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明石むかい動物病院院長。獣医麻酔外科学会、獣医がん学会。
もともと狩猟犬や番犬だった柴犬は、外で飼われることが一般的でした。しかし、近年では、室内飼いが主流となっています。柴犬は、暑さに弱く熱中症になりやすい傾向にあります。また、ノミやダニによる疾病、脱走といったリスクもありますので、室内飼いのメリットは多いと言えます。ただし、柴犬の特徴や習性を理解していないと、愛犬も飼い主もストレスを感じてしまうかもしれません。室内飼いを始めるまえに確認していただきたいことを解説します。
目次
- 昔は柴犬の外飼いが一般的だった理由
- 室内で飼うなら知っておきたい柴犬の特徴
- 柴犬を室内で飼うメリット
- 柴犬を室内で飼うデメリット
- 柴犬を室内で飼う際のポイント
- 柴犬を室内で飼う前のチェックポイント
- まとめ
昔は柴犬の外飼いが一般的だった理由
柴犬は環境への適応力が高いので、昔は外でも飼える犬種だとされてきましたが、寒さに強く暑さに弱い特徴があります。近年は夏季の平均気温が昔と比べて上昇し、熱中症になるリスクが高くなっていることを背景に、地域を問わず外飼いから室内飼いへと移行しました。もし外飼いをしたい場合は、動物福祉「5つの自由」に則った環境を整えることが重要です。「5つの自由」とは、1960年代の英国において、動物福祉の理念として提唱されたものです。現在では、人間が飼育管理する動物に対して保障しなければならない動物福祉の指標として国際的な共通認識になっています。
「5つの自由」
◆ 飢え、渇きからの自由
例:いつでも新鮮なお水を飲むことができ、必要かつ十分な食物が与えられていること
◆ 不快からの自由
例: 温度、湿度、照明など、それぞれの動物にとって快適な環境を用意できていること
◆ 本来の行動がとれる自由
例:正常な行動のできる、十分な高さや広さ、隠れ場所のある環境であること
群れや家族で生活する動物は同種の仲間と生活でき、また、単独で生活する動物は単独で生活できること
◆ 痛み、負傷、病気からの自由
例:病気や怪我をしないように日頃から健康管理を行い、その兆候があれば治療を行うこと
◆ 恐怖、抑圧からの自由
例:嵐や台風のとき、大きな音が出る花火大会や近隣工事があるときは家の中に入れ、恐怖心を与えないこと
(恐怖や精神的苦痛の原因を確認し、取り除くこと)
室内で飼うなら知っておきたい柴犬の特徴
外で飼われることが当たり前だった柴犬ですが、近年は室内で飼うことが一般的になりました。室内で飼う前に知っておきたい柴犬の特徴を解説します。
◆ 自立心が強い
柴犬はもともと猟犬や番犬として活躍してきた犬種です。そのため、勇敢で自立心が強い傾向があります。飼い主に対する忠誠心は強いのですが、ベタベタされることは好きではありません。ひとりで静かに過ごせるスペースを求めます。
◆ 運動が大好き
柴犬はもともと猟犬ですので、運動能力が高く、運動量も多い傾向にあります。運動不足になるとストレスを感じてしまうようです。充分な運動量を確保するために、毎日30分の散歩を2回以上行うほか、ルームランナーやアスレチックなどの運動器具を活用すると良いでしょう。
◆ 抜け毛が多い
柴犬はアンダーコートとオーバーコートの2種類の被毛を持つダブルコートの犬です。寒さに強く暑さに弱いことは、そのせいです。特に毛量の多いアンダーコートは毛量が多く、1年中抜け続けます。また、春から夏にかけてと秋から冬にかけては毛が生え変わる換毛期の抜け毛は、相当な量になります。ブラッシングをしないと皮膚病になる場合があるほどです。ブラッシングの頻度は、毎日がベスト。最低でも2日に1回のブラッシングを心掛けましょう。
柴犬を室内で飼うメリット
室内飼いすることで、愛犬にも飼い主にもメリットがあります。
長い時間一緒に過ごせる
自立心があってひとりで過ごせるスペースを求める性格ではありますが、飼い主と一緒に過ごすことは好きなようです。もともと忠誠心の強い犬であるうえ、群れで生活していた名残りもあって、リーダーである飼い主と一緒にいると安心できます。ひとりでいることが好きな柴犬が飼い主の姿が見える場所でくつろいでいる姿を見たら、一層愛情が増してしまうのではないでしょうか。
天候の影響を受けない
雨、風、雪、雷などの悪天候にさらされる心配がありませんし、室内飼いなら柴犬が苦手な高温多湿の暑さを避けてあげることができます。いつも快適な住空間で暮らせることは、愛犬にとって安心できる幸せな状況です。
健康管理がしやすい
柴犬の室内飼いでは、常に目の届く範囲内で愛犬が生活をしているので、元気な状態を記憶できます。ちょっと様子がおかしいだけでも敏感に気づきますので、体調不良や病気の早期発見につながるでしょう。また、外にはノミやダニがたくさん生息していますので、皮膚病やアレルギーから愛犬を守ることもできます。
柴犬を室内で飼うデメリット
柴犬の身体的特徴や習性の中には、室内飼いと相性が悪い面もあります。
掃除の頻度が増える
前述の通り、柴犬は毛量が多く、1年中ブラッシングをしなければなりません。特に年2回の換毛期は、1日に何度ブラッシングをしても「終わりがない」と思うほど抜け毛の量が増えます。また、抜けるのはフワフワとしたアンダーコートなので、空気のわずかな流れで空中に舞ってしまいますし、カーペットや衣服に抜け毛がついてなかなかとれません。抜け毛は床のホコリやゴミと絡まってダニの温床になったり、ハウスダストがアレルギーの原因になったりする可能性があるので、こまめな掃除が欠かせません。
飼育スペースの確保が必要
柴犬は運動が大好きで運動量も豊富です。そのため、大きな部屋や庭がある場合は、自由に動けるスペースや導線を確保しましょう。また、柴犬は、ケージの中にトイレを置いても、そこで排泄することを嫌がります。穴倉で生活していた時代の名残りで、穴倉のそばで排泄をすると匂いから敵に居場所がわかってしまうからです。そのため、ケージから離れたところにトイレ用のサークルを用意する必要があります。
柴犬のための部屋づくりが必要
柴犬はテリトリー意識が強い犬種です。ひとりで安心して過ごせるスペースを求めますので、ケージをご準備ください。もともと犬は狭い穴倉で暮らしていた動物ですので、四方を囲まれて適度に動けるケージを用意することで安心して静かに過ごすことができます。留守番中や就寝時にも重宝するでしょう。
柴犬を室内で飼う際のポイント
柴犬の特性をふまえて上手に室内飼いをするために、以下のトレーニングや対策に取り組みましょう。
ハウストレーニング
「ハウス!」と言えばケージに戻るようにするトレーニングが必要です。目的は愛犬がひとりでも安心して過ごせるようにするためです。興奮したり、恐怖を感じたり、留守番中に不安になったりしたときに、安心できる場所があれば問題行動を減らすことができます。問題行動とは「吠え続ける」「ソファを噛む」「モノを壊す」などです。
トイレトレーニング
前述の通り柴犬は野生時代の習性が色濃く残っているうえ、キレイ好きでもあるため、寝床のそばで排泄することを他の犬種より嫌がります。寝床であるケージから離れたところで排泄をしようとするので、四方が囲まれたトイレ用のサークルを設けてトイレトレーニングをしてください。トレーニングをしないと、ケージから離れたところならどこででも排泄をしてしまいます。柴犬はもともと賢い犬ですので、一度トイレを覚えると失敗することはほとんどないでしょう。
主従関係を教える
柴犬を室内で飼うときは、「飼い主がリーダー」と主従関係を教えることが大切です。「ハウス」「トイレ」「オスワリ」「マテ」「フセ」「ダメ」「ヨシ」などのコマンドを使ってトレーニングをすることがポイントです。できたら心を込めて褒め、おやつなどのご褒美をあげましょう。柴犬が「飼い主がリーダー」と思えば、忠誠心を持ち、ストレスなく暮らすことができます。主従関係がないと、噛み癖や吠え癖がひどくなったり、ケージの掃除をさせてくれなかったりと、柴犬のイメージからかけ離れたわがままな犬となってしまいます。
抜け毛対策
換毛期は毎日のブラッシングが大切です。柴犬も自分の身体が軽くなってスッキリするので、ブラッシングされることを喜びます。ブラッシングをしても、抜け毛が床に落ちたり、空中に舞ったりするので、掃除機のほかにフローリングワイパーや粘着シートを併用すると抜け毛をキレイに取り除くことができます。なお、ほうきを使うと風が生まれてふわふわのアンダーコートが空中に舞ってしまうので使わないほうが良いでしょう。
アレルギー性皮膚炎に注意
柴犬は、アレルギー性皮膚炎を発症しやすい犬種です。室内飼いであれば、ダニやハウスダストが原因のアトピー性皮膚炎にかかりやすいようです。アレルギー性皮膚炎は一度発症すると完治が難しい疾病ですので、部屋、ケージ、トイレサークルなどの掃除や換気を徹底して清潔な空間を保って予防に努めましょう。
柴犬を室内で飼う前のチェックポイント
柴犬をお迎えする前に、室内の環境が柴犬を飼うのに適しているか確認しましょう。
滑りにくい床かどうか
フローリングの床で柴犬が歩くとシャカシャカと爪の音がして、滑りそうに感じるかもしれません。ボール遊びの際に全力でダッシュをするときやソファからジャンプして着地するときに、足が滑って痛めたりする可能性があります。滑らないようにフロアコーティングをしたり、マットやカーペットを敷いたりするなどの対策をしましょう。
柴犬のテリトリーを作れるか
柴犬はひとりで安心して過ごせるスペースを求めます。ケージを置くスペースと、トイレ用のサークルを置くスペースを確保できるかどうかを確認しましょう。
運動の時間を確保できるか
運動量の多い柴犬は、散歩の時間が充分でないとストレスを感じてしまいます。1日朝晩2回、1回30分程度の散歩時間を確保できることが重要です。また、室内で一緒に遊んであげる時間も大切です。家族で分担して時間を確保できるかどうかを相談しましょう。
室内の快適な温度を保てるか
柴犬は暑さに弱いので、高温多湿の環境を避けてあげましょう。間取りやエアコンなどで、快適な室温で飼えるかを確認してください。一般的に柴犬にとって快適な室温は25~28度、湿度は50~70%と言われています。なお、柴犬は寒さに強い犬種ですが、室内温度が5度を下回る場合はヒーターなどで住空間をあたためてください。
まとめ
室内飼いのメリットは、かわいらしい愛犬とずっと一緒にいられることや体調不良にいち早く気づけることです。外でかかりやすい蚊やダニによる病気を予防することもできます。室内飼いは、より愛犬を大切にできる飼い方なのではないでしょうか。「自立心が強い」「抜け毛が多い」「キレイ好き」「運動が好き」といった柴犬ならではの特徴を知って対策をすれば、愛犬は飼い主との生活に幸せを感じてくれるでしょう。