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博士(獣医学)。専門は獣医動物行動学。evergreen pet clinic ebisu行動診療科担当。日本獣医行動研究会研修医。藤田医科大学客員講師。
犬と暮らしている方の中には、2頭目を迎えて犬たちともっと関わりたい、犬たちが遊ぶ姿を眺めたい! と考えている方もいるのではないでしょうか?
「実は、犬同士の第一印象は、飼い主の出会わせ方によって、かなり影響を受けます。」
お互いに落ち着いた状況で出会えば印象を良くすることができますが、出会わせ方を間違えてしまうと、お互いの印象が悪くなってしまう可能性があるんです。お互いの第一印象が良くない場合、犬同士の関係を良くするのに時間がかかりますし、喧嘩の危険性が高まります。
今日は多頭飼いに憧れる飼い主のみなさんのために、獣医師の茂木千恵先生に多頭飼いを始める時のポイントを解説してもらいました。
目次
- 子犬が、家に来た日の先住犬との出会わせ方
- 先住犬のリアクションで対応を検討しよう
- ステップアップして、子犬をフリーの状態で先住犬と出会わせる時
- 子犬と先住犬が一緒に散歩に行く時
- 新しく迎える犬が成犬の場合の注意点
- 先住犬と新しい子犬の性別・年齢の相性
- 多頭飼いを始める際の心構え
子犬が、家に来た日の先住犬との出会わせ方
まず、2頭目に子犬を迎え入れる時は、先住犬が自分の縄張りを主張している場所では出会わせないようにしましょう。不必要に縄張り意識が高まってしまうからです。
先住犬が散歩に出ている時に、犬を自宅の普段使わない部屋にケージやキャリーに入れたままで置きます。そこに散歩から帰宅した先住犬が、食事を済ませて落ち着いた後に近寄れるようにすると良いでしょう。
先住犬をフリーにしてみて興味を示し子犬の居るケージ等の周りに来るようならそのまま好きなようにさせてください。先住犬にリードは付けておいても構いませんが、緩めたままにします。リードを引いて犬の行動を制限しようとすると、首が締まる感覚によってかえって緊張が高まり攻撃的になってしまうことが考えられます。
先住犬のリアクションで対応を検討しよう
先住犬がポジティブな反応を示している場合
先住犬が子犬の近くに寄り添い、尻尾を振りながら匂いをかいでいる、顔を子犬に近づけようとしている、遊びを誘うお辞儀(プレイバウ)を見せたら相性は良いと考えます。
先住犬を呼び寄せ、褒めたりおやつを与えたりして一息つきます。落ち着いて号令が聞けるようになったらまた子犬の入っているケージに近づけます。何度か繰り返してその日は終了します。
先住犬がネガティブな反応を示している場合
もし犬の背中の毛が逆立つ、犬歯をむき出す、うなり声をあげる、子犬を凝視し続けるなど、防御的または警戒を示す体の姿勢が見られたら、その時点では子犬の存在が不快と感じていると考えて、速やかに子犬のいる部屋から出て、普段の先住犬のハウスまで連れて行きご褒美を与えます。
子犬の部屋に通じるドアは閉じておくかペットゲートなどで区切っておくと、子犬の気配はするが目につかないという状況を作れます。気配だけ感じさせるようにすることで子犬を受け入れやすくなっていきます。
ステップアップして、子犬をフリーの状態で先住犬と出会わせる時
子犬は自宅の環境に慣れて落ち着いて休めるようになるまで、子犬以外が立ち入らないスペース内で過ごさせます。広さはさほど重要ではありません。
食餌と水と安心できる居心地の良いハウス、トイレがあってサークル等で囲われていれば十分です。先住犬とは今まで通りに接して、極端に環境を変えない事が大切です。
2週間ほどして先住犬が子犬の存在に慣れた頃から2頭ともフリーで出会わせて良いでしょう。ただし屋内の家具が多い場所に入り込まないようパーテーションで区切るような工夫が必要です。
狭い空間はどちらかの犬に閉じ込められた感覚や追い詰められた緊張感を生みます。緊張はやがて相手の犬を不快に感じる原因ともなりますので、感じさせないよう部屋を片付けてから出会わせるのが良いでしょう。
なお、周辺に犬が争う可能性のあるおもちゃ、食べ物、おやつが無いことを確認してください。また、犬が過度に興奮するなど、喧嘩につながる可能性のあるシチュエーションにならないよう注意してください。
犬2頭が一緒にいるときは注意深く監視し、犬がお互いに相手のことを安全であると確信できるまで、こまめに呼び寄せてそれぞれの犬に食べ物やおもちゃでごほうびを与えます。
子犬と先住犬が一緒に散歩に行く時
散歩の途中で犬同士が遊びたくなることもあります。興奮が高まったら号令を使って落ち着かせましょう。
犬が並んで落ち着いて歩けるようになるまでには、さらに時間がかかる可能性もあります。友好的なコミュニケーションを促進するために犬の嗜好性が高いおやつをこまめに提供することにより、友好的な行動を増やすことができます。
新しく迎える犬が成犬の場合の注意点
この場合も、先住犬が自分の縄張りを主張している場所では出会わせないようにしましょう。先住犬が後輩犬に近づいた際に関して、子犬の場合は基本的に恐怖や不安を感じにくいので嫌悪感を見せないという前提でしたが、後輩犬が成犬の場合、先住犬が友好的な態度を示す場合、嫌悪感を示す場合のいずれの状況にあっても、嫌悪感を見せてしまう場合があります。
口を舐める、体を掻く、あくびをするなどの軽度のストレスサインが見られる場合は先住犬を遠ざけて、2頭にそれぞれおやつを与えましょう。おやつを口にできれば緊張していないと考え、少し距離を縮めることができます。おやつを口にできない場合は、まだ緊張が強いため、先住犬をその部屋から連れ出して安心させてあげる必要があります。
背中の毛を逆立てる、唸る、犬歯を見せるなどの攻撃性が見られる場合は、先住犬を部屋から連れ出して、後輩犬が落ち着くまでそっとしておきましょう。落ち着いたのを確認してからおやつを与え、離れた場所に先住犬を連れて来て反応を見守りましょう。2頭の距離が十分あれば攻撃性は起こりません。
先住犬と新しい子犬の性別・年齢の相性
先住犬がメスの場合、子犬を受け入れる可能性が高くなります。先住犬がオスの場合、子犬がメスだと興味を示しやすいです。1歳未満の子犬同士なら大きな問題は起こらないでしょう。2,3歳くらいの年齢差が最も相性に不安があるとされています。
先住犬が2,3歳くらいのオスで自己主張が強く、飼い主に甘えがちな性格の場合、子犬に飼い主を奪われたと嫉妬して子犬を排除しようとすることがあります。未去勢でしたらまず去勢することで寛容になるでしょう。
先住犬が控えめで怖がりの場合、子犬が先住犬に対して高圧的に振舞うこともあります。先住犬が7歳以上の高齢の場合、一緒に過ごさせる時間を決めて、それ以外は別個に過ごさせるとストレスが少なく済むでしょう。時間差で子犬をフリーにさせるなどの工夫が必要でしょう。
多頭飼いを始める際の心構え
飼い主はそれぞれの犬たちと一対一で向き合う時間を持ち、それぞれとの間に信頼関係を築く必要が有ります。これは、先住犬を優先するべきということではありません。
それぞれの犬に「良いことをしたら褒めて、いけない事をしたらすぐに制止する」という一貫した態度で接し、1頭ずつに時間をかけてあげるよう心がけをすることで、犬は飼い主への信頼感を育てていきます。飼い主が信頼して犬を見守ることができれば犬同士は犬の流儀で関係性を構築することができます。
とても仲の良い関係に発展するかどうかは、犬の相性だけでなく飼い主さん次第の部分もあります。犬種が同じであって性別が違うペアに問題が起きにくいとされていますが、すべてのペアが当てはまるわけではありません。何より飼い主がそれぞれの犬たちにどのように接しているかの方が影響するでしょう。
きちんと号令のレッスンを受け、飼い主を信頼している犬は自立していて、他の犬が来て飼い主の注目が減ったとしても落ち着いているでしょう。新しく迎えた犬も先住犬に習って落ち着いた行動が増えて来るでしょう。
逆に飼い主が先住犬の行動をコントロールできず落ち着きが無い場合、新しい犬を迎えると、その犬も先住犬の影響を受けて落ち着きを欠いた行動が増えてしまうでしょう。
もし先住犬が号令を使った関り方になれていない場合は、多頭飼育のタイミングではありません。まず1頭の犬との間に号令を使ったコミュニケーションを基本とした信頼関係を築いてから後輩犬を迎える準備に入ることをお勧めします。
以上のことから、相性を気にするよりも、飼い主が犬たちと関わる方法が重要であることが分かります。それぞれの犬をよく見て対応するように心がけましょう。