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海動物病院所属。潜水士免許保有。動物検疫所、製薬会社での勤務を経て、海動物病院に所属。自宅で猫、実家で犬を飼っており、最近は自宅でも犬をお迎えしようか検討中。
毎日洗っているのに、なぜか愛犬の食器がヌルヌルする……ということはありませんか? 気になる犬の食器のヌルヌルの正体、普段使っている中性洗剤で洗ってもいいのかなどについて、海動物病院の獣医師・鈴木佐弥香先生監修のもと解説していきます。
目次
- 犬の食器につく、洗っても落ちないヌルヌルの正体は?
- 犬の食器にバイオフィルムが発生する理由とは?
- 犬の食器を洗うのに人用の食器洗剤(中性洗剤)を使ってもOK?
- 犬の食器の正しい洗い方のポイントは?
- 犬の食器についたヌルヌルを落とすのに便利なアイテムは?
- 犬の食器を洗う際の注意点は?
犬の食器につく、洗っても落ちないヌルヌルの正体は?
愛犬の食器につくヌルヌル。丁寧に洗ってもなかなか落ちないのを不思議に思ってことはありませんか? これは、バイオフィルムという複数の微生物が集まって形成する膜が原因となっています。
膜の多くは食器についた細菌が産生する細胞外多糖で、環境の変化や化学物質から内部の細菌を守る働きをしています。細胞外多糖というのは、主に菌体外多糖やタンパク質のことです。犬の食器だけでなく、歯垢や排水溝、花瓶の中などに発生するヌルヌルもバイオフィルムが原因であると考えられています。
犬の食器にバイオフィルムが発生する理由とは?
人が使う食器にはヌルヌルがあまりつかないのに、なぜ犬の食器はヌルヌルするのでしょうか? これは、人と犬の唾液の違いが関係しています。
人と犬の唾液の違い
犬は弱アルカリ性、人は中性〜弱酸性の唾液をもっています。人の場合、デンプンを摂取するとアミラーゼによって糖分ができ、口腔内細菌がこの糖分を栄養に酸を産生することと、鼻呼吸であることが中性〜弱酸性の環境を作っていると考えられています。一方、犬は基本的に口呼吸を行い、唾液中のアミラーゼ活性が低いことからアルカリ性と言えます。
犬の唾液の特徴
犬は唾液がアルカリ性なので、虫歯になりにくいという特徴があります。虫歯は、虫歯菌が食べ物に含まれる糖分から酸を作り、これが歯のカルシウムやリンを溶かしてしまうことによって起こります。犬の場合は、そもそもアミラーゼ活性が低いので酸性物質を生じにくく、アルカリ性である唾液が酸を中和することができるのです。しかし、歯垢がたまり、それらや細菌の代謝で生じた物質が唾液中のカルシウムやリン酸とともに石灰化した歯石となりやすく、歯周病を引き起こすことが多いと言われています。
犬の食器がヌルヌルする理由
犬の唾液や食べかすなどが付着した食器をすぐに洗わないと、バイオフィルムであるヌルヌルが発生します。人も犬も、口腔内細菌の種類は600種以上とあまり変わりません。しかし、犬は食器に直接口をつけてご飯を食べたり食器を舐め回したりしますよね。この点で、人と比べて歯周病菌や口腔内細菌が食器につきやすいのです。
犬の食器を洗うのに人用の食器洗剤(中性洗剤)を使ってもOK?
ヌルヌルがついてしまった状態の食器に中性洗剤を使用する場合は、何度もすすぎ洗いをして洗い残しがないようにする、香りのついたものは使用しない、などといった注意が必要です。ペット用の洗剤やオーガニック洗剤などを使用するのもいいでしょう。
犬の唾液がアルカリ性のため、バイオフィルムは中性洗剤では落としきれないことが多いです。場合によっては、洗剤の成分などがバイオフィルムとともに残ってしまう可能性もあります。
バイオフィルムが付着していない状態であれば中性洗剤を使用しても問題ないですが、その場合にも洗い残しがないようにしっかりとすすいでくださいね。
犬の食器の正しい洗い方のポイントは?
ヌルヌルを落とすための食器の洗い方と、ヌルヌルがつかないようにする洗い方は気をつけるポイントが異なります。下記を参考にしてみてください。
ヌルヌルがついている食器を洗う場合
ヌルヌルを落とすには、バイオフィルムの膜を破壊する必要があります。水に触れるとさらにヌルヌルして落としにくくなるので、まずは乾いた状態で布やペーパーナプキンで拭き取ってあげるとある程度落とすことができますよ。アルカリ性の唾液由来のバイオフィルムなので、お酢スプレーなど酸性の液体を洗剤がわりに使うのも手です。
犬の食器を洗うスポンジや拭き上げで使用するナプキンは、人用と犬用で分けて使うのがおすすめです。犬の食器のバイオフィルムには大腸菌、カンジダ、クラミジア、クロストリジウム、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌などといった細菌やカビ、藻類などが含まれていることがあります。スポンジなどを人と共用すると、飼い主がこれらの感染症に罹患してしまうかもしれません。
ヌルヌルがつかないようにする日頃の洗い方
使用した食器は、犬がごはんを食べ終わったらその都度すぐに洗うようにしましょう。使用する洗剤は中性洗剤でも犬用洗剤でも大丈夫です。バイオフィルムは時間の経過とともに形成されるので、すぐにきれいにしてあげることが大切です。また、週に1回は漂白剤でのつけおきや煮沸消毒をしてあげるとより安心ですね。漂白剤を使用する場合は、残留しないようきちんとすすぐことに気をつけましょう。
犬の食器についたヌルヌルを落とすのに便利なアイテムは?
ヌルヌルがついている犬の食器を洗う場合には、下記のアイテムが役立ちますよ。
ペット用食器洗剤
体に悪い成分をあまり使用していない製品が多いので、洗い残しがあっても人用の食器洗剤よりは安心です。ヌルヌル対策のペット用食器洗剤の多くにはクエン酸やリンゴ酸が含まれているので、アルカリ性のヌルヌルを落とすのに効果的でしょう。
クエン酸水
規定の用量で42℃前後のお湯でクエン酸を溶かしたクエン酸水でこすり洗いします。クエン酸は掃除用ではなく、食用グレードの物を使用してあげるとより安心です。
お酢スプレー
お酢と水を1:2で混ぜたものでこすり洗いします。お酢の匂いが気になる場合は、ホワイトビネガーを用いてもいいでしょう。
食器洗浄機
大腸菌やサルモネラ菌などは、75℃以上・1分間の加熱でほとんど死滅します。ポリ塩化ビニル(PVC)やビスフェノールA(BPA)などを含んでいない食器洗浄機対応の食器を使い、食器洗浄機を最高温度に設定して洗うのがおすすめです。
メラミンスポンジ/アクリルたわし
物理的にバイオフィルムを落とすのには効果的ですが、プラスチックやステンレスなどの食器の傷には気をつけましょう。食器に傷がついてしまうと、その傷に細菌が入り込んでバイオフィルム発生の原因となるので注意が必要です。
犬の食器を洗う際の注意点は?
洗った後も、ペーパーナプキンなどできちんと拭いて水気をとるか、しっかりと乾燥させましょう。水分が残ったままにすると、そこから細菌が繁殖する原因にもなります。また、犬がごはんを食べ終わってもすぐに食器を洗えないときもありますよね。つい水に浸けておきたくなりますが、バイオフィルム形成を防ぐためには乾いた状態で置いておく方がベターです。
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