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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
梅雨が近づいてきて雨の日が増えてくると、愛犬との散歩に行くのが億劫になってしまうという人も多いかと思います。雨が降っていてもいつものように犬を散歩に連れて行ったほうがよいのでしょうか。雨の日に散歩をするメリット・デメリット、雨の日に散歩する場合の注意点などを獣医師の茂木千恵先生監修のもと詳しく解説していきます。
目次
- 雨の日でも犬の散歩に行くべき?
- 雨の日に犬の散歩をする時に注意したいこと
- 雨の日に犬の散歩をするメリット・デメリット
- 雨の日に犬の散歩をする時に準備したいもの
- 雨の日に犬の散歩をした後のお手入れ方法は?
- 散歩の代わりに室内でできるおすすめの遊び
- 犬と室内で遊ぶ時に注意したいこと
- 室内ドッグランを利用するのもおすすめ
雨の日でも犬の散歩に行くべき?
雨の日、犬の散歩をすることは「良い」とは一概には言えません。メリットとデメリットがあるためです。犬の状態と飼い主のライフスタイルに合わせて散歩を工夫できると理想的です。そこでまず、雨の日の散歩について判断に迷いがちなポイントを挙げて考えてみましょう。
ポイント1:犬が行きたがらない場合は?
犬が雨の日に散歩に行きたがらない時は、無理せず室内で気分転換の運動をするのがおすすめ。とくに繊細な犬は「濡れる」「雨具を着せられる」「雨具に落ちる雨音が嫌」などの理由から、雨の日に無理に出かけると散歩が嫌いになってしまうこともあります。ただし、吠え続けるなど問題行動が雨の日に目立つなら、欲求不満解消のために散歩に出るほうがよいでしょう。その場合、犬にとって雨の日の印象を良くすることを目標に、雨上がりや雨が弱まったタイミングで出て短時間で帰宅するなど、徐々に慣らしていくようにしましょう。
ポイント2:トイレを外でする習慣のある犬は?
外でしか排泄できない犬なら、我慢が心身のストレスだけでなく膀胱炎などの原因にもなるので定期的に散歩に出る必要があります。天気予報を活用し、小降りの時間や晴れ間など、散歩に適した時間帯を予測して準備しましょう。
できれば、室内でも排泄ができるよう日頃からトレーニングを進めておくと、災害時の避難生活の際や散歩に行きづらくなった高齢時期にも役立つでしょう。たとえば、犬が排尿や排便をしている時に「ワンツー」など統一した号令をかける方法があります。「ワンツー=トイレ=出たら気持ちいい」と犬が学習して、「ワンツー」と聞いたら催すようになります。排泄しがちな地面の様子を再現したトイレを玄関軒下やベランダに作ってそこに誘導するのも効果的です。
ポイント3:子犬やシニア犬も雨の日に散歩させてよい?
子犬やシニア犬は免疫機能が成犬より劣るため、雨で体を冷やすことによって体調を崩すリスクがあります。必要な運動量も少ないため、室内で過ごさせたほうが無難でしょう。雨の日が続いたり、犬が散歩に行きたがったりする場合は、雨上がりなど雨が弱いタイミングで散歩へ連れて行くのがよいでしょう。
ポイント4:レインコートなどの服や靴を着用させたほうがいい?
雨の日の散歩では犬の被毛が濡れたり地面の泥を巻き上げておなかが汚れたりします。散歩後にケアせず濡れや汚れを放置すると肉球、耳、腹部の表皮トラブル、体温低下から胃腸の不調に発展することも。犬専用雨具を着せると散歩後のケアが短時間で済み、犬の負担が軽くなります。雨具については4章で詳しく解説します。
雨の日に犬の散歩をする時に注意したいこと
雨の日の散歩では犬の体をできるだけ濡らさないことを第一に、以下のような工夫をすると効果的です。
散歩時間や散歩コースを工夫する
散歩はいつもより時間を短くし、コースの工夫を。橋や高架の下、木々が多い公園、室内ドッグランなど、濡れにくい環境で運動できるスペースがあれば、そこまで車などで連れて行くのもよいでしょう。
帰宅後、犬の体を濡れたままにしない
濡れた状態が続くと、体温低下による胃腸障害、雑菌繁殖による皮膚炎・悪臭、毛玉などにつながります。帰宅したら速やかにタオルやドライヤーでケアをしましょう。玄関にタオルなどを準備してから散歩に出れば、帰宅後のスムーズなケアに役立ちます。
水たまりやぬかるんだ地面などに入らないようにする
水たまりやぬかるみは、体が濡れるのみならず、舐めることによる感染性胃腸炎のリスクがあります。誤って立ち入ってしまったら、玄関やお風呂場で汚れを洗い流しましょう。
視界が悪いため、バイクや車により注意を
雨の日は暗く、雨具を着ることで視界が悪くなりがち。バイクや自動車の運転者も、雨のせいで前方注意を怠ることがあります。よく見えるように、夜でなくてもリフレクター(反射板)などを携帯すると安心です。
車の水跳ねに注意する
場所によっては雨水が溜まっていて、側を車やバイクが通過すると、地面の近くを歩いている犬に向かってその水が巻き上がることも。水たまりの水跳ねを浴びると、帰宅後にするケアの手間が増えます。散歩コースに水たまりがないか確認しながら進みましょう。
飼い主自身も転倒や事故に注意
飼い主が転ぶと、犬を一時的にコントロールできなくなり、犬の脱走や交通事故といった危険が高まります。雨の日はいつもと違う靴を履いている場合もありますし、道が滑りやすくいことを踏まえて転ばないように慎重に進みましょう。傘をさしての散歩は、中型犬や大型犬などリードを片手で持ってコントロールすることができない犬の場合はおすすめできません。
足裏の長い毛はカットする
ロングコートの犬は、足裏の間の毛を短く整えておきましょう。指の間に泥が絡まるのを防ぐことができます。
雨の日に犬の散歩をするメリット・デメリット
では続けて、雨の日の散歩についてのメリットやデメリットなどを見ていきましょう。
メリット
犬の社会化トレーニングになる
雨の音、雨具を着ること、雨具を持つ人たちの様子などは、犬にとっては普段と違う環境。それに慣れることは、犬の「社会化」の一つです。子犬の時にはどんな刺激も肯定的に捉えやすい「社会化期」があるので、その頃に雨の日の散歩を経験させるのがよいでしょう。ただし、子犬の体が濡れるデメリットがあるので、ごく短時間の散歩から始めましょう。雨具は雨ではない日に着せてあらかじめ慣れさせておくとスムーズです。
運動不足やストレスの解消
運動量が減ると犬の心身にストレスがたまります。ストレスは、些細な刺激に対する無駄吠え、トイレ以外での排泄、誤飲・誤食、胃腸障害などの原因に。とくに大型犬や運動量が豊富な犬種は、雨の日でもお散歩に行くことで運動不足が解消されやすくなります。
デメリット
体が濡れたり汚れたりする
濡れや汚れを放っておくと、肉球、耳、腹部表皮トラブル、体温低下による胃腸不調に発展することがあります。また、濡れると毛がもつれ、毛玉ができやすくなります。毛玉は放置すると脱毛や皮膚炎の原因ともなります。
肉球が痛みやすくなる
雨の日は肉球が水分でふやけて傷つきやすくなります。落ちているゴミにも気が付きにくく、肉球の怪我につながる心配も。
細菌感染のリスクが高い
水たまりなど汚れた水に触れることで、細菌に感染することがあります。免疫力の低下している犬の場合、嘔吐、下痢、腹痛、食欲不振などが起こることも。
雨の日に犬の散歩をする時に準備したいもの
雨の日の散歩にはデメリットもありますが、それに対処するグッズが考案されているので、それを活用するのもおすすめです。どんなものがあるのか見ていきましょう。
レインコート
犬用レインコートがあります。覆う部分が広いほど体が濡れにくいですが、全身を覆うタイプは犬にとっては着圧感が大きくなり、繊細な犬は排泄できなくなることも。最初はケープタイプなど体を覆う部分が狭い雨具から着せて練習するのがおすすめです。胴長の犬種用などいろいろな雨具があるので、愛犬に合う物を選んでおくとよいでしょう。人が使うレインコート、長靴や傘などには暗い時間帯の交通事故を防ぐためにリフレクター(反射板)の付いたものを使うとより安心です。
ドッグブーツ
肉球が雨で濡れてふやけてしまったり、落ちている鋭利な物を踏んで怪我をするのを防止できます。
タオルなど
タオル、ドライヤー、ブラシなど濡れた体を乾かすのに必要な物は玄関に置いてから出かけましょう。水分を素早くたっぷり除去できる高吸水性タオルもおすすめ。ずぶ濡れや泥だらけになることが予想される場合は、さらにシャンプーの準備をしておくとよいでしょう。
雨の日に犬の散歩をした後のお手入れ方法は?
散歩後のケアの印象が悪いと、犬が散歩嫌いになってしまうことも! 短時間で済ませる心がけが大切です。以下の手順で素早くケアをしてあげましょう。
ケアの手順
(1)乾いた大きいタオルで全身をしっかり拭きます。頭、首から背中、お尻、お腹、足、尻尾、それから足先へと汚れの少ない箇所から順に拭くと、汚れを擦り込むことなくきれいに拭き上げられます。
(2)お湯で濡らして硬く絞ったタオルで口周り、耳、お腹、足裏を拭きます。お腹と足裏は湿気がこもりやすいのでドライヤーを使うのもおすすめ。耳はコットンも使い、押さえるようにして水分を取ります。なお、コットンに汚れが付く場合は適切な耳掃除を行いましょう。
泥汚れがひどい場合は、タオルでゴシゴシ拭くと毛の間に入り込んでしまうので、ぬるま湯のシャワーで泥を落としてから拭くようにしましょう。とくに足の肉球と指の間は泥が絡みつきやすいので注意。ロングコートの犬は肉球周りの毛を定期的にカットすると、水分も汚れも落としやすいです。
散歩の代わりに室内でできるおすすめの遊び
雨の日に犬が外に出たがらない時や、散歩後のケアが難しい場合には室内で気分転換の運動をさせてみましょう。おすすめの室内遊びを紹介します。
取ってこい(レトリーブ)
獲物に見立てた動くオモチャを遠くに投げ、飼い主の元へ持ち帰らせる遊び。飼い主は疲れずに犬が運動できる動作のため、特におすすめの遊びです。まず、飼い主と引っ張りっこして、「おもちゃを飼い主が持っていると楽しい」と思わせてから遠くに投げると、喜んで持ち帰るようになるでしょう。犬が持ち帰るのに時間がかかるようになったら、ドッグマッサージなどで使った筋肉をほぐしてリラックスを促すとよいでしょう。
引っ張りっこ
飼い主と犬でおもちゃを引っ張り合う遊び。取ってこいができない犬でも楽しめます。犬が興奮しすぎて口から唸り声が漏れ始めたら、すぐに「はい、やめ!」「おすわり」などの号令でオモチャを口から離させましょう。落ち着いたところで、もう一度再開すると良いでしょう。犬が落ち着いた態度を示したことに対するごほうびにもなります。
宝探しゲーム
犬の大好きな物を室内のあちこちに隠して探させる遊び。楽しくするコツは、犬に見えないよう、こっそりと物を隠すことです。嗅覚を使って捜索させると脳にもよいエクササイズになります。「ノーズワーク」と呼ばれる特定の匂いがある場所を見つけ出すワークもおすすめです。
犬と室内で遊ぶ時に注意したいこと
散歩代わりに室内で遊ぶ時には、次のようなことに気を付けましょう。
つるつるした床で犬の足が滑らないようにする
滑る床は、走ろうとすると犬の足腰に大きな負担がかかります。犬が転んで怪我をするのを防ぐためにも、滑り止めマットを敷くのがおすすめ。
家具の角を隠す
鋭利な角があるものや、ガラス・陶器・鉢植えなど倒れてくると危ないものなどは犬が近くに行かないように家具配置を整えたり隠したりしましょう。
犬を興奮させすぎない
遊びに熱中して犬が興奮し過ぎると、動きをコントロールできなくなったり、吠え続けたり手を噛んでしまったりすることがあります。1回のセッションは短めにしましょう。唸り声が聞こえてきたら中断の目安となります。
観葉植物の誤食に注意する
ポトスやアロエ、アイビー、ドラセナなど犬が食べると有害な観葉植物があるので、犬が近づける場所には置かないようにしましょう。
おやつのあげすぎに注意する
散歩に行かないことで運動量が減っているのに、室内エクササイズでご褒美のおやつをたっぷり与えると、肥満や偏食の原因になりかねません。使うならローカロリーのおやつをご褒美に。夜ご飯の量を調節するのもよいでしょう。
室内ドッグランを利用するのもおすすめ
ドッグランの中には、雨の日でも運動しやすい屋根付きの施設があります。次の記事などを参考に、利用しやすいドッグランをいくつか見つけておくと雨の日に役立ちそうですね。