転勤族の夫とともに、全国を転々としている。現在は東京の片隅で書店員として勤務。今年、『書店員は見た 本屋さんで起こる小さなドラマ』を上梓した。

それは、レイルがまだ元気いっぱいだったころのこと。
目次
- 野犬のニュースが残した、ひとつの約束
- 6年後、娘のひと言と夫の言葉
野犬のニュースが残した、ひとつの約束
私と夫の故郷である茨城県の一部地域では、野犬が増加し、問題になっていた。
ニュースで野犬たちが群れをなし、林や野原を走り回る映像を見た私は、言葉を失ってしまった。え、これ、現代のこと?
しかも。しかもですよ。
なぜこんなに増えたかって言うと、捨て犬が繁殖した可能性が高いらしく……。
いやいや、犬は家族だろ! 捨てるなよ!(取り乱しましたすみません)
東京で暮らしている私は、野良犬というものを久しく見かけていない。
というか実家も茨城県の市街地にあるため、地元でも見たことがない気がする(と言っても、先日、市街地に猪が現れニュースになっていたレベルで田舎ではあるのだが)。
信じられないニュースに、私と夫は考えた。
いつかレイルがいなくなって、そして、また犬と暮らしたいという気持ちになったら、茨城で生まれた野犬を迎えよう。
試しにインターネットで検索してみると、保護団体のホームページがいくつか見つかった。画面に並ぶ犬たちの写真をスクロールして、「この子たちに良いお家が見つかりますように」と願う。
野犬と聞いて、茶色の中型犬をイメージしていたが、意外にも外見は多岐に渡っていて、長毛の子や真っ白い子、大型犬もたくさんいるのが、意外だった。
それから6年近く経っただろうか。
6年後、娘のひと言と夫の言葉
私は、久しぶりに保護団体のホームページを開いた。まだ心は揺れていて、犬を迎えるべきか判断が出来ずにいたが、娘と並んでスマホの画面を見つめている。
娘が「ゴールデンレトリバーとまた暮らしたいなら野犬でなくてもいいと思うよ。里親サイトでゴールデンレトリバーを探してみたら?」と言うので、一応里親サイトも覗いてみたが(そして飼い主から何らかの事情で手放されるゴールデンレトリバーも数頭見つけたが)、レイルとの思い出が上書きされるのではないか、そして新しい子とレイルと比べてしまうのではないかと考えると、どうしても足を踏み出すことが出来なかった。
「パパにも聞いてみよう」私は言った。
夫は、レイルを迎えるに当たって、誰よりも慎重だった。
私たち家族で幸せに出来るのか。
我が家よりもっと幸せに暮らせる家があるのではないか。
レイルの最期まで、本当にきちんと看ることが出来るのか。
考えに考えて、レイルを受け入れる決断をしたのは、夫だ。
きっと、夫は反対するだろう。
また辛い思いをすることや、自身が単身赴任で、私と子どもたちだけでお世話をしなければならない大変さを、慎重派の彼が考えていないわけがないのだ。
すぐ電話に出た夫に、「娘が犬を迎えようと言っているのだけど……」と伝えると、夫は言った。
「いいと思うよ。俺はあんまりお世話出来ないけど……」
ん?思ってた答えと違うぞ?
「え、いいの?」
「うん。だって、やっぱり犬を飼いたいって考えて決めたんでしょ?」
娘が私のスマホをぶんどって、大きな声で言う。
「いいよね? うちには犬がいた方が絶対いいから!」
夫は苦笑混じりに「うん。パパもいいと思うよ」と答えた。
「レイルのこと、パパがいなくても皆で看てくれたし、ちゃんと大切に出来るって分かってるから、いいと思うよ」
娘のスマホの画面から、たくさんの犬たちがこちらを見ている。
この子たちのうちの誰かが家族になることがあるのだろうか。
後ろを振り向くと、壁に飾られたレイルの絵が、いつもと同じ穏やかな顔で私に向かって微笑んでいた。











