度も吐くようなポーズをする場合は、上部消化管に異常が起きているかもしれません。胃拡張や胃捻転症候群といった大型犬、超大型犬が発症することの多い病気のほか、腸閉塞や膵炎などが疑われます。
まとめ
犬が吐いた際、1,2回程度の吐出や胃酸の嘔吐によるものであれば基本的に心配は不要です。吐き出した後にすぐに元気になるでしょう。ただし、嘔吐物に血液が混ざって赤みを帯びていたり、異物が混ざったりしている場合には注意が必要です。その後も元気がなく嘔吐を繰り返したり、下痢の症状が見られたりするようであれば、早めにかかりつけ医に相談しましょう。愛犬の健康を守るためにも、普段から様子をしっかり見守って、変化があればすぐに気づくことが大切です。