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アメリカ獣医行動学会会員、ペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets 代表。問題行動の治療を専門とし臨床に携わる。
ご飯をお皿に入れた瞬間、ペロリと即完食。愛犬のそんな姿を見ると「食欲があって元気だ」と喜んでしまいそうですよね。でも実は、注意が必要。早食いにはさまざまなリスクが潜んでいるのです。犬の早食いについて、そうなってしまう理由や健康上のデメリット、防止方法などを、「ペットの行動コンサルテーション Heart Healing for Pets」代表で獣医師の石井香絵先生に解説していただきます。
目次
- 犬の早食いとは?
- 犬が早食いをする理由は?
- 早食いしやすい犬種はある?
- 犬の早食いの4つのリスクとは?
- 早食いのスピードが変化したら、病気に注意?
- 犬が早食いをしているときの対処法は?
- 犬に早食いをさせない方法とは?
- 犬の早食いの注意点
犬の早食いとは?
普通の犬の食べ方は、食事の途中で顔をあげて少しお休みを入れたり、ゆっくり口へ食べ物を入れたりします。硬い食べものであれば、しっかり噛んで食べる犬もいるほど。
一方、犬の早食いは、食べ始めると休むことなくガツガツと数秒で丸飲みし、食べ終わってしまうような食べ方のことです。ドライ、セミドライ、ウェット、手作り、生食といったフードの形状や、食事の量によって食べるスピードには多少の差がありますが、途中でお休みを入れることなく丸飲みしている場合は、早食いと言えるでしょう。そして、早食いが原因と考えられるリスクやデメリットは、さまざまにあるのです。
犬が早食いをする理由は?
犬が早食いをする理由には、犬の進化の過程が影響していると考えられます。
野生時代の名残り
かつては野生で、肉食だった犬。諸説ありますが、旧石器時代にはすでに、犬はほかの動物に先駆けて、人に飼育されるようになったと考えられています。それから長い年月が経ちましたが、犬には野生時代の本能行動が今でもたくさん残っているのです。
その1つが、食べ方。野生の世界では食べ物を毎日、口にできる保証がないので、獲物を捕らえたときにたくさん食べる必要がありました。
歯の形状
歯の形状も野生時代の名残りです。犬は進化の過程で雑食動物になりましたが、元々は肉食動物。獲物を捕らえ、生肉や獲物の内臓を食べるときは、ほとんど咀嚼することなく丸飲みします。それに合わせて、歯は肉を引きちぎるために必要な形状になっています。人の歯のように、食べ物をゆっくり噛んですりつぶす形状ではないので、早食いになりがちなのです。
早食いしやすい犬種はある?
比較的早食いになりやすい犬種は次の通りです。ただし、この犬種だからと言って、必ず早食いになるわけではありません。あくまでも参考としてご紹介します。
早食いしやすい犬種
・ビーグル
食いしん坊な犬種として有名。拾い食いにも要注意。
・レトリーバー
太りやすい犬種。異物の誤飲も多め。
・ウェルシュ・コーギー
食べ物をめぐって犬同士で喧嘩することがあるほど、食への執着が強い犬種。
・フレンチ・ブルドッグ
ガツガツ早食いをする傾向あり。
・テリア種
早食い、かつ、食への執着が強い傾向あり。
多頭飼いの環境は早食いしやすくなる?
犬種のほかにも、早食いしやすさに関係するのが環境です。特に、一世帯にたくさんの犬が飼育されている多頭飼育の環境では、犬は早食いになりがち。「食べ物を飼い主からいち早くもらいたい」「早く食べないと奪われる」などの心理が働くからです。
過去のケースでは、ムラ食いをしがちで完食するのに時間がかかったダックスフンドが、もう1頭新しい犬を同居犬として迎えたことで競争心が芽生え、素早く食べるようになったことがありました。このように、良い変化を生むこともあります。
犬の早食いの4つのリスクとは?
犬が早食いをすることで起こるリスクには、主に次のようなことが考えられます。
窒息
一気にたくさん食べ、大きなものを丸飲みすることにより、喉がつまって呼吸が阻害される可能性があります。特にドライフードなど水分が少ない食べ物は喉通りが悪くなります。早食いでむせながら食べる様子が続くときは、ドライフードをふやかしたり、ウェットフードを利用したりするとよいでしょう。
誤嚥性肺炎
急いで食べることによって、食べ物が食道ではなく気管に入り込むことがあります(誤嚥)。気道に入った食べ物や口腔内細菌が原因で、誤嚥性肺炎を引き起こすことも。特にシニア犬になると、食べ物を飲み込む際に気管を塞ぐ「喉頭蓋(こうとうがい)」の働きが低下するため誤嚥を招きやすくなります。
胃拡張
早食いにより、胃の中に食べ物と同時に空気をたくさん飲み込むことで、胃が大きく拡張することがあります。ドライフードを食べた後に大量の水を飲んだ場合も胃拡張になります。胸部の深い犬種、または胃の機能が低下したシニア犬は特に注意が必要です。
肥満
満腹感を覚える前に早食いでどんどん食べてしてしまうことで、肥満を招くことがあります。犬は与えられたら全て食べてしまう傾向があるため、1日の摂取量やカロリー計算をして適切な食事の量を提供するとよいでしょう。
早食いのスピードが変化したら、病気に注意?
「早食いだった犬が、ゆっくり食べるようになった」というケースがあります。実は、この場合も注意が必要。病気が関係していることがあります。
特にシニア期になると、歯周病により口腔内に違和感や痛みが出て、ゆっくり食べざるをえなくなることも。食べ方や食べる速度が変化したときは、口の中にトラブルがないか確認することが大切です。それと同時に、食事の見直しをしてあげるとよいでしょう。
犬が早食いをしているときの対処法は?
食べ物に対する執着や、食べる速度などを変えることは、なかなか難しいかもしれません。しかし、食事内容や食器の見直しなど簡単な工夫から、少し手間のかかるトレーニングまで、さまざまな対処方法があります。
例えば、「ノーズワーク」という対処方法。これは、家のさまざまな箇所にいくつか箱などを配置し、箱の上や中に食べ物を隠すもの。匂いを頼りに食べ物を探すことになり、犬は通常よりも食事に時間を長くかけられるようになります。犬は嗅覚を使った遊びが大好きですし、本能行動の要求を満たすことにも。ノーズワークをすることで脳のトレーニングも同時に行えます。
ほかにも、もっと簡単な対処方法や予防方法があります。続けてご紹介していきましょう。
犬に早食いをさせない方法とは?
早食いの対処方法や予防方法をいくつかご紹介します。すぐに効果が出ないこともありますが、いろいろと試してみて、愛犬に合う方法を選ぶとよいでしょう。
早食い防止グッズを使う
食い防止の食器
食器内にデコボコと突起があるものや、底が丸くて揺れる食器など。食べづらい構造で、食べるのに時間がかかります。
知育玩具
コロコロと転がすことで中から少しずつ食べ物が出てくる構造のものや、重なったフェルト間に隠したフードを探しながら食べるスナフルマットなどの知育玩具も早食い防止になります。
フードを変える、フードに工夫する
フードの形状やサイズを変えたり、異なるサイズのフードを混ぜたりすることで食べづらさが生じ、ゆっくり食べられるようになる場合もあります。また、フードをふやかすと、丸飲みしづらくなります。シニア犬の胃拡張や消化不良防止にもおすすめです
食事の回数を増やす
早食いした後に吐き戻したりむせたりしてしまうような場合は、1回の食事量を少なくし、頻回に分けて与えるようにするとよいでしょう。
フードの置き場所を変える
同居犬がいると競争心が芽生え、食事がゆっくりできないことがあります。これを防ぐために別々の部屋で食事をさせるなど、お互いが見えない場所で食事をさせるのもおすすめです。フードの横取りによる喧嘩や、摂取カロリーオーバーによる肥満も予防できます。
犬の早食いの注意点
犬は習性や体の構造上、早食いになる傾向があります。犬の唾液には食べ物を分解する酵素は含まれていないので、人のように食べ物をよく噛んで唾液を混ぜ合わせて消化を良くする必要もありません。それなら、「犬の早食いは気にしなくてよいのでは?」と思われるかもしれませんが、病気や肥満など健康に悪い影響を与えるリスクが潜んでいるので注意が必要です。
また、早食いの原因が「食事量が足りていなかった」ことだったというケースも。この事例は、子犬のときに受けた「食事は1日何粒」というアドバイスを飼い主さんが守り続け、成長してからも同量のフードしか与えていなかったために、犬は常に空腹で栄養不足となっていました。
このように、早食いには「習性だから」とそのまま見過ごせない一面もあります。今一度、愛犬の食べ方を見直してみてはいかがでしょうか。