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早稲田大学にて航空宇宙工学を専攻。『One by One Music』の代表。犬と人間の心地よい共生社会を実現するため、分離不安症に苦しむペット向け音楽を開発。
飼い主と離れることで過剰に不安を覚える犬の「分離不安症」。早稲田大学大学院の畠山祥さんが、犬の「分離不安症」やストレスの軽減につながる音楽を作曲しました。
目次
- 音楽による犬のストレス軽減効果を研究、学生起業家の畠山祥さん
- コロナ禍の在宅ワークの影響で「分離不安症」の犬が急増
- 「自分のペットにも聴かせたい」と思える音楽を科学的に開発する『One by One Music』
- 仮説と実験の繰り返し。犬のストレスを軽減する曲作りに懸けた2年
- 「音楽」は人間と犬の共生社会を実現するためのツール
音楽による犬のストレス軽減効果を研究、学生起業家の畠山祥さん
日本では今、飼い主さんと離れ離れになることに過剰な不安を覚える、「分離不安症」のペットが増えていると言われています。
例えば、毎朝、仕事で家を出るとき、留守番を嫌がって鳴きながら後を追ってくる愛犬の様子に心を痛めている人も少なくないでしょう。あるいは、動物病院やトリミング、ペットホテルに預けるたびに、愛犬が嫌がって吠え続けてしまう……という悩みを持っている方も多いのではないでしょうか。
そんな「分離不安症」のペットを音楽で救いたい! と立ち上がったのは、早稲田大学大学院修士課程1年の畠山祥さん。
『One by One Music』という団体を設立し、大学の垣根を越えて、ペットのストレスを癒す音楽を制作しました。そして、麻布大学獣医学部の植竹勝治教授(獣医師)の協力を得て、そのストレス軽減効果の実証に成功するという快挙を成し遂げたのです。さらに2022年2月には新宿区主催のビジネスコンテストで、見事、最優秀賞受賞を果たしました。
このプロジェクトのリーダーとしてこの取り組みを主導し、現在はクラウドファンディングによる事業化に向けて準備を進めています。
「分離不安症は、人間が動物を飼うようになってから生まれた病気。だからこそ、僕たち人間には、この病気から動物たちを助ける責任があります。」
人間にも負担がかからない、犬の「分離不安症」の解消法を考え、犬も人間もハッピーに暮らせる共生社会を作っていきたいと語ります。
コロナ禍の在宅ワークの影響で「分離不安症」の犬が急増
——畠山さんは、今、早稲田大学の大学院に在学中ということですが、音楽や獣医学に関係する分野を専攻しているのですか?
畠山祥さん(以下、畠山):いいえ、僕自身は宇宙関連の分野を専攻していて、音楽や獣医学とはまったく関係のない研究をしています。
ただ、もともと動物は大好きで子どもの頃にポメラニアンを飼っていたことがあります。
——そうなんですね。専門外なのに、なぜ、今回、ペットのストレスを軽減する音楽を作ろうと思ったのですか?
畠山:僕はビジネスに興味があって、学部生の頃から会社を立ち上げています。
その関係で知り合った社会人の方から、コロナ禍で在宅時間が増えたのを機に飼い始めたという話もよく聞きました。
——たしかに、コロナ禍で「ペットブーム」が話題になりましたよね。
畠山:当時は「いつもペットと一緒でいいな~」としか思っていなかったのですが、しばらくしてコロナが収まってきたころに、意外な話を聞きました。
——意外な話、ですか?
畠山:はい。「リモートワーク期間が終わってオフィス勤務に戻ったから、犬を自宅で留守番させるようになった。今までずっと一緒だった分、留守番が犬にとってすごくストレスになっているみたいで、元気がないんだよ」と。
——ひとりの環境に慣れていないからでしょうか。
畠山:そうですね。さらにその飼い主さん自身も、犬の様子が心配で、なるべく早く帰るようにしているということでした。
そこで、改めて調べてみると、知人の犬のように、飼い主と離れることに極度の不安を感じる「分離不安症」の犬が増えていることがわかりました。
——「分離不安症」とは具体的にどのようなものなのでしょう?
畠山:飼い主などの特定の人と離れることに激しく不安を感じ、精神的・肉体的な不調を発症することです。また、その不安から問題行動を引き起こしてしまう場合もあります。
問題行動としては、部屋を荒らす、トイレの失敗、飼い主が外出入の際に過度な興奮状態に陥るなどの症状が見られます。
——深刻な問題ですね……。
畠山:「分離不安症」のために嘔吐や自傷行為をする犬も珍しくないと聞きました。それを知って、なんだかすごくモヤモヤしたんですよね。
人と犬が一緒に暮らせて、本来ならすごくハッピーなはずなのに、「分離不安症」のせいでお互いがストレスを感じながら生活しないといけないって、すごく残念じゃないですか。
——お仕事などで家を空ける時も、気が気じゃないですよね。
畠山:そうなんです。留守番時間をゼロにすることは不可能に近い。その中で分離不安症を解消する方法はないだろうかと考え、「不安によるストレスを軽減できるものがあったら」と思ったのです。
その時に仲間を呼びかけ、意見交換をしたのが『One by One Music』の始まりでした。