転勤族の夫とともに、全国を転々としている。現在は東京の片隅で書店員として勤務。今年、『書店員は見た 本屋さんで起こる小さなドラマ』を上梓した。

暑い、暑い夏がやってきた。
レイルが亡くなって、すぐにやってきた夏は、この世のもの全て溶けるのではないかと思うほどの猛暑。
目次
- レイルがいない夏を、生き延びるために
- 娘の一言で、時間が動き出した
レイルがいない夏を、生き延びるために
私は……というと、にわかには信じられないことだが5キロ太った。レイルがいない家にいることが辛すぎて、外出の予定を詰め込み、酒ばかり飲んでいたからである。
レイルがいない部屋に帰るのは、それはそれは恐ろしいことだった。家に帰れば、玄関を開けるとすごいスピードで走って来る、大きな茶色のかたまりがいないことがたまらない。何度掃除をしても不意に現れるレイルの毛や、そこはかとなく漂う気配に胸が潰れそうになり、それは数ヶ月経ってからも変わることはなかった。
薄着の季節に太ってしまったため、似合う服がない私だったが、思い立って夏祭りに浴衣を着てみたら、洋服よりも良く似合っている。どっしりした寸胴な体型になったことで図らずも和服が似合うようになったのだ。
せっかくだから、この夏はたくさん浴衣を着よう。レイルを失った心の穴を埋めるため、習い事でも始めようかと思っていたのだが、着付け教室なんて良いかもしれない。
さっそく、元々着こなしや人柄が好きでインスタをフォローしていた着付けの先生にコンタクトを取り、教室の申し込みをした。通い始めると存外楽しく、定期的に通うことに。
習い始めると楽しくなり、和服で出かけ、遊んで、帰りに酒を飲む。東京は、和服で出かけると割引になるような場所もあり、楽しくなる。
家にいる時も、もちろん酒を飲み、そして泣く。
家だと気兼ねなく泣けるのが良い。
娘の一言で、時間が動き出した
夕食後、子どもたちがそれぞれの部屋に戻り、ひとりになったリビングでまた泣きながら飲んでいると、飲み物を取りに戻って来た娘が言った。
「ママ、犬を飼おう」
唐突な提案に言葉を失っている私に、娘はさらに言った。
「新しい犬を迎えよう。泣いている暇もないくらい元気な若い子にしたらいいよ」
私は、今後もう犬を飼わないという風には思っていなかった。いつか、レイルを失った傷が癒えて、また犬と暮らしたいと自然に思える日がきたら、その時考えようと思っていた。
ただ、それは1年後かもしれないし、数年後かも、もしかすると夫が定年し、夫婦だけの生活になってからなのかもしれないと、なんとなく考えていて、決して今ではなかったのだ。
私が「まだ早くない?」と言うと、娘は、「全然早くない。よく考えてみて? 今年、家には受験生もいないし、時間に余裕がある。新しい犬が来ても、一緒に面倒が見られる。これが来年、再来年になったらどうなるかわからないよ。大学受験で大変な時に仔犬のお世話は出来ないかもしれないし、大学生になったら生活が変わって、それこそ家にいないかもしれないんだから」
まくし立てるように、今だ、今しかないとくり返す娘に、「レイルは、すぐ次の子が来たら悲しいんじゃない?」と言うと、
「そんなわけない。レイルは犬が大好きなんだから喜ぶに決まってる」
そう、レイルは犬が好き過ぎて、他の子との距離感をつかむことが出来ない子だった。過剰に舐めてしまったり、遊びたくて興奮するので、相手が引いてしまうほどに。
娘は畳みかける。
「レイルは喜ぶ。ママが新しい犬を連れてきたら、絶対に」
娘は、無言になった私に、さらに言った。
「昔、まだレイルが元気だったころ、パパとママ、言ってたよね? いつかレイルがいなくなって、次の子を迎える時は茨城の野犬の子にしようって」
それは何年か前に、夫と話していたことだった。
娘は、毅然と言う。
「探そう。茨城の野犬」











