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兵庫ペット医療センター東灘、獣医皮膚科学会、VET DERM TOKYO 皮膚科第1期研修医
日本や海外で事件解決のために活躍している動物と言えば警察犬です。
「警察犬に向いている犬はどの犬種?」「警察犬を育てるにはどうしたらいいの?」と気になる方もいるでしょう。
近年では、一般の人により飼育管理、訓練されたチワワやトイ・プードルなどのかわいい小型犬も、嘱託警察犬(しょくたくけいさつけん)として活躍しています。
この記事では、警察犬の仕事内容や犬種、嘱託警察犬になる方法などを解説します。警察犬について知りたい方や飼い犬を警察犬にしたい方は、ぜひ本記事を参考にしてください。
目次
- 警察犬の仕事内容について
- 警察犬として指定されている犬種とそれぞれの特徴
- 指定警察犬以外の犬は嘱託警察犬としての活動が可能
- 嘱託警察犬になる方法と求められる能力
- まとめ
警察犬の仕事内容について
警察犬の主な仕事内容は以下の5つです。
1. 匂いを元に痕跡を探す「足跡追及」
2. 匂いが一致するか確認する「臭気選別」
3. パトロールや護送などの「警戒活動」
4. 人や危険物を探す「捜索活動」
5. 空港などで麻薬を見つけ出す「麻薬探知」
5つの仕事内容について、1つずつ解説します。
匂いを元に痕跡を探す「足跡追及」
足跡追及は警察犬が現場に残っている匂いを嗅ぎ分け、逃走した犯人や被害者の痕跡を追う仕事です。持ち物についた匂いにより対象者のたどった経路を探し、いち早く発見できるよう警察官をサポートします。
匂いが一致するか確認する「臭気選別」
臭気選別は現場に残された遺留品の匂いが犯人と一致するかを、警察犬の嗅覚で判別します。匂いの一致で事件解決に大きく近づきます。犬の嗅覚は人間の10万倍~数百万倍と言われており、臭気選別は警察犬にしかできないと言っても過言ではありません。匂いから事件の証拠品を確認するのも、警察犬の大切な仕事です。
パトロールや護送などの「警戒活動」
犯罪防止のために警察官と一緒にパトロールや護送などをするのも警察犬の仕事です。不審者を発見し逃走の恐れがある際には、吠えたり足に嚙みついたりして警察官をサポートします。逃走者を怯ませるためにも、警戒活動を行なう警察犬は体が大きく、かつ強く見える犬種が多く採用されています。
人や危険物を探す「捜索活動」
行方不明の人や危険物などを探す捜索活動も、警察犬の重要な役割です。捜索は街中や山など広範囲にわたり、警察犬は積雪などにより捜索が難しい環境下においても、救出犬として出動します。ときには、爆発物や麻薬などの危険物の捜索も担当します。
空港などで麻薬を見つけ出す「麻薬探知」
麻薬探知犬は空港の関税に常駐し、国内に麻薬を持ち込ませないように監視する警察犬です。キャリーケースや荷物から麻薬の匂いを察知して、税関職員に報告します。わずかな麻薬の匂いに気づくために、厳しい訓練を乗り越えた警察犬だけが麻薬探知犬として活躍できます。
警察犬として指定されている犬種とそれぞれの特徴
日本警察犬協会から警察犬として認定されている犬種は、以下の7つです。
1. エアデール・テリア
2. ボクサー
3. コリー
4. ドーベルマン
5. ゴールデン・レトリーバー
6. ラブラドール・レトリーバー
7. ジャーマン・シェパード・ドッグ
それぞれの犬種について、特徴や警察犬として活躍するために必要な体重を解説します。
エアデール・テリア
エアデール・テリアはイギリス原産の中型犬で、はじめてイギリスで警察犬として採用された犬種です。性格は賢く活発的。勇敢で学習意欲もあり、トレーニングを得意としています。エアデール・エリアの体高と体重は以下のとおりです。
エアデール・エリア | オス | メス |
体高 | 59cm〜63cm | 55cm〜59cm |
体重 | 22kgほど | 22kgほど |
エアデール・テリアはカワウソを狩るために改良された犬種でしたが、警察犬や軍事犬としても活躍しています。頑固な性格のため、ほかの犬と争いになることもあります。
ボクサー
ボクサーはドイツ原産の大型犬で、体力があり厳しいトレーニングにも耐え抜く力を兼ね備えています。知能が高く、パートナーに忠実で訓練しやすい犬種です。ボクサーの体高と体重は以下のとおりです。
ボクサー | オス | メス |
体高 | 57cm〜63cm | 53cm〜59cm |
体重 | 30kgほど | 25kgほど |
猟銃犬や闘犬として活躍していた歴史を持つボクサーは攻撃的な印象を持つ方もいますが、実際は落ち着きのある性格の持ち主です。
コリー
羊犬として活躍していたコリーは、名犬ラッシーに出てくるスコットランド原産の中型犬です。体力と忍耐力もあり、注意深い性格から警察犬に採用されています。コリーの体高と体重は以下のとおりです。
コリー | オス | メス |
体高 | 56cm〜66cm | 51cm〜61cm |
体重 | 30kg以上 | 25kg |
知能が高いコリーは周囲を観察して自分で行動する力も持ち合わせており、吸収力に長けているため難しい訓練もこなせる犬種です。
ドーベルマン
比較的新しい犬種である、ドイツ原産のドーベルマンも指定警察犬です。見た目により怖いイメージを持たれやすい犬であるものの、落ち着いていて子どもに優しい性格です。服従性と作業意欲に優れパートナーに忠実であるため、訓練しやすい犬種になります。ドーベルマンの体高と体重は以下のとおりです。
ドーベルマン | オス | メス |
体高 | 68cm〜72cm | 63cm〜68cm |
体重 | 40〜45kg | 32〜35kg |
警戒心が強いドーベルマンは、警察犬のほか軍用犬や番犬にも向いています。
ゴールデン・レトリーバー
優しい顔立ちが特徴のゴールデン・レトリーバーは、イギリス原産の大型犬です。人間や犬に対して威嚇したり喧嘩したりせず、友好的で落ち着きがありながらも服従性と作業意欲に優れています。ゴールデン・レトリーバーの体高と体重は以下のとおりです。
ゴールデン・レトリーバー | オス | メス |
体高 | 56cm〜61cm | 51cm〜56cm |
体重 | 約40~45kg | 32〜35kg |
ゴールデン・レトリーバーは温厚で柔軟であり、子ども好きな性格が好まれ、多くの家庭で飼育されています。訓練性能にも優れており、介助犬や盲導犬としても活躍しています。
ラブラドール・レトリーバー
ラブラドール・レトリーバーは優れた嗅覚とソフトマウスが特徴の大型犬で、思いやりがある性格と高い学習能力で利口な警察犬です。ラブラドール・レトリーバーの体高と体重は以下のとおりです。
ラブラドール・レトリーバー | オス | メス |
体高 | 58cm〜62cm | 54cm〜60cm |
体重 | 決まりなし | 決まりなし |
ラブラドール・レトリーバーはカナダのラブラドール地方がルーツで、寒く厳しい環境下でも耐えられる作業犬として活躍していました。訓練のしやすい犬種であるため、現在では警察犬のほか盲導犬や介助犬、猟犬としても活動しています。
ジャーマン・シェパード・ドッグ
ドイツ原産のジャーマン・シェパード・ドッグは高い警戒心でありながら、勇気や大胆さを持ち合わせている大型犬です。第一次世界大戦下では軍用犬として活躍し、戦後に警察犬として訓練されはじめました。ジャーマン・シェパード・ドッグの体高と体重は以下のとおりです。
ジャーマン・シェパード・ドッグ | オス | メス |
体高 | 60cm〜65cm | 55cm〜60cm |
体重 | 33kg~38kg | 26kg~31kg |
ジャーマン・シェパード・ドッグは威圧感のある外見で、警察官と共にパトロールなどの警戒活動を行なうことが多い犬種です。
指定警察犬以外の犬は嘱託警察犬としての活動が可能
嘱託警察犬(しょくたくけいさつけん)になると、指定された犬種以外でも警察犬として活動ができます。警察犬には直轄警察犬(ちょっかつけいさつけん)と嘱託警察犬があり、以下の違いがあります。
警察犬の種類 |
違い |
直轄警察犬(ちょっかつけいさつけん) |
各都道府県の警察で飼育・訓練 |
嘱託警察犬(しょくたくけいさつけん) |
一般の方や民間施設の方が飼育・訓練し、警察より要請があると出動 |
基本的に、警察犬として指定された犬種以外も嘱託警察犬を目指せますが、どのような犬でもなれるわけではありません。本来の性格や能力のほか、訓練に耐え抜ける力も兼ね備えている必要があり、さらに都道府県が開催している「審査会」での合格が必須条件となります。現在では、チワワやトイ・プードル、ダックスフンドといった小型犬も嘱託警察犬として活動しています。
嘱託警察犬になる方法と求められる能力
嘱託警察犬(しょくたくけいさつけん)になるには「どのような能力が求められるのか、どのようにしたらなれるのか」知りたい方もいるでしょう。嘱託警察犬になる方法と求められる能力について解説します。
嘱託警察犬に求められる能力
嘱託警察犬(しょくたくけいさつけん)は指定警察犬と同様に、足跡追及や臭気選別の能力が求められます。匂いを元に犯人や行方不明者の捜索をするため、正確に嗅ぎ分けられなければいけません。ほかにも「お座り」や「待て」の指示、動作の停止など、飼い主さんへの忠誠心や集中力も必要です。
また、警察犬はさまざまな状況下で出動するため、どのような場面でも怖気付かない性格であることも重要です。警察官と共に活動できる素質や能力は、警察犬として高く評価されるポイントになります。
嘱託警察犬になる方法
嘱託警察犬(しょくたくけいさつけん)になるためには、以下の訓練を行い審査会に合格する必要があります。
1. 訓練所で「お座り」「待て」の基本動作やパートナーと共に歩く訓練
2. 服従訓練から足跡追及訓練までは通いながら
3. 専門の訓練士のもとで警戒訓練や臭気訓練を集中的に
4. 年に1回各都道府県が実施している審査会に出場
5. 合格すると警察犬として認定
訓練は最低でも6ヶ月ほど必要であり、初期訓練の段階で警察犬に向いていないと判断されるケースもあるようです。基本的なトレーニング以外にも、障害物を乗り越える訓練や残されたわずかな匂いと対象者の匂いを嗅ぎ分け、パートナーに知らせる訓練をします。
試験の内容
警察犬として活動できるかを総合的に見極めるために、試験科目は立止や休止、臭気選別、警戒など、多岐に渡ります。たとえば、紐をつけた状態での試験ではパートナーと行動を共にできるかどうかを、臭気選別の試験では対象の匂いを正確に嗅ぎ分けられるかを審査します。瞬時に匂いを嗅ぎ分ける力が必要です。
警戒活動の試験では対象者に吠えて襲撃できるか、パートナーの指示を忠実に聞けるかも審査します。訓練してきた力を発揮できなければ合格は難しいでしょう。
まとめ
直轄警察犬(ちょっかつけいさつけん)に指定されている犬種は7種ですが、訓練を受けて試験に合格すれば、ほかの犬種も嘱託警察犬(しょくたくけいさつけん)になれます。
近年では、チワワやトイ・プードルのほか、柴犬、ミニチュア・シュナウザーなどの小型犬〜中型犬も嘱託警察犬として活躍しています。
嘱託警察犬は直轄警察犬が入れない場所の捜査時に出動要請されることが多く、必要な能力を備えられると活躍の場は広がるでしょう。
飼い犬を警察犬にしたい方は、年に1回開催されている審査会に合格することを目標に、まずは基本的な訓練をはじめてみてください。