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日・米・英にて行動診療やパピークラスを実施する動物行動コンサルティングはっぴぃているず代表。日本でまだ数十名しかいない獣医行動診療科認定医として幅広く活躍。
犬はもともと肉食動物だというイメージをもっている人も多いかもしれません。しかし、長い年月をかけ人間と生活する中で、犬は雑食性の高い動物となりました。そのため、犬に生肉を与えることで、身体に悪い影響を与えてしまうリスクがあります。今回は、獣医師のフリッツ吉川綾先生に教えていただいた、犬に生肉を与える際の注意点や誤食した場合の対処法について解説していきます。
目次
- 犬に生肉を与えても大丈夫?
- 犬に生肉を与えるリスクは?
- 犬に与えてもいい生肉の選び方は?
- 犬に生肉を与えるときに気をつけたい中毒症状やアレルギー反応は?
- 生肉を与えないほうがいい犬は?
- 犬が生肉を誤食してしまった時の対処法は?
- 犬にどうしても生肉を与えたい時は?
犬に生肉を与えても大丈夫?
犬の祖先であるオオカミは、雑食でもありますが主食は生肉です。オオカミの特徴を受け継いでいる犬も同様かと思いきや、そうではありません。
犬は豊富な食べ物に対応できる雑食系
そもそも、犬とオオカミは、遺伝的にも解剖学的にも異なる動物です。犬は、オオカミよりもさらに雑食が進んでおり、オオカミと比較すると消化管が長く、でんぷんの消化酵素も多いという特徴があります。
長い年月を人間と共に生活をする過程で、食生活が多様化し、身体も順応してきたのです。オオカミの血をひく犬ですが、実際は、肉食よりも雑食といった方が的確でしょう。
原則、犬に生肉を与えることは推奨されていない
現在の獣医学では、犬に生肉を与えることは積極的に推奨されていません。ただし、絶対に与えてはいけないということでもありません。生肉を与えることで、腸内にある細菌や便の質、毛並みのツヤを改善してくれることがあるともいわれています。
問題なのは、これらのメリットについて、科学的な証拠やメカニズムが示されていないということです。また、生肉中心の食事は栄養管理が難しく、感染症のリスクについても問題視されています。
米国動物病院協会(American Animal Hospital Association)、米国動物医学会(AVMA)、カナダ獣医師会(Canadian Veterinary Medical Association)では、犬の食事に生や加熱不足の動物性タンパク質を含めることを推奨しないとの声明を採択しています。
出典:Freeman, L. M., Chandler, M. L., Hamper, B. A., & Weeth, L. P. (2013). Current knowledge about the risks and benefits of raw meat–based diets for dogs and cats. Journal of the American Veterinary Medical Association, 243(11), 1549-1558. https://doi.org/10.2460/javma.243.11.1549
犬に生肉を与えるリスクは?
犬に生肉を与えることには、獣医学では健康上のリスクがあるといわれています。具体的にどのようなリスクがあるのでしょうか。
菌や寄生虫によるリスク
生肉には、さまざまな細菌が付着しています。そのなかには、体内で悪さをする腸管出血性大腸菌O157や、サルモネラ菌といったものも含まれます。これらの菌は、犬の食中毒や胃腸炎を引き起こす原因です。
私たちがスーパーで購入する食肉は、さまざまな検査を受けたあと、食肉処理場へ運ばれ、ようやく店頭での販売に至ります。しかし、このような厳密な過程を経ても、無菌の状態で提供することは不可能なのです。
加えて、生肉により寄生虫に感染してしまう可能性もあります。海外の調査では、犬や猫用の生肉から、サルコシステイス属肉胞子虫や、トキソプラズマといった寄生虫が検出されています。これらの寄生虫は、犬自身が体調不良を起こすケースはあまり多くありません。しかし、犬の便などを通じて人に感染する場合があるので注意が必要です。
消化不良
菌や寄生虫のほかに気をつけたいのは、犬の個体差です。例えば、消化能力の高さも犬により異なります。消化能力が低い犬に生肉を与えた場合、消化不良を起こしてしまうかもしれません。
犬に与えてもいい生肉の選び方は?
もし、どうしても犬に生肉を与えたいという場合は、新鮮かつ安全なものを選ぶことが大切です。
人が食べても安全で新鮮なものを選ぼう
まずは、人が食べても問題のない生肉を選ぶようにしましょう。馬肉であれば、馬刺し用に出回っているものは安全です。牛肉は、新鮮なものの中心部分は無菌であるといわれていますので、部位や状態に注意して選べば大丈夫。鶏肉と豚肉は、生食として流通しているものはありません。
骨付き肉、脂の多い生肉、味付け肉はNG
骨付きの生肉を与えると、消化管の閉塞を起こしたり、骨によって消化管を傷つけたり穴があいてしまったりするリスクがあります。
また、高脂肪の食事を犬に与え続けた場合、犬が膵炎を引き起こす可能性もあります。消化器官に負担もかかるので、脂肪分の少ない生肉を選び、与える際も脂の部分を極力取り除くようにしましょう。
スーパーなどでは、塩や香辛料などで味付けされている生肉も売られていますが、これらも犬に与えるのは避けましょう。特に、香辛料のなかには、犬が食べてはいけない成分が含まれるものもあります。
犬に生肉を与えるときに気をつけたい中毒症状やアレルギー反応は?
愛犬の体質によっては、生肉を与えた場合、身体が拒否反応を示す場合があります。ほかにも、前述のように、食中毒を起こす可能性があるので注意が必要です。
生肉とアレルギー反応
アレルギーは、牛肉や豚肉、鶏肉など生肉の種類に関わらず引き起こす可能性があります。犬がアレルギーを起こした場合、下痢や嘔吐、目の充血といった症状が現れます。このような様子が見られたら、すぐにかかりつけの獣医師へ相談するようにしましょう。
問診では、肉の種類、部位、食べた量、異変が起きたタイミングなどを細かく伝えてください。生肉と一緒に食べたものがある場合は、あわせて説明するようにしましょう。
生肉と食中毒
生肉は、その種類によって潜んでいる菌が異なります。食中毒の主な症状は、嘔吐や下痢、食欲不振などです。下痢や嘔吐が激しい場合は、脱水症状を引き起こす可能性もあり、非常に危険です。
犬が生肉を食べた後にこのような状態が見られた場合、すぐに獣医師へ相談するようにしましょう。アレルギーと同様、食べた肉の種類や部位、時間帯などを細かく伝える準備も忘れずに。
生肉を与えないほうがいい犬は?
注意しなければならないのが、子犬やシニア犬です。子犬の場合は、消化管が未発達な状態で、消化不良を起こしかねません。
反対に、シニア犬は生肉を食べることで消化機能が低下する原因となります。身体に負担をかけてしまうことになるので、子犬とシニア犬に生肉を与えるのはやめたほうがいいでしょう。
ほかにも、もともと胃腸が弱い犬も、普段と違うものを食べることで身体がびっくりしてしまう場合があるので注意を。持病がある犬の場合は、かかりつけの獣医師に相談したうえで判断しましょう。
犬が生肉を誤食してしまった時の対処法は?
飼い主さんが犬に生肉を与えるつもりはなくても、うっかり食べてしまったというケースもあります。その肉が骨付き肉だった場合は、さらに危険度が高まります。誤食してしまった場合は、すぐに獣医師へ相談して指示を仰ぎましょう。
動物病院では、実際に食べてしまったものの内容や量を確認されます。また犬の体調や体質に応じて、催吐処置や内視鏡での摘出を行うことも。場合によっては、外科手術などが必要となることもあるので、誤食には十分注意してください。
犬にどうしても生肉を与えたい時は?
先述のリスクや注意点をふまえて、生肉を与える場合は、まず犬の体調や体質をしっかりと把握することが重要です。愛犬の健康にとって、本当に生肉が必要かを判断しましょう。迷うときには、獣医師に相談するのもいいでしょう。
実際に生肉を与えるときは、少量から始めてください。人も生食できる新鮮な生肉、かつ脂身が少ない部分を選んで与えましょう。もちろん、栄養のバランスも考慮しなければなりません。生肉だけを与えるのではなく、いつもの食事のトッピングとして使用するのがおすすめです。
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